控訴審判決の意義
滝口〔弁〕 控訴審判決はいわゆる「組織的過失」が認められた点で第一審とは異なるとのことでしたが、控訴審判決にはどのような意義がありますか。
渡邉〔弁〕 津波のような自然災害に関し、いわゆる組織的過失を認めた事例はほとんどありませんでしたし、学説でも否定的にとらえられていました。
滝口〔弁〕 これまでの裁判例について教えてください。
渡邉〔弁〕 学校の課外活動中(サッカー大会)に発生した落雷事故について引率教員に過失を認めた事例はありました。これも現場の教員の過失を問題とした、いわゆる「現場過失」が認められたものでした。
滝口〔弁〕 控訴審判決はどのような点が画期的なのでしょうか。
渡邉〔弁〕 今回は、学校や教育委員会として、平時から安全を確保する対応をとっておく義務があることを正面から認めている点で、画期的であったといえます。
控訴審判決の行政への影響
上村〔弁〕 当時、大川小学校の付近に関し、ハザードマップは作成されていなかったのでしょうか。
渡邉〔弁〕 当時、石巻市は、想定される地震に基づいて津波が発生した場合の予想浸水区域等を記載したハザードマップを作成していました。大川小学校の敷地までは津波が到達しないこと、大川小学校が避難場所として使用可能であること等が記載されていました。
上村〔弁〕 そのハザードマップはどうして機能しなかったのですか。
渡邉〔弁〕 控訴審では、教師は児童生徒の安全を確保するために、ハザードマップ等の情報を単に鵜呑(うの)みにするのではなく、批判的に検討することが要請される場合もあるとして、これらの事情を学校の予見可能性を否定する事情として考慮すべきではないとしました。
滝口〔弁〕 事前にハザードマップも作成してあり、行政としても防災に関して何もしていなかったわけではないと思います。それだけでは不十分ということでしょうか。
渡邉〔弁〕 児童の生命や身体の安全のために、学校は不断の努力が必要であるということを示したものだと思います。
滝口〔弁〕 ハザードマップは他の自治体でも作成されていると思いますが、改めてハザードマップを検証しようという取組みはあるのでしょうか。
本目さよ〔議〕 ハザードマップは、東京都が公表する事実をもとに市区町村で策定していますが、その内容が正しいかどうかという検証については、そもそもどのような方法で検証するのか、という議論から始まると思います。
滝口〔弁〕 第一審では、現場の先生に過失を認めていますが、今回のような想定を超える大地震に伴う津波に巻き込まれたことについて、現場の教職員に過失があったと思いますか。
江口〔議〕 今回の事情を見ると、緊急時にもかかわらず避難場所について長時間協議をしているのが見て取れます。危機時はトップダウンで、誰か一人の指揮でパッと動かなければいけないし、事前にきちんと動けるよう、訓練しておかないといけないと思います。 本目〔議〕 控訴審判決の内容を聞くと、学校側にとっては厳しい判決だなと感じます。今の教員が、防災に関して十分なアンテナを立てて情報を収集しているかどうかというと、そこまでは感じられていないと思います。
上村〔弁〕 今回の判決を受けて、今後、大川小学校を題材として、学校現場の教員に対し、防災に関する教育の場を設けることが必要なのではないかと思いました。
中村〔議〕 今回の判決では、どうやっていたら児童たちは助かった可能性があるといっているのでしょうか。
渡邉〔弁〕 今回の判決では、今回避難に向かった三角地帯よりもさらに先にある「バットの森」(大川小学校から約700メートル)を避難場所と事前に定め、避難経路及び避難方法について三角地帯を経由して徒歩で向かうと記載していれば、今回津波が到達する前に避難を行うことができ、被災を回避できたはずであるとしました。
江口〔議〕 今後は学校が自ら防災意識を高め、ハザードマップを鵜呑みにせず、事前に具体的な避難場所や避難方法、避難経路を決めておくことが必要になってくるのだと思います。