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2014.11.10 政策研究

権利の上に眠るな~今振り返る市川房枝の取組とその現代的意義~

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婦人参政権獲得運動からのメッセージ

 1983年、市川房枝記念事業の一環として、婦選会館2階に常設の市川房枝記念展示室を設置した。2012年には60インチ大型モニターを入れて視聴覚コーナーを整備するなど、大幅な改装工事をしたが、生涯年譜をベースに、婦選獲得運動の史資料や遺品、写真パネルなどを該当する年代に展示し、「目で見る日本の婦人参政権獲得運動史」の構成、コンセプトは変わらない。
 昨年は神奈川県の男子校の高校3年生50人が見学に訪れ、今年は前述の劇団青年座の団員が上演を前に市川の実像を学ぶために来室した。このほか、全国から女性たちの国内研修や、タウンウォーキングのグループ、卒論準備のための学生や、歴史の授業準備のために訪れる教師など、国内外からの見学者が後を絶たない。
 展示ケースに陳列されている、当時の運動の請願書、チラシ、日記、書簡、新聞記事、自伝草稿や愛用した品々などには、時を経た原物ならではの迫力がある。
 見学者の感想文はHPでも紹介しているが、展示物や映像、音声などを通して市川という存在に触れた喜びや発見などが素直に記されている。「平和なくして平等なく 平等なくして平和なし」「権利の上に眠るな」という市川のメッセージに気づき、その感想を記す人も多い。
 前述した、婦選要求の目的4項目はパネルに体系化して展示室に張られている。
 その前に立つと、「婦選は鍵なり」すなわち、婦人参政権が平和で民主的な社会をつくる鍵であり、女性たちはその鍵を使って社会参加をしていってほしいという市川のメッセージが伝わってくる。

市川房枝の志を継承する「市川房枝記念会女性と政治センター」

 市川房枝記念会は2011年、財団名を「市川房枝記念会女性と政治センター」と再び改称し、さらに財団創立50周年を経て2013年4月1日より公益財団法人に移行した。名称の変遷はあるが、創設者市川房枝が掲げた理念を継承し、女性たちの政治教育の拠点であることは変わらない。以下、財団の特徴的な事業を紹介する。
① 政治参画フォーラム(政治教育・人材養成事業)
 財団創立以来、女性有権者のための一般的政治教育講座を開講してきた。しかし、各地の公民館や女性センターなどで学習の機会が増えてきたことから、1994年に「女性の政治参画センター」(現市川房枝政治参画フォーラム)を開設し、主として無所属女性地方議員の養成と政策研修に事業を特化してきた。初めて選挙に立候補する人向けの住民参加型選挙運動の実践的方法や自治体についての基本的学習、そして現職議員には教育、社会保障、財政を中心に折々の政策課題を取り上げ、専門家による講演、議員らの事例発表、討議、交流を行っている。
 現在は、参画フォーラムで学ぶ議員による企画運営委員会で現場ニーズを取り入れた企画を進め、今回の全国キャラバンにも委員有志が積極的に協力している。
 参画フォーラム開設以来、北欧中心のスタディツアーを4回実施してきたが、昨年は脱原発・政治教育・女性政策をテーマにドイツへのスタディツアーを行い、そのフォローアップとして今年度はドイツの政治教育を学ぶセミナーを開いた。
 また『市川房枝政治参画センターで学ぶ47人の挑戦』(2002年)、『議会はあなたを待っている』(2014年)には、それぞれの選挙運動と議会活動、選挙費用収支報告もレポートされ、『住民参加型選挙運動ハンドブック入門編』(2010年)と併せ、初めて選挙にチャレンジする人たちの参考テキストとなっている。
② ジェンダー平等政策サロン(政治教育・人材養成事業)
 財団名に「女性と政治センター」が付された2011年にワークショップ「ジェンダー平等政策をどうつくるか」を行い、翌年からジェンダー平等政策サロンが始まった。研究者や議員、市民、行政関係などの参加者が、ジェンダー平等に関わる新たな視点や男女共同参画・女性の政治参画を進めるための発信力を養い、交流する場となっている。
③ アーカイブズ(情報収集・保存・提供・発信事業)
 前述のように、財団が所蔵する戦前の婦選獲得同盟関係の膨大な史資料は、かつて「国民的遺産」であると国会図書館の関係者から評された一大史料群である。戦中、一部空襲で焼失したが、市川らは資料が入る「蔵」のある疎開先(都下川口村。現八王子市)を探し、数度にわたって運んだ。その結果、婦選獲得運動のほぼ全体像を見渡せる貴重なコレクションが残された。
 これらの保存と公開のために1997年度から本格的な史資料整備事業に着手し、2000年には約8万点をマイクロフィルム化し、内容細目のデータベースも完成した。その後もボランティアらの協力で整理作業は継続中だが、約7,000枚の写真もデータベース化され、オープンリールなどの音声テープのCD化作業も進行中である。
④ 『女性展望』(出版及び調査・研究事業)
 1954年に政治教育の一環として市川房枝が創刊した『女性展望』は、女性と政治を主要テーマにした雑誌である。世界の女性国会議員比率ランキングや国政選挙、統一地方選挙のたびに行う女性議員の進出状況調査などは定番記事として定評がある。折々の女性問題も取り上げ、女性地方議員や議会図書館などでも広く読まれている(年間6回・奇数月の15日発行/28~34頁/購読料3,800円/税・送料込み)。
 執筆者などをゲストに招く「女性展望カフェ」も好評である。
⑤ 女性と選挙の調査(出版及び調査・研究事業)
 女性議員の進出状況調査も当財団ならではの事業である。特に地方議会は1987年以降、4年ごとに統一地方選直後の全国一斉調査を行っている。調査結果は都道府県別・議会別・党派別や人口段階別・女性議員数別にまとめ、女性議員比率の全国ランキング、全女性議員氏名リストなども収載した資料集を毎回刊行している。
 前項のように、女性国会議員比率の国際比較も1989年以降手がけてきた。
⑥ 市川房枝研究会(出版及び調査・研究事業)
 市川房枝研究会(主任・伊藤康子)は2000年、女性史研究者を中心に、財団に所蔵する史資料も使って市川房枝の全体像を明らかにするために設置された。
 これまでの研究成果は『市川房枝の言説と活動 年表で検証する公職追放 1937~1950年』(2008年)、『市川房枝の言説と活動 年表でたどる婦人参政権運動 1893~1936年』(2013年)の2冊にまとめ、シンポジウムなどでも成果を発表してきた。現在は戦後の市川(1951~1981年)について取り組んでいる。
 3冊目の年表がまとまれば、生涯を概観する基礎研究としての第1期市川研究の所期の目的は達成される。第2期テーマは今後検討されることになるが、「市川房枝」の全体像の解明は日本の女性運動史、政治史研究の上でも重要なテーマであり、公益財団としてのミッションのひとつである。

2012年からは毎夏、「脱原発セミナー」を開催2012年からは毎夏、「脱原発セミナー」を開催

結びに代えて

 財団は創立以来、女性有権者の政治教育に取り組み、特にこの20年間は被選挙権の行使、女性地方議員の養成に力を入れてきた。そして今年、全国キャラバンで各地を訪ね、11月には青森を訪ねる予定だが、圧倒的多数の女性の意識が依然として「政治に向いていない」実態に改めて直面することとなった。その背景には何があるのか。突きつけられている課題は重いが、今後は学校教育や社会教育現場での政治教育の取組に期待するとともに、これらとの連携も含め、財団自体の事業も再構築する必要を痛感している。

久保公子(女性と政治センター事務局長)

この記事の著者

久保公子(女性と政治センター事務局長)

公益財団法人市川房枝記念会女性と政治センター事務局長・参画フォーラム担当理事 公益財団法人市川房枝記念会女性と政治センター事務局長・参画フォーラム担当理事、『女性展望』編集長。元市川房枝参議院議員秘書。秘書在職中の1976〜1977年、一時休職しアメリカのコロンビア大学で語学研修の傍ら、女性の選挙運動のボランティアや全米女性会議の取材などをする。1980年代から女性地方議員の全国調査などを手がける。『市川房枝集』解題(日本図書センター、1994年)、「女性議員は地方議会改革の担い手になれるか」大森彌編著『分権時代の首長と議会』(ぎょうせい、2000年)、「女性をもっと地方議会へ」WIN WIN編著、赤松良子監修『クオータ制の実現をめざす』(パド・ウィメンズ・オフィス、2013年)など。

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