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2016.02.25 議会運営

政務活動費と議員報酬――「千代田区特別職報酬等審議会」の答申

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 ② 「実態としては、個別議員の政務活動として使う部分と、会派としてしっかりと精算する部分が分かりづらくなっている」としている点はどう理解するのか。
 「千代田区議会政務活動費の交付に関する条例」によれば、政務活動費は、議員が会派又は会派の一員として活動する経費に充てるもので、条例に定める経費の範囲で支出することが義務づけられており、議員の個人活動に要する経費は政務活動費の対象とはなっていないのである。これは、議会における会派の役割を重視し、会派活動の実態を踏まえて、政務活動費を、「議会の政策立案・調査機能の強化及び議員の活動基盤強化を図るために交付するもの」と考えているからである。「政務活動費のうちおおよそ3分の2は、会派ではなく、個人の政務活動に使われていることが多い」ということは、条例が遵守されていないということになるのではないか。政務活動費が「個人の政務活動に使われている」ということと、政務活動費の対象にならない「議員の個人活動に要する経費」として使われていることとは、どこがどう違うのか。その異同がはっきりしない。
 政務活動費がせっかく設けられているのに使わない議員もいて、議員として行う活動を制約することになっている、それは好ましくないので、会派の部分は純然たる会派として使い、個人の部分はもう少し使いやすくするために、現在の15万円のうち10万円を報酬に組み込むというのが答申の趣旨となっている。どうやら、政務活動費を「議員個人の政務活動」に使おうとしても、使いにくい、使いにくいので使わない議員もいるというのである。本当に必要なら使うはずで、使わないのは必要がないからではないか。必要がなければ返還すればよい。もともと、政務活動費は「議会議員の調査研究その他の活動に資するために必要な経費の一部」であって、他に使える資金があり、それで十分ならば、政務活動費を使う必要はない。
 答申は、ただし書で、「政務活動費の額を大幅に削減することによって、各議員の積極的な政務活動を阻害することを意図しているものではない。当審議会においては、各議員がその職責を果たすために必要な年収額は報酬等で保障するということを基本としている」としているが、報酬への組込み分を含め議員報酬の使途は問われないから、政務活動費を使っていたときと比べて、どういう効果が生まれるか検証のしようがない。政治活動を含め自由に使える公費の支給が増えるだけである。これによって議会の政策形成機能が向上するのであろうか。支給が任意である政務活動費を、支給を義務づけている報酬に一部でも付け替えするのは、いかにも身勝手な公費支給目的の変更という印象を与える。
 また、「政務活動費の支出に際しては、区民に対する説明責任を果たすために、領収書や使途明細の随時公開など、これまで以上に透明性、公開性を高める取り組みが求められているのは言うまでもない」と指摘しているから、現行の条例を遵守し、政務活動に関しては「会派又は会派の一員としての活動」に徹すれば、政務活動費を報酬に付け替えなくともすむはずではないか。

(3)付替えによる議員報酬アップと議会の判断
 千代田区議会の議長は「答申に関しては、議会としては受け入れられない。これははっきり申し上げる。お金ですから。元は税金ですから。(報酬を)上げる、政務活動費絡みとなるとこれは社会が許してくれない。それはわれわれも襟を正さないといけない」と述べている(@TOKYO MX NEWS 「千代田区議の政務活動費 報酬に“上乗せ”答申…区議からは反発も 」2015年12月24日)。
 議会側は「政務活動費は議長の諮問事項であり、区長の諮問事項を逸脱しており、受け入れられない」とする議長名のコメントを出し、全会一致で反対を表明した。区長は、区議会2月定例会へ答申に沿った議案を提出することを見送った。
 今回の千代田区の場合は、わざわざ区長の諮問機関として「特別職報酬等審議会」を設置し、「等」で「政務活動費」の支給のあり方を検討できることにしたといわれるが、千代田区には、議会が設置した「政務活動費交付額等審査会」(任期3年)があり、有識者5名が委嘱されている。この審査会で検討し、その報告書を参考にして「特別職報酬等審議会」の審議が行われるのが順序というものではないか。

大森彌(東京大学名誉教授)

この記事の著者

大森彌(東京大学名誉教授)

東京大学名誉教授 1940年生まれ。東京大学大学院修了、法学博士。1984年東京大学教養学部教授、1996年東京大学大学院総合文化研究科教授、同年同研究科長・教養学部長、2000年東京大学定年退官、千葉大学法学部教授、東京大学名誉教授、2005年千葉大学定年退官。地方分権推進委員会専門委員(くらしづくり部会長)、日本行政学会理事長、自治体学会代表運営委員、川崎市行財政改革委員会会長、富山県行政改革推進会議会長代理、都道府県議長会都道府県議会制度研究会座長、内閣府独立行政法人評価委員会委員長等を歴任。社会保障審議会会長(介護給付費分科会会長)、地域活性化センター全国地域リーダー養成塾塾長、NPO地域ケア政策ネットワーク代表理事などを務める。著書に、『人口厳守時代を生き抜く自治体』(第一法規、2017年)、『自治体の長とそれを支える人びと』(第一法規、2016年)、『自治体職員再論』(ぎょうせい、2015年)、『政権交代と自治の潮流』(第一法規、2011年)、『変化に挑戦する自治体』(第一法規、2008年)、『官のシステム』(東京大学出版会、2006年)ほか。

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