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2021.12.16 政策研究

【緊急寄稿】市区町村子ども家庭総合支援拠点(児童福祉法10条の2)消滅の危機―国の施策変更による自治体現場の混乱と信頼の原則違反

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第4 報告書(案)を実効化していくことの問題点(問題点の項目提示)

 上記で、報告書(案)記述を詳しく検討したが、更にこの新たなセンター設置が目指されることでの問題点について、以下項目立てを行う。

1 国と地方との関係(現場に負担を課していることについて)の意識のなさ
 この報告書(案)がどれだけ自治体現場に負担を課すことになるのか、国は考えたことがあるのであろうか。自治体現場は怠けているのではない。必死に日々住民と向き合い、様々な住民の悩みニーズに限られた人員で対応してきているのである。それに加え、国や都道府県から示された通知等に対応するために自らの組織を改編してきている。名称が変わる制度を示されれば、その内容を理解し、自らの組織の中で、自ら組織をどう改編すべきなのかを考えるのである。ここ最近の自治体は、コロナ下での給付金やワクチン接種や選挙にいたるまであらゆる事務を流動的体制で行ってきた。満身創痍である。この国の政策・方針が住民の権利・利益の向上に資すると考えるからこそ、そうした厳しい新たな国からの事務対応も行えるのである。それが、中身のない看板の架け替えであるのであれば、それは自治体に対する背信行為である(看板の架け替えだけでも、財政的、人的労力、名称変更に伴う事務経費等は多大なものなのである。)。

2 実務現場が知られていない
 上記と関連するが、基礎自治体の果たしている役割について、いかに審議委員含めて国が理解していないかが表れている報告書(案)である。新たな名称の相談機関の設置という言葉選びがされても、異が唱えられず注目されていない。しかし、こうした報告書(案)が法律改正に結び付き、自治体は、新たな名称の相談機関設置事務に追われ、従前の体制を改編しなければならないのである。法律に明記されたからこそ、その精神を表すがために、「子ども家庭総合支援拠点支援」との名称を、自治体子ども家庭部局の名称に掲げ子どもの命を守ろうとしている自治体があることを国は知っているのであろうか。こうした先進的かつ法律に忠実であろうとする自治体の努力を十分組んだ政策提示を行うべきである。

3 現在進行形の支援拠点設置自治体への背信
 今年度も、筆者の下には、支援拠点設置のための相談やアドバイスを求めてくる自治体及び県は相当数ある。やっと浸透してきて、「これから設置数が増えそうです」と語る県担当者も複数いる。
 こうして真摯に支援拠点づくりに奔走してきた都道府県及び市区町村の担当者たちに、なんと説明するのか。拠点を廃止するのであれば、その方針をもっているのであれば、その旨を直ちに都道府県、市区町村に通知・連絡すべきではないのか。平成28年改正の趣旨に基づき、子どもの権利主体性を地域で支える制度としての支援拠点制度、その文言修正を考えているのであればその旨は、広く自治体、国民に問うべきである。

4 法律による行政の原理及び信頼の原則違反
 今回の報告書(案)を読み込むと(加えて行政担当者の説明を聞くと)、筆者は、根本的に法律による行政の原理を軽視しているのではないかと考えざるを得ない。平成28年改正で児童福祉法10条の2に「拠点」の文言が加えられた意味は大きい。指針・ガイドラインのレベルではなく、法律に明記されたからこそ、自治体は、法律に基づいて腰を据えて制度構築を図ってきたのである。
 これまでも、拠点や包括という言葉は様々なガイドライン等で使用されてきた。紛らわしいとの苦情は住民や自治体関係者等からも多く挙げられてきた。また、先行して市区町村子ども家庭総合支援拠点を設置に取り組もうする自治体からは、後に厚労省が方針転換して拠点制度がなくなることはないかとの問いもなされてきたところである。
 こうした声に対して、厚労省の回答は「法律で明記しましたから」との回答であった。
 法律で一旦明記した法制度については、その信頼が生まれる。その法制度設計に基づく、政策・施策を遂行していくことに対する国民・住民の信頼が生じる。そしてその信頼は事実上のものではなく、法的期待として保護されるべきものであるというのが、行政法の基本的一般原則なのである。なんらその制度設計に不備が指摘されているものではない制度を、内実が変わらないにもかかわらず、名前だけ変えるような政策変更が自由になされてよいはずがない。住民自治を体現する基礎自治体に対する信頼原則違反、禁反言の法理に反する施策遂行と言わざるを得ない。

5 この報告書(案)の中身のなさ
 上記第3記述のとおり、子ども包括支援センター(仮称)は、子ども及び家庭に対する新たな支えを提供する制度設計とはなり得ていない。従前から提示している支援拠点制度の機能を超えるものとはなっておらず、むしろ支援拠点制度(児童福祉法1条と一体のものとして、子ども視点で制度を具体化し基準設定してきた支援拠点制度の具体的枠組み)を理解していないことが露わとなっている。
 一体化が求められるのは、母子保健と子ども福祉のみではない。従前福祉と教育委員会が一体化していた自治体はどう対応すべきなのだろうか(まさか母子保健も子ども・福祉も教育もみんな一つの窓口で統一すればよいとの乱暴な現実無視の提言をするつもりではなかろう。)。部分最適ではなく、全体最適を示す必要があるのであるが、その点の視点はこの報告書(案)の該当箇所には表れていない。
 なお、一体化の要件については、これまでも前掲鈴木必携24頁で示しているほか、平成28年改正後の国とともに全国を行脚した際も各自治体に提示してきている。それは、①ハード面(同一建物・同一窓口)、②ソフト面(指揮命令系統の統一)、③法制面:内部要綱・要領等で一体化について明記すること、④情報面(情報共有の定式化)の4つである。この一体化の基準具現化の提示を法制面で格上げするのであればわかるが、こうした具現化基準にも全く触れられず、新しい形を示している点で非常に政策・施策の示し方として問題がある。

6 まとめ
 以上、あまりに哲学がなく、平成28年の立法改正経緯及び説明も踏まえず、近年の児童虐待死事件における問題点がどこにあったのかの検証も踏まえられておらず(形式的な一体化や連携という抽象的なフレーズが並び改善策として掲げられることへの警鐘である。)、現場への見下し感のあるこの報告書(案)はどういう狙いで、どういう考え方の下に作られたのであろうか。
 筆者は支援拠点の文言を消すような改正には反対である。
 もし変えるなら、支援拠点制度の何がどう問題なのか。継続性を否定する側に立証責任があるはずである。
    

第5 想定される反論と再反論

 以下上記検討に加えて、重要な視点であるので行政側反論を想定して再反論を項目的に掲げておく。

1 審議会の意見であるとの行政側反論に対する再反論
 この提案は国側が行ってきているのは本論稿注2に詳述したとおりであり、委員が積極的にこの案を提案したこと伺うことができず、形式的には審議会であるとしても、実質的にはこれまで行ってきた行政説明の書き込みと評価したため本論稿では、国側の見解として検討している。そうはいっても審議会委員が了解したということであれば、その点の過程は重視せざるを得ないが、筆者の見解はこの報告書(案)の問題点をしてきしていることであるので、筆者論理に影響を与えることはない。

2 一体化が不可欠・更に進めるものであるとの行政側反論に対する再反論
 この一体化については、既に従前から拠点の制度設計の本質として示してきている。厚労省がこれまで示してきた概要図、指針・ガイドライン、マニュアルでも一体化は示している。なぜに法律上の拠点を廃止しなくてはならないのか立法事実がないことで法文を改正すべきではない。

3 ワンストップとなるとの行政側反論に対する再反論
(1)  ワンストップ幻想からの脱却と住民本位でのワンストップ的動き方の具体
 ワンストップとは看板を一つにすることではない。ワンストップの掛け声ばかりの幻想は捨てるべきである。実際に子どもや保護者が相談に来た時に、自治体の窓口は保健、福祉(児童、生活保護、手当等)、教育様々な部局が現に存在している。保健と児童福祉のみ窓口を合わせればワンストップになるものではない。これまでも自治体窓口は、保健と福祉の統合、又は福祉と教育の統合等を組織制度的に繰り返し、最適な窓口再編を目指してきているのである。全部一つになれば(分化をしなければ)住民サービスが向上するということはあり得ない。その点の反論はなかろう。窓口に相談者が来た時に、どのようにして子ども・保護者を動かさずに、行政側が連携・連動して動いて、その住民の相談に応えられるか、一体的対応ができるかが重要なのである。そのワンストップ的な動き方の要件を詰めることが求められている。それは、子育て世代包括支援センターと市区町村子ども家庭総合支援拠点を法律上廃止し、一本化した名称を付した新しいセンターの設置を明記すればワンストップになるというものではないのである。
(2)  機能の上に機能の看板を乗せる混乱
 子ども家庭総合支援拠点と子育て世代包括支援センターはともに機能である。機能の上に機能を乗せるということは理解をわかり辛くするだけである。可視化、具体化が困難となり、抽象的な概念論争を生むことになる。
 今必要なのは、どのような機能を果たすことがワンストップに近づくかの具体化が重要なのである。そして、まさにその具体化については支援拠点制度設計で行ってきたことなのである。指針・ガイドライン、マニュアルで行ってきて制度の可視化・具体化が積みあがられ、定着に向かっていた最中なのである。この完成を目指して自治体が進んでいる今、新しい看板を掲げ、新しい道を提示することは、現場を混乱させるだけである。
 

鈴木秀洋(日本大学危機管理学部准教授)

この記事の著者

鈴木秀洋(日本大学危機管理学部准教授)

元文京区子ども家庭支援センター所長、男女協働課長、危機管理課長、総務課課長補佐、特別区法務部等歴任。都道府県、市区町村での審議会委員多数。法務博士(専門職)。保育士。著書に『自治体職員のための行政救済実務ハンドブック 改訂版』(第一法規、2021年)、『行政法の羅針盤』(成文堂、2020年)、『子を、親を、児童虐待から救う』(公職研、2019年)、『虐待・ⅮⅤ・性差別・災害等から市民を守る社会的弱者にしない自治体法務』(第一法規、2021年)等。

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