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2018.08.27 政策研究

「香川・目黒虐待死事件」の検証と再発防止提言-全件共有論への危惧を中心に-

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第2 虐待死防止のための提言
(4つの提言)

 以下、筆者として再発防止のための主な提言を4つ挙げる。

1 相談対応件数の上限の設置(ケースワーカーの強制設置とメンタルヘルスケア)
 児童福祉司が丁寧なケースワークを行うためには、それができる上限件数を定める必要がある(ケースワークの知見をきちんと引き継いでいける件数ともいえる)。100件以上のケース対応は不可能を強いている。例えば複数担当制を前提とした上で30件以上のケース割当となる場合は、強制的にケースワーカー配置を追加することを義務付けることを法定化すべきである。加えて、通常より短期かつ定期的なメンタルヘルスケア検診についても義務付けて職員の健康を守っていくことも大切である。
 人の生死という生身に関わり、継続的に相談を担当し、他機関と調整をするという仕事の重みを直視すべきである。

2 要対協調整機関専門職配置の迅速化と権限付与・義務化
 専門的知見を有する児童福祉担当が司令塔となり、どの機関を動かし、どのようなアプローチで支援・介入を行っていくのか、要対協関係機関間の全体コーディネートを常に迅速に行い、連携・役割分担(バトン)を指示する司令塔が必要であり、その司令塔の権限を拡充すべきである。
 具体的には、児童福祉法25条の3の規定は、「(要対協が)…情報の交換及び協議を行うため必要があると認めるときは、関係機関等に対し、資料又は情報の提供、意見の開陳その他必要な協力を求めることができる」と定めている。
 しかし、この規定が「できる」規定となっているので、情報提供を求められた関係機関も、情報提供をしてよいのかどうか逡巡することになる。特に個人情報を有している団体等は躊躇するのである。この規定を改正し、「しなければならない」と義務規定とし、それと併せて、調査を受けた機関についても回答義務を課す規定を設ける。さらに調査対象となる関係機関の拡大も必要である。こうすることで全体の見取図が詳細となり介入の迅速化につながる。

3 市区町村子ども家庭総合支援拠点の迅速設置と補助拡大─市区町村中心主義へ
 平成28年改正の目玉のひとつとして支援拠点設置がある。児童相談所が支援も介入も行うことは現実には難しい。地域の資源を知り、面でつないでいる市区町村が地域資源をつなぎ、切れ目ない支援を継続的に担っていくことで、児童相談所は児童福祉的視点を有しつつも難しい介入事案について労力を注ぐことができよう(注意喚起で終わることがないようになろう。一層、高度医療的役割が求められる)。このように、市区町村と児童相談所の役割分担と連携の制度設計の修正が必要である。地域に専門職を備えた拠点を増やすことが急務である。
 筆者が全国調査した限り(平成30年2月1日時点)では、全国の市区町村1,741自治体(政令市含む)のうち、93自治体しか支援拠点(機能設置)設置ができていないという状況である。設置が進まない理由として、財政的支援等の問題が挙げられている。国や都道府県による財政その他支援の加速化が望まれる。
 現行法制度下においては、児童相談所と市区町村子ども家庭総合支援拠点(子育て世代包括支援センターとの一体化)が児童福祉の中核となる枠組みである(その枠組みを超えるものについて警察に迅速にバトンを渡す場合がどのような場合か、その基準を明確にすることが求められるが、画一的基準・細分化が必ずしもうまくいくとは限らない。前述したように児童福祉法制は臨検・捜索までの規定を設けている)。
 ケースによって主担当となる機関を変えていくこともケースワークとして必要なことである(学校や保育園、里親、施設、地域のNPO、子ども家庭支援センター、保健サービスセンター、児童相談所等)。当たり前のことであるが、地域で生活していく子どもと家庭に関わる以上、総合的かつ継続的な関わりが、生身の揺れ動く人間を対象とする児童福祉行政においては求められるのである。

4 現行法制度を使いこなすケースワーカーの能力向上と専門アドバイザーがいる日常  子どもと家庭に関わるには、専門的知見や人生に関する深い洞察(経験)が不可欠となる。①新卒配置は原則行わないこと、②いくつかの部署経験や一定の研修期間を修了した後に、子ども対応及びケースワークの専門能力認定を受けた後に配置すること(司法修習制度等を参考)、③上記のようにケースワーカーには、児童福祉法令の知識、保育・保健・医療・心理等様々な知見が求められるが、ひとりのケースワーカーにすべての知見等を求めることは理想論でしかない。常にサポートできる法律専門家としての弁護士、臨床心理士、精神科医、小児科医といったスーパーバイザーと受理会議や、同行もすることを繰り返すことで着実に実力を高めていくことができる(逆にそれがないと高まらない)。常時見立てをぶつけ合い、見立てを学び合える環境(チーム)によって、個人の能力もチームの能力も向上し、それが蓄積させていく体制をつくっていくことは急務である。

鈴木秀洋(日本大学危機管理学部准教授)

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鈴木秀洋(日本大学危機管理学部准教授)

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