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2016.02.25 議会運営

政務活動費と議員報酬――「千代田区特別職報酬等審議会」の答申

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審議会の考え方と問題点

 政務活動費を減額してその分を議員報酬に付け替える審議会の案は、どのような考え方に基づいていたのか、それを答申内容から検討しよう。

(1)議員職はフルタイム勤務(常勤職)か――部長職との比較
 まず、特別職の各職の職責と仕事量に見合う額を検討するためには、給料月額、報酬月額のみでは不十分で、その他の収入を含めて総合的に検証する必要があるとしている(年収ベースでの検討)。問題は、この各職の責任と仕事量について、「一般職の最高位である部長職を『100』とした場合の指数」で比較検証するとしていることである。
 その理由は、「特別職においても、その勤務実態がいわゆるフルタイム勤務であることを前提とするならば、一般職員に適用される原則が同様に適用されるべきであると考えられる。また、各職の責任と仕事量に見合う額について区民にわかりやすく示すためには、一般職との比較で示すことが望ましい」からだとしている。
 議員活動については「各議員によって活動実態に幅があるものの、公式の会議、委員会等が年間130日程度開催され、かつ、これらの会議等に出席するための準備に要する時間が必要となっている。また、区長と同様に各種行事等への参加も慣例的に行われている。その他日常的に行われているのが、区民等からの生活相談である。これは土日、夜間に関係なく、プライバシー性の強いものや、地域事情を知らないと対応できない相談が多いことから、区役所ではなく議員へ相談が持ちかけられることが多い。このため、実際の年間活動日数は200日~300日近くになるとの意見も出されている」としている。
 審議の過程においては、「議員報酬以外の収入を得ているかどうか、あるいは議員活動そのものをボランティアとして行うべきかどうかという議論もなされたが、形式的には非常勤とはいえ、年間を通じてこれだけの活動実態があることに加え、議会としては幅広く、多様な方々によって構成されなければならず、むしろ議員活動に専念し、報酬に見合うだけの職責を果たしてもらいたいとの意見も出された」ことを付け加えている。
 その上で、答申が援用したのは、内閣官房で設置された「幹部公務員の給与に関する有識者懇談会」が2004年3月31日にまとめた報告書である。そこでは「内閣総理大臣や国務大臣の給与水準は、必ずしも民間企業の役員と単純に比較できるものではないので、人事院勧告に基づき決定される一般職の幹部公務員の給与水準、例えば一般職の最高位をこのような準拠すべき基準とし、それとのバランスで内閣総理大臣等の給与を決定することが適当である」との指摘がされている。
 ちなみに、答申では、職務と責任という視点から部長職を「100」とした場合の指数を目安として示せば、次のとおりになるとしている。区長「200」、副区長「150」、教育長「125」、議長「130」、副議長「110」、委員長「100」、副委員長「92」、議員「90」。
 各議員が、議員であるがゆえに、何かと忙しく活動していることは確かである。しかし、そのことをもって、実際の議員活動が「フルタイム勤務」と捉えてよいかどうかは検討の余地がある。議員も「フルタイム勤務」をしているから一般職員に適用される原則が同様に適用されるべきとすることは、議員職を常勤職とみなしていることになる。
 従来、自治体の議員については、地方自治法(以下「自治法」という)では「非常勤」扱いにしているかのような規定ぶりであった。それは誤解を与えるからということで、一般職の非常勤について包括的に規定していた自治法の203条を改正し、その1項で「普通地方公共団体は、その議会の議員に対し、議員報酬を支給しなければならない」と規定し直し、一般職の非常勤と混同されないように区別したのである。
 しかし、この自治法改正は、その反射として、議員職を常勤職として認めたというわけではないのである。住民が直接選挙で選ぶ議員を一般職になぞらえて、常勤、非常勤と規定すること自体が適切ではないからである。一般職の職員は、地方公務員法の適用を受け、常勤でも非常勤でも、その任命権者が設定した時間・場所において職務を遂行することになっており、その意味で「任命職」と呼びうる。これに対して、同じ地方公務員でも、公選職の特別職である議員を一般職員と比較することには無理がある。
 答申は、部長職との比較の根拠を議員が実際には「フルタイム勤務」をしていることの上に、内閣官房で設置された「幹部公務員の給与に関する有識者懇談会」の報告書の指摘を援用している。確かに、そこには「特別職の幹部公務員については、一般職と異なり、法律上、給与に関する民間準拠規定がないが、特別職の幹部公務員の給与水準についても、準拠すべき何らかの基準が必要である」とし、答申が引用した指摘がなされている。答申は、「この報告も参考にし、一般職の最上位である部長職を基準にして平均年収額を算出して、これを『100』とした場合の各職の指数を検証することとした」としている。
 しかし、内閣総理大臣や国務大臣の給与水準を、例えば一般職の最高位を準拠すべき基準として考えるとしているのは、議院内閣制の下で、内閣総理大臣もほとんどの国務大臣も国会議員でありつつ、幹部公務員のように内閣の活動(行政権の行使)を担っていることが前提となっているからである。だから、この報告書は、「幹部公務員の給与は、国会議員の歳費と比較した場合、在職期間に応じて俸給が日割計算される等、勤務に対する報酬としての性格が強く、また、兼業が原則としてできないことによる性格の違いも認められる。(国会議員の)歳費削減との関係においては、このような幹部公務員の給与の性格の違いに留意すべきである」と国会議員の歳費との違いを指摘している。国会議員の歳費も一般職の最高位を準拠にすべきなどとはいっていない。答申は、国が一元代表制を、自治体が二元代表制をとっているという代表制の違いを無視しているのではないか。
 公選職としての議員は、上司の下で時間的・場所的に管理される存在ではなく、住民の代表者として自律的に判断し、その責任を住民に対してとる政治家である。また、議員の職務は、住民を代表してその意思を当該自治体の政策運営に反映させるとともに、首長等の事務事業執行を監視するという目的を達成するために行われるものであるが、その活動が職務遂行であるかどうかを活動の行われる場所が議会内であるか否かによって判断されるべきではない。さらに、一般職の公務員の職務が一定の指揮監督の下において行われる活動を指すのに対し、議員の行う調査研究や住民意思把握のための活動は、当然のことながら指揮監督する者が存在せず、議員の個人の判断により行われていることから、一般的な公務の範囲と同列に論ずることは適当でないのである。
 公選職である首長と議員の責任と仕事量を、部長職を「100」とした場合の指数で比較することは見当違いであり、公選職の特性をないがしろにするものといわざるを得ないのではないか。一般職との比較が区民に分かりやすいとされているが、もし指数を使って議員報酬を考えるのであれば、同じ選挙によって選ばれる公選職としての首長の処遇との比較で行うべきである(この点については、2012年6月28日の三重県「議員報酬等に関する在り方調査会」答申「三重県議会議員の活動と議員報酬等のあり方~県民の期待・信頼に応えるために~」を参照)。

大森彌(東京大学名誉教授)

この記事の著者

大森彌(東京大学名誉教授)

東京大学名誉教授 1940年生まれ。東京大学大学院修了、法学博士。1984年東京大学教養学部教授、1996年東京大学大学院総合文化研究科教授、同年同研究科長・教養学部長、2000年東京大学定年退官、千葉大学法学部教授、東京大学名誉教授、2005年千葉大学定年退官。地方分権推進委員会専門委員(くらしづくり部会長)、日本行政学会理事長、自治体学会代表運営委員、川崎市行財政改革委員会会長、富山県行政改革推進会議会長代理、都道府県議長会都道府県議会制度研究会座長、内閣府独立行政法人評価委員会委員長等を歴任。社会保障審議会会長(介護給付費分科会会長)、地域活性化センター全国地域リーダー養成塾塾長、NPO地域ケア政策ネットワーク代表理事などを務める。著書に、『人口厳守時代を生き抜く自治体』(第一法規、2017年)、『自治体の長とそれを支える人びと』(第一法規、2016年)、『自治体職員再論』(ぎょうせい、2015年)、『政権交代と自治の潮流』(第一法規、2011年)、『変化に挑戦する自治体』(第一法規、2008年)、『官のシステム』(東京大学出版会、2006年)ほか。

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