「学習支援事業」とは
格差が拡大し続ける現代社会では、非行に走る若者だけではなく、不登校や高校中退の若者、児童養護施設や自立援助ホームなど社会的養護の中で生きる子どもや若者たちは、とりわけ学校教育から排除される可能性が高いのです。そんな若者たちの「学び直し」や「育ち直し」、「居場所」を保障する政策が、生活困窮者自立支援法(以下「生困法」という)(1)に位置付けられている「学習支援事業」です。
生活保護世帯の中学生などを対象とする国の学習支援事業は2011年から始まっていましたが、この事業は厚生労働省の社会援護局が所管する生活保護世帯を対象とするセーフティネット補助金で行われた事業で、実施自治体は全国でもわずかでした。2015年4月から生困法がスタートし、子どもの貧困対策としての学習支援が、任意事業ではありますが、法制度として全国で実施することが可能になりました。
「学習支援事業」アンケート調査の実施
NPO法人さいたまユースサポートネット(所在地:さいたま市 代表:青砥恭)(2)は、独立行政法人福祉医療機構(WAM)(3)の助成を受け、2015年9月~10月の間、全国の福祉事務所を設置する自治体(479団体)と生困法に基づく学習支援事業受託団体(98団体)の合計577団体を対象に、「生活困窮者自立支援に基づく学習支援事業」をテーマにアンケート調査を実施いたしました。
子ども・若者の貧困と格差の拡大は、日本社会の大きな課題です。とりわけ貧困層の子どもや若者の対策として、生活保護世帯など生活困窮層の子どもたちへの学習支援が全国で広がっていますが、全国一律ではなく、自治体によって大きな差異があることが分かりました。今後の学習支援のあり方を考えます。以下で、アンケート結果の一部とその分析を紹介します。
◆「生活困窮者自立支援に基づく学習支援事業に関する調査」調査概要と主な質問内容
【調査概要】
1.調査の方法:FAXまたはE-mailでのアンケート方式で実施
2.調査の対象:全国の福祉事務所を設置する自治体と生困法に基づく学習支援事業受託団体を対象に実施
3.有効回答数:自治体479団体、学習支援事業受託団体98団体、合計577団体
4.調査実施日:2015年9月~10月の2か月間
【主な質問内容】
〈自治体向け〉
・自治体内部の実施機関及び委託先はどこか。
・学習支援の実施状況は。実施しない理由は何か。
・学習支援事業の対象世帯は何か。
・学習支援事業の対象学年は小中学生、もしくは高校生か。
・対象世帯のうち登録者が100%にならないのはなぜか。
・学習支援の事業費は。
〈学習支援事業受託団体向け〉
・教科指導以外で気をつけていることは何か。
・学習支援事業の目的は何か。
・運営上の課題は何か。
・必要な連携と課題は何か。
◉学習支援の実施状況について[回答は自治体]
生活困窮層の子どもたちへの学習支援を実施している自治体は、2015年度は約3割。2016年度は5割以上の自治体が実施する見込み。子どもの貧困に対する関心は確実に広がっている。
自治体に、生困法施行後の生活困窮家庭の子どもを対象とした学習支援の実施状況について尋ねたところ、最も多かった回答は「実施予定なし」が45.3%になりました。続いて、「すでに実施している」が32.2%ですが、実施予定(20.3%)を含めれば、2016年度には学習支援を行う自治体が半数以上になることが分かりました。ただ、事業の内容は、対象世帯も予算規模も実施団体も自治体ごとに異なり、自治体直営から民間のNPO等様々です。