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2022.10.11 議員活動

第11回 「行政改革と自治体現業職員のあり方」を考える

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弁護士 千葉貴仁 

「地方自治勉強会」について

 この勉強会では、議員と弁護士とが、裁判例や条例などを題材にして、それぞれの視点からざっくばらんに意見交換をしています。本稿では、勉強会での議論の様子をご覧いただければと思います。発言者については、議員には〔議〕、弁護士には〔弁〕、研究者には〔学〕をそれぞれ付しています。  
 なお、勉強会は自由な意見交換の場であり、何らかの会派、党派としての見解を述べるものではありません。

〔今回の勉強会の参加者(五十音順)〕
加藤拓磨(中野区議会議員)
鈴木優吾(弁護士・第一東京弁護士会・山岡総合法律事務所)
滝口大志(弁護士・第一東京弁護士会・丸の内仲通り法律事務所)
田添麻友(目黒区議会議員)
千葉貴仁(弁護士・第一東京弁護士会・東京リーガルパートナーズ法律事務所)
藤井誠一郎(大東文化大学法学部准教授)
本目さよ(台東区議会議員)
渡邉健太郎(弁護士・第一東京弁護士会・堀法律事務所)

はじめに

滝口大志〔弁〕 今回は、ごみの収集を行う清掃事業という、誰にとっても身近なトピックを取り上げます。大東文化大学法学部准教授の藤井誠一郎先生にお話しいただきます。藤井先生は研究者として行政学を専門にしておられます。よろしくお願いいたします。
藤井誠一郎〔学〕 どうぞよろしくお願いいたします。私からは、地方自治体における清掃職員の重要性についてまずお話しいたします。次いで、清掃事業の民間への委託が進んでいる現在において、今後予想される問題点についてお話をさせていただきます。
滝口〔弁〕 藤井先生は清掃現場で実際に作業をしたご経験があると伺っています。
藤井〔学〕 私は、東京都新宿区、札幌市、神奈川県座間市など、全国各地の清掃事務所にお願いして清掃車に乗務させていただき、清掃の現場を経験してきました。この過程で、清掃現場における問題点が見えてきました。詳しくは『ごみ収集とまちづくり 清掃の現場から考える地方自治』(朝日新聞出版)にまとめています。

行政改革と「退職不補充」

藤井〔学〕 まずは、行政改革の一連の流れについてお話をしなければなりません。地方自治体の職員数は1994年がピークで、330万人近くいました。小泉内閣のときの「集中改革プラン」により公務員減らしが積極的に推進され、人員削減が進められてきました。結果、2018年には地方自治体の職員数は273万人近くまで減少しています。
滝口〔弁〕 この数字は公務員全体の減少に関するものですが、ここ四半世紀で50万人以上の公務員が減ったことになりますね。清掃部門の人数減についてはどのような方針や方法がとられていたのでしょうか。
藤井〔学〕 清掃部門には限りませんが、「退職不補充」といいまして、地方自治体で雇用している労働者が退職しても、それによって抜けた穴を補充しないという方針がとられてきました。
滝口〔弁〕 どんどん清掃事業の職員が減っていくことになりますね。
藤井〔学〕 そうなんです。多くの地方自治体では、この退職不補充という政策を現在も維持しています。

行政改革と業務委託

藤井〔学〕 さらに、2000年以降は、指定管理者制度やPFIなど、もともと行政の仕事とされてきたものを、民間に業務委託する方向で進められてきました。この中で、市区町村の清掃事業も、行政から民間への業務委託が進められました。
渡邉健太郎〔弁〕 行政の予算は無限ではありませんし、業務委託することでスリムになるということは良いことではないでしょうか。
藤井〔学〕 必ずしもそうとは限りません。業務委託が進むことで、委託した業務がブラックボックス化し(見えなくなり)、コントロールできなくなるという問題が出てくるのです。
千葉貴仁〔弁〕 具体的にはどのような問題が出てくるのでしょうか。実際、清掃事業は業務委託が過剰になってしまっているということはあるのでしょうか。
藤井〔学〕 そのためには、清掃職員が果たす役割について考えていく必要があります。私が実際に地方自治体の清掃現場を経験して感じたことなのですが、地方自治体の清掃職員には、ごみの収集以外にもいろいろな役割を担っています。
滝口〔弁〕 具体的にどのような役割なのか教えてください。
藤井〔学〕 清掃職員は地域の方とコミュニケーションをとることが意外と多いのです。住民から役所の窓口を聞かれたときにすぐに答えられるように、役所の電話帳を持ち歩いている方もおられます。自分たちは役所の出先機関だと自負しておられる方も大勢いるのです。
千葉〔弁〕 私は青森の田舎出身なのですが、特に地方ではそのような機能はあるのかもしれませんね。
藤井〔学〕 清掃職員は収集に当たる地域を熟知しています。あそこにはおばあちゃんが一人で住んでいたなとか。場合によっては宅内に入ってごみを回収することもあり、生活状況についても把握していることがあります。
千葉〔弁〕 清掃職員が地域のことを知っていることによって、どのような役割が果たせるのでしょうか。
藤井〔学〕 住民のニーズを吸い上げて、地方自治体の政策形成に反映させることができます。いわゆる「情報収集機能」を持つという側面があります。

清掃事業と災害対応

藤井〔学〕 もう1点、非常に重要な役割だと思いますが、災害が起きたときに、現場で地方自治体の職員として活躍することが期待されるということです。万が一、災害が発生すれば、災害ごみの処分をはじめ、何かしらの問題が起きることは明らかです。いざというときのために、地方自治体では予算を確保して、清掃職員の人員を維持しなければいけないはずです。
千葉〔弁〕 業務委託された清掃職員では、非常事態の場面では頼りないのでしょうか。
藤井〔学〕 業務委託の作業員であっても災害時には懸命に対応してくれる方は大勢おられます。しかし、業務委託の作業員自身が被災していることも多く、災害時に、自分自身よりも地域のために貢献することは期待できません。
鈴木優吾〔弁〕 刑務所でもPFIが活用されているという話もあります。目線を変えれば、民間を利用することで、良くなることもあるのではないでしょうか。
藤井〔学〕 私は、すべての行政分野で民間委託を一切やめて元に戻せといっているのではなく、民間委託が行き過ぎた分野では、地方自治体に主導権を戻す必要があると考えています。
加藤拓磨〔議〕 2019年に館山市の台風による災害現場にボランティアで訪れたことがあります。現場が混乱し、清掃車は少なくとも2~3週間はごみ収集に行くことができないと市の清掃担当にいわれました。全国から支援物資が来ていて、その対応に人員をとられ、ほとんどの業務がストップしている状態でした。
藤井〔学〕 災害が起きれば、業務委託の問題が浮き彫りになります。災害時には、現場で誰かが指揮をしないと片付かない。このような場面で活躍するのは、地方自治体の清掃職員ではないでしょうか。

地方議会からの観点

滝口〔弁〕 清掃業務の外部への委託について、区議会議員の方々は賛成の立場でしょうか。
加藤〔議〕 基本的には、民間ができることは民間に、と考えています。ここ十数年で、区側から提供するサービスは従前の1.5倍から2倍に増えたと職員は愚痴をこぼします。その一方で、区の予算は大きくは変わらないので、実際問題として、提供できる行政サービスのうち、民間にできることは民間に、と考えざるを得ません。
滝口〔弁〕 民間への業務委託以外の方法で、何か解決策はありませんか。
加藤〔議〕 少なからず東京都23区においては、一つの区だけでは解決に向けて動けません。例えば、ごみの有料化をすることがあるならば、23区で一斉にやらないと実行に移せません。区境で不法投棄が発生する可能性がありますから。
本目さよ〔議〕 私個人としては、民間委託を勧めたことは一度もありません。台東区では清掃職員を新規採用して人数を増やしています。藤井先生の今回のお話を聞いて、「他の区はそんなに増やしていないんだ」と初めて認識したところです。
田添麻友〔議〕 リサイクル運動が盛んだったときは、目黒区としても、対策を議論しましたが、このような清掃事業に関する議論自体が今は下火になっているという印象です。
滝口〔弁〕 どのような理由で下火になっているのでしょうか。
田添〔議〕 私個人としては、戸別収集をやってほしいと考えています。これを区の事業として行う場合、予算として約3億円かかるそうで、これをどうすればいいのか、というところで議論は終わっているようにも見受けられます。
藤井〔学〕 先ほども述べましたが、区が雇用する清掃職員は、必要不可欠な人材だと考えています。「お金が足りないから採用できない」ではなく、不足する原資を徴収していく手段を考えていくべきだと思っています。2019年に多摩川が氾濫して大田区、世田谷区が浸水したことがありました。このような災害が起きたときに、すぐに公的な立場で、現場で動ける人材が必要であり、このような現場で活躍できるのは、区で採用した清掃職員であると考えています。

清掃事業の将来展望を誰が描くか

滝口〔弁〕 少し話を変えたいと思います。リサイクルの話にも通じるかと思いますが、清掃事業の現場から将来の展望を描くことが可能なのでしょうか。例えば、循環型社会を実現できるのでしょうか。
藤井〔学〕 先進的な清掃職場の清掃職員の方々は、循環型社会を意識して仕事をされていますし、そのためにも住民とコミュニケーションをとりながら仕事をされています。そこから住民のニーズをくみ取り、政策形成に生かしていくような意識で仕事をされています。
滝口〔弁〕 地域の情報収集が清掃事業の将来展望に生かされていくのでしょうか。
藤井〔学〕 そうですね。地域を熟知し住民に近いところで仕事をしているので、ごみの収集のみならず、地域の情報や住民のニーズも収集し、地方自治体の政策形成に生かしていくことが今後の清掃事業の未来を開いていきます。

むすびに

千葉〔弁〕 清掃職員の採用維持・補充という点は、単に予算の問題だけではなく、災害対応にも深く関わることが分かりました。地方自治体の限られた予算の中で解決することはなかなか難しく、議員の皆さんはとても複雑な立場で活動されているのだなと感じました。今回のお話は、弁護士業務で関わる分野ではなく、完全に素人としてお話を伺い、大変勉強になりました。議員と弁護士との相互理解がさらに深まることを祈念し、今回の勉強会を終わりにしたいと思います。

千葉貴仁(弁護士)

この記事の著者

千葉貴仁(弁護士)

1983年、青森県生まれ。東北大学法学部卒業、同大学法科大学院修了後、2011年弁護士登録(第一東京弁護士会)。現在、東京リーガルパートナーズ法律事務所共同代表弁護士。同弁護士会民事介入暴力対策委員会委員、関東弁護士連合会民事介入暴力対策委員会委員。

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