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2023.04.25 議員活動

第7回 口頭弁論と立証活動(大分地裁)

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日本大学危機管理学部教授 鈴木秀洋/協力 工藤奈美

 
【目次】(青字が今回掲載分)

 第1回 剣太からのバトン─時間は当事者の気持ちを軽くしない
 第2回 剣太事件概観─剣太誕生・事件当日・部活・被害者として
 第3回 学校・行政対応のまずさ(1)
  ─危機管理学・行政法学・被害者学の視点から

 第4回 学校・行政対応のまずさ(2)
  ─事故調査委員会・教員の処分

 【緊急特報】裁判記録は魂の記録である
 第5回 損害賠償請求事件(大分地裁)
  ─最初の闘い・地裁判決の法的位置付け

 第6回 第1回口頭弁論に臨む遺族の気持ち(大分地裁)
 第7回 口頭弁論と立証活動(大分地裁)
 第8回(予定) 現地進行協議と証人尋問(大分地裁)
 第9回(予定) 損害賠償請求上訴事件
 第10回(予定) 刑事告訴・検察審査会
 第11回(予定) 裁判を終えて
 第12回(予定) 新たなステージ(剣太はみんなの心の中に)

 

 これまで、大分地方裁判所第一審判決の論点及び判決について、検討を行ってきた。剣太裁判では、おおむね英士さん・奈美さんらの主張・立証に基づく事実認定がなされたことは、原告側の主張と被告側の主張を整理した前回までの連載で明らかとしたが、では、英士さん・奈美さんらは、どのような証拠を積み上げていったのか。今回は、立証にフォーカスしてみたい。

1 口頭弁論期日の積み重ね

 まず、口頭弁論がどれだけ積み重ねられているか。
 原告側が、平成22(2010)年3月2日に訴状を提出してから、平成25(2013)年3月21日の判決前の最終口頭弁論期日(平成24(2012)年12月20日)まで、17回もの口頭弁論期日が積み重ねられている(それに加えて竹田高校剣道場で一度、現地進行協議も行われている)。
 具体的には、平成22(2010)年中は、①4月22日に第1回口頭弁論期日、②7月1日に第2回口頭弁論期日、③9月2日に第3回口頭弁論期日、④11月4日に第4回口頭弁論期日、⑤12月16日に第5回口頭弁論期日が開かれた。
 翌年平成23(2011)年には、⑥2月17日に第6回口頭弁論期日、⑦5月19日に第7回口頭弁論期日、⑧8月25日に第8回口頭弁論期日、⑨10月27日に第9回口頭弁論期日、⑩12月8日に第10回口頭弁論期日と続く。
 さらに、平成24(2012)年には、⑪2月23日に第11回口頭弁論期日、⑫3月28日には、進行協議期日(13時~14時)として、竹田高校剣道場にて、受命裁判官立ち会いの下、原告側、被告側双方の指示説明、⑬5月24日(午前・午後)に第12回口頭弁論期日(証人尋問:風音、英士)、⑭6月14日(午前)に第13回口頭弁論期日(証人尋問:顧問教諭)、⑮7月5日(午前)に第14回口頭弁論期日(証人尋問:顧問教諭反対尋問)、⑯7月26日(午後)に第15回口頭弁論期日(証人尋問:副顧問教諭)、⑰9月27日(午後)に第16回口頭弁論期日(証人尋問:豊後大野市(病院))、⑱12月20日に第17回最終口頭弁論期日(母意見陳述)が開かれた。
 こうした経緯の後、翌年平成25(2013)年3月21日に判決言渡しとなっている。第一審判決が出るまでに、実に3年余りの年月の間、原告と被告との間で、主張・立証が行われたことになる。

2 立証活動をたどる

 裁判は、自らの事実主張を立証しなければならない。そして、原則として、原告側が主張・立証責任を負うとの裁判上の制度設計がなされている。国家賠償法を根拠とする剣太裁判においても、英士さん・奈美さんらが被告県(顧問・副顧問)・市らの「過失」、「違法」の主張・立証責任を負うことになる。
 この剣太裁判で、原告遺族である英士さん・奈美さんらが、剣道部顧問・副顧問による部活動中の暴行・熱中症による剣太の死の帰責への立証を行うために収集した証拠は、甲第○号証という形で裁判所に提出されている。実に、甲第1号証から甲第50号証までに及ぶ(被告県側は乙A号証として第19-5号証まで提出している)。
 記録を積み重ねれば4センチほどの紙ファイルが20冊ほどにもなるが、それほど大部な主張・立証が行われてきたのである。これほどまでに時間をかけ、労力を尽くし、立証活動を継続していくことが現実には求められるのである。何も持たない遺族側が、ある意味全てを持っている学校・行政側に裁判を挑むことがどれだけ困難なことかが、今回の立証標目を挙げることで、少しは理解してもらえるのではないかと思う。
 実際に、剣道部員たちの証言を集め、文書開示請求を重ね、専門文献を読んで事実を明らかにしていった英士さんと奈美さんの裁判の過程は、判決を読むだけでは分からないであろうことから、今回は少し読みづらさはあるとしても、英士さん・奈美さんらが、どのような証拠(証言、文献等書証等)を積み上げ、裁判所に提出したのか、その証拠(書証)をたどってみることとする。
 なお、関係者のプライバシーを保護する観点及び本論稿が学校での子どもの命を守ることを主たる執筆趣旨としていることから、記載を一部省略し、又は分かりやすく補充・変更を行っている箇所もある(1)が、基本的には、残されている裁判記録の写しのうち、証拠説明書と一つひとつの書証等の証拠を丁寧に一つひとつ確認し、照合しつつ正確性を期して執筆している。
 以下証拠については、原告側証拠番号を【甲○】、標目・作成者を「 」、立証趣旨を[ ]で記すこととする。

【甲1】「戸籍全部事項証明書」
【甲2】「進研模試」
 [剣太が救急救命士を第一志望として頑張っていた事実]
【甲3-1】「大分県立竹田高校ホームページ[学校概要](校長挨拶)」
 [竹田高校が文武両道を標榜(ひょうぼう)する学校運営をしている事実]
【甲3-2】「同上(沿革)」
 [平成12年に文部省指定武道指定研究発表大会を行うなど武道に力を入れていた事実]
【甲4】「調査報告書(竹田高校剣道部事故調査委員会)」
 [被告らの不法行為に関する主張事実。事故調査委員会が任意に事情聴取した範囲で本件剣道部道場内で起きた事実を調査報告した内容が記載]
【甲5-1】「診療録の開示について」
 [剣太に関するカルテが開示された事実]
【甲5-2】「カルテ一式」
 [おがた総合病院では剣太の高熱が持続しているにもかかわらず、身体全体を十分に冷やす措置が足りず、専門機関への転院指示も遅く、熱射病で亡くなった事実。熱中症による脱水症状しか想定しておらず、熱射病の診断をしなかった事実。司法解剖の結果、内臓の腐敗が予想外にひどく、体内のうつ熱が強かった事実]
【甲6】「文部科学省検定済教科書『現代保健体育』改訂版(抄)」
 [文部科学省平成18年検定済教科書に、熱中症の分類の一つとして熱射病の記載がある事実。熱射病の症状と対応(40度前後の激しい体温上昇、意識障害などが症状として記載され、早急に手当てしないと生命が危険な状況に至ることが記載されている事実。熱射病の場合、できるだけ裸に近い状態にして冷たいぬれタオルで全身を拭いたり覆ったりし、扇風機などで風を送り、とにかく体温を下げるようにし、また早急に救急車の出動を依頼する旨)が記載されている事実。予防法(水分が不足すると熱中症など生命に危険が及ぶことがあり、長時間の運動、気温や湿度が高い場合の運動では注意が必要であり、水分補給が重要)について記載されている事実]
【甲7】「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック(抄)(財団法人日本体育協会)」
 [熱射病の死亡率が高い事実。緊急事態として一刻も早く病院に運ぶ必要があること。異常な体温上昇と意識障害が特徴であること。集中治療できる病院に一刻も早く運ぶこと。熱中症を起こしたことのある人は運動を軽減する必要があること]
【甲8】「熱中症予防のための啓発資料『熱中症を予防しよう─知って防ごう熱中症─』(抄)(独立行政法人日本スポーツ振興センター)」
 [学校災害の共済給付業務を行う日本スポーツ振興センターが学校関係者に学校安全情報を伝えている中で、暑い季節の運動で、長時間にわたる場合には、こまめに休憩をとること(目安は30分程度に1回)が推奨されている事実。試験休みや病気の後などしばらく運動をしなかったときなどに急に激しい運動をすると熱中症が発生することがあるので注意しましょうと注意喚起されている事実。熱中症死亡事例として35度以上の環境下では運動は原則中止!、室内でも熱中症は起こります!、休み明けの急な激しい運動は要注意! など警告されていた事実]

【甲9】「研修医・当直医のための急患対応マニュアル(抄)」
 [熱射病では冷水で全身を冷やす必要があり、直腸温で38度以下になるまで続けなければいけないこと、なかなか下がらない場合、胃チューブで冷水を胃に灌流(かんりゅう)させる方法があること、救急措置の後も多臓器不全を起こす危険があるので専門医に依頼すべきこと]
【甲10-1】「熱中症事故の防止について(依頼)(文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課長、企画・体育課長から都道府県教育委員会あて(平成20年6月13日付))」
 [熱中症事故防止は文部科学省が都道府県教育委員会に対し、例年、指導対応している事実。学校の中では高校での熱中症事故が例年多く、しかも増加傾向にある事実。学校管理下の熱中症事故はほとんどが体育・スポーツ活動によるもので、それほど高くない気温でも湿度が高い場合に発生している事実。熱中症による事故は適切な措置を講じれば十分に防ぐことができる事実]
【甲10-2】「熱中症事故等の防止について(依頼)(文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課長、企画・体育課長から都道府県教育委員会あて(平成21年6月26日付))」
 [甲10-1に加え、本件事故の前にも文部科学省が都道府県教育委員会に対し熱中症事故の防止を指導していた事実]
【甲11】「熱中症対策(部活生徒指導)(竹田高校)」
 [本件事故前の平成21(2009)年6月29日竹田高校教職員朝礼配付資料に、熱中症の具体的な症状が記載されている事実。40分ごとに給水と記載されている事実。熱疲労から回復した場合でも容態が急変することがあるので運動を中止させるべきことと記載されている事実。ふらつき、転倒、意識朦朧(もうろう)などの熱射病の場合、すぐに救急車を要請し、一刻も早く搬送しなければならないと記載されている事実。こうした資料が配付されていた事実]
【甲12-1】「救急出場記録表(竹田消防署)」
 [本件事故を消防署で覚知したのは12時20分であった事実。救急隊員は本件を「熱中症」、「重症」と把握していた事実]
【甲12-2】「救急出場記録表(竹田消防署、公立おがた総合病院)」
 [剣太が病院に搬入された際、医療機関は「熱中症」、「重症」と認識していた事実]
【甲13】「平成21年度大分県教育委員会12月臨時会会議録(大分県教育委員会)」
 [教育委員会は、本件被告顧問が、剣太に十分な休憩や水分補給をさせずに連続して約1時間30分にわたり練習を行わせ、午前11時55分頃、意識が朦朧となり倒れるまで練習を継続させ、結果、死亡させたこと、顧問として部員の生命・身体の安全を確保する義務があったにもかかわらず適切な予防措置を怠り、体調に異常が生じた後も練習を継続しようとし、救護措置が遅れたこと、生徒の腰の横を足で蹴り、頬を平手で複数回たたいたなどと認定した事実。被告副顧問が、副顧問として部員の生命・身体の安全を確保する義務があったこと、顧問に進言する義務があったにもかかわらず適切な予防措置を怠り、体調に異常が生じた後も練習を継続しようとし、救護措置が遅れたなどと認定した事実]
【甲14】「剣道部員○君インタビュー」※詳細略(以下、甲18まで)
【甲15】「剣道部員○君インタビュー」
【甲16】「剣道部員○君インタビュー」
【甲17】「剣道部員○さんインタビュー」
【甲18】「剣道部員○さんインタビュー」
【甲19】「鑑定書(鑑定人大分大学医学部教授岸田哲子)」
 [熱中症の病態のうち最も重篤な熱射病での死亡]※その他詳細略
【甲20】「剣道部員風音に対する事故調査委員会のヒアリング」
 [剣道場内での不法行為の経緯が訴状記載のとおりである事実(風音は事件当日、同じ道場内で本件を目撃)]
【甲21】「最新救急医学(最新医学社)」
 [熱射病の徴候に関して(詳細略)]
【甲22】「写真撮影報告書」(工藤奈美撮影)
 [竹田高校剣道部道場の内部と周辺の様子。周囲は崖と生い茂った幾本もの木に囲まれており、本件現場が風通しのよくない環境であった事実]
【甲23の1~6】「上記甲14~18及び甲20の音声データ・録音テープ」
 [剣道場内での不法行為の経緯が訴状記載のとおりである事実]
【甲24】「『剣道における暑熱環境下の水分摂取』と題する文献(全日本剣道連盟)」
 [①剣道が熱中症の起こりやすい競技とされていること、②熱射病は直ちに冷却処置を開始するとされていること]
【甲25】「気象データ(竹田2009年8月22日)」
 [当日の気温が30度を超えている事実]
【甲26】「熱射病(臨床外科増刊号薬物療法マニュアル所収)」
 [①熱射病でも体温が40度を下回ることも多くあり、体温が低かろうといって熱射病を否定することがないようにするとされていること、②熱射病では1時間以内に39度を目標に積極的に冷やすべきとされていること、③熱射病発症から2時間以上治療開始が遅れると予後が悪くなるとされていること]

【甲27】「体育の授業中発症した労作性熱射病の1例(道南医学会誌35巻(H12)所収)」
 [熱射病の予後は高体温の持続時間に左右されるということ]
【甲28】「『熱中症における中枢神経傷害』と題する文献(日本災害医学会会誌45巻8号所収)」
 [熱射病は様々な全身合併症を生じ得るため、脳保持の視点からも早期より徹底したクーリングが大切であるとされていること]
【甲29】「『熱射病の2症例』と題する文献(臨床麻酔12巻11号(1988)所収)」
 [熱射病の治療としては急速な体温正常化が重要とされていること、特に42度以上の高体温であっても早期に適切な治療が行われれば回復させ得るとされていること]
【甲30】「『熱中症』と題する文献(救急医学23巻10号(1999)所収)」
 [熱射病では超急性期(発症1~2時間)の初期治療が患者の予後を決めるとされていること]
【甲31】「『熱中症による中枢神経系後遺症』と題する文献(日本救急医学会雑誌(JJAAM)(2011)所収)」
 [冷却に関する時間的要因は後遺症発生に有用な因子であること]
【甲32】「陳述書(工藤風音)」
 [剣道場内での経緯。剣太が倒れたときの位置関係でどういうやり取りがあったかについての陳述。①練習後半の[打つ側4]対[元立ち(2)4]の打ち込み練習中に1人10回以上、剣太だけさらに5、6回やらされ、そのとき被告顧問がパイプ椅子を剣太の方に投げつけたこと、被告顧問が剣太の喉下部をたたき、ずれた面を直そうとする剣太を被告顧問が突き飛ばすか蹴るかして剣太が壁にぶつかったこと、②[打つ側5]対[元立ち3]の打ち込み練習で10回ぐらい、部員Aの気分が悪くなり抜けたこと、③[打つ側6]対[元立ち2]の打ち込み練習で20回ぐらい、部員Bの気分が悪くなり一度抜けたこと、顧問が合格とした者は抜けていき、④元立ち1人で3人残ったが、剣太以外は合格し、剣太は1人で面打ちを20分ぐらいやらされ、「もう無理です」といってもやめさせてもらえず、⑤竹刀を落としても気づかず、⑥剣太が被告顧問に胴を蹴られて2回倒れ、最後に立ち上がった剣太はフラフラと入り口に向かって歩き、⑦さらに戻るようにフラフラして壁にぶつかって倒れた事実]
【甲33】「報告書(原告ら代理人弁護士作成)」
 [竹田市の気温よりも竹田高校剣道場内の気温の方が常に高いこと(最高で6.3度も高かったこと)、風音が事件直後の温度計を見たとき36度と述べていること(甲20)の信用性が高いこと]
【甲34-1~3】「救急出場記録表(竹田消防署)」
 [竹田高校剣道部が毎年実施している夏合宿で、部員が熱中症で病院に運び込まれる事態が起きていたこと、被告副顧問が剣道部に関与していた時期に竹田高校剣道部で熱中症が生じていたこと]
【甲35】「工藤風音陳述書」
 [被告顧問が剣太と風音の頭部を木刀のツバ部分で12発ほど殴った事実、両名の頭部はミミズ腫れのようになった事実。剣太の太股に15㎝ほどのミミズ腫れがあり、被告顧問にやられた事実。平成21(2009)年8月夏合宿で被告顧問が風音に「昨年、剣太は合宿で倒れたらしいな」と発言していた事実。被告顧問は剣太が熱中症になったことを知っていた事実。被告顧問はアレルギー性鼻炎の風音が口で呼吸していただけなのに、ふざけているとしてビンタしてくるなど感情的な人物であった事実。事件当日、風音も熱中症の症状が出ていた事実]
【甲36】「工藤英士陳述書」
 [剣太進学前(平成20(2008)年正月)の竹田高校剣道部の練習で、被告副顧問が押し倒した部員を押さえ込む姿を目撃した事実。同年大分国体終了後、保護者会後の懇親会の席で被告副顧問の方から剣太が夏合宿で熱中症のため倒れたことを確認してきた事実。日頃から被告顧問が剣太を前蹴りするなど暴力を振るっていたことを目撃していた事実。原告英士さんが被告顧問に剣太が夏合宿で熱中症のため倒れたことがあることを伝えていた事実。被告顧問が剣太らを木刀のツバでたたいたり、太股がミミズ腫れになるぐらいたたいたりしていた事実。事件当日おがた病院での医師とのやり取り。被告顧問は病院で電気毛布がかけられたと陳述しているが(原告英士さんが見る限り)、その事実がなかったこと。被告副顧問が通夜の席で顧問(が剣太をしごくこと)を止め切れなかった旨発言した事実。(風通しの観点で)剣道部の練習中、更衣室の戸は開いていなかった事実。被告顧問は前任高校時代にも竹刀等のツバで生徒の頭部をたたいたり、パイプ椅子で生徒を殴ったり、先輩に後輩のけがをしているところを攻めさせたり、左手を踏ませたりして、生徒が退部し登校できなくなるまで追い込む等していた事実]
【甲37-1~4】「剣太の使用していた携帯電話」
 [事件当日の朝、先輩から練習後に会おうと誘われたメールに対して、剣太は「ありがとうございます。ですが今、先生がぶち切れている状況で…今日はわからないです」と返信していた事実]
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剣太の携帯。日常的に顧問から暴行等があったことが分かる(メールの相手もこの送信のみで理解)

【甲38】「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック(抄)(日本体育協会)」
 [平成18年以降、降熱中症に関して普及していた事実]
【甲39】「陳述書(剣道部員)」
 [被告顧問が自ら座っていたパイプ椅子を剣太の足元へ投げた事実。被告顧問が剣太の頭部を木刀のツバでたたいていた事実。被告顧問は剣太や他の部員に対し太股などをよく竹刀で、しかも両手で持ってたたいていた事実。剣太が痛そうにしていた事実。被告顧問は女子には優しく男子には厳しかった事実。被告顧問は、キャプテンだからかもしれないが、剣太にいつも厳しい言葉をかけていた事実]
【甲40】「陳述書(剣道部員)」
 [顧問から別日に太股に暴行を受けていた事実]
【甲41】「陳述書(剣太伯母)」
 [遊びにきたときにパンツ1枚の姿を見たとき、両太股に15~20㎝のミミズ腫れが4~5本ずつ外側から内側に斜めに等間隔で並んでいた事実。風音が「先生からシバかれた痕や」と述べたこと、剣太が「キャプテンやしこんなん普通やで」と述べていた事実]
【甲42】「陳述書(剣道部員)」
 [部員が強い指導を受けた事実、パイプ椅子が当該部員ではなく剣太に投げられた事実]
【甲43】「報告書(剣道部員の保護者からの陳述書提出)」
 [顧問から木刀のツバで頭部をたたかれた事実を剣太から聞いた剣道部員の保護者が、実際に剣太の頭部を触ったときに、剣太の頭部にこぶとへこみができていた事実]
【甲44】「『副顧問教諭からの聞き取り(資料の補足)』と題する書面(大分県教育委員会職員)」
 [被告副顧問教諭の陳述書(乙C第4号)の信用性の弾劾]
【甲45】「『8月22日(土)剣道部の練習に関して(詳細)』と題する書面」(被告副顧問教諭作成又は大分県教育委員会職員作成)」
 [被告副顧問教諭の陳述書の信用性の弾劾]
【甲46】「文献『高温による障害(熱中症)』(今日の治療指針2011所収)」
 [熱中症の治療について]
【甲47】「文献『各科に役立つ救急処置・処方マニュアル』(抄)」
 [熱中症の治療について]
【甲48】「文献『必携研修医・当直医のための急患マニュアル』(抄)」
 [熱中症の治療について]
【甲49】「文献『救急レジデントマニュアル』」
 [熱中症の治療について]
【甲50】「文献『頭部外傷を究める』(窪田惺)」
 [頭部外傷の場合の検査所見を明らかにする]

3 まとめ

 日々の暮らしをしながら、上記17回もの口頭弁論期日を積み重ね、主張・立証活動、準備を重ねて、遺族として生きてきたことの心労はいかばかりであろうか。被告側の準備書面等を読み、度々出てくる事実と異なる記載や剣太への攻撃的記述を何度も読まされ、反論するために証拠を集め提出しなければならない苦しみ、そして、進行協議や証人尋問等(3)で、裁判で直接被告側と顔を合わせることが、「毎回どれだけ心をかきむしられる思いを重ねてきたか」、「心折れる経験を乗り越えてきたか」との奈美さんの言葉が私の頭と心から離れない。
 心の情景のほんの一部ではあるが、私たちは、こうした客観的な時系列と証拠をたどることで、理解の端緒とすることは、せめてできるのかもしれない。
 kenta_jiken7_ph02
(1) 特に剣道部員や関係者の氏名については省略し、また本事案では、医学的知見の水準を検証することを主たる目的とはしていないため、その点の文献記載の内容面の詳細を一部省略している。
(2) 元立ちとは、剣道の稽古のときに相手の技を引き出し、打ち込みなどを受ける側のこと。
(3) 詳細を次回掘り下げる。こうした立証活動を記録した裁判記録を廃棄することが、どれだけ原告に再び立ち直れないほどの痛みを与え、かつ、社会に多大な損失を与えることになるのか、
罰則規定及び復元義務を課す制度設計が求められよう

鈴木秀洋(日本大学危機管理学部教授)

この記事の著者

鈴木秀洋(日本大学危機管理学部教授)

日本大学大学院危機管理学研究科教授兼日本大学危機管理学部教授。元文京区子ども家庭支援センター所長、男女協働課長、危機管理課長、総務課課長補佐、特別区法務部等歴任。都道府県、市区町村での審議会委員多数。法務博士(専門職)。保育士。著書に『自治体職員のための行政救済実務ハンドブック 改訂版』(第一法規、2021年)、『行政法の羅針盤』(成文堂、2020年)、『子を、親を、児童虐待から救う』(公職研、2019年)、『虐待・ⅮⅤ・性差別・災害等から市民を守る社会的弱者にしない自治体法務』(第一法規、2021年)等。

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