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2022.10.25 議員活動

第4回 学校・行政対応のまずさ(2)─事故調査委員会・教員の処分

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(2)実際の報告書
 次に、実際に作成された報告書について検討してみる。
 構成はⅠ部(1 はじめに、2 聞き取りの対象者、3 経過、4 竹田高校剣道部事故報告書、調査委員会総括意見、5 おわりに)、Ⅱ部(調査委員の所感─今後の事故防止のために)、Ⅲ部(熱中症についての共通理解のために(別冊))からなる。
 形式的には一見整えられているように思える報告書であるが、複数の学校事故等の調査・検証に関与してきた筆者の立場からすると、非常に問題のある報告書である。
 例えば、調査委員会の総括意見は、次の1)、2)という形でまとめられている。
 1) 今回の事故について学校における状況に限っていえば、結論的には熱中症について細やかな配慮がなされず練習メニューが不適切であったことと、練習中の生徒の異常についての発見が遅れたことが要因と考えられる。
 2) 高校スポーツのあり方
と2項目でまとめている。この事故調査報告書には、練習参加部員7人からの聞き取り証言が記述されている。そこでは、「この日の練習はいつもと違い面打ちなどが終わったらすぐ打ち込みだった」、「本当なら打ち込みを何回かやった後に休憩をとるんですが、今回は長くなって休憩がなくて」、「打ち込みの間で休みが欲しかった」、「吐き気と目まいがあった」、「いつもよりきつい」、「気分が悪くなった」、「トイレに行ってもどした」、「打ち込みをこんなにしたのは初めてです」、「『気合いがたりんのじゃ』といわれて木刀でお尻を叩(たた)かれた」という部員からの証言がまとめられている。こうした証言からは、当日の練習が通常とは異なって厳しかったと部員が感じていたことが明らかであり、「練習メニューが不適切であった」との記述でまとめられることに異論はない。
 しかし、上記不適切なメニューとの言及のみで総括意見がまとめられてよいものではない。不適切メニューを課された部員に加えて、剣太は、剣太のみ、さらに、「一人で打ち込みを6回ぐらい連続でやらされフラフラになっていた」、「一息の切り返しが他の生徒より多かった。一息だから数回やればきついと思った」という顧問からの追加での練習の追い込みがさらに課されていたこと。そして、あろうことか、「顧問が突きダレを上げて叩いたのは初めて見ました」、「本生徒が『もう無理です』と顧問に言った。いつもだったら絶対に言わない、剣道ではそんなことは先生に言えない」、「顧問が腰の横を前蹴りした」、「練習中に叩かれたりとか、そういうのはありましたけど、前蹴りは見たことがなかった」、「椅子を投げた(びっくりした)」、「倒れた時『立て』といったが、立てずにいた本生徒を『演技じゃろが』といって叩いた」、「10回程度またがって叩いていて、目を開けろとずっと言っていました」、「往復ビンタ10回程度叩いた」、「これは熱中症の症状じゃないことは俺が知っているから」との剣太に対する執拗(しつよう)な暴力の数々が、部員らの証言から明らかになっているのである。
 こうした学校教育法11条で禁じる体罰、その禁止された体罰のどの事例にも当てはまらないほどの、刑事罰相当といってよい暴行・傷害行為について、事実として挙げながらも、総括意見でその部分にフォーカスして取り上げることをしないこと、教育者としてあるまじき行為の数々に対して否定的コメントをしないのはどうしてなのか。
 暴行を取り上げた総括意見の箇所を抜粋すると、「……腰を蹴ったりした。……約10回ほど平手で叩いている。顧問は平手で叩いても本生徒の意識がもうろうとしており、水を受け付けずに吐いたのを見てようやく本生徒の変調に気付いたと述べている。なぜこのように顧問による本生徒の変調の発見が遅れたのか」とある。
 本件事故調査委員会が問題提起する論点は、ずれていないか。ずらしていないか。
 暴行行為を受けた後の剣太の変調が事実であるにもかかわらず、暴行部分に触れずに、剣太の変調の発見が遅れたこと、そして、その後、熱中症についての理解不足の問題に論点をずらしている。
 この事故調査委員会が果たすべき役割はどこにあるのだろうか。事故調査委員のメンバーは実は、顧問を個人的によく知っていて(関係者であり)、顧問に対する過度の配慮をしているのではないか、そう思わされるまとめとなっている。
 そのことは、Ⅱ部で、各委員の所感を読むことで確信に変わる。
 (所感1)の委員は「顧問は、実力的にも人間的にも素晴らしい顧問と認識していた」との記述。(所感4)の委員は「今回の行き過ぎた練習は、顧問が主将である本人の将来を思い、強くなってほしいという願いのもとに行われています」との記述がなされている。
 筆者は、当該死亡事件を引き起こした顧問側にここまで寄り添った事故調査報告書の例を見たことがない。当該事件を引き起こした顧問と副顧問、こうした部活指導体制を容認していた学校長の責任等は重いはずである。こうした教員側の法に抵触する暴行行為等の責任を明確に指摘しない事故調査報告書は、もはや事故調査報告書とはいえないのではないか。当該調査に公費がつぎ込まれているのであれば、住民監査請求・住民訴訟の対象となるべき不作為である。
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剣太のペンケース。「剣道の理念」は有段者が皆唱える。

鈴木秀洋(日本大学危機管理学部教授)

この記事の著者

鈴木秀洋(日本大学危機管理学部教授)

日本大学大学院危機管理学研究科教授兼日本大学危機管理学部教授。元文京区子ども家庭支援センター所長、男女協働課長、危機管理課長、総務課課長補佐、特別区法務部等歴任。都道府県、市区町村での審議会委員多数。法務博士(専門職)。保育士。著書に『自治体職員のための行政救済実務ハンドブック 改訂版』(第一法規、2021年)、『行政法の羅針盤』(成文堂、2020年)、『子を、親を、児童虐待から救う』(公職研、2019年)、『虐待・ⅮⅤ・性差別・災害等から市民を守る社会的弱者にしない自治体法務』(第一法規、2021年)等。

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