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2017.01.25 政策研究

被災地に公立初の“森の学校”を

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“森の学校”としての校舎建設の高い壁

 一方、公立の学校を“森の学校”にするための校舎などの建設には、立ちはだかるいくつもの高い壁がありました。
 私たち「森の学校プロジェクト委員会」が提案した森の学校をつくるに当たっての要望は、次の3つでした。
 ① 地域本来の地形、地質、植生など、その土地に由来する生態系を尊重し最大限に生かす。
 ② 学校の校舎も森の一部となるよう森と融合した校舎にする。
 ③ 構造物は、資材の調達や廃棄のことまで考え、できる限り地域の素材で森に還(かえ)る素材を使用する。
 それぞれの課題について東松島市の担当課と何度も議論と調整を重ね、予算と時間とをにらみながら、市の担当者も様々な角度から実現に向けての予算確保策を検討するなど、試行錯誤が続きました。
 ①に関しては、高台移転に伴う山の造成の際、小学校予定地は、山を削って谷を埋めるようなことをせず、地形を活かすことができました。地震が多いこの地域は、谷を埋めた場所が崩壊する可能性があります。また、谷には湧き水が出ており、整備をすれば、環境教育の貴重な場所として活用することができます。もちろん、いびつな形となるため、学校用地としては使いづらいという意見が多々ありましたが、子どもたちの命を長きにわたり預かる場所として、何千万年の時を経てできた地形を尊重することが安全につながるということを理解してもらえました。
 課題にぶつかったのは、校舎建設に関わる②③です。ご存じのように学校については、1947年に制定された学校教育法の中に学校設置に関する基準が定められています。さらに校舎を建てる際は、建築基準法に基づく安全性の確保や、耐震、耐火など地域の様々な基準に適合させる必要があります。それらの複雑な条件を安易にクリアできるのは、鉄筋コンクリート構造(RC構造)でした。全国各地の学校が、RC構造にならざるを得ない理由はそこにありました。しかし、私たちが提唱している“森の学校”とRC構造は対極にあります。当財団のニコルいわく、「世界最古の木造建築がある国はどこですか? 日本は森林面積が国土の67%もある国なのに、なぜ木を利用しない!」。森の学校プロジェクト委員会からは、森の学校の必須条件である木造校舎であっても法的基準をクリアできる方法を提示していきました。
 また、東松島市に航空自衛隊松島基地があることも障壁となりました。ブルーインパルスなどの飛行訓練が行われている東松島市では、防衛庁からの交付金により防音の設備を導入することができますが、その前提となるのは、建物がRC構造であることでした。しかし、この件も市長の英断により、防衛庁からの交付金に頼ることなく、市費を投じてでもこの学校を森の学校にしていく方針となりました。
 もう1つの思わぬ壁は、公共工事の宿命といえる価格の安さで発注先を決める入札制度にありました。この学校の基本設計を行う業者を決める際も、一般競争入札方式が用いられました。結果、破格の安値で入札した設計会社に落札されました。上がってきた基本設計は従来のよくある校舎であり、しかも1階がRC構造のものでした。
 このままでは、森の学校にはならないと、2014年1月7日、当財団理事長自ら市長に直談判し、震災後の東松島市の未来を担う子どもたちを育む教育を復興のシンボルとすることを改めて確認し合い、実施設計は、森の学校としてふさわしい内容を提案できる業者を選ぶプロポーザル方式で選考することになりました。
 たび重なる折衝により、校舎に加え体育館も木造という、まるで教室が森に点在するような理想的な設計を提案した業者に決まりました。

この記事の著者

一般財団法人C.W.ニコル・アファンの森財団

森を守る。子どもたちの笑顔と日本の未来のために――作家C.W.ニコルが、1986年より日本の森の荒廃を憂い、長野県黒姫にある放置された里山を自ら買い取り、生命力豊かな本来の日本の森をよみがえらせることを目的に森づくりを始めました。2002年、森を永遠に残すためにC.W.ニコル・アファンの森財団を設立。手入れを始めて30年目の森には、地域的に絶滅が危惧される動植物が戻り、森の生態系が戻りつつあります。また、生命力あふれる豊かな森は人の心も豊かにすることを信じ、身体に障害のある子どもたちや心に傷を負った児童養護施設の子どもたち、被災地の子どもたちを森に招く「5センスプロジェクト」を実践。これがきっかけとなり、津波による被害を受けた小学校の再建に当たり、公立初の“森の学校”にすべく、東松島の森の再生と子どもたちの心のケアの活動を続けています。森林保全活動を通じて、地域の自然共生型社会形成に寄与することを目的に活動を展開しています。

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