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2018.08.27 政策研究

「香川・目黒虐待死事件」の検証と再発防止提言-全件共有論への危惧を中心に-

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(イ) 支援と介入のベストミックス
 ⒜ 介入後のつなぎこそ
  全件共有論は、警察の果たすべき介入の手法・達成目的・効果測定とセットで導入の是非を論じないと、子どもの命が後に危険に曝され続けるというマイナスがあることに目を向けるべきである。
  今回の事件において、目黒に転居した際に、仮に警察が子どもの存在を確認できたとした場合、警察はその後の支援までも考えた対応やつなぎができるのであろうか。具体的には、初動、そしてその後に、どのような機関に、どのようにしてつないでいくことがこの子どもや家庭を守ることになるのか、その部分の見立てと協働こそが命を継続的に守っていく上で重要である。
  児童福祉行政の相談・ケースワークは、1回の介入ではなく、その後こそが勝負である。警察の介入に過度の期待と幻想を持つことは危険である。児童福祉行政がこれまで蓄積した専門性(支援業務の多層・多面性)をあまりに低く見積もりすぎてはいないか。児童福祉のケースワークは、支援を土台としつつ、支援と介入とのベストミックスである。過度に介入に傾いた児童福祉ケースワークは、中長期的には保護者を一層追い込み、その追い込みは子どもの安全安心を奪うことになる。
 ⒝ 介入後のつなぎ
  筆者のこれまでの経験からすれば、警察が任意で確認できなかった場合、会えるまで何度も訪問を繰り返すという運用はなされてきていない。児童相談所なり地域の子ども家庭支援センター(市区町村子ども部署)に対して、その旨を伝えて事案を引き継いでいるのが通常である(そもそも保護しても児童相談所に引き渡すという制度設計であり、警察の介入は基本的に1回的である)。
  とするならば、警察が介入したら子どもを救えたという見解は、警察が介入した場合にたまたま親と子どもがいて、子どもを現認して、親も子どもも警察の疑いを払拭するだけの説明がなされて安心して帰るか(注意喚起して帰るか)、逆に現行犯に足る事実を確認して保護者の逮捕と子どもの保護というようなその場での1回的に何かしらアクションができる場合を想定した議論といえる。
  多くの場合は、警察が介入したとしても、その家庭は日常生活を送っていくことになる(泣き声通報に対し、夫婦喧嘩だといわれ注意喚起して終わる場合も多いというは現職の警察官複数から聞く話である)。
 (C) 萎縮効果
  では、一度警察がきたことによりその家庭はどうなるのか。
  誰が警察に通告したのか疑心暗鬼になり、次からは窓を閉めて声が漏れないようにするという親の声を聞く。自分が警察からマークされたと考えたら、ありがたいと開放的になるだろうか。萎縮効果が働くのが多くの国民心理である。
  現実に、警察が介入したその後に、児童相談所等が家庭を訪ねていくときに事前に警察が介入している場合には、非常に次からの関係性がつくり難いとの話を多く聞く。実際に筆者もその経験をしている。警察に注意されたことにより、二度と警察がこないように子どもを外に出さないようにするというプレッシャーを受ける、一層外部との扉を閉ざす、そういうその後の経過を辿る事例の多さを知らないのであろうか。注意喚起・威嚇だけではかえって子どもの姿が見えづらくなり、潜ってしまったり、隠されてしまったりして、危険に曝されることになる現実が多いのである。
 ⒟ 効果主張論への再反論
  確かに、その1回的な注意喚起や威嚇で、一瞬効果がありそうに思えることもあろう(体罰の効果でも主張される)。その場で保護者が反省したとの弁も聞く。しかし、子どもにとって果たして事態は改善しているのか。その場だけの聞くふりでかえって危険を高めていた事例を複数経験している。
  この点、当該家庭に関しては2度目の通告・通報がなかったということが1回的介入(注意喚起・威嚇)効果を証明しているとの反論があろう。しかし、通告がなかったということは、必ずしも虐待事実がストップしたということではない。子ども側からすれば、保護者への注意喚起が、今度は子どもに向けられ、親がさらなる「支配」を強める場合は稀なことではない(なお、児童相談所も単なる注意喚起を行ってケースを終了させているとの批判があるがその点は児童相談所が本来的役割を果たしていないとの問題であり、全件共有論とは別の問題である)。
  仮に、警察の介入時に子どもに会えた・確認できたという場合でも、そこで扉を閉ざされずに、その後、子どもが児童相談所又は地域の子ども家庭支援センター等と継続的な関係を築けなくては命を守ることにはならないのである。
 ⒠ 介入手法の蓄積
  児童相談所等においては、最初の入り方についての蓄積があるが(現実には不十分な職員もいるが)、110番通報で現場に駆け付けた警察官がどのような支援的な言葉で(又はその後も家庭に関与できる形の言葉遣いで)家庭に入っていくのか、そのトレーニングを受けている例とその効果を十分に知らない。
  警察の介入後も、継続的にその家庭で当該子どもが親と生活をともにし続けるリスクを考えつつ、継続的な関わりを有することは警察の本務ではないし、よくなし得る任務ではない(これは警察批判ではなく、法的な本来的任務・所掌の問題である)。児童福祉部門が蓄積してきた専門性を低く見積もりすぎるべきではない。
  無論、現在の110番通報の場合も、警察が家庭に対してより福祉的・支援的スタンスも学んだ上での介入手法を拡充していくことも考えられよう(警察が福祉行政領域の所掌を拡大すると考えれば、警察の中に虐待対策室を設けるなどはひとつの流れではあるし、福祉警察の創設とでも評価できる流れともいえよう)。しかし、この方向は、全件共有論が主張する「メリットとしての警察(単独での)介入の増加」とはベクトルが異なろう。

鈴木秀洋(日本大学危機管理学部准教授)

この記事の著者

鈴木秀洋(日本大学危機管理学部准教授)

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