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2016.02.25 議会運営

政務活動費と議員報酬――「千代田区特別職報酬等審議会」の答申

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東京大学名誉教授 大森彌

 2015年12月24日、東京・千代田区の「千代田区特別職報酬等審議会」(区長の諮問機関。以下「審議会」という)が、政務活動費を減額してその分を議員報酬に上乗せする(付け替える)案を答申した。報道機関の論調は、この内容には概して批判的である。審議会は、どのような考え方で、こうした内容の答申を出したのか、その何が問題なのかを検討したい。

「政務活動費Q&A」

 千代田区議会のホームページには、「政務活動費Q&A」が掲載されている。まず、これによって、これまで千代田区議会が政務活動費についてどのように考えてきたかを確認しておこう。
 ① 議員提案で「政務調査研究費の交付に関する条例」を定めた理由。区議会独自の情報公開条例の趣旨を踏まえ、区民に開かれた区議会の確立をめざし、「1.地方自治法が議長に対して収支報告をするよう規定していること、2.議会の政策立案・調査機能の強化及び議員の活動基盤強化を図るために交付するものであり、会派活動の実態を踏まえた制度とする必要がある〔下線は筆者、以下同じ〕こと、3.交付額については、議会自ら第三者の意見を聴取し、決定することが客観性と透明性を高めるものであること、4.区民等の意見を踏まえた制度改善、見直しが適宜行えること、5.公文書の開示請求があった場合、区議会の情報公開条例に基づき、迅速に対応できること」としている。
 ② 全議員に交付されるか。「地方自治法(第100条第14項)は、会派又は議員に交付することができるとされていますが、本区議会は、会派に交付することにしました」とある。
 ③ 交付額と交付方法は。「交付額は、議員1人あたり月額15万円で、3か月に一度、会派に交付します。交付を受けるためには、会派の代表者の交付申請や議長の交付決定などの手続きが必要となります。その他、会派の所属議員の異動や辞職、議会の解散、改選期の交付の特例等も詳しく条例で規定しています」としている。
 ④ 政務活動費で支出できる範囲は決まっているのか。「条例で、政務活動費を充てることができる経費の範囲を詳しく定めています」としている。
 ⑤ 交付の額はどのように決まるか。「現在の交付額は、平成10年度から交付してきた額(15万円)と同額としています。なお、この交付額について、第三者の意見を聴取するため、平成14年3月13日に『千代田区議会政務調査研究費交付額等審査会』を設置しました。審査会は、7回にわたって審査を行ない、7月18日に議長あて答申がありました。答申は、使途基準や使途内容についての審査に重点が置かれたため、交付額そのものについては、妥当かどうかの判断をしていません。議長は、この答申を受けて、各会派の幹事長及び会計責任者と協議を行い、平成14年第3回定例区議会で、条例及び施行規則の一部を改正しました」とある。
 ⑥ 会派で支出したものが全て公開されるか。また、議員の個人活動の経費として支出したものについてはどうか。「政務活動費は、議員が会派又は会派の一員として活動する経費に充てるもので、条例に定める経費の範囲で支出することが義務づけられています。条例に定める経費の範囲外の支出が判明したときは、返還することとなります。また、議員の個人活動に要する経費は個人負担となり、政務活動費の対象とはなりません」とある。
 ⑦ 政務活動費はどのような場合に返還するのか。「返還は、会派に交付した年間の総額(年度)に残額がある場合や条例に定める経費の範囲外の支出が認められる場合には返還することとなります。この場合の返還額は、会派に交付する年間の交付額から差し引くこととなります」としている。
 *政務調査費・政務調査研究費は地方自治法改正で政務活動費へ改称。

審議会の考え方と問題点

 政務活動費を減額してその分を議員報酬に付け替える審議会の案は、どのような考え方に基づいていたのか、それを答申内容から検討しよう。

(1)議員職はフルタイム勤務(常勤職)か――部長職との比較
 まず、特別職の各職の職責と仕事量に見合う額を検討するためには、給料月額、報酬月額のみでは不十分で、その他の収入を含めて総合的に検証する必要があるとしている(年収ベースでの検討)。問題は、この各職の責任と仕事量について、「一般職の最高位である部長職を『100』とした場合の指数」で比較検証するとしていることである。
 その理由は、「特別職においても、その勤務実態がいわゆるフルタイム勤務であることを前提とするならば、一般職員に適用される原則が同様に適用されるべきであると考えられる。また、各職の責任と仕事量に見合う額について区民にわかりやすく示すためには、一般職との比較で示すことが望ましい」からだとしている。
 議員活動については「各議員によって活動実態に幅があるものの、公式の会議、委員会等が年間130日程度開催され、かつ、これらの会議等に出席するための準備に要する時間が必要となっている。また、区長と同様に各種行事等への参加も慣例的に行われている。その他日常的に行われているのが、区民等からの生活相談である。これは土日、夜間に関係なく、プライバシー性の強いものや、地域事情を知らないと対応できない相談が多いことから、区役所ではなく議員へ相談が持ちかけられることが多い。このため、実際の年間活動日数は200日~300日近くになるとの意見も出されている」としている。
 審議の過程においては、「議員報酬以外の収入を得ているかどうか、あるいは議員活動そのものをボランティアとして行うべきかどうかという議論もなされたが、形式的には非常勤とはいえ、年間を通じてこれだけの活動実態があることに加え、議会としては幅広く、多様な方々によって構成されなければならず、むしろ議員活動に専念し、報酬に見合うだけの職責を果たしてもらいたいとの意見も出された」ことを付け加えている。
 その上で、答申が援用したのは、内閣官房で設置された「幹部公務員の給与に関する有識者懇談会」が2004年3月31日にまとめた報告書である。そこでは「内閣総理大臣や国務大臣の給与水準は、必ずしも民間企業の役員と単純に比較できるものではないので、人事院勧告に基づき決定される一般職の幹部公務員の給与水準、例えば一般職の最高位をこのような準拠すべき基準とし、それとのバランスで内閣総理大臣等の給与を決定することが適当である」との指摘がされている。
 ちなみに、答申では、職務と責任という視点から部長職を「100」とした場合の指数を目安として示せば、次のとおりになるとしている。区長「200」、副区長「150」、教育長「125」、議長「130」、副議長「110」、委員長「100」、副委員長「92」、議員「90」。
 各議員が、議員であるがゆえに、何かと忙しく活動していることは確かである。しかし、そのことをもって、実際の議員活動が「フルタイム勤務」と捉えてよいかどうかは検討の余地がある。議員も「フルタイム勤務」をしているから一般職員に適用される原則が同様に適用されるべきとすることは、議員職を常勤職とみなしていることになる。
 従来、自治体の議員については、地方自治法(以下「自治法」という)では「非常勤」扱いにしているかのような規定ぶりであった。それは誤解を与えるからということで、一般職の非常勤について包括的に規定していた自治法の203条を改正し、その1項で「普通地方公共団体は、その議会の議員に対し、議員報酬を支給しなければならない」と規定し直し、一般職の非常勤と混同されないように区別したのである。
 しかし、この自治法改正は、その反射として、議員職を常勤職として認めたというわけではないのである。住民が直接選挙で選ぶ議員を一般職になぞらえて、常勤、非常勤と規定すること自体が適切ではないからである。一般職の職員は、地方公務員法の適用を受け、常勤でも非常勤でも、その任命権者が設定した時間・場所において職務を遂行することになっており、その意味で「任命職」と呼びうる。これに対して、同じ地方公務員でも、公選職の特別職である議員を一般職員と比較することには無理がある。
 答申は、部長職との比較の根拠を議員が実際には「フルタイム勤務」をしていることの上に、内閣官房で設置された「幹部公務員の給与に関する有識者懇談会」の報告書の指摘を援用している。確かに、そこには「特別職の幹部公務員については、一般職と異なり、法律上、給与に関する民間準拠規定がないが、特別職の幹部公務員の給与水準についても、準拠すべき何らかの基準が必要である」とし、答申が引用した指摘がなされている。答申は、「この報告も参考にし、一般職の最上位である部長職を基準にして平均年収額を算出して、これを『100』とした場合の各職の指数を検証することとした」としている。
 しかし、内閣総理大臣や国務大臣の給与水準を、例えば一般職の最高位を準拠すべき基準として考えるとしているのは、議院内閣制の下で、内閣総理大臣もほとんどの国務大臣も国会議員でありつつ、幹部公務員のように内閣の活動(行政権の行使)を担っていることが前提となっているからである。だから、この報告書は、「幹部公務員の給与は、国会議員の歳費と比較した場合、在職期間に応じて俸給が日割計算される等、勤務に対する報酬としての性格が強く、また、兼業が原則としてできないことによる性格の違いも認められる。(国会議員の)歳費削減との関係においては、このような幹部公務員の給与の性格の違いに留意すべきである」と国会議員の歳費との違いを指摘している。国会議員の歳費も一般職の最高位を準拠にすべきなどとはいっていない。答申は、国が一元代表制を、自治体が二元代表制をとっているという代表制の違いを無視しているのではないか。
 公選職としての議員は、上司の下で時間的・場所的に管理される存在ではなく、住民の代表者として自律的に判断し、その責任を住民に対してとる政治家である。また、議員の職務は、住民を代表してその意思を当該自治体の政策運営に反映させるとともに、首長等の事務事業執行を監視するという目的を達成するために行われるものであるが、その活動が職務遂行であるかどうかを活動の行われる場所が議会内であるか否かによって判断されるべきではない。さらに、一般職の公務員の職務が一定の指揮監督の下において行われる活動を指すのに対し、議員の行う調査研究や住民意思把握のための活動は、当然のことながら指揮監督する者が存在せず、議員の個人の判断により行われていることから、一般的な公務の範囲と同列に論ずることは適当でないのである。
 公選職である首長と議員の責任と仕事量を、部長職を「100」とした場合の指数で比較することは見当違いであり、公選職の特性をないがしろにするものといわざるを得ないのではないか。一般職との比較が区民に分かりやすいとされているが、もし指数を使って議員報酬を考えるのであれば、同じ選挙によって選ばれる公選職としての首長の処遇との比較で行うべきである(この点については、2012年6月28日の三重県「議員報酬等に関する在り方調査会」答申「三重県議会議員の活動と議員報酬等のあり方~県民の期待・信頼に応えるために~」を参照)。

(2)政務活動費の一部を報酬へ組み込むことの理由と是非
 もうひとつの問題は「政務活動費の一部を報酬へ組み込む」とした点である。
 答申は、次のように指摘している。「確かに、政務活動費という性質上、これを支出することによって区政に生かされ、区民福祉が向上するということに繋がらなければならない。しかしながら、各議員がその職責を果たしているかどうか、あるいは区民にとってどのような活躍をしているかについて、政務活動費の使途や使用金額のみをもって評価することは不可能に近い。例えば、『千代田区議会政務活動費の交付に関する条例』に規定されているような使途である、1人5,000円以内の飲食費やタクシー料金、航空運賃、あるいは1物品10万円以上のパソコン、プリンター、ファクシミリ、カメラ等、領収書を公開するなど、その使途をどれだけ詳らかにしても、それらをもって当該個別議員が区政に貢献していると評価することにはかなり無理がある」。
 また、答申は、千代田区議会が設置している「政務調査研究費(現、政務活動費)交付額等審査会」が、2007年度に、「政務調査研究費の金額について、全国一律に特定の金額が妥当だとする結論を導くことはできない」、「議員・会派の活動が広範で多様であり、しかも、全国の各議会で活動状況は異なり流動的であるため、全国一律の基準はもちろん、各議会内においてさえ必要かつ十分な基準を定めることが困難になっている」と断じていることも取り上げ、「このような状況に鑑みると、政務活動費という制度そのものを廃止し、自分の報酬の中から自らの責任において支出をしていく時代へと向かっているとも言える」 と判断している。
 一方、答申は、「実態としては、個別議員の政務活動として使う部分と、会派としてしっかりと精算する部分が分かりづらくなっている上、個別議員の政務活動として使う場合の使い方については様々な考え方があり、区民にはわかりにくくなっている」とし、審議会においては、「報酬額、あるいは政務活動費などの適否のみではなく、各議員がそれぞれの職責を果たし、一年間活躍をするためにいくら必要なのか、という年収額を明らかにし、その額の適否を総合的に検証する必要があると判断した。そして、『指数』という新たな指標によって議員報酬が大幅に増額となる一方で、政務活動費そのものを大胆に削減するという考えで整理がなされた」とし、「こうした大胆な案によって、政務活動費に対する積年の課題に一石を投じることができたのではないかと考える」と自己評価(自賛)している。
 答申は、「ただし」として、「政務活動費の額を大幅に削減することによって、各議員の積極的な政務活動を阻害することを意図しているものではない。当審議会においては、各議員がその職責を果たすために必要な年収額は報酬等で保障するということを基本としている。なお、政務活動費の支出に際しては、区民に対する説明責任を果たすために、領収書や使途明細の随時公開など、これまで以上に透明性、公開性を高める取り組みが求められているのは言うまでもない」と指摘している。
 こうした答申の内容と考え方に対しては、以下のような疑問が生じる。
 ① 「政務活動費という制度そのものを廃止し、自分の報酬の中から自らの責任において支出をしていく時代へと向かっているとも言える」 かどうか。
 かつての自治法100条は、「普通地方公共団体は、条例の定めるところにより、その議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として、その議会における会派又は議員に対し、政務調査費を交付することができる」としていた。この規定は2000年に議員立法で新設され、多くの自治体が条例を定めて運用することになった。しかし、その使途に関して住民から批判が絶えない一方で、議員の間には、「調査」に関わらせていることが使途を窮屈にしているという不満が少なくなかった。地方議会三団体からは、この政務調査費については、(i)支出と調査研究活動の厳格な関連性が要求され、政務調査活動が自己抑制的になる傾向がある、(ii)住民への議員活動の成果の報告が政務調査費の対象となるかが微妙である、との理由から、「現行地方自治法上、調査研究活動に特化されている政務調査費制度を見直し、幅広い議員活動等に充てることができることを明確にするよう法改正を行うこと」という要望が自民党等に寄せられていた。そこで、「政務調査費」を「政務活動費」に改称し、交付の目的について自治法100条14項に「その他の活動」の6文字を付加して「議員の調査研究その他の活動に資するため」とする改正が行われたのである(2012年改正)。
 もともと、地方議員の間には、制約がなく自由に使える活動資金がほしいという根強い願望があり、政務調査費(政務活動費)もそのはずではないかという「誤解」があるように見える。だからこそ、「号泣県議」のような不明朗な使途が後を絶たないともいえる。
 確かに「議員の調査研究その他の活動に資する」ことになったから、使途が拡大し、例えば国などへの陳情活動や住民からの相談に関わる交通費などが認められることとなった。しかし、2012年改正によって、政党活動や後援会活動などの、いわゆる政治活動に自由に使えるお金を受給できることになったのではない。「政務活動費」に充てることができる経費の範囲は条例で定めなければならず、改めて「政務活動」とは何かを明確にしなければ、到底、住民の理解と支持は得られるはずはないのである。この点で、千代田区議会政務活動費の交付に関する条例はしかるべき内容を備えており、あえて変更しなければならない理由があるのだろうか。
 政務活動費をめぐる歴史的経緯について触れておきたい。かつて政務調査費が考えられたときに参考にされたのは国会議員に支給されていた「立法事務費」であった。それは、「国会が国の唯一の立法機関たる性質にかんがみ、国会議員の立法に関する調査研究の推進に資するため」である。自治法の100条に規定された「政務調査費」は「その議会の議員の調査研究に資するため」であった。「立法事務費」と「政務調査費」には似て非なるものがあり、政務調査費が議事機関(立法機関)としての地方議会の充実・強化を図ろうとしていたとは思えない。
 自治法上、「議員の調査研究」についての定義はなく、調査研究を「政務」に関わらせている趣旨も明確ではない。議員の調査研究といっても、その範囲は確定し難いし、調査研究を「政務」に関わらせながら、その「政務」とは何かが不明だからである。自治法で政務調査費を調査に関わらせていたということは、政策形成機能というより、首長等の事務事業の執行をめぐって、不透明なこと、不適切なこと、住民との関係で問題が発生していることなどの調査機能を想定したことをうかがわせる。したがって、自治体議会の会派ないし議員が政務調査費を受給しているからといって、それで政策発案の機能を行えという趣旨とは考えにくい。
 政務調査費(政務活動費)は、議員報酬と異なり、「交付することができる」というように、支給もその額も任意となっている。したがって、支給するのであれば、その理由を住民に十分説明できなければならない。私は、改めて政務活動費における「政務」の意味を、議会会派による政策の立案・決定・提言の機能に引き寄せて解釈し、その機能が適正に発揮される方向で政務活動費の使途を転換する必要があるのではないかと考える。使途の拡大ないし変更ではなく質の充実・強化が求められているのではないか。この点で、千代田区議会が、政務活動費を会派又は会派の一員として活動する経費に充てるものとし、「議員の個人活動に要する経費」を対象外にしているのはひとつの見識である。

 ② 「実態としては、個別議員の政務活動として使う部分と、会派としてしっかりと精算する部分が分かりづらくなっている」としている点はどう理解するのか。
 「千代田区議会政務活動費の交付に関する条例」によれば、政務活動費は、議員が会派又は会派の一員として活動する経費に充てるもので、条例に定める経費の範囲で支出することが義務づけられており、議員の個人活動に要する経費は政務活動費の対象とはなっていないのである。これは、議会における会派の役割を重視し、会派活動の実態を踏まえて、政務活動費を、「議会の政策立案・調査機能の強化及び議員の活動基盤強化を図るために交付するもの」と考えているからである。「政務活動費のうちおおよそ3分の2は、会派ではなく、個人の政務活動に使われていることが多い」ということは、条例が遵守されていないということになるのではないか。政務活動費が「個人の政務活動に使われている」ということと、政務活動費の対象にならない「議員の個人活動に要する経費」として使われていることとは、どこがどう違うのか。その異同がはっきりしない。
 政務活動費がせっかく設けられているのに使わない議員もいて、議員として行う活動を制約することになっている、それは好ましくないので、会派の部分は純然たる会派として使い、個人の部分はもう少し使いやすくするために、現在の15万円のうち10万円を報酬に組み込むというのが答申の趣旨となっている。どうやら、政務活動費を「議員個人の政務活動」に使おうとしても、使いにくい、使いにくいので使わない議員もいるというのである。本当に必要なら使うはずで、使わないのは必要がないからではないか。必要がなければ返還すればよい。もともと、政務活動費は「議会議員の調査研究その他の活動に資するために必要な経費の一部」であって、他に使える資金があり、それで十分ならば、政務活動費を使う必要はない。
 答申は、ただし書で、「政務活動費の額を大幅に削減することによって、各議員の積極的な政務活動を阻害することを意図しているものではない。当審議会においては、各議員がその職責を果たすために必要な年収額は報酬等で保障するということを基本としている」としているが、報酬への組込み分を含め議員報酬の使途は問われないから、政務活動費を使っていたときと比べて、どういう効果が生まれるか検証のしようがない。政治活動を含め自由に使える公費の支給が増えるだけである。これによって議会の政策形成機能が向上するのであろうか。支給が任意である政務活動費を、支給を義務づけている報酬に一部でも付け替えするのは、いかにも身勝手な公費支給目的の変更という印象を与える。
 また、「政務活動費の支出に際しては、区民に対する説明責任を果たすために、領収書や使途明細の随時公開など、これまで以上に透明性、公開性を高める取り組みが求められているのは言うまでもない」と指摘しているから、現行の条例を遵守し、政務活動に関しては「会派又は会派の一員としての活動」に徹すれば、政務活動費を報酬に付け替えなくともすむはずではないか。

(3)付替えによる議員報酬アップと議会の判断
 千代田区議会の議長は「答申に関しては、議会としては受け入れられない。これははっきり申し上げる。お金ですから。元は税金ですから。(報酬を)上げる、政務活動費絡みとなるとこれは社会が許してくれない。それはわれわれも襟を正さないといけない」と述べている(@TOKYO MX NEWS 「千代田区議の政務活動費 報酬に“上乗せ”答申…区議からは反発も 」2015年12月24日)。
 議会側は「政務活動費は議長の諮問事項であり、区長の諮問事項を逸脱しており、受け入れられない」とする議長名のコメントを出し、全会一致で反対を表明した。区長は、区議会2月定例会へ答申に沿った議案を提出することを見送った。
 今回の千代田区の場合は、わざわざ区長の諮問機関として「特別職報酬等審議会」を設置し、「等」で「政務活動費」の支給のあり方を検討できることにしたといわれるが、千代田区には、議会が設置した「政務活動費交付額等審査会」(任期3年)があり、有識者5名が委嘱されている。この審査会で検討し、その報告書を参考にして「特別職報酬等審議会」の審議が行われるのが順序というものではないか。

大森彌(東京大学名誉教授)

この記事の著者

大森彌(東京大学名誉教授)

東京大学名誉教授 1940年生まれ。東京大学大学院修了、法学博士。1984年東京大学教養学部教授、1996年東京大学大学院総合文化研究科教授、同年同研究科長・教養学部長、2000年東京大学定年退官、千葉大学法学部教授、東京大学名誉教授、2005年千葉大学定年退官。地方分権推進委員会専門委員(くらしづくり部会長)、日本行政学会理事長、自治体学会代表運営委員、川崎市行財政改革委員会会長、富山県行政改革推進会議会長代理、都道府県議長会都道府県議会制度研究会座長、内閣府独立行政法人評価委員会委員長等を歴任。社会保障審議会会長(介護給付費分科会会長)、地域活性化センター全国地域リーダー養成塾塾長、NPO地域ケア政策ネットワーク代表理事などを務める。著書に、『人口厳守時代を生き抜く自治体』(第一法規、2017年)、『自治体の長とそれを支える人びと』(第一法規、2016年)、『自治体職員再論』(ぎょうせい、2015年)、『政権交代と自治の潮流』(第一法規、2011年)、『変化に挑戦する自治体』(第一法規、2008年)、『官のシステム』(東京大学出版会、2006年)ほか。

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