地方自治と議会の今をつかむ、明日につながる

議員NAVI:議員のためのウェブマガジン

『議員NAVI』とは?

検索

2017.04.10 政策研究

全国初のユニバーサル就労推進条例を議員提案で制定~働きたくても働くことができない全ての人が仕事に従事できる地域社会を目指して~

LINEで送る

富士市議会議長 影山正直(まさなお)
富士市議会議員/ユニバーサル就労推進議員連盟会長 小池智明(としあき)

富士市は富士山の南側に位置する人口約25万人の産業都市

 富士市は、日本列島太平洋岸のほぼ中央、静岡県東部に位置し、「世界遺産・富士山」の広大な南麓に広がっています。東京へは146キロメートル、大阪へは410キロメートルのところにあり、東海道新幹線、東名及び新東名高速道路、国道1号などが市内を横断しており、交通の要衝として我が国の産業・経済を支える動脈網を形成しています。
 気候は温暖で豊富な地下水に恵まれ、古くから製紙産業が盛んで「紙のまち」として成長し、その後、紙パルプのほか化学、電気機械産業などの産業が発達し、「産業都市・富士市」として発展してきました。
 東海道新幹線で、富士山がその裾野から大きく見える場所が富士市です。

20170410_6_1

 富士市議会は、前期(~平成27年4月)まで定数36人でしたが、今期(平成27年5月~)からは4人削減した32人で活動しています。

「富士市ユニバーサル就労の推進に関する条例」とは

(1)「ユニバーサル就労」とは
 「富士市ユニバーサル就労の推進に関する条例」(以下「ユニバーサル就労推進条例」という)は、「ユニバーサル就労の推進に関する基本理念、施策の基本事項を定めることにより、全ての市民が生きがいを感じながら安心して暮らすことができる地域社会の実現に寄与する」ことを目的に、平成29年2月15日に議員提案で上程、可決・成立し、同年4月1日から施行されました。
 この「ユニバーサル就労」という言葉は、社会福祉法人生活クラブ風の村(千葉県。以下「風の村」という)が、精神的、身体的・知的、社会的な様々な理由により、「働きたいのに働きにくい全ての人」が働けることを目指し、取り組んでおられる考え方を示す言葉です。
 なお、風の村では、いわゆる悪徳ビジネス等に使用されるのを排除するために、「ユニバーサル就労」を商標登録しています。

図1 「ユニバーサル就労」の対象になる人図1 「ユニバーサル就労」の対象になる人

 富士市議会では、風の村に条例の趣旨を快くご理解いただき、この「ユニバーサル就労」を改めて「様々な理由により働きたくても働くことができない状態にある全ての人が自ら選択した仕事に従事すること」と定義し、条例に使わせていただきました。

(2)ユニバーサル就労推進条例の構成と内容
 ユニバーサル就労推進条例は、前文と計12条からなる、いわゆる「理念条例」です。

図2 ユニバーサル就労推進条例の構成図2 ユニバーサル就労推進条例の構成

 基本理念(3条)の中では「ユニバーサル就労は、……市、市民、事業者及び事業者団体の協働により推進されなければならない」とし、4条~7条でそれぞれの関係者の責務を規定しています。
 8条~11条では、市が取り組むべき財政上の措置、推進体制の整備、関係行政機関との連携、顕彰実施を定めています。

条例提案に至ったきっかけ~議員連盟の結成と活動開始~

(1)「親の会」をはじめとする市民の皆さんからの要望と議員連盟の結成
 平成26年11月に、障害を持つお子さんをお持ちの「ユニバーサル就労を拡げる親の会」の皆さんが、市長に1万9,386筆の署名を添えて「ユニバーサル就労に積極的な企業の誘致及び支援を求める要望書」を提出しました。
 これに立ち会った何人かの議員から、「親の会」の皆さんの思いを何とか応援できないだろうかとの話が持ち上がりました。
 当時のあるベテラン議員(平成27年4月で引退)が「会派を超えて『議員連盟』を立ち上げて研究してみてはどうだろうか」と各会派の1~2期目の若手議員に声をかけ、発起人会を組織しました。
 その後、「まずは、市内の障害者就労支援の実態把握から取り組もう」との考えで平成27年2月に「富士市議会ユニバーサル就労推進議員連盟」(以下「議連」という)が発足しました。
 平成27年4月の選挙後、改めて議連への参加を募ったところ、32人中30人の議員に参加いただけることになりました。

(2)議連の活動と市長への提案
 平成27年度は、議連内でグループに分かれ、市内外の障害者就労支援施設、企業、関係行政機関等を訪問し、十数か所の現場をヒアリングしました。
 ヒアリング後、「各支援施設は頑張っているが、就労受入先の企業情報が共有されていない」、「企業は、障害のあるなしでなく、戦力になる人材を求めている」等の意見が複数の議員から報告されました。
 また、いわゆる障害を持つ方だけでなく、引きこもりだった若者、一度企業を退職した女性・高齢者等、一般的に企業では雇用が難しい人たちに、仕事を適切に切り分けながら上手に働いてもらっている企業もありました。
 議連としては、改めて「働きたくても働きにくい状況にある人たち」が多くいることを感じ、広い意味での「ユニバーサル就労」の重要性を再認識した次第です。
 こうした調査を踏まえ、平成27年11月に総合的な見地から「ユニバーサル就労促進計画の策定」に取り組むよう市長に提案しました。

議連による調査の後、市長に対してユニバーサル就労につき提案を行った。議連による調査の後、市長に対してユニバーサル就労につき提案を行った。

 11月に提案したのは、「次年度(平成28年度)に、計画策定の予算を確保していただきたい」との思いがあったからです。

議会・行政当局の二人三脚による条例、事業検討の取組み

 平成28年2月に市長から、「私としてもユニバーサル就労の推進は喫緊の課題だと思います。しかし、『まず計画をつくって』では、事業着手がさらに次の年度以降に遅れます。それより議会と行政当局で協働して事業案を練っていきませんか?」という、願ってもない「逆提案」があり、議連も直ちに検討に入りました。
 「当局が『すぐ動けるような事業案を』というなら、議連としてはユニバーサル就労の基本的な考え方を整理し、事業が動きやすくなる条例をつくることが必要では?」との意見が出され、平成28年度の議連の活動を「(仮)ユニバーサル就労推進条例案の策定」と「モデル事業案の策定」の2本柱としました。
 議連の中に「条例検討チーム」と「事業検討チーム」を設け、行政当局が設置した「ユニバーサル就労促進検討委員会」(正副委員長は2人の副市長)と定期的に意見交換、協議をしながら検討を進めてきました。

図3 議会・行政当局の条例案・事業案の検討経緯図3 議会・行政当局の条例案・事業案の検討経緯

 条例案については、議連側の「思い」が先行しがちな文案を、行政当局とも協議しながら条例案に仕上げました。
 事業案については、すぐに取り組むべき平成29年度からの事業、それ以降の事業に分けて検討、とりまとめを行ってきました。
 この事業案は、ぎりぎりになってしまいましたが、予算編成の最後に間に合うよう、議連として平成28年12月に市長に提案したところです。

図4 ユニバーサル就労推進事業イメージ図4 ユニバーサル就労推進事業イメージ

 また条例案については、平成28年11月に全会派から選出された委員で構成する「富士市ユニバーサル就労の推進に関する条例検討委員会」を議会に設置し、議員有志による非公式な組織であった議連の案を議会の正式な条例案として検討することになりました。
 この案をもとに平成28年12月から平成29年1月にかけてパブリックコメントを行ったところ、同時期に行われていた他のパブリックコメント案件と比べても、多くの意見をいただきました。このことからも、ユニバーサル就労に対する市民の皆さんの注目の高さがうかがえました。
 市民の皆さんからは、条例を歓迎する声と、具体的な取組みを求める意見が多くありました。こうした意見には、想定している事業案の内容等を説明しながら回答させていただいたところです。
 そして平成29年度2月議会。初日に条例案が議員提案の形で上程され、可決・成立。事業についても、「ユニバーサル就労推進事業費」として4,198万3,000円が平成29年度に予算化されることになりました。

条例に基づく具体的な取組事業

 条例に基づく形で平成29年度から以下の事業が始まります。
① ユニバーサル就労相談窓口運営事業
 ・働きたくても働きにくい全ての人、関係者がまずは立ち寄り、相談できる第1次相談場所を開設する。
 ・相談者の特徴によって、どこに行けば最も適切な就労支援・マッチングが可能かを紹介する。
② ユニバーサル就労推進協議会運営事業
 ・ユニバーサル就労に関わる様々な分野の各種相談窓口等の関係機関、事業所、事業者団体等に参加いただく協議会を設ける。
 ・様々な情報交換を行うとともに、各種のユニバーサル就労推進事業に関する意見を伺う。
③ ユニバーサル就労支援プロジェクト事業
 ・生活困窮者を対象とした既存の就労準備支援事業を、様々な就労困難者(ユニバーサル就労対象者)にまで対象を広げる形で取り組むプロジェクト。
 ・就労困難者の個別支援を行う一方で、多様な働き方を提供できる協力事業所の開拓や雇用継続に向けた相談や支援を行う。
④ 市民ネットワーク推進事業
 ・市民、事業所等への「ユニバーサル就労」の広報、啓発。
 ・ユニバーサル就労対象者を社会の一員として支えていくために、市民意識からの土壌形成を進める。

 条例はできましたが、全てはこれからです。「何とかスタート地点に立てた段階」という認識です。「条例をつくって終わり」ではなく、今後は議連参加議員も事業をサポートしていこうと考えています。
 考えている取組みは、大きく2つあります。
 1つは「広報活動」への取組みです。現状では、市民や事業所の多くは「『ユニバーサル就労』ってどういうこと?」という段階で、まだまだ浸透した言葉、考え方ではありません。「ユニバーサル就労」の必要性などについて、様々な地域、場面で分かりやすく説明、広報していきたいと思います。
 もう1つは「企業開拓」への取組みです。議員各自は、それぞれに関係する地域、団体等の中で、多くの企業等とのネットワークを持っています。こうしたネットワークを生かしながら、ユニバーサル就労に理解を示し賛同いただける企業の開拓を進めていければと考えています。

「3つの初めて」の経験から、今後も「議会としてまとまる強さ」を

 今回の取組みの中で、我々は「3つの初めて」を経験しました。
 1つ目は、「全国初」の「ユニバーサル就労推進条例」を制定したことです。全国の市町村の先駆けとなる取組みになるよう、今後も気を引き締めて取り組んでいきたいと思います。
 2つ目は、「富士市議会初」の「政策的な議員提案条例」を制定したことです。これまで議会自身のあり方を規定した議会基本条例はありましたが、政策的な条例の議員提案は初めてでした。山あり谷ありでしたが、大きな自信にもなりました。他の政策課題についても広げていければと思います。
 3つ目は、「富士市初」の「議会・行政が協働して取り組んだ条例・事業検討」であったことです。「議会と行政は市政の車の両輪」といわれながら、これまでは議会は行政を監視するという関係がほとんどでした。しかし今回、行政側からの提案もあり、条例案、事業案をともに検討しながらまとめ上げることができました。
 議会側が会派を超えた「議連」としてまとまって活動、提案を行ったことが、行政側を動かす大きな力になったと思います。議会がまとまったときの強さを実感しました。
 今後の議会活動においても、今回の経験を生かしながら、真の意味で「車の両輪」として活動していきたいと思います。

○富士市ユニバーサル就労の推進に関する条例(平成29年2月22日条例第1号)

 私たちのまち富士市は、豊富な地下水と豊かな自然に恵まれ、紙・パルプ産業などの製造業を中心に、農林業や水産業など、様々な産業が成長し、発展してきた。
 人々が多様な産業に携わり豊かな市民生活を築いてきた反面、障害のある人をはじめ、就労意欲がありながら様々な理由により働きたくても働くことができない状態にある人たちは、自らの能力を発揮するため働く場を求めてきたが、こうした人たちに就労の機会が十分に提供されているとは言えない。
 市民の誰もが社会を構成する一員として活躍し、自立した生活を送ることができる社会を実現するためには、就労意欲のある全ての人に就労の機会が提供されるよう、環境を整備していかなければならない。
 このような認識の下、行政はもとより事業者、事業者団体及び市民一人ひとりが相互に協力し、ユニバーサル就労を推進することにより、市民がそれぞれ生きがいを持ち、働くことができる住みやすい地域社会を創造するため、それぞれの責務を果たすことを決意し、この条例を制定する。
 (目的)
第1条 この条例は、ユニバーサル就労の推進に関する基本理念を定め、市、市民、事業者及び事業者団体の果たすべき責務を明らかにするとともに、市の施策の基本となる事項を定めることにより、全ての市民が生きがいを感じながら安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与することを目的とする。
 (定義)
第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 (1) ユニバーサル就労 様々な理由により働きたくても働くことができない状態にある全ての人が自ら選択した仕事に従事することをいう。
 (2) 市民 市内に在住し、在勤し、又は在学する者をいう。
 (3) 事業者 市内で事業活動を行う個人及び法人その他の団体をいう。
 (4) 事業者団体 事業者の共通の利益の増進のため、事業者により組織された団体をいう。
 (基本理念)
第3条 ユニバーサル就労は、様々な理由により働きたくても働くことができない状態にある全ての人がその個性や意欲に応じて能力を発揮し、社会を構成する一員として社会経済活動に参加することを基本とし、市、市民、事業者及び事業者団体の協働により推進されなければならない。
 (市の責務)
第4条 市は、基本理念にのっとり、総合的かつ計画的にユニバーサル就労の推進に関する施策を講ずる責務を有する。
 (市民の責務)
第5条 市民は、基本理念にのっとり、ユニバーサル就労に関する理解を深めるとともに、市が実施する施策に協力するよう努めるものとする。
 (事業者の責務)
第6条 事業者は、基本理念にのっとり、ユニバーサル就労の推進のために雇用の創出及び拡大を図るとともに、一人ひとりの個性に配慮しながら働きやすい職場環境を整備し、及び市が実施する施策に協力するよう努めるものとする。
 (事業者団体の責務)
第7条 事業者団体は、基本理念にのっとり、その構成員である事業者に対し、ユニバーサル就労の推進のために必要な情報の提供及び助言に努めるとともに、市が実施する施策に協力するよう努めるものとする。
 (財政上の措置)
第8条 市は、ユニバーサル就労の推進に関する施策の実施に必要となる財政上の措置を講ずるものとする。
 (推進体制の整備)
第9条 市は、市民、事業者及び事業者団体と協力し、ユニバーサル就労を推進するために必要な体制を整備するものとする。
 (関係行政機関との連携)
第10条 市は、ユニバーサル就労の推進に関する施策を総合的かつ計画的に実施するため、関係行政機関との連携を図るものとする。
 (顕彰)
第11条 市は、ユニバーサル就労の推進に著しく貢献したものを顕彰するものとする。
 (委任)
第12条 この条例の施行に関し必要な事項は、市長が別に定める。
   附 則
 この条例は、平成29年4月1日から施行する。

この記事の著者

影山正直(まさなお)

小池智明(としあき)

この記事の著者

影山正直(富士市議会議長)/小池智明(富士市議会議員・ユニバーサル就労推進議員連盟会長)

Copyright © DAI-ICHI HOKI co.ltd. All Rights Reserved.

印刷する

今日は何の日?

2024年 517

ゾルゲ事件(昭和17年)

式辞あいさつに役立つ 出来事カレンダーはログイン後

議員NAVIお申込み

コンデス案内ページ

Q&Aでわかる 公職選挙法との付き合い方 好評発売中!

〔第3次改訂版〕地方選挙実践マニュアル 好評発売中!

自治体議員活動総覧

全国地方自治体リンク47

ページTOPへ戻る