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2021.02.10 議員活動

第4回 「ふるさと納税」から地方自治のあり方を考える

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最高裁はどのような判断をしたのか

千葉〔弁〕 さて、税配分の問題が起きる状況下で、いわゆる「ふるさと納税」として特例控除の対象となる寄附金については、総務大臣が指定する地方団体に限ることになりました(平成31年の地方税法改正)。
本目〔議〕 この指定を受けられない地方団体には不利益が生じるのですよね?
千葉〔弁〕 指定を受けられない団体に寄附しても、納税者は税控除を受けることができません。指定を受けていない団体はふるさと納税分が減収となるでしょう。
本目〔議〕 痛いですよね。事実上、ふるさと納税制度からはじき出されてしまうということですね。
千葉〔弁〕 そのとおりです。総務大臣は令和元年5月14日付けで泉佐野市からの申請に対して不指定としました。泉佐野市としては、当然に不服ですので、この不指定が違法であるとして処分の取消しを求めて争ったのです。
滝口〔弁〕 泉佐野市が取消しを求めた手順を教えてください。最初から裁判所に訴えたのですか?
千葉〔弁〕 まずは国地方係争処理委員会が審査をしました。この委員会は、さらに検討を要するとして、国に対して、再度の検討を勧告しました。しかし、国は再度の検討の結果、不指定の判断を維持しました。そのため、泉佐野市は裁判所に訴えを起こしたのです。
滝口〔弁〕 この訴訟は最終的に最高裁まで争われていますが、最高裁はどのような判断をしたのでしょうか。
千葉〔弁〕 最高裁は泉佐野市の主張を認めました。法務大臣の定めた「本件告示」は違法・無効なものであり、これに基づく不指定処分も違法と判断しました。
滝口〔弁〕 「本件告示」がどのような内容なのか教えてください。
千葉〔弁〕 「ふるさと納税」として特例控除の対象となる寄附金については、総務大臣が指定する地方団体に限られることになりました。そして、本件告示では、過去の地方団体の募集実績をこの指定の要件・考慮要素として位置付けたのです。
滝口〔弁〕 最高裁が総務大臣による不指定処分を違法・無効と判断した理由は何でしょうか?
千葉〔弁〕 国と地方自治体の間では「関与の法定主義」の要請を満たす必要があります。今回は総務大臣が法律(地方税法)の委任の範囲を超えて指定要件を定めた、という点が大きな理由の一つとなっています。
滝口〔弁〕 「関与の法定主義」とは、どのようなものでしょうか?
千葉〔弁〕 地方自治法245条の2には、普通地方公共団体は、事務処理に関して、法律又はこれに基づく政令によらなければ、国又は都道府県の関与を受けない、という「関与の法定主義」が定められています。
滝口〔弁〕 今回の本件告示が「関与の法定主義」にどうして反することになるのでしょうか?
千葉〔弁〕 地方団体の募集実績を指定の要件・考慮要素とするのであれば、法律(地方税法)等で明確にそのことを定めなければなりません。しかし、地方税法(の改正規定)にはこの点が明示されていない。そうすると、総務大臣の定めた本件告示は法律(地方税法)の委任の範囲を逸脱している、というわけです。なお、最高裁は他にも理由を挙げていますが、ここでは割愛させていただきます。

最高裁判決の意義は何か

江口〔議〕 先ほどの最高裁判決についてですが、最高裁はどうして「事後法に当たる」という判断をしなかったのでしょうか。告知が「法律」ではないということでしょうか。
千葉〔弁〕 今回の最高裁判決には「多数意見」のほかに「補足意見」が出ています。補足意見というのは、多数意見と結論は同じだがその理由付けが異なる場合にその理由を説明するというものです。今回の最高裁判決では「事後法に当たる」と考えている補足意見も出ています。
江口〔議〕 どうして多数意見では「事後法に当たる」という理由付けが採用されなかったのだと思いますか?
千葉〔弁〕 地方と国との関係性のあり方という観点から見ると、「関与の法定主義の要請を満たすのか」、「法律の委任の範囲なのか」といった理由付けの方が「事後法に当たる」という理由付けよりも妥当ではないかと思われます。
滝口〔弁〕 最高裁が「事後法に当たる」と正面から認めるというのは、法治国家としての体裁としてもいかがなものかという気もします。
本目〔議〕 先ほどの、地方と国との関係性のあり方とはどのような意味でしょうか。
千葉〔弁〕 最高裁は、国の地方自治体に対する接し方として「今回はやり過ぎだ」といさめているといえます。今回の告示が許されてしまうと、今後はルールが明確でない状況でも地方自治体は国の指示に従わなければならないという状況も懸念されるところです。
本目〔議〕 それは、今回の最高裁判決によって、泉佐野市だけが救済されたわけではないということでしょうか。
千葉〔弁〕 本件については、たまたま泉佐野市が当事者になっただけという見方もできるのではないでしょうか。法律の委任の範囲を逸脱することが許されてしまうことがあっては、我が国の法制度として適切とはいえません。今回の最高裁判決は直接的には泉佐野市を救済したものではありますが、結果としては、地方自治体全体を守ったともいえるでしょう。
本目〔議〕 地方自治に対して誠実な最高裁判決ですね!

千葉貴仁(弁護士)

この記事の著者

千葉貴仁(弁護士)

1983年、青森県生まれ。東北大学法学部卒業、同大学法科大学院修了後、2011年弁護士登録(第一東京弁護士会)。現在、東京リーガルパートナーズ法律事務所共同代表弁護士。同弁護士会民事介入暴力対策委員会委員、関東弁護士連合会民事介入暴力対策委員会委員。

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