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2021.02.10 議員活動

第4回 「ふるさと納税」から地方自治のあり方を考える

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弁護士 千葉貴仁 

「地方自治勉強会」について

 この勉強会では、議員と弁護士とが、裁判例や条例などを題材にして、それぞれの視点からざっくばらんに意見交換をしています。本稿では、勉強会での議論の様子をご覧いただければと思います。発言者については、議員には〔議〕、弁護士には〔弁〕をそれぞれ付しています。
 なお、勉強会は自由な意見交換の場であり、何らかの会派、党派としての見解を述べるものではありません。

〔今回の勉強会の参加者(五十音順)〕
石田慎吾(元品川区議会議員)
江口元気(立川市議会議員)
加藤拓磨(中野区議会議員)
滝口大志(弁護士・第一東京弁護士会・丸の内仲通り法律事務所)
千葉貴仁(弁護士・第一東京弁護士会・東京リーガルパートナーズ法律事務所)
中川洋子(弁護士・第一東京弁護士会・榎本・藤本総合法律事務所)
本目さよ(台東区議会議員)
渡邉健太郎(弁護士・第一東京弁護士会・堀法律事務所)  

はじめに

滝口大志〔弁〕 皆さん、ふるさと納税は活用していますか? 税効果はもちろんですが、返礼品として地域の特産品やサービスなどを頂戴できるのもうれしいです。
中川洋子〔弁〕 いろいろな地方自治体が寄附を募っていて、ふるさと納税サイトを見ているだけでも楽しい気分になりますよね。納税者にとって、とてもよい制度だと思います。
滝口〔弁〕 ふるさと納税は平成20年に導入されて以来、様々な紆余曲折(うよきょくせつ)が取り沙汰されているところです。果たしてどのような影響が生じているのか、ふるさと納税のあるべき姿は何なのか。皆さんで議論したいと思います。
千葉貴仁〔弁〕 今回は私が発表を担当させていただきます。今回の題材は、国と大阪府泉佐野市とが最高裁まで争った「ふるさと納税」をめぐる訴訟です(最判令和2年6月30日裁判所時報1747号1頁)。
滝口〔弁〕 この事件の概要を教えてください。
千葉〔弁〕 いわゆる「ふるさと納税」制度において、ふるさと納税の指定団体の要件を定めた総務大臣の告示(以下「本件告示」といいます)に泉佐野市が違反しているとして、総務大臣が、泉佐野市からの申請に対し不指定処分とし、泉佐野市は、この処分が違法であるとして、処分の取消しを求めて訴訟で争った事件です。

ふるさと納税は不公平なのか

滝口〔弁〕 まずは、今回の題材となった泉佐野市についてお聞きしたいと思います。泉佐野市は令和元年度に184億円のふるさと納税を受け入れています。これはふるさと納税に参加しているすべての団体の中で断トツです。
本目さよ〔議〕 泉佐野市の一般会計予算が令和2年度で539億円とのことです。ふるさと納税受入額の存在感がものすごいですね。
滝口〔弁〕 税金の総額という一つのパイが、ふるさと納税制度によって再分配され、ある地方自治体が増収となった分だけ減収となる地方自治体が出てきてしまいます。ゼロサムゲームの様相は否定できませんが、自分の地方自治体だけがよければそれでよいのでしょうか。地方自治体間での「税配分の公平」という観点は大切ではないでしょうか。
石田慎吾〔議〕 私は少し違った意見を持っています。首長の立場からすると、自分の地方自治体の税収確保は首長としての活動の一丁目一番地です。ふるさと納税という制度の中で、泉佐野市は頭を使ったし、とりにいくという姿勢に出たということでしょう。アイデアの自由競争というか、頭を使って税収増を考えればよいのです。競争をした結果、税収に差が出るということは、ある程度仕方のないことだと思います。
中川〔弁〕 泉佐野市は関西国際空港を抱えていて債務の負担が大きく、税収的にも相当苦労していた地方自治体のようです。この状況を打開するために市長がリーダーシップを発揮し、ふるさと納税によって不足する税収を補填していたという側面があるようです。
江口元気〔議〕 今回の題材で争点となった「本件指定制度」の導入直前まで、泉佐野市は、寄附金を納付してくれた方に、ふるさと納税の返礼品に加えてキャンペーンと称してギフト券も配布していました。挑発的な方法に思えるのですが、法的にはどうなのでしょうか。
千葉〔弁〕 この点について、今回の最高裁判決でも「社会通念上節度を欠いていたと評価されてもやむを得ないものである」と指摘されています。しかし、法的には違法とまでは評価していません。結局は、行政としての当不当の問題でしょう。
江口〔議〕 地方が自分で決断したというところは評価しますが、制度の運用を乱しているところにはやはり違和感があります。泉佐野市が総務省の助言を無視して多額の税収を集めていたという点では、モラルハザードの面は確かにあると思います。

最高裁はどのような判断をしたのか

千葉〔弁〕 さて、税配分の問題が起きる状況下で、いわゆる「ふるさと納税」として特例控除の対象となる寄附金については、総務大臣が指定する地方団体に限ることになりました(平成31年の地方税法改正)。
本目〔議〕 この指定を受けられない地方団体には不利益が生じるのですよね?
千葉〔弁〕 指定を受けられない団体に寄附しても、納税者は税控除を受けることができません。指定を受けていない団体はふるさと納税分が減収となるでしょう。
本目〔議〕 痛いですよね。事実上、ふるさと納税制度からはじき出されてしまうということですね。
千葉〔弁〕 そのとおりです。総務大臣は令和元年5月14日付けで泉佐野市からの申請に対して不指定としました。泉佐野市としては、当然に不服ですので、この不指定が違法であるとして処分の取消しを求めて争ったのです。
滝口〔弁〕 泉佐野市が取消しを求めた手順を教えてください。最初から裁判所に訴えたのですか?
千葉〔弁〕 まずは国地方係争処理委員会が審査をしました。この委員会は、さらに検討を要するとして、国に対して、再度の検討を勧告しました。しかし、国は再度の検討の結果、不指定の判断を維持しました。そのため、泉佐野市は裁判所に訴えを起こしたのです。
滝口〔弁〕 この訴訟は最終的に最高裁まで争われていますが、最高裁はどのような判断をしたのでしょうか。
千葉〔弁〕 最高裁は泉佐野市の主張を認めました。法務大臣の定めた「本件告示」は違法・無効なものであり、これに基づく不指定処分も違法と判断しました。
滝口〔弁〕 「本件告示」がどのような内容なのか教えてください。
千葉〔弁〕 「ふるさと納税」として特例控除の対象となる寄附金については、総務大臣が指定する地方団体に限られることになりました。そして、本件告示では、過去の地方団体の募集実績をこの指定の要件・考慮要素として位置付けたのです。
滝口〔弁〕 最高裁が総務大臣による不指定処分を違法・無効と判断した理由は何でしょうか?
千葉〔弁〕 国と地方自治体の間では「関与の法定主義」の要請を満たす必要があります。今回は総務大臣が法律(地方税法)の委任の範囲を超えて指定要件を定めた、という点が大きな理由の一つとなっています。
滝口〔弁〕 「関与の法定主義」とは、どのようなものでしょうか?
千葉〔弁〕 地方自治法245条の2には、普通地方公共団体は、事務処理に関して、法律又はこれに基づく政令によらなければ、国又は都道府県の関与を受けない、という「関与の法定主義」が定められています。
滝口〔弁〕 今回の本件告示が「関与の法定主義」にどうして反することになるのでしょうか?
千葉〔弁〕 地方団体の募集実績を指定の要件・考慮要素とするのであれば、法律(地方税法)等で明確にそのことを定めなければなりません。しかし、地方税法(の改正規定)にはこの点が明示されていない。そうすると、総務大臣の定めた本件告示は法律(地方税法)の委任の範囲を逸脱している、というわけです。なお、最高裁は他にも理由を挙げていますが、ここでは割愛させていただきます。

最高裁判決の意義は何か

江口〔議〕 先ほどの最高裁判決についてですが、最高裁はどうして「事後法に当たる」という判断をしなかったのでしょうか。告知が「法律」ではないということでしょうか。
千葉〔弁〕 今回の最高裁判決には「多数意見」のほかに「補足意見」が出ています。補足意見というのは、多数意見と結論は同じだがその理由付けが異なる場合にその理由を説明するというものです。今回の最高裁判決では「事後法に当たる」と考えている補足意見も出ています。
江口〔議〕 どうして多数意見では「事後法に当たる」という理由付けが採用されなかったのだと思いますか?
千葉〔弁〕 地方と国との関係性のあり方という観点から見ると、「関与の法定主義の要請を満たすのか」、「法律の委任の範囲なのか」といった理由付けの方が「事後法に当たる」という理由付けよりも妥当ではないかと思われます。
滝口〔弁〕 最高裁が「事後法に当たる」と正面から認めるというのは、法治国家としての体裁としてもいかがなものかという気もします。
本目〔議〕 先ほどの、地方と国との関係性のあり方とはどのような意味でしょうか。
千葉〔弁〕 最高裁は、国の地方自治体に対する接し方として「今回はやり過ぎだ」といさめているといえます。今回の告示が許されてしまうと、今後はルールが明確でない状況でも地方自治体は国の指示に従わなければならないという状況も懸念されるところです。
本目〔議〕 それは、今回の最高裁判決によって、泉佐野市だけが救済されたわけではないということでしょうか。
千葉〔弁〕 本件については、たまたま泉佐野市が当事者になっただけという見方もできるのではないでしょうか。法律の委任の範囲を逸脱することが許されてしまうことがあっては、我が国の法制度として適切とはいえません。今回の最高裁判決は直接的には泉佐野市を救済したものではありますが、結果としては、地方自治体全体を守ったともいえるでしょう。
本目〔議〕 地方自治に対して誠実な最高裁判決ですね!

国と地方自治体の関係は対等なのか

滝口〔弁〕 今回の最高裁判決の中では「関与の法定主義」という法理論が使われています。国と地方自治体とは上下関係にあるのではなく、憲法上、併存的協力関係にあるため、国が地方自治体の自治に関与するためにはその旨の明確な法律上の根拠が必要であるとするものです。議員の皆さんの立場から見て、実際のところ、国と地方自治体の関係は対等なのでしょうか。
江口〔議〕 本当の対等・公平な関係というのは、なかなか難しいのではないでしょうか。やはり、国は地方交付税を握っていますし、地方自治体は地方交付税が入ることを前提に政策を組み立てています。万が一、地方交付税が減ったりすると、地方自治体としては困ったことになります。
本目〔議〕 台東区は地方交付税不交付団体ですので、地方交付税の観点では国との上下関係というのはありません。しかし、他の部分、例えば、国民健康保険の均等割のために子どもの保険料の減免をしないよう国から求められるなど、事実上の関与は存在しています。
石田〔議〕 現実として、国と地方自治体で上下関係はあります。道路一つとってもそうです。
江口〔議〕 地方分権というのは、財源と権限がセットでないと意味がありません。権限だけ法的に分権されても、財源を国に握られているようでは、中途半端といわざるを得ないと思います。

ふるさと納税による税収減とどう向き合うか

滝口〔弁〕 ところで、東京23区をはじめ都心部の地方自治体ほど、ふるさと納税による税控除が多い傾向にあります。ふるさと納税で税収減となった地方自治体でも税収増に向けて活動するべきではないでしょうか。
本目〔議〕 ふるさと納税という制度は、魅力があるのに税収が不十分な地方自治体にも税金という活力を注入する制度であると思います。他の地方自治体に比べて余力があるといわれている地方自治体がふるさと納税によって税収を増やすことには慎重であるべきという意見もあります。
渡邉健太郎〔弁〕 区議会議員の先生方には、地域の住民の方々から、ふるさと納税で区の税収を増やすよう求める意見は届いたりしていないのでしょうか。
本目〔議〕 むしろ区民の方々から話を聞くと、ふるさと納税を利用している方も多く、他の地方自治体からの返礼品がもらえて喜んでいる方がほとんどです。
渡邉〔弁〕 例えば、品川区では、ふるさと納税による税控除のため、令和2年度は約24億円の税収減となっています。
石田〔議〕 ふるさと納税という制度がある以上、この制度の中で、品川区の魅力や地場産品を発信し、アイデアを出して改善策を講じることが必要ではないかと考えます。
本目〔議〕 ふるさと納税によって減収になった場合、地方自治体によっては、その分が国から補填されることがあります。東京23区は補填されませんが、そういう意味では減収した地方自治体には損がない制度ともいえます。
滝口〔弁〕 「東京」という話が出ましたが、立川市も東京23区と同じく減収分は補填されないのでしょうか?
江口〔議〕 立川市も補填されませんので、損をします。このような制度ですので、私個人としては、制度のつくり方としてあまりうまくないと思っています。もっと長い時間をかけて、損の出ない仕組みや実績をつくってもよかったのではないかと思います。

ふるさと納税の今後

滝口〔弁〕 最後に、今回の勉強会での議論を経て、思うところや将来の展望などをお聞きしたいと思います。
石田〔議〕 「東京に地場産業はあるのか?」と思われるかもしれませんが、東京ほど魅力的な返礼品がある地域はないと思います。今は新型コロナウイルス感染症の関係で難しい部分もあるかもしれませんが、地方から東京に遊びにきた際に、行ってみたいおいしい店や有名店など、たくさんあるはずです。このようなお店とのコラボも考えられます。
江口〔議〕 そのような視点でいうと、立川市にはプロバスケットボールチームがあります。選手のサインなども、きっと欲しい人がいるはずです。チームとコラボレーションをしても面白いように思います。
本目〔議〕 ふるさと納税という形にこだわらないで、クラウドファンディングを利用する方法も検討してよいと思います。台東区(上野)には様々な文化財がありますが、それらの文化財を維持するためのプロジェクトもクラウドファンディングという制度を利用した方がなじむのではないかと考えています。
石田〔議〕 まだまだ「寄附」という行為は日本に根付いていません。ふるさと納税というのは、寄附行為を制度として根付かせる取組みともいえるでしょう。支払う側と受け取る側がウィンウィンの関係を築くことができれば、寄附文化は根付くはずです。その過程でいろいろと問題も起きるとは思いますが、ふるさと納税は制度としては多くのメリットがありますので、大いに進めていくべきだと思います。

おわりに

 今回の勉強会では、「ふるさと納税」が魅力的な政策であることが再確認され、それと同時に、国と地方との関係のあり方について積極的な議論が展開されました。議員と弁護士の交流と相互理解が一層進むよう祈念して本稿を終わりとさせていただきます。
 

千葉貴仁(弁護士)

この記事の著者

千葉貴仁(弁護士)

1983年、青森県生まれ。東北大学法学部卒業、同大学法科大学院修了後、2011年弁護士登録(第一東京弁護士会)。現在、東京リーガルパートナーズ法律事務所共同代表弁護士。同弁護士会民事介入暴力対策委員会委員、関東弁護士連合会民事介入暴力対策委員会委員。

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