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2021.12.16 政策研究

【緊急寄稿】市区町村子ども家庭総合支援拠点(児童福祉法10条の2)消滅の危機―国の施策変更による自治体現場の混乱と信頼の原則違反

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日本大学危機管理学部准教授 鈴木秀洋

第1 問題提起

 現在、厚労省社会保障審議会(児童部会社会的養育専門委員会)第39回(2021年12月7日)「報告書(案)」が公表されている1
 この報告書(案) 「Ⅲ.支援を確実に届ける体制の構築」「(2)市区町村等におけるマネジメントの強化」の項目(8頁)に、「現行の子ども家庭総合支援拠点と子育て世代包括支援センターを再編し、全ての妊産婦、全ての子育て世代、全ての子どもの一体的相談を行う機能を有する機関(子ども包括支援センター(仮称))の設置に努めることとする。」との記述がなされている。
 そして、「子ども包括支援センター(仮称)」設置が2021年12月7日に、突如赤字で書き込まれた。
 この書き込みが意味することは何か。
 通常、この報告書(案)を基にした法改正が提起されるということになる。
 それにより、子どもの権利主体性を謳った2016(平成28)年の児童福祉法等改正の目玉として新設導入された市区町村子ども家庭総合支援拠点(児童福祉法10条の2)設置の根拠がなくなり、法律から支援「拠点」の文言が消えるのである。
 法律に基づくガイドライン、すなわち従前の「市町村児童家庭相談援助指針」を全面廃止し、新たにこの支援拠点を中核に据えて制定した「市町村子ども家庭支援指針」(ガイドライン)(平成29年3月31日雇児発0331第47)も支援拠点を章立ての柱としており、抜本的な改正が必要となろう。
 国が2022(令和3)年度末までに全市区町村で設置を目指すと宣言し、都道府県も全面的なバックアップにより、研修・相談会を行い、2017(平成29)年から現在進行形で各自治体が必死に組織体制を整備し、予算を組み、ソフト・ハードの体制構築を図ってきている支援拠点制度の梯子を国2が自らひっそり、外すことになる。
 なお、再編ということからすれば、先行して2020年度末までに設置が求められてきた母子保健法22条を根拠とする母子健康包括支援センター(子育て世代包括支援センター)も改正されることになろうが、その点の資料は見つけることができなかった。
 現行法に根拠を設けた支援「拠点」という文言を消滅させることが、いかに自治体現場に大きな混乱を生じさせることになるのかについて以下論じる。

第2 12月7日付報告書(案)

 議論の正確性を担保するために報告書(案)の該当箇所を引用して提示しておく。

「(2)市区町村等におけるマネジメントの強化」
「○ 市区町村において、現行の子ども家庭総合支援拠点と子育て世代包括支援センターを再編し、全ての妊産婦、全ての子育て世帯、全ての子どもの一体的相談を行う機能を有する機関(子ども包括支援センター(仮称))の設置に努めることとする。この相談機関は、一般家庭から支援の必要性が低い世帯、支援の必要性が高い世帯にシームレスに対応する。なお、この相談機関については、市区町村の状況を踏まえつつ、段階的に機能の充実と整備を図るものとする。
 
 ○ 子ども包括支援センター(仮称)においては、妊娠届けからの妊産婦支援に始まり、子育て世帯や子どもからの相談を受けて支援をつなぐためのマネジメントを行う。また、地域資源の把握や創生の役割も担っていく。
 
 ○ 子ども包括支援センター(仮称)又は市区町村は、支援をつなぐためのマネジメントにおいて具体的な支援提供計画を示す「サポートプラン」(仮称)の作成を行うものとし、特に支援の必要性の高い世帯を計画的・効果的に支援するためのものとして活用する。また、このプラン作成において、保護者や子どもが意思決定に参画するなど寄り添ったものとなるようなものとすることが重要である。
 
 ○  サポートプランを作成するような要保護児童等の支援に際しては、要保護児童対策地域協議会(以下「要対協」)を活用するなどしてケース会議を行う。この時、世帯の課題や支援の必要性のアセスメントについて、サポートプランの様式を含め、ひな形を国が示す必要がある。また、市区町村は、このケース会議において、事案によっては児童相談所とともに、何を課題とし、いつまでにどこまでの対応を取り、どういう状況になれば児童相談所が主として対応する必要があるのかを確認することが重要である。
 
 ○  この相談機関については、現行の相談機関の再編の中で機能が低下することがないよう、安易な人員削減をすることなく、相談機関において求められる機能を果たすために必要な人員配置とその人材確保に努める。一方で、実際の配置において限られた人材の有効的な活用を進めるための人員配置の弾力的運用を可能としていく。」
 

第3 報告書(案)(子ども包括支援センター(仮称))の目指すべきものの確認

 平成28年改正に伴い、子どもの権利主体性を保障し、そのための具体的制度設計として、児童相談所の点支援から市区町村の切れ目ない面支援を充実させるために、支援拠点設置が謳われ、その支援拠点が、要対協を活用した司令塔としての役割を果すことが法的根拠をもって示されたのである。
 そして、その後の支援拠点設置については、筆者が研究代表となり、厚労省子ども・子育て支援推進調査研究事業平成29年「市区町村子ども家庭総合支援拠点の設置促進に向けた支援手法に関する調査研究」、平成30年「市区町村等が行う児童虐待防止対策の先駆的取組みに関する調査研究」、令和元年「子ども家庭総合支援拠点設置促進に関する調査研究」において、様々な自治体設置事例紹介を行っており、着実に整備が進んできている(年度ごとの設置推進状況については脚注3) 。
 平成30年には、支援拠点の具体的姿・要件を示した「市区町村子ども家庭総合支援拠点設置に向けてスタートアップマニュアル」4 を策定し、全市区町村に配布している(この内容については厚労省と協議を行い、国としての見解を提示したものである。)
この支援拠点制度の具体化基準として、全市区町村に示している支援拠点の要件と上記報告書(案)で示されている子ども包括支援センター(仮称)との間には、果たしてどんな違いがあるのであろうか。
 再編して、支援拠点を廃止するのであれば、平成28年に理念を示し、令和4年までのタイム&ゴールを示し、説明会・相談会を繰り返し、これだけの時間と労力を割いて自治体にこれまで支援拠点設置促進を強く進めてきた国(厚労省側・部会含む。)にこそ、なぜこの制度を廃止するのか、新しい制度はどの点で優位性があるのかについて、明確な立証責任があろう。
 上記報告書(案)を引用し、検討してみる。

1 すべての相談に応じる
 この報告書(案)は、「全ての妊産婦、全ての子育て世帯、全ての子どもの一体的相談を行う機能」を担うのが新しい子ども包括支援センター(仮称)であり、「一般家庭から支援の必要性が低い世帯、支援の必要性が高い世帯にシームレスに対応する」必要があると記述する。
 しかし、この点はまさに支援拠点が設置されたときに目指された姿そのものである。具体的には、(ア)ミニ児童相談所としての役割を果すのか、(イ)ポピュレーションアプローチとして子どもと家庭のすべての相談に応じるような相談機関を作るのかの議論がされた。そして、支援拠点は後者であることが確認されたのである5。上記報告書(案)で示された内容は、支援拠点の中核の機能であり、支援拠点の要件そのものなのである。

2 段階的整備を行う
 報告書(案)は、「この相談機関については、市区町村の状況を踏まえつつ、段階的に機能の充実と整備を図るものとする。」と記述する。
 この記述は、何を意味するのか。どの市区町村にあっても子どもの命を守ることに優劣があってはならない。目黒区児童虐待死事件、野田市児童虐待死事件、札幌市児童虐待死事件と続く中で、児童虐待死事件対応の制度設計として、国も全ての市区町村での支援拠点設置を宣言し6、設置を急いだ経緯がある。2022(令和4)年度末という時間設定を行いったのである。その設置促進を図り、その期限到来を待たずに、先行する子育て世代包括支援センター及び市区町村子ども家庭総合支援拠点との相違点も明らかにせずに、両制度設計の旗を下げ、次に掲げる新しい名称の相談機関設置を掲げているのであるが、この新しい旗は、段階的に行うとする。急げという旗と段階的にとの旗を同時期に掲げようとする国の方針は自治体にダブルバインドを引き起こしている。

3 マネジメントと地域資源の把握・創生について
 報告書(案)は、「「子ども包括支援センター(仮称)」においては、妊娠届けからの妊産婦支援に始まり、子育て世帯や子どもからの相談を受けて支援をつなぐためのマネジメントを行う。また、地域資源の把握や創生の役割も担っていく。」と記述する。
しかし、この記述は、実は、市町村子ども家庭総合支援拠点という言葉を、そのまま子ども包括支援センター(仮称)に変えただけである。
 支援拠点の要件として、①地域のすべてのこどもや家庭の相談に対応するための子ども支援の専門性をもった機関・体制・状態を作ること、②地域の資源を有機的につないだ(ソーシャルワーク機能)を果すために司令塔として要保護児童対策地域協議会を活用すること(新しい地域資源との繋がり・支援を含む。)、③原則として18歳までのすべての子ども(その家庭・妊産婦含む。)を切れ目なく継続的に支援して行くこと、④個人でなくチームで支援する体制を整備すること(そのための都道府県・国のバックアップ含む)、⑤児童福祉法10条、10条の2、更にそれを具体化した指針・ガイドライン業務を行うこと、⑥児童相談所との対等関係性、所掌事務・権限・アプローチの相違の認識(大は小を兼ねるとの説明との決別・児童相談所とは異なる面での事前予防・継続的多面・多角的支援)を従前から挙げてきている7
 この支援拠点の要件整備促進のために、自治体特に筆者が認知している都道府県は、何度も独自の説明会や相談会を行ってきている(静岡県、三重県、広島県の取組は上記研究報告書等でもあげられているように顕著である。)。現在も、児童福祉法の趣旨を重視して真摯に取り組む都道府県は、現在研修受託している西日本あかしとは別に設置促進の在り方を独自にかつ継続的に行ってきている8 。こうした真摯かつ先進的な自治体の取組を無視して、むしろ放置していた自治体を助けるような今回の報告書(案)提出は非常に問題である。
 内実の変わらない名称変更は、言葉遊びと言われても仕方ない。法及び国への信頼を失わせる。

4 具体的な支援提供計画(「サポートプラン」(仮称))
 報告書(案)は、「支援をつなぐためのマネジメントにおいて具体的な支援提供計画を示す「サポートプラン」(仮称)の作成を行うものとし、特に支援の必要性の高い世帯を計画的・効果的に支援するためのものとして活用する。」と記述する。
しかし、この支援提供計画も新しいものではなく、従前から支援拠点整備の要件とされているものである。そもそも、具体的な支援計画を全く持たずに支援に関わっている自治体(相談担当)がどれほど存在するのか。支援計画書という様式・形式はなくとも、何かしら相談担当チーム内で、短期・中長期の支援計画を立てているのが実態である。そして、支援計画をたてることは、支援拠点の要件としてガイドライン及びマニュアルに明記している9
 この点、従前から、支援計画書の様式については、支援拠点設置時に様式を定めるべきとの議論があったが、そうした様式を定めてしまうと、自治体の相談業務を事務的側面で非常に圧迫することにもなり、自治体の判断に委ねようということで様式をあえて定めないことになった経緯がある10。しかし、支援計画を立てることは、支援拠点業務遂行のど真ん中の業務であり、支援計画のない支援はありえないのであって、従前どおり支援計画を立てることを徹底することを訴えるのがあるべき姿であり、新しい支援提供計画(サポートプラン仮称)という新たな名称を掲げることは、従前の支援計画と何が違うのか、またその点でも混乱を生じさせる。名前の付け替えに過ぎないのである。ただし、従前の支援計画書と同じものであり、それを法律上格上げするのであるという説明であれば理解はできる。しかしその場合でも従前掲げていた支援拠点における支援計画との継続性なり関係性を明記して掲げることは最低限行うべき事柄である。

5 人員配置に関して
 報告書(案)は、「現行の相談機関の再編の中で機能が低下することがないよう、安易な人員削減をすることなく、相談機関において求められる機能を果たすために必要な人員配置とその人材確保に努める。一方で、実際の配置において限られた人材の有効的な活用を進めるための人員配置の弾力的運用を可能としていく。」と記述する。
 この記述されている内容は意味不明である。従前子育て世代包括支援センター(母子健康包括支援センター)と市区町村子ども家庭総合支援拠点の双方の充実が謳われ、双方を充実の上で、更に両者の一体的制度設計・運用を図っていくことで、子どもの命を守っていこうとして人員配置増の制度設計を考えてきたのである。機能の充実を目指していた支援拠点制度、その「拠点」制度促進を途中で再編して目指す新しい名称の相談機関が、何ゆえ「再編の中で機能低下をしないよう」という心配が生じることになるのか。そのような心配を生じさせる制度設計を行おうとするのか。国側で拠点設置を進める条件整備を緩めて数の底上げを図る意図があるのではないか。後半の「有効的な活用」「弾力的運用」というフレーズは、過去、保育所の定員外の児童も入所させてもよいような運用を認めるときに使用するフレーズである。子ども視点での「子ども包括支援センター(仮称)」設置でないことがこの用語の使用で明らかとなる。
 自治体が拠点に変わる新たな相談機関の設置を求められたとしても、自治体の人員(両者を統合するのであれば権限の点でも力量の点でも相当の者がそのポストにつかざるを得ない)が急に増えるわけでない以上、行政視点での兼務等に頼らざるを得ないのではないか。
 そのような現実が生じるとすると、今現在でさえ、自治体現場からはこれ以上兼務制度(兼務業務)を増やさないでほしいとの悲鳴に近い声しか私のところには届いていないにもかかわらず、そうした施策推進を図ることになり、これは、子ども視点ではなく、行政都合の視点でしかない。こうした制度の推進は、今以上に現場に負担を課し、児童虐待死対応を困難にする危険性をはらんでいるのである。

6 再編の必要性
 こうして報告書(案)の記述をみてみると、現行の支援拠点の機能を超えるものは一つもなく、イメージ的な一体化の推進であり、中身のない言葉遊びでしかないことは明らかである。子どもの命(心と体)を継続的に守っていく、そのために保護者も支えるという観点から、そして野田市虐待死、札幌市虐待死事件の検証に関わり、地域づくりの観点からの支援拠点づくりを具体化してきた立場からして、非常に憤りを覚える。
 自治体は、今回のコロナ対策で明らかなように、国の唐突な施策に振り回されている。住民とのインターフェイスにおいてニーズをキャッチし、苦情を受け、常に最前線で向き合い続けているのは基礎自治体である。
 今必要なのは、現行の子ども家庭総合支援拠点と子育て世代包括支援センターの再編ではなく、実質化であり具体化である。そして、それは既に指針・ガイドライン及びマニュアルにおいて示しているのである。
不足しているのは、国の全面的なバックアップと働きかけである11

第4 報告書(案)を実効化していくことの問題点(問題点の項目提示)

 上記で、報告書(案)記述を詳しく検討したが、更にこの新たなセンター設置が目指されることでの問題点について、以下項目立てを行う。

1 国と地方との関係(現場に負担を課していることについて)の意識のなさ
 この報告書(案)がどれだけ自治体現場に負担を課すことになるのか、国は考えたことがあるのであろうか。自治体現場は怠けているのではない。必死に日々住民と向き合い、様々な住民の悩みニーズに限られた人員で対応してきているのである。それに加え、国や都道府県から示された通知等に対応するために自らの組織を改編してきている。名称が変わる制度を示されれば、その内容を理解し、自らの組織の中で、自ら組織をどう改編すべきなのかを考えるのである。ここ最近の自治体は、コロナ下での給付金やワクチン接種や選挙にいたるまであらゆる事務を流動的体制で行ってきた。満身創痍である。この国の政策・方針が住民の権利・利益の向上に資すると考えるからこそ、そうした厳しい新たな国からの事務対応も行えるのである。それが、中身のない看板の架け替えであるのであれば、それは自治体に対する背信行為である(看板の架け替えだけでも、財政的、人的労力、名称変更に伴う事務経費等は多大なものなのである。)。

2 実務現場が知られていない
 上記と関連するが、基礎自治体の果たしている役割について、いかに審議委員含めて国が理解していないかが表れている報告書(案)である。新たな名称の相談機関の設置という言葉選びがされても、異が唱えられず注目されていない。しかし、こうした報告書(案)が法律改正に結び付き、自治体は、新たな名称の相談機関設置事務に追われ、従前の体制を改編しなければならないのである。法律に明記されたからこそ、その精神を表すがために、「子ども家庭総合支援拠点支援」との名称を、自治体子ども家庭部局の名称に掲げ子どもの命を守ろうとしている自治体があることを国は知っているのであろうか。こうした先進的かつ法律に忠実であろうとする自治体の努力を十分組んだ政策提示を行うべきである。

3 現在進行形の支援拠点設置自治体への背信
 今年度も、筆者の下には、支援拠点設置のための相談やアドバイスを求めてくる自治体及び県は相当数ある。やっと浸透してきて、「これから設置数が増えそうです」と語る県担当者も複数いる。
 こうして真摯に支援拠点づくりに奔走してきた都道府県及び市区町村の担当者たちに、なんと説明するのか。拠点を廃止するのであれば、その方針をもっているのであれば、その旨を直ちに都道府県、市区町村に通知・連絡すべきではないのか。平成28年改正の趣旨に基づき、子どもの権利主体性を地域で支える制度としての支援拠点制度、その文言修正を考えているのであればその旨は、広く自治体、国民に問うべきである。

4 法律による行政の原理及び信頼の原則違反
 今回の報告書(案)を読み込むと(加えて行政担当者の説明を聞くと)、筆者は、根本的に法律による行政の原理を軽視しているのではないかと考えざるを得ない。平成28年改正で児童福祉法10条の2に「拠点」の文言が加えられた意味は大きい。指針・ガイドラインのレベルではなく、法律に明記されたからこそ、自治体は、法律に基づいて腰を据えて制度構築を図ってきたのである。
 これまでも、拠点や包括という言葉は様々なガイドライン等で使用されてきた。紛らわしいとの苦情は住民や自治体関係者等からも多く挙げられてきた。また、先行して市区町村子ども家庭総合支援拠点を設置に取り組もうする自治体からは、後に厚労省が方針転換して拠点制度がなくなることはないかとの問いもなされてきたところである。
 こうした声に対して、厚労省の回答は「法律で明記しましたから」との回答であった。
 法律で一旦明記した法制度については、その信頼が生まれる。その法制度設計に基づく、政策・施策を遂行していくことに対する国民・住民の信頼が生じる。そしてその信頼は事実上のものではなく、法的期待として保護されるべきものであるというのが、行政法の基本的一般原則なのである。なんらその制度設計に不備が指摘されているものではない制度を、内実が変わらないにもかかわらず、名前だけ変えるような政策変更が自由になされてよいはずがない。住民自治を体現する基礎自治体に対する信頼原則違反、禁反言の法理に反する施策遂行と言わざるを得ない。

5 この報告書(案)の中身のなさ
 上記第3記述のとおり、子ども包括支援センター(仮称)は、子ども及び家庭に対する新たな支えを提供する制度設計とはなり得ていない。従前から提示している支援拠点制度の機能を超えるものとはなっておらず、むしろ支援拠点制度(児童福祉法1条と一体のものとして、子ども視点で制度を具体化し基準設定してきた支援拠点制度の具体的枠組み)を理解していないことが露わとなっている。
 一体化が求められるのは、母子保健と子ども福祉のみではない。従前福祉と教育委員会が一体化していた自治体はどう対応すべきなのだろうか(まさか母子保健も子ども・福祉も教育もみんな一つの窓口で統一すればよいとの乱暴な現実無視の提言をするつもりではなかろう。)。部分最適ではなく、全体最適を示す必要があるのであるが、その点の視点はこの報告書(案)の該当箇所には表れていない。
 なお、一体化の要件については、これまでも前掲鈴木必携24頁で示しているほか、平成28年改正後の国とともに全国を行脚した際も各自治体に提示してきている。それは、①ハード面(同一建物・同一窓口)、②ソフト面(指揮命令系統の統一)、③法制面:内部要綱・要領等で一体化について明記すること、④情報面(情報共有の定式化)の4つである。この一体化の基準具現化の提示を法制面で格上げするのであればわかるが、こうした具現化基準にも全く触れられず、新しい形を示している点で非常に政策・施策の示し方として問題がある。

6 まとめ
 以上、あまりに哲学がなく、平成28年の立法改正経緯及び説明も踏まえず、近年の児童虐待死事件における問題点がどこにあったのかの検証も踏まえられておらず(形式的な一体化や連携という抽象的なフレーズが並び改善策として掲げられることへの警鐘である。)、現場への見下し感のあるこの報告書(案)はどういう狙いで、どういう考え方の下に作られたのであろうか。
 筆者は支援拠点の文言を消すような改正には反対である。
 もし変えるなら、支援拠点制度の何がどう問題なのか。継続性を否定する側に立証責任があるはずである。
    

第5 想定される反論と再反論

 以下上記検討に加えて、重要な視点であるので行政側反論を想定して再反論を項目的に掲げておく。

1 審議会の意見であるとの行政側反論に対する再反論
 この提案は国側が行ってきているのは本論稿注2に詳述したとおりであり、委員が積極的にこの案を提案したこと伺うことができず、形式的には審議会であるとしても、実質的にはこれまで行ってきた行政説明の書き込みと評価したため本論稿では、国側の見解として検討している。そうはいっても審議会委員が了解したということであれば、その点の過程は重視せざるを得ないが、筆者の見解はこの報告書(案)の問題点をしてきしていることであるので、筆者論理に影響を与えることはない。

2 一体化が不可欠・更に進めるものであるとの行政側反論に対する再反論
 この一体化については、既に従前から拠点の制度設計の本質として示してきている。厚労省がこれまで示してきた概要図、指針・ガイドライン、マニュアルでも一体化は示している。なぜに法律上の拠点を廃止しなくてはならないのか立法事実がないことで法文を改正すべきではない。

3 ワンストップとなるとの行政側反論に対する再反論
(1)  ワンストップ幻想からの脱却と住民本位でのワンストップ的動き方の具体
 ワンストップとは看板を一つにすることではない。ワンストップの掛け声ばかりの幻想は捨てるべきである。実際に子どもや保護者が相談に来た時に、自治体の窓口は保健、福祉(児童、生活保護、手当等)、教育様々な部局が現に存在している。保健と児童福祉のみ窓口を合わせればワンストップになるものではない。これまでも自治体窓口は、保健と福祉の統合、又は福祉と教育の統合等を組織制度的に繰り返し、最適な窓口再編を目指してきているのである。全部一つになれば(分化をしなければ)住民サービスが向上するということはあり得ない。その点の反論はなかろう。窓口に相談者が来た時に、どのようにして子ども・保護者を動かさずに、行政側が連携・連動して動いて、その住民の相談に応えられるか、一体的対応ができるかが重要なのである。そのワンストップ的な動き方の要件を詰めることが求められている。それは、子育て世代包括支援センターと市区町村子ども家庭総合支援拠点を法律上廃止し、一本化した名称を付した新しいセンターの設置を明記すればワンストップになるというものではないのである。
(2)  機能の上に機能の看板を乗せる混乱
 子ども家庭総合支援拠点と子育て世代包括支援センターはともに機能である。機能の上に機能を乗せるということは理解をわかり辛くするだけである。可視化、具体化が困難となり、抽象的な概念論争を生むことになる。
 今必要なのは、どのような機能を果たすことがワンストップに近づくかの具体化が重要なのである。そして、まさにその具体化については支援拠点制度設計で行ってきたことなのである。指針・ガイドライン、マニュアルで行ってきて制度の可視化・具体化が積みあがられ、定着に向かっていた最中なのである。この完成を目指して自治体が進んでいる今、新しい看板を掲げ、新しい道を提示することは、現場を混乱させるだけである。
 

第6 具体的提言

 筆者は、反論するなら具体案を提示せよとの総論的反論に応えたいと思う。
 法制執務を担当し、かつ、法律の専門家として以下具体案を提示する。

1 児童福祉法10条の2に関して
(1)詳細な規定を加える
 1項を加える
 拠点整備においては、①物理面、②情報面、③組織面、④法令面での一体性を担保することとする(既にスタートアップマニュアルで示している一体化の要件である)。
(2)解釈規定を設ける
 上記①~④までを示して、上記①~④を勘案した拠点整備を公示することとする(行政手続法の精神・公開の原則)。

2 母子保健法の追記
 母子保健法22条にも1項を加え、児童福祉法10条の2に定める拠点と一体的・連携的整備・維持を行うものとするとの規定を設ける。

3 まとめ
 上記のように両法律に一体化・連携・連動の規定を相互に規定することで、実質的かつ実効的な母子保健と児童福祉の一体化が法的に担保されるのである。名称を変えるのではなく、従前の制度の相互連関を実効化する土台を作ることで、自治体現場の法律による行政の原理に基づく事務遂行が進むのである。
 

第7 展望

 筆者は、児童福祉法に関しては改正すべき点は多々あると考えている。継ぎはぎではなく抜本的に改正すべきであるとの見解にも賛同する。
 しかし、そこでいう抜本的解決とは、例えば、警察と児童相談所との役割分担、児童相談所と女性相談所との連動・一体化、児童相談所と市区町村との役割分担、刑事と福祉・保健との役割分担と連動の点の子ども視点からの整理である。
 今回の報告書(案)には、そうした子ども視点からの抜本的な視点が見られないばかりか、具体化が必要な本論稿指摘の箇所で、抽象論や形式的整理しか行われていない。
拠点が消えて新しい看板ができたら子どもの笑顔はどう増えるのか。今回の看板の付け替えのマイナス点はいくらでもあげられるが利点は見えない。政治からの一体化要望の声(子ども家庭庁の設置と連動して唱えられるが各論が不明確なものが多い)に対して、形式的に化粧をしたに過ぎないのではないか。自治体現場にいた者としてこの方針転換に反対する。
 
※本論稿発表により、今後報告書(案)の修正等が行われることがあろう。しかし、一定時に国(審議会)が公開した報告書(案)に対する見解・論稿として(また筆者は現時点では支援拠点という文言は法律上廃止されると聞いている。)、今後の法改正時にも十分有効であるし、参照してもらいたいため発表するものである。


(1) 厚労省社会保障審議会(児童部会社会的養育専門委員会)第39回(2021年12月7日)「報告書(案)」https://www.mhlw.go.jp/content/11920000/000863165.pdf
(2) あくまで審議会における報告書であるということからすれば、形式上、国との表示はおかしいとの指摘を受けよう。ただし、審議会委員が積極的にこうした名称の設置を提案した形跡はなく、筆者による複数の委員への聞き取りによれば、事務局である国側の提言及び説明に特に委員が異を唱えなかったというのが実態であるようであること、及びこうした説明は国の担当者が日本子ども虐待防止学会第27回学術集会かながわ大会2021年12月4日の行政説明(10時30分~11時30分の枠)で行っていること以上から、本論稿では、国・審議会一体のものとして、国との表記で統一して執筆している。
(3) 鈴木秀洋「新しい社会的養育ビジョンにおける市区町村子ども家庭支援体制構築の検証と展望」『こどもの虐待とネグレクト』23巻第1号(2021年4月)59‐69頁。
(4)更にその後の令和2年度までの国の最新の方針を組み込んだ改訂版としての鈴木秀洋『必携市区町村子ども家庭総合支援拠点スタートアップマニュアル』(明石書店)は、厚労省の支援拠点設置アドバイザーの協力も得て、全国の設置に取り組む自治体のテキストとして厚労省から支援拠点設置促進の研修等を受託する「西日本子ども研修センターあかし」でも使用している。現在進行形の研修であり、設置のための相談会を開催している。
(5)鈴木秀洋『必携市区町村子ども家庭総合支援拠点スタートアップマニュアル』(明石書店)(以下『鈴木必携』と略す。)24頁以下参照。
(6)前掲スタートアップマニュアル1頁参照。なお、地方分権の建前からすれば、国が強制できず自治体ごとという説明がなされるが、人の生命身体に係る制度設計等において一律に国が指示を出せないと考えるのは地方分権概念の誤導であろう。
(7)前掲鈴木必携12頁以下参照。
(8)筆者もこれまで、高知県、宮崎県、長野県、栃木県、愛知県、北海道、山梨県、鳥取県、兵庫県、茨城県等県主催の説明会等で、支援拠点の一体的設置促進等説明を行ってきている。
(9) 前掲鈴木必携69頁以下。
(10) 筆者は様式も定めるべきとの主張であったこと、その後自治体から様式のひな型的なものの提示を求められることが多く、必携69頁ではマニュアルでは参考項目をあげている。
(11)支援拠点設置促進に関しては、平成29年度~令和元年度までは鈴木秀洋研究室で担ってきた。その後西日本あかし研修センターの研修は1年ほど停滞し、かつ、国の支援拠点設置調査も一年行われない状態があった。国から各自治体への調査事項・調査項目も現在支援拠点設置を前提にしており、この法律改正後はこうした調査事項・調査項目も全て変更する必要があり事務作業量及び労力は膨大である。

鈴木秀洋(日本大学危機管理学部准教授)

この記事の著者

鈴木秀洋(日本大学危機管理学部准教授)

元文京区子ども家庭支援センター所長、男女協働課長、危機管理課長、総務課課長補佐、特別区法務部等歴任。都道府県、市区町村での審議会委員多数。法務博士(専門職)。保育士。著書に『自治体職員のための行政救済実務ハンドブック 改訂版』(第一法規、2021年)、『行政法の羅針盤』(成文堂、2020年)、『子を、親を、児童虐待から救う』(公職研、2019年)、『虐待・ⅮⅤ・性差別・災害等から市民を守る社会的弱者にしない自治体法務』(第一法規、2021年)等。

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