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2021.12.16 政策研究

【緊急寄稿】市区町村子ども家庭総合支援拠点(児童福祉法10条の2)消滅の危機―国の施策変更による自治体現場の混乱と信頼の原則違反

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第6 具体的提言

 筆者は、反論するなら具体案を提示せよとの総論的反論に応えたいと思う。
 法制執務を担当し、かつ、法律の専門家として以下具体案を提示する。

1 児童福祉法10条の2に関して
(1)詳細な規定を加える
 1項を加える
 拠点整備においては、①物理面、②情報面、③組織面、④法令面での一体性を担保することとする(既にスタートアップマニュアルで示している一体化の要件である)。
(2)解釈規定を設ける
 上記①~④までを示して、上記①~④を勘案した拠点整備を公示することとする(行政手続法の精神・公開の原則)。

2 母子保健法の追記
 母子保健法22条にも1項を加え、児童福祉法10条の2に定める拠点と一体的・連携的整備・維持を行うものとするとの規定を設ける。

3 まとめ
 上記のように両法律に一体化・連携・連動の規定を相互に規定することで、実質的かつ実効的な母子保健と児童福祉の一体化が法的に担保されるのである。名称を変えるのではなく、従前の制度の相互連関を実効化する土台を作ることで、自治体現場の法律による行政の原理に基づく事務遂行が進むのである。
 

第7 展望

 筆者は、児童福祉法に関しては改正すべき点は多々あると考えている。継ぎはぎではなく抜本的に改正すべきであるとの見解にも賛同する。
 しかし、そこでいう抜本的解決とは、例えば、警察と児童相談所との役割分担、児童相談所と女性相談所との連動・一体化、児童相談所と市区町村との役割分担、刑事と福祉・保健との役割分担と連動の点の子ども視点からの整理である。
 今回の報告書(案)には、そうした子ども視点からの抜本的な視点が見られないばかりか、具体化が必要な本論稿指摘の箇所で、抽象論や形式的整理しか行われていない。
拠点が消えて新しい看板ができたら子どもの笑顔はどう増えるのか。今回の看板の付け替えのマイナス点はいくらでもあげられるが利点は見えない。政治からの一体化要望の声(子ども家庭庁の設置と連動して唱えられるが各論が不明確なものが多い)に対して、形式的に化粧をしたに過ぎないのではないか。自治体現場にいた者としてこの方針転換に反対する。
 
※本論稿発表により、今後報告書(案)の修正等が行われることがあろう。しかし、一定時に国(審議会)が公開した報告書(案)に対する見解・論稿として(また筆者は現時点では支援拠点という文言は法律上廃止されると聞いている。)、今後の法改正時にも十分有効であるし、参照してもらいたいため発表するものである。


(1) 厚労省社会保障審議会(児童部会社会的養育専門委員会)第39回(2021年12月7日)「報告書(案)」https://www.mhlw.go.jp/content/11920000/000863165.pdf
(2) あくまで審議会における報告書であるということからすれば、形式上、国との表示はおかしいとの指摘を受けよう。ただし、審議会委員が積極的にこうした名称の設置を提案した形跡はなく、筆者による複数の委員への聞き取りによれば、事務局である国側の提言及び説明に特に委員が異を唱えなかったというのが実態であるようであること、及びこうした説明は国の担当者が日本子ども虐待防止学会第27回学術集会かながわ大会2021年12月4日の行政説明(10時30分~11時30分の枠)で行っていること以上から、本論稿では、国・審議会一体のものとして、国との表記で統一して執筆している。
(3) 鈴木秀洋「新しい社会的養育ビジョンにおける市区町村子ども家庭支援体制構築の検証と展望」『こどもの虐待とネグレクト』23巻第1号(2021年4月)59‐69頁。
(4)更にその後の令和2年度までの国の最新の方針を組み込んだ改訂版としての鈴木秀洋『必携市区町村子ども家庭総合支援拠点スタートアップマニュアル』(明石書店)は、厚労省の支援拠点設置アドバイザーの協力も得て、全国の設置に取り組む自治体のテキストとして厚労省から支援拠点設置促進の研修等を受託する「西日本子ども研修センターあかし」でも使用している。現在進行形の研修であり、設置のための相談会を開催している。
(5)鈴木秀洋『必携市区町村子ども家庭総合支援拠点スタートアップマニュアル』(明石書店)(以下『鈴木必携』と略す。)24頁以下参照。
(6)前掲スタートアップマニュアル1頁参照。なお、地方分権の建前からすれば、国が強制できず自治体ごとという説明がなされるが、人の生命身体に係る制度設計等において一律に国が指示を出せないと考えるのは地方分権概念の誤導であろう。
(7)前掲鈴木必携12頁以下参照。
(8)筆者もこれまで、高知県、宮崎県、長野県、栃木県、愛知県、北海道、山梨県、鳥取県、兵庫県、茨城県等県主催の説明会等で、支援拠点の一体的設置促進等説明を行ってきている。
(9) 前掲鈴木必携69頁以下。
(10) 筆者は様式も定めるべきとの主張であったこと、その後自治体から様式のひな型的なものの提示を求められることが多く、必携69頁ではマニュアルでは参考項目をあげている。
(11)支援拠点設置促進に関しては、平成29年度~令和元年度までは鈴木秀洋研究室で担ってきた。その後西日本あかし研修センターの研修は1年ほど停滞し、かつ、国の支援拠点設置調査も一年行われない状態があった。国から各自治体への調査事項・調査項目も現在支援拠点設置を前提にしており、この法律改正後はこうした調査事項・調査項目も全て変更する必要があり事務作業量及び労力は膨大である。

鈴木秀洋(日本大学危機管理学部准教授)

この記事の著者

鈴木秀洋(日本大学危機管理学部准教授)

元文京区子ども家庭支援センター所長、男女協働課長、危機管理課長、総務課課長補佐、特別区法務部等歴任。都道府県、市区町村での審議会委員多数。法務博士(専門職)。保育士。著書に『自治体職員のための行政救済実務ハンドブック 改訂版』(第一法規、2021年)、『行政法の羅針盤』(成文堂、2020年)、『子を、親を、児童虐待から救う』(公職研、2019年)、『虐待・ⅮⅤ・性差別・災害等から市民を守る社会的弱者にしない自治体法務』(第一法規、2021年)等。

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