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2023.02.27 議会運営

第15回 「議会報告会(住民との意見交換会)」を議会からの「政策サイクル」の起点に ~「議会報告会あるある」を「ワールドカフェ」が変える~

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青森大学社会学部教授/早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員 佐藤 淳

《今回のキーワード》

  • 議会報告会
  • 住民との意見交換会
  • ワールドカフェ
  • 住民との対話
  • 議会からの「政策サイクル」


 

【SHORT STORY】

 ここち市議会の議会改革推進会議。コロナ禍の中、開催が中止、延期されていた議会報告会「市民と議会のわがまちトーク」について議論がされている。
 「近隣の市町村議会でも、議会報告会を開催し始めています。そろそろ、ここち市議会でも、わがまちトークを開催してはいかがでしょうか?」。改革派の若手、古江議員が発言する。
 「まだ、早いんじゃないか」、議会改革に反対の最大会派の重鎮、青木議員が、ぼそっと話す。青木議員の腰巾着の赤平議員が追従して、「青木議員がおっしゃるとおり。コロナも完全収束したわけではないですし。そして何よりも、今までの合併前の旧市町村単位で開催してきたわがまちトーク、参加するのは毎回同じメンバー。出てくる意見も我々への批判や陳情、要望ばかり。しまいには、自論の大演説をぶつ市民もいたり。開催する意味がそもそもあるのか疑問です」。
 古江議員はすぐさま手を挙げ、「ここち市議会の議会基本条例では、議会報告会を年1回開催することにしています。そもそもコロナ禍の3年余り、条例違反の状態ですよ」と、声を荒げる。「今までの対面式ではなく、少人数のグループでの話し合いのやり方に変更したり、地域ではなくテーマ別の開催にする等、工夫できることはまだまだたくさんあると思います」。
 推進会議の座長である安田議長が議会事務局の書記の江上に対して、「江上君、確か、隣のほらうら町議会、ワールドカップだっけ、何だっけ、そんなカタカナの名前の議会報告会やってなかった???」。
 「あっ、議長、それはワールドカフェです」。委員会室は、そのときだけ笑いに包まれた。
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鹿児島県知名町議会のワールドカフェ

「議会報告会あるある」を「ワールドカフェ」が変える

 コロナ禍の中、全国のどのくらいの議会が、「議会報告会(住民との意見交換会)」を開催しているのか。全国市議会議長会、全国町村議会議長会の調査によると、2020年中に議会報告会を実施した市議会は221議会(27.1%)、町村議会は180議会(19.4%)である。それに対して、コロナ前の2018年中に実施した市議会は452議会(55.5%)、町村議会は383議会(41.4%)であった。コロナ禍だからこそ、住民の意見を聴かなければと、Zoom等のオンライン会議システムを活用して、議会報告会を継続する議会が少数ながらあるものの、残念ながら、感染拡大防止を理由に、議会報告会の開催を中止、延期している議会が多い。
 また、筆者が全国の議会を回っていて、議会報告会についてよく聞く話が、「参加者がそもそも少なく、いつも同じメンバー」、「参加者の属性が男性、高齢者に偏る」、「声の大きいクレーマーのような住民が場を荒らす」、「だから議会報告会は意味がないので開催をやめた、躊躇(ちゅうちょ)している」という話である。
 議会基本条例に位置付けられたことで、議会報告会を実施する議会が増えたものの、当初、市町村内の「地域単位」で、議員と住民が向かい合った「対面式」での開催が多かった。そうした開催方式もあり、住民からの苦情、陳情、要望、個人的な見解の演説等で炎上する議会報告会が全国で頻発した。また、改善を試みずそのままのやり方を継続した結果、雰囲気が悪くつまらない場のイメージが定着し、参加者も徐々に減少。それが「議会報告会あるある」につながっていく。
 筆者にとってこの問題の解決策のヒントになったのが、2014年、福岡県志免町の町民有志による「まちづくり志民大学」が開催した、「議員と語ろうワールドカフェ」だった。「ワールドカフェ」とは、カフェにいるようなリラックスした雰囲気の中で、4~5人の少人数のグループに分かれ、参加者の組み合わせを変えながら、自由に話し合いを発展させていく「対話」の手法である。「席替えをする井戸端会議」とも紹介されたりする。議員と住民がワールドカフェを行う姿を現場で見て、大きな衝撃を受けた。
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福岡県志免町「議員と語ろうワールドカフェ」

 同年、岩手県久慈市議会で、議会基本条例に基づく市民との意見交換会をワールドカフェで開催するに当たり、筆者はファシリテーターを務めた。テーブルには赤と白のチェックのテーブルクロスを敷き、会場にはBGMでボサノバを流し、お菓子と飲み物を用意する等、気楽に会話できるカフェのような雰囲気を演出した。終了後、参加者から、参加して楽しかった、話しやすかった等の感想をもらい、手応えを感じた。よくあるワークショップのように付箋を使わず、最後にグループ発表の場も設けなかったことも、参加者の心理的負担を下げた。
 「対話」というと、楽しく雑談すること、サシでじっくり意見交換すること、車座で話し合うこと、国際紛争の解決に向けた話し合い等、人によってイメージは様々だ。哲学の社会構成主義では、「対話とは、あるテーマについて、意味付けを確認し、新しい関係性を創り出すプロセス」と定義されている。ポイントは、「意味付け」という部分である。我々は、日々様々な物事に意味付けをしている。同じものを見ても、それぞれの意味付けが異なるので、見え方、感じ方が違う。雪国に住む筆者にとって「雪はうんざり」だが、雪が珍しい地域の人にしたら「雪はきれい」かもしれない。相互に理解し合うためには、物事を一緒に意味付ける対話のプロセスが欠かせない。
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久慈市議会「かだって会議」

 地域の課題についても、住民それぞれ、そして議員それぞれの意味付けが異なる。議会報告会では、地域の課題についてのお互いの意味付けを、その背景、ストーリーも含めて聴き合う、そんな「対話」が重要になる。

鹿児島県知名町議会の町民との「ワールドカフェ」

 ここで、2022年5月、筆者がファシリテーターを務めた鹿児島県知名町議会でのワールドカフェの進め方を紹介する。今回は、「知名町の20年後の未来」をテーマに、JA青壮年部、商工会青年部、社協職員、女性連、役場若手職員等の町民と議員を合わせて25人が参加。5人掛けのグループで、席替えをしながら、各15分の3ラウンドの対話を行った。
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鹿児島県知名町議会のワールドカフェ

 まず、自分ばかり話さない、思ったことは口に出す、模造紙に書き出す等のワールドカフェのルールを説明。話し合いのウオーミングアップとして、「今ここの気持ちは?」について、グループで共有してもらった。いよいよ第1ラウンド、「知名町の誇りに思うこと、残念に思うことは?」の問いで、町の現状について確認し合った。席替えの後の第2ラウンドでは、「20年後どんな未来を実現したいと願っているか?」の問いで、町のありたい未来について願いを語り合った。最初の席に戻る席替えをした後、町の総合計画について理解してもらいたいという思いから、総合計画に掲げられている21のアクションプランについて全員で確認。最後の第3ラウンドの問いは、「ありたい未来の実現のために、総合計画のアクションプランの中でそれぞれが挑戦したいテーマは何か?」。それぞれ優先順位の高い分野、事業の具体策について、お互いの意味付けを確認し合った。最後に、今回のワールドカフェのまとめとして、最後のラウンドの問いと同じ問いの答えを、各人がA3の紙に言語化し、書かれた内容と「今ここの気持ちは?」について共有して終わった。
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鹿児島県知名町議会のワールドカフェ

 全体で2時間のワールドカフェは、終始和やかな雰囲気で行われ、町民の皆さんからは、前向きな意見がたくさん出された。
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鹿児島県知名町議会のワールドカフェ

 地域単位で行う議会報告会では、事前に参加者の人数が分からなかったり、席替えをするほど人数が集まらなかったりするため、ワールドカフェが適当ではない場合もある。しかし、テーマを絞って自治体全域を対象として開催する場合や、議会と高校生や中学生との意見交換会等には、効果を発揮する手法である。また、地域単位で行う場合でも、対面式ではなく、少人数のグループ形式にして、報告より意見交換、「対話」を意識した運営方法にした方が、住民、議員双方の満足度は高まると思う。
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宮城県柴田町議会の高校生とのワールドカフェ

「対話」により新しい議会と住民との関係性を創る

 今、地方議会には、制度や仕組みの導入といった形式的な改革ではなく、住民福祉の向上、実質的な成果を出すことが求められている。従来の執行部の監視、評価だけではなく、議会自らが積極的に政策立案、政策提言することで、住民に「我々の生活は変わった」と実感してもらうことである。
 そのためには、議会報告会で「住民との対話」を行い、政策のタネを拾い上げる。その政策のタネを、議員間討議、「議員同士の対話」により政策に練り上げていく。「対話」により住民の意見を起点に政策につなげる、議会からの「政策サイクル」を回していく必要がある。
 また、「対話」の効果は、相手の意味付けを確認することで自分の認知が広がり、腹落ち、納得感が得られ「主体性」が生まれること。新たな気づき、関係性が立ち上がり「創造性」が発揮されること。その結果として、「情熱」が湧き上がり前向きな行動が起きることである。
 議会報告会を、議会の説明責任を果たす場、住民意見を聴取する場としてだけではなく、住民の「主体性」、「創造性」、「情熱」を解放する場にしたい。その結果、協調的な地域の課題解決が可能になり、地域に変化が起きる。それが、新しい議会と住民との関係性のあり方である。
 

 

佐藤淳(青森大学社会学部教授/早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員)

この記事の著者

佐藤淳(青森大学社会学部教授/早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員)

青森大学社会学部教授、早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員。 1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業後、さくら銀行(現三井住友銀行)入行。法人部門を中心に12年間勤務後退職。日本社会事業大学大学院福祉マネジメント研究科修了、社会福祉士。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。マニフェスト型選挙、地方自治体の組織開発、地方議会改革、市民協働のまちづくり、シチズンシップ教育のテーマで研究と実践を行う。 共著に「スピード開票実践マニュアル」(ぎょうせい)、「点描~変わりゆく現代社会」(ぎょうせい)、「あなたにもできる議会改革」(第一法規)、「実践学校模擬選挙マニュアル」(ぎょうせい)、「議会改革実践マニュアル」(第一法規)等。

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