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2016.06.10 政策研究

貧困家庭への学習支援の充実を~自治体調査結果から~

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NPO法人さいたまユースサポートネット代表 青砥恭

子ども・若者の貧困と格差が日本社会に突きつけたもの
―ぼくはみんなと同じようには生きられない!―

 子どもの貧困率が16.3%、子どもの数で表すと約325万人です。子どもの6人に1人が、「私はほかの子たちと同じようには暮らせない。みんなと同じようには学ぶことができない。親と同じような貧困の中で生きていかなければならないかもしれない」と思っているのです。6人に1人の子どもたちがこういう気持ちを抱きながら生きているのです。こういう子どもたちは年々増え続けています。

川崎から千葉、続く若者たちの事件から見える日本社会の現実

 昨年2月、川崎市の多摩川河川敷で中学1年生の男子生徒が年上の少年たちにカッターナイフで惨殺されるという事件の衝撃が消えないうちに、4月には、成田空港の近くの畑の中に18歳の少女が、やはり仲間と思われる同年齢の少年少女たちに生きたまま埋められるという事件が起きました。若者たちの社会に何が起きているのでしょうか。
 川崎の事件では、なぜ暴力を受け続けてもグループを抜けられなかったのか。仲間を殺すまでに若者たちのコミュニティがゆがんでしまったのはなぜか。一方で、彼が属しているはずの学校や地域社会は、若者たちの変化や暴力の実態になぜ気がつかなかったのでしょうか。私たちの社会が、孤立し、周縁で生きる若者たちの実態に関心を持てなくなっているのではないかと思われます。社会が他者の暮らしに関心を持てなくなるほど余裕をなくしています。亡くなった少年は最近、島根県の離島から移住し、5人きょうだいと母親のひとり親世帯でした。川崎、千葉の両事件とも、被害者、加害者とされる若者たちは全員が高校中退か、不登校もしくは無職の青年でした。千葉の容疑者として逮捕された20歳の若者は、きょうだいとともに祖母に育てられています。ほかの若者たちも、16歳の鉄筋工、20歳の住所不定など、親だけではなく学校からの支援も受けず、地域の中で周縁化した若者たちです。
 しかし、さらに重要なことは、日本社会で貧困と格差の中で絶望する子どもや若者の実態に、社会や政治が、関心がないか、無視していることでしょう。長い間、日本社会にとって重要な問題とは考えられてきませんでした。
 私たちのNPOが関係したある工業高校に通うA君からこんな話を聞いたことがあります。彼の家族は母子世帯で生活保護を受給していました。
 「この社会は平等じゃない。お金がないからなりたい職には就けない。自分たちの家族には助けてくれる親戚もない。裕福な人とは生きている世界が違う」
 A君は強い「被差別感」とともに毎日を生きていました。
 「彼らは税金も払わないし、選挙にも行かない。社会的な責任も果たさない連中に関心など持てるはずがない」――若者たちは、日本社会のこんな「まなざし」の冷たさを知っています。ここに登場する若者たちにとって、頼りになる「社会」は存在しないのです。まして国家の存在など見えようはずもありません。いじめの中で最も子どもにダメージを与えるのは直接的な暴力行為ではなく、存在に対する無視・無関心なのです。
 本来、子ども・若者にとって、最大の仲間づくりができる居場所、社会との接点は学校です。川崎や千葉の事件は、自分たちの心を受け止めてくれる学校や社会を持つことができないまま生きる、孤立した子どもや若者たちのコミュニティの中で起きました。
 川崎や千葉の事件に関わった若者(少年)たちのほとんどは、小・中学校から不登校が始まっています。なぜ、学校に行こうとしなかったのか、行けなかったのか、彼らの心の中をじっくりと受け止める必要があります。
 川崎で亡くなった少年は、不登校の理由を「学校は面倒」と話していたようです。では、どんなことが「面倒」だったのでしょう。このことを取材したある全国紙の記者は、「『校則が厳しい』『宿題が出る』『休むと次に行きづらい』『授業が進んでいる』と理由にならない理由を並べ、なぜ学校に行けないのか、本人にも分かっていないように見えた」と書いています。
 しかし、これらはみな、不登校になっている少年たちにとって非常に重要なことなのです。「校則」は自分を学校に来させなくしている手段のように考えているでしょうし、「宿題」については、少年たちは、「到底できるはずもないことを教師たちは強制している」ように思っています。「ただでさえ分からない授業が、休むと一層ついていけなくなる」と高校を中退した生徒たちは話します。
 一部の勝者と多くの敗者をつくるという能力主義が学校をも覆っているように見えます。現在のように階層格差が進行し、中間層がやせ細ると、一部の上位層と拡大した下位層は「学校教育」から離脱していく傾向も見えます。しかも、「学校教育」が本来持っていた社会統合機能ではなく、必然的に社会の分断をもたらす格差を生み続けるとすれば、この「学校教育」からの離脱は一層顕著になっていくように思われます。
 学校教育から早期に排除(離脱)された子どもたちの中から、同じような事件は起きていくでしょう。川崎や千葉で起きた事件は、学校や家庭の中に居場所を持てない境遇にあり、能力主義競争の中で強者と弱者という上下関係に慣らされ、暴力的な行動でしか自分のアイデンティティを示せなかった若者たちの中で発生した事件でした。
 子どもたちにとって成績などの評価や社会・家族からの期待やまなざしから解放される場も必要です。そんな競争や心理的圧力から一時的に離れる解放された空間が居場所なのです。子どもや若者にとって、そんな自由な空間の中で自分を受け止めてもらえる他者の存在こそが、社会への信頼感を育てることにもなると思われます。

青砥恭

この記事の著者

青砥恭

NPO法人さいたまユースサポートネット代表。鳥取県出身、元埼玉県立高校教諭、明治大学講師(教育学、教育社会学、教育法学)。 「子ども・若者と貧困」の課題を研究している。2011年、特定非営利活動法人さいたまユースサポートネットを設立。さいたま市内で、学生を中心に、居場所のない子どもたちや若者のコミュニティづくりを展開している。2012年度からは、さいたま市の委託事業「生活保護世帯学習支援事業」、2013年の夏以降、さいたま市の委託事業「さいたま市若者自立支援ルーム」、厚生労働省の委託事業「地域若者サポートステーションさいたま」を運営している。
http://www.saitamayouthnet.org/
著書は、『日の丸・君が代と子どもたち』(岩波書店、2000年) 『ドキュメント高校中退』(筑摩書店、2009年)、近刊には、『若者の貧困・居場所・セカンドチャンス』(太郎次郎社エディタス、編著2015年)、『ここまで進んだ!格差と貧困』(新日本出版社、共著2016年)などがある。Wedge Infinity (インターネット)を子ども若者の貧困を毎月、連載。 現在は、「子ども・家庭・学校」に関するコラムを朝日新聞に「まなぶ」及び「はぐくむ」シリーズで3年にわたって連載している。

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