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2021.06.25 議員活動

第6回 「政治資金規正法」から「政治への信頼」を考える

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弁護士 渡邉健太郎 

「地方自治勉強会」について

 この勉強会では、議員と弁護士とが、裁判例や条例などを題材にして、それぞれの視点からざっくばらんに意見交換をしています。本稿では、勉強会での議論の様子をご覧いただければと思います。発言者については、議員には〔議〕、弁護士には〔弁〕をそれぞれ付しています。
 なお、勉強会は自由な意見交換の場であり、何らかの会派、党派としての見解を述べるものではありません。

〔今回の勉強会の参加者(五十音順)〕
江口元気(立川市議会議員)
加藤拓磨(中野区議会議員)
滝口大志(弁護士・第一東京弁護士会・丸の内仲通り法律事務所)
千葉貴仁(弁護士・第一東京弁護士会・東京リーガルパートナーズ法律事務所)
中村延子(中野区議会議員)
本目さよ(台東区議会議員)
渡邉健太郎(弁護士・第一東京弁護士会・堀法律事務所)

はじめに

渡邉健太郎〔弁〕 今回は私が発表を担当させていただきます。政治家は、その大半が真面目に政治活動に取り組んでいるのはもちろんのことです。しかし、その一方で、政治の世界では絶えずお金の問題が取り沙汰されていることもまた否定できません。お金の問題ということで、今回のテーマは「政治資金規正法」を取り上げたいと思います。
千葉貴仁〔弁〕 お金の問題は市井の人にとって政治への信頼に直結しています。
渡邉〔弁〕 この後、収支報告書の記載が問題視された裁判例として、「陸山会事件」(東京地判平成24年4月26日判タ1385号311頁)について発表をしたいと思います。

収支報告書への不記載の実態について

滝口大志〔弁〕 政治活動において、収支報告書がお金の流れを把握するために重要な役割を果たしています。では、政治資金規正法上、収支報告書にはどのような記載を行う必要があるのでしょうか。
渡邉〔弁〕 例えば、1回20万円を超えるパーティー券収入や、年間5万円を超える寄附の場合、収支報告書に氏名等を公開しなければいけません。
滝口〔弁〕 実際のところ、きちんと収支報告書に記載されているのでしょうか。
渡邊〔弁〕 パーティー券の購入や寄附に関し、国会議員の側の収支報告書にきちんと記載されているかどうか、約1,900の政治団体の収支報告書を調査して報道されたものがあります(https://note.com/nhk_syuzai/n/nfa48a74bf68c)。
滝口〔弁〕 その調査の結果はどのようなものでしたか。
渡邊〔弁〕 最終的に、65人の国会議員や元議員の団体に不記載があったことが報道されています。

「陸山会事件」の概要

渡邉〔弁〕 では、「陸山会事件」について発表をしたいと思います。政治資金規正法違反に問われ、いったん検察において不起訴とされたものの、検察審査会による起訴議決がされて刑事裁判となりました。マスコミにも大きく取り上げられました。
滝口〔弁〕 この事件の概要を教えてください。
渡邉〔弁〕 現職の国会議員が、自己が代表を務める資金管理団体(陸山会)の会計責任者等と共謀して、収支報告書に虚偽の記入や記載すべき事項の不記載を行ったものとして、共同正犯の責任を問われました。
滝口〔弁〕 この事件の争点を教えてください。
渡邉〔弁〕 争点は多岐にわたるのですが、今回のテーマに沿った形で絞ると、いわゆる収支報告書への不記載や虚偽記入を行ったかどうか、という点にあります。
滝口〔弁〕 どのような記載をしなかったことが問題視されたのですか。
渡邉〔弁〕 資金管理団体が被告人から平成16年に4億円の借入れを行い、同年中に3億5,000万円を土地取得費等として支払い、土地を取得しました。しかし、これらを収支報告書に記載しなかったことです。
滝口〔弁〕 虚偽記入として問題視されたのはどのようなことですか。
渡邉〔弁〕 先ほどの3億5,000万円の土地取得費等の支払や土地の取得について、平成16年中ではなく、平成17年中に取得したものと収支報告書に記載を行ったことが問題となりました。
滝口〔弁〕 資金管理団体が不動産を購入した目的は何なのでしょうか。
渡邉〔弁〕 判決文によると、被告人は政治団体のスタッフのための寮として使用する目的で購入したと主張しています。
滝口〔弁〕 裁判では、被告人はどのような主張をしたのでしょうか。
渡邉〔弁〕 被告人は、不動産の売買契約については、売買予約という方法を用いていたため、平成17年に権利変動があったという主張をしています。
千葉〔弁〕 一般的に売買予約というやり方自体がテクニカルな方法といえます。不動産売買契約をするときに、このようなやり方は珍しいように思います。
滝口〔弁〕 権利変動の時期についてはどのように思いますか。
千葉〔弁〕 売買予約という特殊な方法をとっているという事実関係だけでも、収支報告書に記載する年次をずらす目的があったのではないかと捉えられかねないように思います。売買契約成立時点の平成16年に権利変動があったと捉えるのが自然でしょう。

政治団体の経済活動は必要か

滝口〔弁〕 陸山会は、国会議員個人から4億円を借り入れ、その4億円を使用して不動産を入手しています。普通の人が見たら、国会議員個人がなぜ4億円もの現金を支出するのかと疑問に思うはずです。政治家から見てどう思いますか。
江口元気〔議〕 それは、きちんと説明がつけば問題はないと思います。ただ、4億円という金額は確かに大きいかなという気はしますが。
渡邉〔弁〕 本件のように、政治家が資金管理団体に資金を貸し付けて不動産売買をするというのは、普通のことでしょうか。
江口〔議〕 それはかなり珍しいと思います。
千葉〔弁〕 政治団体が不動産売買のような経済活動をすることは必要なのでしょうか。
中村延子〔議〕 私の感覚では、政治団体が経済活動を行うことは基本的には必要ないと思っています。ただ、今回の陸山会のケースは、事務所にスタッフが10人以上もいるような政治団体ですので、私の想像が及びません。

政治資金の流れを明らかにすることにデメリットはあるのか

滝口〔弁〕 収支報告書に不記載がある場合、どのような不都合があるのでしょうか。
渡邉〔弁〕 存在するはずの収入が消えてしまって、何に使われたのか分からないということになります。
滝口〔弁〕 政治家の立場からすると、自分のお金の流れや経済活動が世間に明らかにならない方が政治活動はしやすいのでしょうか。また、マスメディアから追及されるかもしれないと思い、萎縮してしまうということはあるのでしょうか。
加藤拓磨〔議〕 世間に明らかにした方が政治活動をしやすい、とはなりません。
滝口〔弁〕 何かご経験があれば教えてください。
加藤〔議 私自身の例ですが、個人献金として私の想定以上の金額をいただいたことがあります。私の考え方に共感いただき、志に対する献金として受領しました。政治資金規正法上、5万円を超える寄附については収支報告書に名前を記載しなければならないので、もちろん記載しました。
滝口〔弁〕 第三者からの視線を意識しましたか。
加藤〔議〕 そのことで何か後ろめたいことをしているつもりは毛頭ありません。ただ、収支報告書を見た第三者からすると、私が何かしらの見返りを求められているように見えるかもしれません。その点は気にしています。
江口〔議〕 国民や市民に説明ができない後ろめたいことは、政治家として絶対にやってはいけないことだと思います。お金のことは特にそうです。
千葉〔弁〕 個別の政治家に対して特に大きな金額の献金があった場合、仮に具体的に依頼がなかったとしても、政治家としては、献金をしてくれた方から無言の働きかけを感じることはないのでしょうか。
江口〔議〕 その方の意見を取り入れる、取り入れないというのは、その政治家の考え方であって、どちらが間違っているということはないと思います。ただ、その政治家も全市民に対して自らの行動について説明をする責任はあると考えます。

収支報告書の提出について

滝口〔弁〕 ところで、議員の皆さんはどのように収支報告書を提出していますか。
加藤〔議〕 私はオンライン提出をしています。収支報告書専用のExcelファイルを使えば計算とか楽ですし。区議会議員の中では、これまで手書きでずっとやっていて、今さらオンラインではできないという人も多いですね。周りでオンライン提出をしている人を見たことがありません。いまだに政治の世界はFAX文化ですしね。
江口〔議〕 私は紙媒体で提出しています。オンライン提出も考えてはいるのですが、何より正確に書きたいので、提出場所にいる職員に直接質問しながら、その場で書いて提出しています。その場でプロに聞けるのがいいです。
本目さよ〔議〕 私は間違いがあることもあって、直接提出しに行っています。もともと、オンラインでできるものはオンラインでやるタイプなのですが、オンラインを使うのにも一度紙で提出してからでないと使えないなど制約もあって……。なかなか収支報告書に関してはオンライン提出に踏み切れません。
滝口〔弁〕 やはり議員の皆さんとしては、収支報告書に誤りがないよう大変気を使っておられるのですね。また、オンライン提出には運用面での課題もあるようですね。

おわりに

 今回の勉強会では、「政治資金規正法」から「政治への信頼」を考えました。収支報告書というツールが大きな役割を果たしていることが分かりました。  
 議員と弁護士の交流と相互理解が一層進むよう祈念して本稿を終わりとさせていただきます。

渡邉健太郎(弁護士)

この記事の著者

渡邉健太郎(弁護士)

1979年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、6年間の社会人経験(東京メトロ勤務)を経て、東京大学法科大学院へ入学。2011年弁護士登録(第一東京弁護士会)。現在、堀法律事務所に所属。第一東京弁護士会総合法律研究所スポーツ法研究部会副部会長、公益財団法人日本バスケットボール協会裁定委員。

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