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2016.02.25 議会運営

政務活動費と議員報酬――「千代田区特別職報酬等審議会」の答申

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(2)政務活動費の一部を報酬へ組み込むことの理由と是非
 もうひとつの問題は「政務活動費の一部を報酬へ組み込む」とした点である。
 答申は、次のように指摘している。「確かに、政務活動費という性質上、これを支出することによって区政に生かされ、区民福祉が向上するということに繋がらなければならない。しかしながら、各議員がその職責を果たしているかどうか、あるいは区民にとってどのような活躍をしているかについて、政務活動費の使途や使用金額のみをもって評価することは不可能に近い。例えば、『千代田区議会政務活動費の交付に関する条例』に規定されているような使途である、1人5,000円以内の飲食費やタクシー料金、航空運賃、あるいは1物品10万円以上のパソコン、プリンター、ファクシミリ、カメラ等、領収書を公開するなど、その使途をどれだけ詳らかにしても、それらをもって当該個別議員が区政に貢献していると評価することにはかなり無理がある」。
 また、答申は、千代田区議会が設置している「政務調査研究費(現、政務活動費)交付額等審査会」が、2007年度に、「政務調査研究費の金額について、全国一律に特定の金額が妥当だとする結論を導くことはできない」、「議員・会派の活動が広範で多様であり、しかも、全国の各議会で活動状況は異なり流動的であるため、全国一律の基準はもちろん、各議会内においてさえ必要かつ十分な基準を定めることが困難になっている」と断じていることも取り上げ、「このような状況に鑑みると、政務活動費という制度そのものを廃止し、自分の報酬の中から自らの責任において支出をしていく時代へと向かっているとも言える」 と判断している。
 一方、答申は、「実態としては、個別議員の政務活動として使う部分と、会派としてしっかりと精算する部分が分かりづらくなっている上、個別議員の政務活動として使う場合の使い方については様々な考え方があり、区民にはわかりにくくなっている」とし、審議会においては、「報酬額、あるいは政務活動費などの適否のみではなく、各議員がそれぞれの職責を果たし、一年間活躍をするためにいくら必要なのか、という年収額を明らかにし、その額の適否を総合的に検証する必要があると判断した。そして、『指数』という新たな指標によって議員報酬が大幅に増額となる一方で、政務活動費そのものを大胆に削減するという考えで整理がなされた」とし、「こうした大胆な案によって、政務活動費に対する積年の課題に一石を投じることができたのではないかと考える」と自己評価(自賛)している。
 答申は、「ただし」として、「政務活動費の額を大幅に削減することによって、各議員の積極的な政務活動を阻害することを意図しているものではない。当審議会においては、各議員がその職責を果たすために必要な年収額は報酬等で保障するということを基本としている。なお、政務活動費の支出に際しては、区民に対する説明責任を果たすために、領収書や使途明細の随時公開など、これまで以上に透明性、公開性を高める取り組みが求められているのは言うまでもない」と指摘している。
 こうした答申の内容と考え方に対しては、以下のような疑問が生じる。
 ① 「政務活動費という制度そのものを廃止し、自分の報酬の中から自らの責任において支出をしていく時代へと向かっているとも言える」 かどうか。
 かつての自治法100条は、「普通地方公共団体は、条例の定めるところにより、その議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として、その議会における会派又は議員に対し、政務調査費を交付することができる」としていた。この規定は2000年に議員立法で新設され、多くの自治体が条例を定めて運用することになった。しかし、その使途に関して住民から批判が絶えない一方で、議員の間には、「調査」に関わらせていることが使途を窮屈にしているという不満が少なくなかった。地方議会三団体からは、この政務調査費については、(i)支出と調査研究活動の厳格な関連性が要求され、政務調査活動が自己抑制的になる傾向がある、(ii)住民への議員活動の成果の報告が政務調査費の対象となるかが微妙である、との理由から、「現行地方自治法上、調査研究活動に特化されている政務調査費制度を見直し、幅広い議員活動等に充てることができることを明確にするよう法改正を行うこと」という要望が自民党等に寄せられていた。そこで、「政務調査費」を「政務活動費」に改称し、交付の目的について自治法100条14項に「その他の活動」の6文字を付加して「議員の調査研究その他の活動に資するため」とする改正が行われたのである(2012年改正)。
 もともと、地方議員の間には、制約がなく自由に使える活動資金がほしいという根強い願望があり、政務調査費(政務活動費)もそのはずではないかという「誤解」があるように見える。だからこそ、「号泣県議」のような不明朗な使途が後を絶たないともいえる。
 確かに「議員の調査研究その他の活動に資する」ことになったから、使途が拡大し、例えば国などへの陳情活動や住民からの相談に関わる交通費などが認められることとなった。しかし、2012年改正によって、政党活動や後援会活動などの、いわゆる政治活動に自由に使えるお金を受給できることになったのではない。「政務活動費」に充てることができる経費の範囲は条例で定めなければならず、改めて「政務活動」とは何かを明確にしなければ、到底、住民の理解と支持は得られるはずはないのである。この点で、千代田区議会政務活動費の交付に関する条例はしかるべき内容を備えており、あえて変更しなければならない理由があるのだろうか。
 政務活動費をめぐる歴史的経緯について触れておきたい。かつて政務調査費が考えられたときに参考にされたのは国会議員に支給されていた「立法事務費」であった。それは、「国会が国の唯一の立法機関たる性質にかんがみ、国会議員の立法に関する調査研究の推進に資するため」である。自治法の100条に規定された「政務調査費」は「その議会の議員の調査研究に資するため」であった。「立法事務費」と「政務調査費」には似て非なるものがあり、政務調査費が議事機関(立法機関)としての地方議会の充実・強化を図ろうとしていたとは思えない。
 自治法上、「議員の調査研究」についての定義はなく、調査研究を「政務」に関わらせている趣旨も明確ではない。議員の調査研究といっても、その範囲は確定し難いし、調査研究を「政務」に関わらせながら、その「政務」とは何かが不明だからである。自治法で政務調査費を調査に関わらせていたということは、政策形成機能というより、首長等の事務事業の執行をめぐって、不透明なこと、不適切なこと、住民との関係で問題が発生していることなどの調査機能を想定したことをうかがわせる。したがって、自治体議会の会派ないし議員が政務調査費を受給しているからといって、それで政策発案の機能を行えという趣旨とは考えにくい。
 政務調査費(政務活動費)は、議員報酬と異なり、「交付することができる」というように、支給もその額も任意となっている。したがって、支給するのであれば、その理由を住民に十分説明できなければならない。私は、改めて政務活動費における「政務」の意味を、議会会派による政策の立案・決定・提言の機能に引き寄せて解釈し、その機能が適正に発揮される方向で政務活動費の使途を転換する必要があるのではないかと考える。使途の拡大ないし変更ではなく質の充実・強化が求められているのではないか。この点で、千代田区議会が、政務活動費を会派又は会派の一員として活動する経費に充てるものとし、「議員の個人活動に要する経費」を対象外にしているのはひとつの見識である。

大森彌(東京大学名誉教授)

この記事の著者

大森彌(東京大学名誉教授)

東京大学名誉教授 1940年生まれ。東京大学大学院修了、法学博士。1984年東京大学教養学部教授、1996年東京大学大学院総合文化研究科教授、同年同研究科長・教養学部長、2000年東京大学定年退官、千葉大学法学部教授、東京大学名誉教授、2005年千葉大学定年退官。地方分権推進委員会専門委員(くらしづくり部会長)、日本行政学会理事長、自治体学会代表運営委員、川崎市行財政改革委員会会長、富山県行政改革推進会議会長代理、都道府県議長会都道府県議会制度研究会座長、内閣府独立行政法人評価委員会委員長等を歴任。社会保障審議会会長(介護給付費分科会会長)、地域活性化センター全国地域リーダー養成塾塾長、NPO地域ケア政策ネットワーク代表理事などを務める。著書に、『人口厳守時代を生き抜く自治体』(第一法規、2017年)、『自治体の長とそれを支える人びと』(第一法規、2016年)、『自治体職員再論』(ぎょうせい、2015年)、『政権交代と自治の潮流』(第一法規、2011年)、『変化に挑戦する自治体』(第一法規、2008年)、『官のシステム』(東京大学出版会、2006年)ほか。

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