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2021.02.10 議員活動

第4回 「ふるさと納税」から地方自治のあり方を考える

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国と地方自治体の関係は対等なのか

滝口〔弁〕 今回の最高裁判決の中では「関与の法定主義」という法理論が使われています。国と地方自治体とは上下関係にあるのではなく、憲法上、併存的協力関係にあるため、国が地方自治体の自治に関与するためにはその旨の明確な法律上の根拠が必要であるとするものです。議員の皆さんの立場から見て、実際のところ、国と地方自治体の関係は対等なのでしょうか。
江口〔議〕 本当の対等・公平な関係というのは、なかなか難しいのではないでしょうか。やはり、国は地方交付税を握っていますし、地方自治体は地方交付税が入ることを前提に政策を組み立てています。万が一、地方交付税が減ったりすると、地方自治体としては困ったことになります。
本目〔議〕 台東区は地方交付税不交付団体ですので、地方交付税の観点では国との上下関係というのはありません。しかし、他の部分、例えば、国民健康保険の均等割のために子どもの保険料の減免をしないよう国から求められるなど、事実上の関与は存在しています。
石田〔議〕 現実として、国と地方自治体で上下関係はあります。道路一つとってもそうです。
江口〔議〕 地方分権というのは、財源と権限がセットでないと意味がありません。権限だけ法的に分権されても、財源を国に握られているようでは、中途半端といわざるを得ないと思います。

ふるさと納税による税収減とどう向き合うか

滝口〔弁〕 ところで、東京23区をはじめ都心部の地方自治体ほど、ふるさと納税による税控除が多い傾向にあります。ふるさと納税で税収減となった地方自治体でも税収増に向けて活動するべきではないでしょうか。
本目〔議〕 ふるさと納税という制度は、魅力があるのに税収が不十分な地方自治体にも税金という活力を注入する制度であると思います。他の地方自治体に比べて余力があるといわれている地方自治体がふるさと納税によって税収を増やすことには慎重であるべきという意見もあります。
渡邉健太郎〔弁〕 区議会議員の先生方には、地域の住民の方々から、ふるさと納税で区の税収を増やすよう求める意見は届いたりしていないのでしょうか。
本目〔議〕 むしろ区民の方々から話を聞くと、ふるさと納税を利用している方も多く、他の地方自治体からの返礼品がもらえて喜んでいる方がほとんどです。
渡邉〔弁〕 例えば、品川区では、ふるさと納税による税控除のため、令和2年度は約24億円の税収減となっています。
石田〔議〕 ふるさと納税という制度がある以上、この制度の中で、品川区の魅力や地場産品を発信し、アイデアを出して改善策を講じることが必要ではないかと考えます。
本目〔議〕 ふるさと納税によって減収になった場合、地方自治体によっては、その分が国から補填されることがあります。東京23区は補填されませんが、そういう意味では減収した地方自治体には損がない制度ともいえます。
滝口〔弁〕 「東京」という話が出ましたが、立川市も東京23区と同じく減収分は補填されないのでしょうか?
江口〔議〕 立川市も補填されませんので、損をします。このような制度ですので、私個人としては、制度のつくり方としてあまりうまくないと思っています。もっと長い時間をかけて、損の出ない仕組みや実績をつくってもよかったのではないかと思います。

ふるさと納税の今後

滝口〔弁〕 最後に、今回の勉強会での議論を経て、思うところや将来の展望などをお聞きしたいと思います。
石田〔議〕 「東京に地場産業はあるのか?」と思われるかもしれませんが、東京ほど魅力的な返礼品がある地域はないと思います。今は新型コロナウイルス感染症の関係で難しい部分もあるかもしれませんが、地方から東京に遊びにきた際に、行ってみたいおいしい店や有名店など、たくさんあるはずです。このようなお店とのコラボも考えられます。
江口〔議〕 そのような視点でいうと、立川市にはプロバスケットボールチームがあります。選手のサインなども、きっと欲しい人がいるはずです。チームとコラボレーションをしても面白いように思います。
本目〔議〕 ふるさと納税という形にこだわらないで、クラウドファンディングを利用する方法も検討してよいと思います。台東区(上野)には様々な文化財がありますが、それらの文化財を維持するためのプロジェクトもクラウドファンディングという制度を利用した方がなじむのではないかと考えています。
石田〔議〕 まだまだ「寄附」という行為は日本に根付いていません。ふるさと納税というのは、寄附行為を制度として根付かせる取組みともいえるでしょう。支払う側と受け取る側がウィンウィンの関係を築くことができれば、寄附文化は根付くはずです。その過程でいろいろと問題も起きるとは思いますが、ふるさと納税は制度としては多くのメリットがありますので、大いに進めていくべきだと思います。

おわりに

 今回の勉強会では、「ふるさと納税」が魅力的な政策であることが再確認され、それと同時に、国と地方との関係のあり方について積極的な議論が展開されました。議員と弁護士の交流と相互理解が一層進むよう祈念して本稿を終わりとさせていただきます。
 

千葉貴仁(弁護士)

この記事の著者

千葉貴仁(弁護士)

1983年、青森県生まれ。東北大学法学部卒業、同大学法科大学院修了後、2011年弁護士登録(第一東京弁護士会)。現在、東京リーガルパートナーズ法律事務所共同代表弁護士。同弁護士会民事介入暴力対策委員会委員、関東弁護士連合会民事介入暴力対策委員会委員。

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