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2016.02.10 議員活動

頑張った人が報われる社会に~多様な価値観を政治の世界に~

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川崎市議会議員 小田理恵子

多くの国民は政治家をどう見ているのか

 「どうせ票目当てなんでしょ?」
 地方議員になって1年目のことです。地域の子育て環境の実態を知りたくて頼み込んで参加させてもらったある会で、私と同年代の女性から言われた言葉です。そんな気持ちは一切ありませんでしたので、そう思われてしまったことは残念でしたし、何より腹を割って話ができないことへのもどかしさを感じました。

小田理恵子議員小田理恵子議員

 議員になってからというもの、会社員や主婦、自営業者などの政治とは縁の薄い方々の声を拾うべく、議員と付き合いのない場所へと足を運ぶように努めていますが、地方議会議員という名の政治家である私に懐疑的な目を向ける方や、拒絶反応を示す方は非常に多いのが現実です。政治に対し不信感やアレルギーを持っている人がいかに多いかということを日々思い知らされていますが、議員になる前、私が政治家に対して抱いていたイメージも、彼らと同じようなものでしたので、こうして拒絶されても「そうだよな…」と納得してしまう自分がいます。
 しかし、一方、普段から地方政治に密接なかかわりがある地域の団体や組織の方々はそうではありません。自分たちのイベントや会合へ地方議員を積極的に招待してくださいますし、常にかかわろうとしてきます。そして、そこで自分たちの意見や要望を地方議員に伝える努力を欠かしません。ここでは少なくとも拒絶されることはありませんし、むしろ尊重してくださいますから居心地がよいのです。
 さて、地方議員の活動を「普通に」続けていると、かかわりが持てるのは後者の方々ばかりです。イベントや会議で連日同じ方と顔を合わせることはよくある話です。気がつけば、いつもほんの一部の人の意見ばかり聞いているという状況に陥ってしまっているのが、地方議員の現状です。議員のいう「地域の声をお聞きしました」のほとんどは、こうした方々の声なのです。
 ですから、地方議会議員として慣例どおりの動きをしているだけでは、実は多くの方が政治に不信感を持っていて、政治家自身も嫌われているということに、実感を持って気づくことはないだろうと感じます。狭い社会の中で自分たちに都合のよい環境にとどまり続けた結果、それ以外の多くの国民・市民とのかかわりをなくしてしまい、ガラパゴス的な価値観を醸成してきたのが今の政治業界なのです。

ダイバーシティ(多様化)の実現は、まず女性議員を増やすことから

 しかし、それはとても危険なことです。国政選挙や地方選挙の投票率は年々低下し続けています。多くの人は政治に期待もしていなければ興味もないということの表れです。このままでは、政治は国民・市民から完全に見放されてしまいます。そうなったときに、この国はどうなってしまうのでしょう?
 私たち議員は、この狭い「政治島」を抜け出し、より多くの島の外の市民と交流することで感覚を同じくし、その価値観を政治の場に持ち込む必要があると考えます。つまり、市民目線の政治です。
 そして、政治を市民目線に変えていくために必要なこと、それは政治の世界にダイバーシティ(多様化)をもたらすことであると考えます。今は一部の人間の価値観しか共有していない政治から、多様な価値観やバックグラウンドを持つ議員を増やしていく必要があるのです。そのための第一歩は、少数派の中で最も多数派である女性の数を増やすことです。全国における女性議員の割合は約1割にすぎません。私の所属する川崎市議会の女性議員の数は60人中11人と18%で平均よりは高いものの、半分には程遠いのが現状です。
 人口の約半分は女性であるにもかかわらず、政治の世界では女性はマイノリティなのです。ここから変えていかねば、さらに少数派の人々を受け入れる土壌などできようはずがありません。
 女性議員の数を増やすことは政治を市民の手に取り戻す第一歩であると、今はそう考えています。しかし、そのように考えるようになったのは、議員になってしばらくたってからです。次に、なぜそう考えるようになったのか、その理由について説明します。

民間企業とのあまりの違いに驚がくし、市政を志す

 私は大学卒業後、ずっと会社員として働いてきました。漠然とですが、ずっとこのまま定年まで民間企業で働いていくものだと考えていました。
 そんな私に転機が訪れたのは2010年の春、初めて自治体相手のプロジェクトに従事したことがきっかけです。当時私は、総合電機メーカーで顧客向けの人事系のシステム企画や制度設計業務に従事していました。顧客はすべて民間企業で、その多くが製造業でした。日本の製造業はグローバル化の中で厳しい競争にさらされています。国際競争に打ち勝つため、1円たりとも無駄にしないよう常に業務プロセスや組織制度の改善・改革を行っているのです。私は長年、評価制度や報酬制度、業務プロセスの現状を整理し、その上で新しい制度やシステムの提案を行っていたため、企業の改革や合理化が他と比べてどの程度進んでいるのかを知ることができる環境にいました。
 さて、そんな私から見て、自治体は理解し難い異質な業界でした。仕事のやり方、お金の使い方、社会保障などの人事制度の仕組みなど、民間企業からしたら考えられないほど「ぬるい」世界だったのです。「なぜこんなひどい状況なのか?」若干の憤りとともに地方自治に興味を持ち、調べるうちに、日本の自治体の置かれている厳しい状況や根深い問題の数々を知り、この国の将来に危機感を感じ『何とかしないと!』との思いから、翌2011年4月の統一地方選挙で市議会議員に立候補し、政治の世界のことなど何も知らないままに川崎市議会議員となりました。今振り返ればお恥ずかしい限りですが、まさに、勢いで突っ走った結果、議員となった今の自分があるのです。

(著書『ここが変だよ地方議員』萌書房、2015年より)(著書『ここが変だよ地方議員』萌書房、2015年より)

目の前に立ちふさがる政治業界の壁

 さて、市の行財政改革に取り組むべく地方議員になってからしばらくして、ふと周囲を見回してみたところ、私のように政治の世界に全く関係ない分野から入ってきた人間が非常に少ないということに気づきました。ほとんどの議員が政治業界の関係者ばかりだったのです。多くは二世・三世議員や議員秘書、そして政治に密接な関係を持つ団体に所属している人ばかりでした。
 それはどこの会派(政党)も同様で、当時私は「第三極」と呼ばれる新興の改革政党に属していましたが、そこに所属する議員ですら、6人中4人が議員秘書経験者といった状況でした。
 会派では、この業界の先輩である彼らから様々なことを教えてもらいました。選挙のセオリーや地元での付き合い方、支援者の獲得方法などです。しかし、そうした話を聞く中で「地方議員の仕事とは一体何なのだろう?」と疑問に思うようになりました。
 二元代表制の下、地方議会議員に求められる役割は「行政のチェック」と「政策への提言」です。多岐にわたる行政サービスの運用や税金の使途を調査するだけでも、朝から晩まで働いても時間が足りないくらいです。
 しかし、実際には多くの議員が、一部の団体や組織による地域の会合やイベント・地域の祭りや運動会や餅つきなど人の集まる行事への参加、所属している国政政党の支持率獲得のための政治活動や選挙活動、支援者の獲得と維持のためのイベントや旅行の準備などに日々多大な時間を費やしていました。
 政策こそまじめに行うべきものであり、そうすればおのずと市民からの支持は得られるはずだ、と訴えても、皆「それは正論だ。しかし、選挙で勝たねば何も成し遂げられない」と口をそろえて言います。
 確かにそうでしょう。しかし、選挙に勝つことが目的化しすぎて、本来なすべきことがなおざりになってしまっているとも感じます。政策をまじめにやろうと志した人間ですら、こうした業界の中で生き残るために(彼らいわく)意に沿わない活動に多くの時間を割いており、「こんな状況はおかしい、変えるべきだ」と声を上げることはしないのです。
 また、もうひとつおかしいと思ったことがあります。それは、「国政政党の対立関係を地方議会に持ち込みすぎている」ということです。繰り返しになりますが、地方議会は二元代表制を採用しています。二元代表制とは、行政(市長)と議会が相互にけん制し合うことで、健全な市の運営を実現する仕組みです。議院内閣制である国会とは根本的に異なる点は、対峙(たいじ)すべきは行政や市長であり、対立する政党ではないということです。しかしながら、地方議会の会派はまるでミニ国会のように、会派(政党)が混じり合うことはありません。議会内部で国政政党の代理戦争を行っているのですから、二元代表制の意図した議会の機能が働いているとは言い難い状況です。

https://www.facebook.com/odarieko/about ©小田理恵子https://www.facebook.com/odarieko/about ©小田理恵子

女性議員という存在

 こうして目の当たりにした現実に私は、「政治がここまで機能していないのでは、この国の未来に希望が持てない」と、議員1年目の夏には絶望的な気持ちになっていました。
 そんな折、私と同時期に議員となった会社経営者の女性議員が、私と全く同じ考えや苦悩を抱えていることが分かりました。お互いに所属する会派も政党も異なりましたが、「この世界はおかしい」、それが2人の共通認識でした。そして、せめて地方議会から変えていこうと、合同で市政報告会を開催したり、超党派の勉強会を立ち上げたりしました。この勉強会は後に、議会における超党派活動のきっかけのひとつとなりました。
 しかし、その前途は多難でした。私も彼女も自分の組織の中では「組織の意に沿わない変わり者」として認識されていました。自分の理想とする、本来あるべき政治の姿を追求することが、なぜか「空気の読めない存在」として敵をつくることにつながっていったのです。周囲に合わせて同じように動けば、どれだけ楽だったでしょうか。しかし、それをやってしまったら、自分が議員になった意味がなくなる。だから絶対に屈しないでいよう、そう励まし合いながら議員を続けてきました。

©小田理恵子©小田理恵子

変えるのは女性、維持するのは男性

 さて、政治の世界で生きていくうちに、組織や課題への接し方について、男性議員と女性議員では異なる傾向があると考えるようになりました。例えば、前述の超党派の勉強会は小さな取組として始まりました。それを議会横断的にしたいと考えた結果、それを快く受け入れてくれたのが中堅のある女性議員です。そして、その女性議員が中心となって超党派のプロジェクトが発足し、議会全体の流れとなりました。組織の力関係や上下関係には目をつむり、課題に対する必要性から理性的かつ合理的に判断してくださったのです。個人の資質が大きいのはいうまでもありせんが、仮にこれが男性議員相手であった場合、あの当時、ここまで受け入れてくださることはなかったであろうと思います。
 前期4年間に、市議会のみならず国会や県議会、自分の所属政党や他の政党の多くの議員と接してきましたが、その中で「変えるのは女性議員で、維持するのは男性議員である」と実感しています。
 一般的には逆のイメージでしょうが、政治の世界に入り、実はそうではないことを思い知りました。
 女性議員は、駄目なものは駄目だと思ったら、たとえそれが組織の論理でも抵抗します。男性議員の場合、最後は組織に従います。最後までテコでも動かないのは、ほとんど女性議員なのです。
 「これだから女性議員は」と言われる原因は、ここにあると考えています。しかし、これは悪いことばかりではありません、一見、我が強いトラブルメーカーに思えるこの性質は、組織の腐敗を防ぐ役割も持っているからです。
 上下関係が厳しく、おかしいと思っても、それを誰も口に出せない組織があるとしましょう。皆さんは、そんな組織をどう思いますか?
 実は、これが今の政治の世界です。国民全体から見たときに、ほんの一握りの人だけで構成されている狭い社会の中で、誰も異を唱えず、組織の自己改革能力は失われ、気がつけば国民から、はるか遠いところに存在してしまっているのです。地方議員は国政政党や国会議員の下部組織として、そして国会内部は政治力学によって「言いたいことも言えない」、自分の意見を言うとすれば「離党」や「更迭」を覚悟したときだけ、それが今の政治の世界です。
 しかし、女性議員はそんなことは意に介さずに「それはおかしい」と口に出します。駄目だと思うことを放置する自分が許せないのです。そうして組織の理不尽と戦い、結果押しつぶされてきた女性議員を、党派に限らず数多く見てきました。今はマイノリティであるがゆえに、その声は政治の中枢には届いていません。志ある女性議員たちが声を上げるたびに、少数派であるが故に排除されるのが常です。
 しかし、女性議員の数が人口と同じ半分まで増えれば、発言力を得た女性たちによる自浄能力が発揮されるようになり、政治の世界は変わるのです。女性議員の特徴は、異なる価値観や立場でもフラットに対話できることと、悪いことを悪いと口に出すことです。上下関係の中で、組織の論理に従い組織を維持し強固にしていこうとする男性と、フラットな関係の中で、自分の価値観に従い組織を変えようとする女性、この両方が均衡し、せめぎ合うことで政治の世界が崩壊も腐敗もしないでしょう。
 今は、女性議員の数が少ないために後者の役割が機能していません。そのために国民から見て、いつまでたっても政治がよくならないのではないでしょうか? 異なる価値観を持つ代表が政策的な議論と対話の中で、最も多くの人間に望まれる未来をつくっていくこと、それがこれからの政治の世界に不可欠な要素であると考えています。

自治体を超えた女性議員の連携でマニフェスト大賞に

 最後に、前例やしがらみを超えた取組の成果のひとつをご紹介します。
 2014〜2015年に東京都議会議員の田中朝子氏と共同で保育所入所申請者数や待機児童数の調査を行い、隠れ待機児童とも呼べる実態を明らかにした活動が評価され、2015年11月にマニフェスト大賞の政策提言部門にて、審査委員会特別賞をいただきました。
 田中朝子都議と協力し、特別区と政令市の43自治体の保育所申請/入所状況について調査した結果、待機児童の数え方は自治体によってバラバラであり、公称の待機児童数の少ない自治体ほど、いわゆる「隠れ待機児童」が多いという逆転現象を発見したのです。本結果を受けて、お互いの自治体で議会質問や担当者への提言を通して「待機児童数が実態を表してはいないことへの対応」と「保育需要を正確につかんだ上での保育諸施策の実施」を求めると同時に、現行では除外されている潜在的ニーズを併記するよう、国から各自治体へ要請することを求める要望書を衆議院議員へ提出しました。また、この要望を受け代議士が衆議院厚生労働委員会にて質問してくださり、その結果、2015年4月時点での待機児童を50人以上出した自治体に対し、国からカウント方法の調査が入ったことを確認しています。
 今回のマニフェスト大賞では、過去最高の2,467件1,433団体の応募があったとのことです。その中で受賞となった理由のひとつに「異なる自治体の議員の連携」がありました。マニフェスト大賞で異なる自治体の議員の受賞は初めてであったとのことで、2人のインタビュー記事の載せ方など、どうすべきか協議が持たれたとも聞いています。
 待機児童問題(隠れ待機児童問題)は、東京都と川崎市だけの問題ではなく、全国の都市部の課題です。ですから、別の自治体の議員にも所属政党などに関係なく、求められればデータを渡しています。多くの自治体で取り上げてもらった方が解決に近づけるでしょうし、またそれぞれの議員が同じ調査を行うのも非効率です。ゆくゆくは、自分の得意とするテーマの調査研究を全国の自治体の議員と共有できるようになればと考えています。
 地方議員は国会議員とは異なり政策秘書を持たず、政務調査に使える予算も微々たるものですから、議員ひとりの政務調査能力には限界があると感じています。待機児童問題以外でも異なる自治体で同じ課題を抱えるケースは多くありますから、複数の地方議員が連携して政策課題に取り組むことで「地方議員の政策立案」、「提言能力」を今よりずっと高めることができるのではないかと考えています。

(著書『ここが変だよ地方議員』萌書房、2015年より)(著書『ここが変だよ地方議員』萌書房、2015年より)

小田理恵子

この記事の著者

小田理恵子

川崎市議会議員 明治大学法学部卒業。前職は総合電機メーカーにて人事・人材育成関連のITコンサルティングに従事。2010年に初めて自治体相手の仕事にプロジェクトのチームリーダーとして参画し自治体の抱える多くの課題を知ったことから、「市民目線の行政」を実現するため、市議会議員に立候補して2011年に初当選し、現在2期目。 住民自治の推進を目指し、自治体業務や予算の見える化を推進。政策面では、若者施策や子育て施策に注力している。昨年のマニフェスト大賞の政策提言部門で、都市部の「隠れ待機児童問題」への取組が評価され審査委員会特別賞を受賞。 文中のイラストの出典となった著書『ここが変だよ地方議員』は、号泣議員に政務活動費の私的流用……、地方議員の不祥事が紙誌面をにぎわす昨今、会社員から川崎市議会議員へと転身した著者が、地方議員や議会の「?」や「!」を、4コマ漫画とエッセイで市民にお知らせしようと立ち上げたホームページの記事をまとめた一冊。「怒り心頭」、「抱腹絶倒」の議員・議会の実態がよく分かると全国で好評発売中(萌〈きざす〉書房、2015年3月刊)。

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