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2023.04.25 議員活動

第7回 口頭弁論と立証活動(大分地裁)

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2 立証活動をたどる

 裁判は、自らの事実主張を立証しなければならない。そして、原則として、原告側が主張・立証責任を負うとの裁判上の制度設計がなされている。国家賠償法を根拠とする剣太裁判においても、英士さん・奈美さんらが被告県(顧問・副顧問)・市らの「過失」、「違法」の主張・立証責任を負うことになる。
 この剣太裁判で、原告遺族である英士さん・奈美さんらが、剣道部顧問・副顧問による部活動中の暴行・熱中症による剣太の死の帰責への立証を行うために収集した証拠は、甲第○号証という形で裁判所に提出されている。実に、甲第1号証から甲第50号証までに及ぶ(被告県側は乙A号証として第19-5号証まで提出している)。
 記録を積み重ねれば4センチほどの紙ファイルが20冊ほどにもなるが、それほど大部な主張・立証が行われてきたのである。これほどまでに時間をかけ、労力を尽くし、立証活動を継続していくことが現実には求められるのである。何も持たない遺族側が、ある意味全てを持っている学校・行政側に裁判を挑むことがどれだけ困難なことかが、今回の立証標目を挙げることで、少しは理解してもらえるのではないかと思う。
 実際に、剣道部員たちの証言を集め、文書開示請求を重ね、専門文献を読んで事実を明らかにしていった英士さんと奈美さんの裁判の過程は、判決を読むだけでは分からないであろうことから、今回は少し読みづらさはあるとしても、英士さん・奈美さんらが、どのような証拠(証言、文献等書証等)を積み上げ、裁判所に提出したのか、その証拠(書証)をたどってみることとする。
 なお、関係者のプライバシーを保護する観点及び本論稿が学校での子どもの命を守ることを主たる執筆趣旨としていることから、記載を一部省略し、又は分かりやすく補充・変更を行っている箇所もある(1)が、基本的には、残されている裁判記録の写しのうち、証拠説明書と一つひとつの書証等の証拠を丁寧に一つひとつ確認し、照合しつつ正確性を期して執筆している。
 以下証拠については、原告側証拠番号を【甲○】、標目・作成者を「 」、立証趣旨を[ ]で記すこととする。

【甲1】「戸籍全部事項証明書」
【甲2】「進研模試」
 [剣太が救急救命士を第一志望として頑張っていた事実]
【甲3-1】「大分県立竹田高校ホームページ[学校概要](校長挨拶)」
 [竹田高校が文武両道を標榜(ひょうぼう)する学校運営をしている事実]
【甲3-2】「同上(沿革)」
 [平成12年に文部省指定武道指定研究発表大会を行うなど武道に力を入れていた事実]
【甲4】「調査報告書(竹田高校剣道部事故調査委員会)」
 [被告らの不法行為に関する主張事実。事故調査委員会が任意に事情聴取した範囲で本件剣道部道場内で起きた事実を調査報告した内容が記載]
【甲5-1】「診療録の開示について」
 [剣太に関するカルテが開示された事実]
【甲5-2】「カルテ一式」
 [おがた総合病院では剣太の高熱が持続しているにもかかわらず、身体全体を十分に冷やす措置が足りず、専門機関への転院指示も遅く、熱射病で亡くなった事実。熱中症による脱水症状しか想定しておらず、熱射病の診断をしなかった事実。司法解剖の結果、内臓の腐敗が予想外にひどく、体内のうつ熱が強かった事実]
【甲6】「文部科学省検定済教科書『現代保健体育』改訂版(抄)」
 [文部科学省平成18年検定済教科書に、熱中症の分類の一つとして熱射病の記載がある事実。熱射病の症状と対応(40度前後の激しい体温上昇、意識障害などが症状として記載され、早急に手当てしないと生命が危険な状況に至ることが記載されている事実。熱射病の場合、できるだけ裸に近い状態にして冷たいぬれタオルで全身を拭いたり覆ったりし、扇風機などで風を送り、とにかく体温を下げるようにし、また早急に救急車の出動を依頼する旨)が記載されている事実。予防法(水分が不足すると熱中症など生命に危険が及ぶことがあり、長時間の運動、気温や湿度が高い場合の運動では注意が必要であり、水分補給が重要)について記載されている事実]
【甲7】「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック(抄)(財団法人日本体育協会)」
 [熱射病の死亡率が高い事実。緊急事態として一刻も早く病院に運ぶ必要があること。異常な体温上昇と意識障害が特徴であること。集中治療できる病院に一刻も早く運ぶこと。熱中症を起こしたことのある人は運動を軽減する必要があること]
【甲8】「熱中症予防のための啓発資料『熱中症を予防しよう─知って防ごう熱中症─』(抄)(独立行政法人日本スポーツ振興センター)」
 [学校災害の共済給付業務を行う日本スポーツ振興センターが学校関係者に学校安全情報を伝えている中で、暑い季節の運動で、長時間にわたる場合には、こまめに休憩をとること(目安は30分程度に1回)が推奨されている事実。試験休みや病気の後などしばらく運動をしなかったときなどに急に激しい運動をすると熱中症が発生することがあるので注意しましょうと注意喚起されている事実。熱中症死亡事例として35度以上の環境下では運動は原則中止!、室内でも熱中症は起こります!、休み明けの急な激しい運動は要注意! など警告されていた事実]

鈴木秀洋(日本大学危機管理学部教授)

この記事の著者

鈴木秀洋(日本大学危機管理学部教授)

日本大学大学院危機管理学研究科教授兼日本大学危機管理学部教授。元文京区子ども家庭支援センター所長、男女協働課長、危機管理課長、総務課課長補佐、特別区法務部等歴任。都道府県、市区町村での審議会委員多数。法務博士(専門職)。保育士。著書に『自治体職員のための行政救済実務ハンドブック 改訂版』(第一法規、2021年)、『行政法の羅針盤』(成文堂、2020年)、『子を、親を、児童虐待から救う』(公職研、2019年)、『虐待・ⅮⅤ・性差別・災害等から市民を守る社会的弱者にしない自治体法務』(第一法規、2021年)等。

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