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2016.06.27 議会改革

自治体議会の明日に向かって~「市町議会の在り方に関する研究会」が【報告・提言】を公表‼~

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三重県地方自治研究センター上席研究員 髙沖秀宣

自治体議会の「劣化」に対する危機意識

 地方自治体は人口減少局面に突入しており、今後多くの厳しい課題に対して地域の実情を踏まえ、的確に対応していくことが求められていることは異論のないところであろう。そうした中で自治体議会においては、議会活性化に向けた主体的な取組が進められている一方で、現状の自治体議会の在り方については、一部の町村議会などにおいて無投票当選の割合が増加する傾向にあるなど、議員のなり手不足が深刻な問題になっている。
 また、昨年4月の統一地方選挙に見られたように、地方選挙の投票率が低下するとともに、自治体議会に対する住民の関心が大きく低下してきており、政務活動費の使途の問題等により議員の資質等に注目が集まり、議会の在り方が厳しく問われていることなど、自治体議会及び議員に対する住民の信頼確保が大きな問題となってきている。
 このような状況の中、昨年3月には、総務省から「地方議会に関する研究会報告書」が公表されたが、その内容があまりにも高尚で洗練されていて、県内の自治体議会の実態を反映していないのではないか、また活用しにくいのではないかと考え、三重県地方自治研究センター(以下「自治研センター」という)でも同年5月に、「市町議会の在り方に関する研究会」を設置して、自治体議会が直面している諸課題について議論することとした。
 自治研センターの問題意識は、先に述べたようないわゆる「議会の劣化」が厳しく指摘されている現状となっていることを議会人は深く認識し、議会全体の力を結集して真の二元代表制の実現に向けて、また、住民の信頼確保に向けてさらに一層の議会改革に取り組むべきであり、そして、「議会の劣化」に対する危機感を共有することは、議会関係者だけでなく、執行機関や住民との間においても重要である、との認識であった。

研究会委員の構成

 自治研センターでは、この研究会の委員構成について、できるだけ市町議会の実態を反映させるため、学識経験者だけでなく、やはり現職の議員や首長経験者、そして行政経験者も含め、さらには議会事務局職員や一般市民にも委員を委嘱することが重要ではないかと考えた。
 結局8人の現役・元自治体議会議員、首長経験者2人、行政経験者2人、議会事務局長1人、市民等2人で、学識経験者には立命館大学の駒林良則教授と地元三重県内の四日市大学から松井真理子教授にお願いした。中でも自治体議会に関心を持っている一般市民の方にも就任いただいて、市民の立場から議論いただいたことが特筆されるのではないか。

研究会の議題と開催状況

 研究会の進め方としては、まず昨年5月第1回目の研究会では委員でもある立命館大学の駒林良則教授に、「これからの自治体議会の在り方について」をテーマに基調講演をお願いした。駒林教授からは、「議会改革が進展している中で、議員のなり手不足の問題や議員数の減少など、議会が劣化しているのではないか?」との問題提起があり、「議会の劣化に対する危機感を共有することは、議会関係者だけでなく、執行機関や住民との間においても重要である」と主張された。
 また、同年9月の第3回目の研究会では、慶應義塾大学の片山善博教授を招き、「議会の自立、首長の自立」のテーマで講演していただいた。片山教授は、「首長と議会の間では、地方議会には与党も野党もない。議会として首長から出された議案を点検の上、必要に応じて修正などを行うべきで、首長に頼らない議会運営が大切だ」と説かれた。
 そして、最終回となった今年4月の第5回目の研究会には、山梨学院大学の江藤俊昭教授を講師に迎えて、「市町議会の在り方について」の総括講演をお願いした。江藤教授は、予算や条例の議決権、財産の取得や処分など具体例を挙げながら、「議会には驚くべき権限が与えられていて、住民自治の根幹は議会にある」と主張された。

「住民自治の根幹」は議会にある、と力強く述べる江藤俊昭山梨学院大学教授「住民自治の根幹」は議会にある、と力強く述べる江藤俊昭山梨学院大学教授

 そして、この3人の学識者の講演のほか、講師も交えて委員間で討議した議題には、議会と首長の関係、議会と住民の関係、議会制度・選挙制度、議員定数・議員報酬の問題、夜間議会・休日議会、女性議員を増やすための方策、議案審議の充実、住民の議会参画の拡大、政務活動費の使途の透明性についてなど、現在の自治体議会が直面している課題ばかりであった(写真参照:2016年4月4日第5回研究会の様子)。
 なお、この研究会の開催に当たっては当然公開であったので、毎回30人程度の議員等の傍聴者があり、そのうち3人の講演者を招いた講演会と併せて開催した研究会では、100人弱の傍聴者もあった。そのため、県内の市町議会議員等に対しては、議会の在り方を考える上で一定の意識付けができたのではないかと考えている。

【報告・提言】の基本的な考え方

 自治研センターが平成28年4月に公表した「市町議会の在り方に関する研究会【報告・提言】―自治体議会の明日に向かって―」(以下【報告・提言】という)は、先に述べた総務省の報告書を基に、そこで示された自治体議会の諸課題について各委員の間で議論することからスタートした。さらに昨年6月には、全国市議会議長会の「議会のあり方研究会」からも「地方分権時代における議事機関としての役割を果たす議会のあり方について〔報告・提言〕」の報告書が公表されたが、提言の内容が少ないのではないかと少し物足りなさを感じた。
 そこで当自治研センターの研究会では、現状分析等では総務省と全国市議会議長会の報告書を参考にさせていただきながら、提言項目はできるだけ具体的な事例を挙げ、現実の自治体議会の実態は十分に認識しつつ、この【報告・提言】の副題にもあるように「自治体議会の明日に向かって」積極的に、意欲的に提言していくとのスタンスで研究会を運営していくことを考えた。

【報告・提言】の概要

 総括的には、人口減少社会における一層の議会改革の必要性を指摘しているが、具体的には、通年制議会の導入に向けた検討、予算委員会における増額修正、参考人・公聴会制度の活用、外部の専門的知見の活用、第三者による議会活動の評価、議会基本条例制定後の検証と評価や議会事務局の支援機能の強化と議会事務局職員の意識改革などを盛り込んだ内容となっている。

議会の監視・評価機能の強化

 十分な審議時間の確保のためにも通年制議会の導入について検討し、柔軟な議会運営を志向すべきであるとした。執行機関と同様に、議会も通年で活動すべきではないかとの考えである。
 また、予算・決算審議については、予算要求の段階から調査を行い、意見・提言等を行うとともに、決算審査は、翌年度の自治体の運営方針につなげるべきで、常任委員会での分割付託を行うのではなく、予算・決算の常任委員会を設置して十分な審議時間を確保すべきであると提言した。

議会の政策形成機能の向上

 政策形成機能を発揮するための環境整備として、議会基本条例に「議員政策研究会」や「政策検討会議」等の設置を規定して、議員間で自由討議の機会を設けて議論し、政策条例や政策提言を行っていくべきであると提言した。外部の専門的知見の活用でも、政策立案機能の向上に役立てるため地元大学等と連携し、指導助言を受けるなど専門家の知見を大いに活用すべきであるとした。
 また、住民の政策提言の活用では、議会への住民参加を目的として議員と住民が協働で政策づくりを進めることも考えられ、長野県飯綱町議会の「政策サポーター制度」を導入するなど、住民意見を活用した政策提言の方策も検討すべきであるとした。
 さらに、地方自治法96条2項による議決事件の積極的な追加では、総合計画など当該団体の将来方向を決定付ける重要事項は、議会基本条例等の条例により議決事項とすべきであり、議会が積極的にその計画策定の段階から関与すべきであるとした。

議会への住民参加の促進

 議会から住民への積極的な情報発信・情報共有を図るべきであるとして、特に最近では住民の関心の高い政務活動費に関しては、議会のホームページで収支報告書・領収書等の公開はもとより、使用の手引きなど内部規程もできる限り住民に公表し、住民と情報共有を図るべきであるとした。
 また、議会活動の評価については、北海道福島町議会で実践されているように、議会基本条例の規定に基づいて議会活動を自己評価し、評価書を公表するとともに、議会が設置した第三者機関による評価も活用すべきであるとし、その場合には、議会活動が住民福祉の向上にどれだけ貢献したかなど、住民の視点による評価が重要であるとした。

議員の処遇等

 議員定数・議員報酬については、今後の自治の在り方から考える必要があり、住民に不満のある定数・報酬の根拠を住民に説明する必要があると指摘した。また、どのような定数・報酬にするかは「自治の問題」であり、住民とともに議論し、各自治体で決定しなければならない。決して議会だけ、議員だけで決定してはダメであり、定数や報酬の問題を住民とともに考える議会が住民からも信頼されることになると指摘した。
 また、政務活動費については、支給されていない自治体にあっては、政策立案・政策提言機能の強化のため支給することを検討すべきであり、使用した場合には、その自治体に還元されるべき成果を住民に説明できるようにすることが重要であるとした。
 なお、使途の透明性の確保が議長の努力義務とされたこともあり、議長や議会事務局職員のチェック機能をさらに強化すべきであると提言した。
 最近では、議会の政務活動費の不適切な使用に関して住民からの厳しい目があるので、「使途基準」や「使途の手引き」などの議会情報は、より一層の情報公開・情報提供に留意すべきであるとした。
 さらに、廃止された議員年金制度に代わるべき住民に納得されるような適切な他の制度に再構築することが要請されるとした。

議会改革の推進

 議会基本条例という法規範にのっとり、住民に対して体系化された議会の在り方や議会改革の在り方を宣言し、議会活動や議会改革の「見える化」を図り実践していくことは、より議会の説明責任を果たす意味でも重要である。そのためには、議会基本条例を制定されていない議会にあっては、その制定に向けて議会内で徹底した議論が必要であるとした。
 そして、議会基本条例の制定後は、規定したとおり実践されているかどうか検証が重要であるとし、この場合には、議会・議員自身による評価だけでなく、第三者機関による客観的評価も必要であり、評価後は住民に対して公表すべきであるとした。
 また、議会事務局の支援機能の強化については、議会事務局の独立性・専門性の確保のため、県と複数の市町が一部事務組合を設置して職員を採用して研修後、その職員を共同設置した県・市町の議会事務局へ出向させ、議長が任免する等の方策も検討すべきであると提言した。
 さらに議会図書室機能の強化も重要であり、議員が政策立案等をするに当たって必要な資料要求等に対応するため、司書等の専任職員の確保に努めるべきであるとした。
 なお、議会改革の推進のためには、議会事務局改革が不可欠であるとし、二元代表制の下で、議員とともに力を合わせて積極的に議会改革に取り組んでいくべきであり、真の議会改革が成果を挙げるためには、事務局職員も議員とともに住民の負託に応えるべき職務を全うするという意識を持つように、議会事務局職員の意識改革が極めて重要であると指摘した。

今後の自治体議会の方向性

 自治体議会に議会基本条例が登場して以来、今年の5月で10年を迎えた。当研究会の萩野虔一座長の「二元代表制に迫るならば、住民にとってどの会派が、誰が一番良い政策の提案ができるか。『数の論理』から『理の論理』を目指そうとするのが地方自治体議会ではないか」(【報告・提言】の公表に当たって)との考えが、議会基本条例制定から10年が経ようとしている今日の自治体議会にも当てはまるのではないか。
 今回公表した【報告・提言】の内容は、副題に「自治体議会の明日に向かって」とあるように、今後の全国の自治体議会の改革のひとつの方向性を示唆したものであり、全国の多くの自治体議会でこの【報告・提言】が活用され、実践されることを期待している
 また、自治研センターとしては、この【報告・提言】書を県内14市・15町の全ての自治体議員と議会事務局職員全員に1冊ずつ配付した。議会改革の主役である議員だけでなく、議会事務局職員も議員と一緒になって議会改革を推進していただきたいとの思いからである。もちろん異論反論もあることは承知しているが、これを基に各議会で議員と事務局職員が議会改革について議論する際のたたき台にしていただきたいと考えており、各議会から要請があれば、いつでも出かけていき議論させていただく用意はある。
 なお、この研究会に係る自治研センターの一連の活動は、5月12日、2016年度日本自治創造学会において、「改革発表会」ベスト5に選ばれて表彰され、同学会を通じて広く全国発信されることになった。今後の自治体議会の方向性について、全国の自治体議会関係者
と大いに議論し、意見交換させていただくことを願っている。

【各報告書へのリンク】
●「市町議会の在り方に関する研究会」【報告・提言】
○総務省「地方議会に関する研究会報告書」
○全国市議会議長会「地方分権時代における議事機関としての役割を果たす議会のあり方について」【報告・提言】

髙沖秀宣(三重県地方自治研究センター上席研究員)

この記事の著者

髙沖秀宣(三重県地方自治研究センター上席研究員)

1953年三重県生まれ。1979年三重県庁採用、2002年~2011年三重県議会事務局で企画法務課長等を歴任し、都道府県議会初の議会基本条例制定に関わる。 2014年4月~三重県地方自治研究センター上席研究員。議会事務局研究会共同代表(2014年1月~)。松阪市議会議会改革特別委員会アドバイザー、同市議会議員定数のあり方調査会委員。著書『「二元代表制」に惹かれて』(公人の友社)、編著『先進事例でよくわかる 議会事務局はここまでできる‼』(学陽書房)

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