2 父の想い
[剣太への想い……](父工藤英士)
平成21年8月22日。私たち家族にとって忘れることのできない日になりました。
その日、私は休みで、朝、剣太と風音(かざと)、それに同じ剣道部の子2人を乗せて学校まで送りました。
車の中ではその日に限り剣太一人だけイヤホンで音楽を聞いてリラックスしていたのか、集中していたのか分かりませんが、ずっと黙り込んだままでした。
あの日練習を見にいっていれば……。
剣太はきつい思いをして死んでいくことはなかったはずです。
学校、顧問、副顧問、病院を信頼しきっていて、我が子を助けてやることもできなかった自分に腹立たしさや情けなさ、愚かさを感じます。
剣太が亡くなって、私は抜け殻のようになりました。
自分が信じてやらせてきた剣道によって剣太を死なせてしまった……。
私が殺してしまった! 剣道をさせていなければ剣太は死なずにすんだのに!
今まで心を鬼にし、暑い日も寒い日も剣道をさせてきた私は、剣太にとっていい父親であったのか……。剣太は私を恨んでいるのではないだろうか……。
「剣太、もう一度会いたい。お父さんに教えてくれ? お父さんはこれからどうやって生きていけばいいんだ……」と自分を責める毎日でした。
剣太の話をすると、いまだに涙があふれ、それと同時に憎しみが込み上げてきます。
もう、二度とかなわぬ夢ですが、剣太が将来の仕事に選んでいた「救急救命士」の制服を着た凛々(りり)しい姿を見たい。
剣道三段に合格したときに見せた「おとん! やった?」といったうれしそうな顔。
そんな剣太と剣を交えたかった……。
あの日以来、私は竹刀を握れません。
全てを目撃し、兄の死を受け入れなければならなかった弟・風音、優しく、厳しかった大好きな剣兄を突然亡くしてしまった妹・○○も同様です。
私は剣太の剣道がとても好きでした。自ら攻めて打っていく真っすぐできれいな剣道が……。
剣太の剣道は、私の誇りでした。
しかし、その剣太と稽古することは、もうできなくなってしまいました。
朝まで元気な姿でいたのに……17歳……あまりにも早すぎます!
突然すぎます!
どれだけ将来を楽しみにしていたか……。
剣太もこの先やりたいことがたくさんあっただろうに、もう何一つすることはできなくなってしまいました。
こんなに早く天国へいった剣太は、何かこの世にお役目を持って生まれてきた子なのかもしれない。もしそうならばそれは、同じような子どもを出さないことではないでしょうか。
こんなに悲しみ、苦しみ、つらい思いをする家族を出さないために。
何より親から預かった大切な子どもを安心して通わせる学校にするため……。
私たちは、今できる精いっぱいのことをやり遂げようと思います。
大切な我が子、剣太のために。