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2021.12.16 政策研究

【緊急寄稿】市区町村子ども家庭総合支援拠点(児童福祉法10条の2)消滅の危機―国の施策変更による自治体現場の混乱と信頼の原則違反

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第3 報告書(案)(子ども包括支援センター(仮称))の目指すべきものの確認

 平成28年改正に伴い、子どもの権利主体性を保障し、そのための具体的制度設計として、児童相談所の点支援から市区町村の切れ目ない面支援を充実させるために、支援拠点設置が謳われ、その支援拠点が、要対協を活用した司令塔としての役割を果すことが法的根拠をもって示されたのである。
 そして、その後の支援拠点設置については、筆者が研究代表となり、厚労省子ども・子育て支援推進調査研究事業平成29年「市区町村子ども家庭総合支援拠点の設置促進に向けた支援手法に関する調査研究」、平成30年「市区町村等が行う児童虐待防止対策の先駆的取組みに関する調査研究」、令和元年「子ども家庭総合支援拠点設置促進に関する調査研究」において、様々な自治体設置事例紹介を行っており、着実に整備が進んできている(年度ごとの設置推進状況については脚注3) 。
 平成30年には、支援拠点の具体的姿・要件を示した「市区町村子ども家庭総合支援拠点設置に向けてスタートアップマニュアル」4 を策定し、全市区町村に配布している(この内容については厚労省と協議を行い、国としての見解を提示したものである。)
この支援拠点制度の具体化基準として、全市区町村に示している支援拠点の要件と上記報告書(案)で示されている子ども包括支援センター(仮称)との間には、果たしてどんな違いがあるのであろうか。
 再編して、支援拠点を廃止するのであれば、平成28年に理念を示し、令和4年までのタイム&ゴールを示し、説明会・相談会を繰り返し、これだけの時間と労力を割いて自治体にこれまで支援拠点設置促進を強く進めてきた国(厚労省側・部会含む。)にこそ、なぜこの制度を廃止するのか、新しい制度はどの点で優位性があるのかについて、明確な立証責任があろう。
 上記報告書(案)を引用し、検討してみる。

1 すべての相談に応じる
 この報告書(案)は、「全ての妊産婦、全ての子育て世帯、全ての子どもの一体的相談を行う機能」を担うのが新しい子ども包括支援センター(仮称)であり、「一般家庭から支援の必要性が低い世帯、支援の必要性が高い世帯にシームレスに対応する」必要があると記述する。
 しかし、この点はまさに支援拠点が設置されたときに目指された姿そのものである。具体的には、(ア)ミニ児童相談所としての役割を果すのか、(イ)ポピュレーションアプローチとして子どもと家庭のすべての相談に応じるような相談機関を作るのかの議論がされた。そして、支援拠点は後者であることが確認されたのである5。上記報告書(案)で示された内容は、支援拠点の中核の機能であり、支援拠点の要件そのものなのである。

2 段階的整備を行う
 報告書(案)は、「この相談機関については、市区町村の状況を踏まえつつ、段階的に機能の充実と整備を図るものとする。」と記述する。
 この記述は、何を意味するのか。どの市区町村にあっても子どもの命を守ることに優劣があってはならない。目黒区児童虐待死事件、野田市児童虐待死事件、札幌市児童虐待死事件と続く中で、児童虐待死事件対応の制度設計として、国も全ての市区町村での支援拠点設置を宣言し6、設置を急いだ経緯がある。2022(令和4)年度末という時間設定を行いったのである。その設置促進を図り、その期限到来を待たずに、先行する子育て世代包括支援センター及び市区町村子ども家庭総合支援拠点との相違点も明らかにせずに、両制度設計の旗を下げ、次に掲げる新しい名称の相談機関設置を掲げているのであるが、この新しい旗は、段階的に行うとする。急げという旗と段階的にとの旗を同時期に掲げようとする国の方針は自治体にダブルバインドを引き起こしている。

3 マネジメントと地域資源の把握・創生について
 報告書(案)は、「「子ども包括支援センター(仮称)」においては、妊娠届けからの妊産婦支援に始まり、子育て世帯や子どもからの相談を受けて支援をつなぐためのマネジメントを行う。また、地域資源の把握や創生の役割も担っていく。」と記述する。
しかし、この記述は、実は、市町村子ども家庭総合支援拠点という言葉を、そのまま子ども包括支援センター(仮称)に変えただけである。
 支援拠点の要件として、①地域のすべてのこどもや家庭の相談に対応するための子ども支援の専門性をもった機関・体制・状態を作ること、②地域の資源を有機的につないだ(ソーシャルワーク機能)を果すために司令塔として要保護児童対策地域協議会を活用すること(新しい地域資源との繋がり・支援を含む。)、③原則として18歳までのすべての子ども(その家庭・妊産婦含む。)を切れ目なく継続的に支援して行くこと、④個人でなくチームで支援する体制を整備すること(そのための都道府県・国のバックアップ含む)、⑤児童福祉法10条、10条の2、更にそれを具体化した指針・ガイドライン業務を行うこと、⑥児童相談所との対等関係性、所掌事務・権限・アプローチの相違の認識(大は小を兼ねるとの説明との決別・児童相談所とは異なる面での事前予防・継続的多面・多角的支援)を従前から挙げてきている7
 この支援拠点の要件整備促進のために、自治体特に筆者が認知している都道府県は、何度も独自の説明会や相談会を行ってきている(静岡県、三重県、広島県の取組は上記研究報告書等でもあげられているように顕著である。)。現在も、児童福祉法の趣旨を重視して真摯に取り組む都道府県は、現在研修受託している西日本あかしとは別に設置促進の在り方を独自にかつ継続的に行ってきている8 。こうした真摯かつ先進的な自治体の取組を無視して、むしろ放置していた自治体を助けるような今回の報告書(案)提出は非常に問題である。
 内実の変わらない名称変更は、言葉遊びと言われても仕方ない。法及び国への信頼を失わせる。

4 具体的な支援提供計画(「サポートプラン」(仮称))
 報告書(案)は、「支援をつなぐためのマネジメントにおいて具体的な支援提供計画を示す「サポートプラン」(仮称)の作成を行うものとし、特に支援の必要性の高い世帯を計画的・効果的に支援するためのものとして活用する。」と記述する。
しかし、この支援提供計画も新しいものではなく、従前から支援拠点整備の要件とされているものである。そもそも、具体的な支援計画を全く持たずに支援に関わっている自治体(相談担当)がどれほど存在するのか。支援計画書という様式・形式はなくとも、何かしら相談担当チーム内で、短期・中長期の支援計画を立てているのが実態である。そして、支援計画をたてることは、支援拠点の要件としてガイドライン及びマニュアルに明記している9
 この点、従前から、支援計画書の様式については、支援拠点設置時に様式を定めるべきとの議論があったが、そうした様式を定めてしまうと、自治体の相談業務を事務的側面で非常に圧迫することにもなり、自治体の判断に委ねようということで様式をあえて定めないことになった経緯がある10。しかし、支援計画を立てることは、支援拠点業務遂行のど真ん中の業務であり、支援計画のない支援はありえないのであって、従前どおり支援計画を立てることを徹底することを訴えるのがあるべき姿であり、新しい支援提供計画(サポートプラン仮称)という新たな名称を掲げることは、従前の支援計画と何が違うのか、またその点でも混乱を生じさせる。名前の付け替えに過ぎないのである。ただし、従前の支援計画書と同じものであり、それを法律上格上げするのであるという説明であれば理解はできる。しかしその場合でも従前掲げていた支援拠点における支援計画との継続性なり関係性を明記して掲げることは最低限行うべき事柄である。

5 人員配置に関して
 報告書(案)は、「現行の相談機関の再編の中で機能が低下することがないよう、安易な人員削減をすることなく、相談機関において求められる機能を果たすために必要な人員配置とその人材確保に努める。一方で、実際の配置において限られた人材の有効的な活用を進めるための人員配置の弾力的運用を可能としていく。」と記述する。
 この記述されている内容は意味不明である。従前子育て世代包括支援センター(母子健康包括支援センター)と市区町村子ども家庭総合支援拠点の双方の充実が謳われ、双方を充実の上で、更に両者の一体的制度設計・運用を図っていくことで、子どもの命を守っていこうとして人員配置増の制度設計を考えてきたのである。機能の充実を目指していた支援拠点制度、その「拠点」制度促進を途中で再編して目指す新しい名称の相談機関が、何ゆえ「再編の中で機能低下をしないよう」という心配が生じることになるのか。そのような心配を生じさせる制度設計を行おうとするのか。国側で拠点設置を進める条件整備を緩めて数の底上げを図る意図があるのではないか。後半の「有効的な活用」「弾力的運用」というフレーズは、過去、保育所の定員外の児童も入所させてもよいような運用を認めるときに使用するフレーズである。子ども視点での「子ども包括支援センター(仮称)」設置でないことがこの用語の使用で明らかとなる。
 自治体が拠点に変わる新たな相談機関の設置を求められたとしても、自治体の人員(両者を統合するのであれば権限の点でも力量の点でも相当の者がそのポストにつかざるを得ない)が急に増えるわけでない以上、行政視点での兼務等に頼らざるを得ないのではないか。
 そのような現実が生じるとすると、今現在でさえ、自治体現場からはこれ以上兼務制度(兼務業務)を増やさないでほしいとの悲鳴に近い声しか私のところには届いていないにもかかわらず、そうした施策推進を図ることになり、これは、子ども視点ではなく、行政都合の視点でしかない。こうした制度の推進は、今以上に現場に負担を課し、児童虐待死対応を困難にする危険性をはらんでいるのである。

6 再編の必要性
 こうして報告書(案)の記述をみてみると、現行の支援拠点の機能を超えるものは一つもなく、イメージ的な一体化の推進であり、中身のない言葉遊びでしかないことは明らかである。子どもの命(心と体)を継続的に守っていく、そのために保護者も支えるという観点から、そして野田市虐待死、札幌市虐待死事件の検証に関わり、地域づくりの観点からの支援拠点づくりを具体化してきた立場からして、非常に憤りを覚える。
 自治体は、今回のコロナ対策で明らかなように、国の唐突な施策に振り回されている。住民とのインターフェイスにおいてニーズをキャッチし、苦情を受け、常に最前線で向き合い続けているのは基礎自治体である。
 今必要なのは、現行の子ども家庭総合支援拠点と子育て世代包括支援センターの再編ではなく、実質化であり具体化である。そして、それは既に指針・ガイドライン及びマニュアルにおいて示しているのである。
不足しているのは、国の全面的なバックアップと働きかけである11

鈴木秀洋(日本大学危機管理学部准教授)

この記事の著者

鈴木秀洋(日本大学危機管理学部准教授)

元文京区子ども家庭支援センター所長、男女協働課長、危機管理課長、総務課課長補佐、特別区法務部等歴任。都道府県、市区町村での審議会委員多数。法務博士(専門職)。保育士。著書に『自治体職員のための行政救済実務ハンドブック 改訂版』(第一法規、2021年)、『行政法の羅針盤』(成文堂、2020年)、『子を、親を、児童虐待から救う』(公職研、2019年)、『虐待・ⅮⅤ・性差別・災害等から市民を守る社会的弱者にしない自治体法務』(第一法規、2021年)等。

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