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2014.11.10 政策研究

権利の上に眠るな~今振り返る市川房枝の取組とその現代的意義~

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婦選なくして真の普選なし

 ILO辞職・婦選獲得運動専心の決意の背景には、1925年に男子の普通選挙法が公布され、次はいよいよ女子の選挙権・被選挙権の獲得をという、かつてない運動の高まりがあった。チラシに書かれた「婦選なくして真の普選なし」「与えよ一票婦人にも」には当時の女性たちの意気込みが感じられる。具体的な運動目標は、①政治結社への加入の自由を求める治安警察法の改正、②女性に公民権を与えるための市制・町村制の改正、③男性と同等の選挙権・被選挙権を与えるための衆議院議員選挙法の改正で、これら婦選3案の実現を求める対議会活動が繰り広げられることとなった。
 全国に婦選獲得同盟の支部がつくられ、他団体とも協力して議会への請願署名運動、首相はじめ大臣や議員へのロビーイングのほか、婦選に賛成する男性候補の選挙応援は女性の弁士が珍しかった時代、多くの聴衆を集めた。また、講演会、街頭でのビラまき、雑誌発行や、市川が吹き込んだ講話「婦選の話」のレコードは、婦選の普及に一役買った。各地への講演行脚などの様子は当時の新聞記事に見ることができる。
 この婦選3案は1925年3月、若手男性議員に働きかけて衆議院に上程、可決されたが、貴族院で審議未了。この日衆議院の傍聴席は約200人の女性が埋めた。翌日の新聞には、「婦人権拡張論者のきりょう紹介」として提案理由を説明した山口政二、内ヶ崎作三郎、松本君平、高橋熊次郎らをちゃかし、4議員の頭にリボンをつけた岡本一平の風刺漫画が掲載されるという時代だった。
 1930年4月、日本青年館で開かれた第1回全日本婦選大会には全国から約600人の女性が集まり、政友会総裁犬養毅らが祝辞を寄せた。♪同じく人なる我等女性 今こそ新たに試す力 いざいざ一つの生くる権利 政治の基礎にも強く立たん♪と、与謝野晶子作詞・山田耕筰作曲による「婦選の歌」も世界的なソプラノ歌手荻野綾子の独唱で披露された。
 この大会翌日の婦選獲得同盟第6回総会では、婦選3案を要求する理由を、①婦人及び子供に不利な法律制度を改廃し、福利を増進する、②政治と台所の関係を密接にして国民生活の安定を計り、自由幸福を増進する、③選挙を革正し、政治を清浄、公正な政治とする、④世界の平和を確保し、全人類の幸福を増進する、と掲げ、これを総会宣言として採択した。翌5月、婦人公民権案が衆議院可決、貴族院で審議未了となったが、2度までも衆議院で可決されたことで運動は勢いづく。そのような中、創立以来、会務理事を務めてきた市川は、この2か月後に総務理事に選出され、名実ともに同盟の看板となった。

戦時下の活動──国策協力は婦選の実践

 このように運動の高揚期を迎えていた矢先の1931年に満州事変が勃発し、さらに37年日中戦争、39年第2次世界大戦、41年太平洋戦争開戦へと時代は突き進んだ。全日本婦選大会も1937年、第7回が最終回となった。
 こういう時局であればなおのこと女性の政治参加が必要であると、ファッショ反対、戦争反対を表に裏に秘めながら、婦選獲得運動の一環として市政浄化や卸売市場改革、母性保護法・家事調停法制定などの運動を展開した。しかし、女性たちの高まる思いに反して運動は「冬の時代」を迎え、それは「咲きかけた花がむしりとられた」ようだったと、市川は後に自伝に記している。
 選挙粛正中央連盟評議員、国民精神総動員委員会幹事、大日本婦人会審議員、大日本言論報国会理事ほかを併任しながら、1940年に婦選獲得同盟解消を余儀なくされた後は、婦人時局研究会や婦人問題研究所などを拠点に、自主性を堅持しつつ、戦時下の政府の女性対策について提言をし続けた。
 国策への関与は、婦人運動を担ってきた者としてできる限り女性の要望を政策に反映させ、そのためには政策立案に女性が参加する必要があり、それは「婦選」の実践にほかならないという、苦渋の選択の結果であった。
 しかし敗戦を経て1947年、市川は戦中、大日本言論報国会理事であったことを理由に公職追放となり、講演、執筆などを含め一切の政治的活動を禁じられた。失意の生活は3年7か月続いた。

久保公子(女性と政治センター事務局長)

この記事の著者

久保公子(女性と政治センター事務局長)

公益財団法人市川房枝記念会女性と政治センター事務局長・参画フォーラム担当理事 公益財団法人市川房枝記念会女性と政治センター事務局長・参画フォーラム担当理事、『女性展望』編集長。元市川房枝参議院議員秘書。秘書在職中の1976〜1977年、一時休職しアメリカのコロンビア大学で語学研修の傍ら、女性の選挙運動のボランティアや全米女性会議の取材などをする。1980年代から女性地方議員の全国調査などを手がける。『市川房枝集』解題(日本図書センター、1994年)、「女性議員は地方議会改革の担い手になれるか」大森彌編著『分権時代の首長と議会』(ぎょうせい、2000年)、「女性をもっと地方議会へ」WIN WIN編著、赤松良子監修『クオータ制の実現をめざす』(パド・ウィメンズ・オフィス、2013年)など。

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