日本大学危機管理学部 鈴木秀洋/協力 工藤奈美
【目次】(青字が今回掲載分) 第1回 剣太からのバトン─時間は当事者の気持ちを軽くしない 第2回 剣太事件概観─剣太誕生・事件当日・部活・被害者として 第3回 学校・行政対応のまずさ(1) ─危機管理学・行政法学・被害者学の視点から 第4回 学校・行政対応のまずさ(2) ─事故調査委員会・教員の処分 (【緊急特報】裁判記録は魂の記録である) 第5回 損害賠償請求事件(大分地裁) ─最初の闘い・地裁判決の法的位置付け 第6回 第1回口頭弁論に臨む遺族の気持ち(大分地裁) 第7回 口頭弁論と立証活動(大分地裁) 第8回 現地進行協議と証人尋問(大分地裁) 第9回 損害賠償請求上訴事件 第10回 刑事告訴・検察審査会 第11回 裁判を終えて 第12回 新たなステージ(剣太はみんなの心の中に) |
(編集部注:2023年4月25日 目次及び第1~6回タイトルを修正いたしました)
4 事故調査委員会
(1)事故調査委員会立ち上げの経緯と人選
2009(平成21)年10月30日付けで「大分県立竹田高等学校剣道部事故調査委員会」による「調査報告書」がつくられている。
いじめ、学校事故等があった場合、通常、事故調査委員会なるものが立ち上がる。法的に定められた要件に基づいて設置される場合や、法定要件によらずに保護者からの要求に基づく場合又は自治体自らが再発防止のために設置する場合とがある。
そして、こうした事故調査委員会の人選等を含めたあり方については、必ずしも明確な規定が定められていない。そのため、事故調査委員会の設置・人選・報告書については、後に行政と被害者遺族等との間で、紛糾することが少なくない。
では、本件における事故調査委員会はどのようなものであったのだろうか。
本件事故調査委員会の設置に関して、県教育委員会の担当者(1)は、英士さんと奈美さんが推薦する委員を一人事故調査委員会に入れてもよいということ、また事故調査委員会では、英士さんと奈美さんの聞き取りから始めることを伝達している。しかし、実際の調査委員会委員の人選の面で、その約束が履行されることはなかった。奈美さんのその後の問い合わせに対して、当該担当者が述べたのは、「(委員は)もう決まりました」との答えのみである(2)。奈美さんらの事故調査委員会への関与は、あくまでヒアリング対象者(客体)としての位置付けであり、あとは完成した報告書を見せられたのみである。
こうした学校・教育委員会の対応経過は、被害者遺族の感情をないがしろにするものである。
筆者は、事故調査委員会の設置に関しては、保護者遺族の意見を聞きつつ、どんな委員に依頼し、何をどの程度明らかにしようとするのか、遺族への丁寧な説明がなされるべきであると考える。
そして、事故調査委員会を公的に設置する以上、委嘱調査委員の専門や氏名を公表し、かつ、調査期間や調査内容を事故調査委員会報告書に明記するのは、事故調査報告書の最低ラインといえる。
しかし、本件事故調査報告書には、調査委員として、「臨床心理士関係者、心理学関係者、剣道関係者、スポーツ生理学関係者、児童生徒相談関係者」との記述があるのみである。
本件の人選は、果たして誰が行ったのであろうか。臨床心理学と心理学という包含・隣接学問分野から2人の委員に委嘱しつつ、弁護士や法学者等はメンバーに入っていない。調査委員会は何を明らかにしようとしたのか。また「児童生徒相談関係者」委員には、どんな知見を求めるために任命したのか。さらに「剣道関係者」委員は剣道の知見のみならず体罰や熱中症等についての知識や高校の部活指導歴等をどのような観点から人選したのか。当該顧問や副顧問との関係の中立性は担保されているのか。こうした観点から、本件事故調査委員会の設置の経緯及び委嘱のあり方を検討してみると、疑問が残る。
群馬県「麺や藏人」店主・内野公義氏による剣太画。