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2020.07.10

コロナ禍と公務の非正規化があぶり出す公共サービス崩壊の危機 〜議会は責任を自覚しているだろうか〜

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公益財団法人地方自治総合研究所研究員 上林陽治

 地方自治体に勤務する公務員の3人に1人は、任期最長1年の不安定雇用の非正規公務員であり、そのうち4分の3は女性である。つまり、地方公務員の4人に1人は女性非正規公務員である。彼女たちは、フルタイムで働いてもその年収は正規公務員の3分の1から4分の1の170万〜200万円程度で、収入増の希望を抱いていた新制度=会計年度任用職員制度が導入されるとむしろ月例給が下げられ、コロナ禍で在宅勤務が奨励される中にあっても仕事量が多くなり休むことができないという状況にある。
 感染リスクの高い対面の相談支援業務や学童保育、保育所保育に進んで配置されてきた多くの女性非正規公務員に、今、離職ドライブがかかっている。「やりがい」だけでは仕事を続けていけない事態が目の前に迫っているからだ。
 だが、彼女たちが辞めていったら公共サービスが崩壊すること、その結果、困りごとを抱える住民に支援が届かず放置されること……、このような認識が共有されているとは思えない。
 そして議会は、非正規公務員と公共サービスをこのような状態に追い込んだことに加担してきたことを、意識したことはあるだろうか。

1 非正規公務員が支える地方自治体の公共サービス

 勤務する職員の半数以上が定数外の非正規公務員である地方自治体は、2016年4月1日現在、92自治体に及ぶ(1)。全職員に占める非正規公務員の割合を非正規率と呼ぶとして、この非正規率が5割を超える地方自治体数は、2008年の総務省調査では17自治体だったが、2012年の同調査では43自治体で2.5倍に、そして2016年の同調査までの8年間で5倍強に急増した。
 非正規率を高い順に並べると5番目までが6割を超え、長崎県佐々町は非正規率が66%で、職員3人中2人が非正規公務員である。そして沖縄県宜野座村、北海道厚真町、秋田県潟上市、愛知県扶桑町と続く。
 非正規公務員数は、実はもっと多い。総務省の調査でカウントされる臨時・非常勤職員は、任期6月以上、週勤務時間19.375時間以上、4月1日に在職、という3要件を満たすものだからだ。このため東京都や福岡県は、臨時職員の任期を最長4月、臨時教員は4月1日を任用していない「空白期間」としていたため、総務省調査には「臨時的任用職員0人」と報告してきた。虚偽ではないが正確ではない。したがって、非正規率が5割を超える地方自治体はもっとあったはずで、非正規公務員に依存する地方自治体という事実は「隠された真実」だった。だから「認識」が遅れた。
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出典: 総務省「地方公務員の臨時・非常勤職員に関する実態調査結果」(2016年4月1日)、正規公務員の人数は、総務省「地方公共団体定員管理調査結果」(2016年4月1日)から筆者計算
表1 非正規率が5割以上の地方自治体上位20団体(2016年4月1日現在)


 非正規公務員への依存は人数だけではない。職種別に見ると、地方自治体が提供する公共サービスの質の確保も、非正規頼みなのである。
 例えば、市町村の児童虐待対応担当窓口の職員の配置状況を見ると、ベテランになるほど、非正規公務員の比率が高くなる(表2)。
 2004年の児童福祉法の改正により、市町村は児童虐待相談窓口を設置しなくてはならない。従事する職員を見てみると、人口30万人未満の一般市区では、業務経験3年以上の職員の過半は非正規公務員で占められ、さらに業務経験10年以上の職員に限ってみると、人口30万人以上の一般市区では正規23対非正規29、人口10万〜30万人の一般市区では同11対65、人口10万人未満の一般市区では同21対126。つまり業務経験の長い職員ほど非正規化している。正規公務員はおおむね3年で異動する。一方、非正規公務員は、異動を要さない職務限定のジョブ型雇用。だからこそ長い業務経験=臨床経験を要する職務ほど非正規化する。これは公務員人事制度上のパラドックスでもある。
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出典:厚生労働省「平成29年度市町村の虐待対応担当窓口等の状況調査結果」より筆者作成
表2 市町村における児童虐待対応担当窓口職員の業務経験年数(2017年4月1日現在)

2 非正規公務員を襲った二つの悲劇

 誰にも認識されないまま、むしろ「隠された真実」として、地方自治体は質量ともに非正規依存を高めていた。そこに二つの悲劇が襲った。
 一つは、会計年度任用職員制度の導入である。
 同一労働同一賃金原則に基づく非正規公務員の処遇改善をうたい文句に、期末手当を支給することとした会計年度任用職員制度(2020年4月1日施行)だったが、施行段階では、期末手当支給相当分の月例給が引き下げられ、年収さえも維持できないという事態が生じる惨状だった。筆者も協力して実施されたNHK非正規公務員問題取材班の調査(調査期間:2020年2月〜3月、調査対象:全国の県庁所在市、政令市、東京都と東京23区の合計75自治体)では、月給あるいは年収が減る職員がいるかという問いに対し、31自治体(41%)が「毎月の給料が減る職員がいる」と回答。また多くの自治体が「月給が減る分、ボーナスを支給するので年収では変わらない」などとしたものの、10自治体は「年収ベースでも減となる」と回答した。特に東京都と23特別区を除く残りの51自治体(県庁所在市と政令市)では、30自治体、約60%で月例給を減額するという調査結果であった。相対的に財政力のある県庁所在市や政令市でこの状態なのだから、財政規模が小さい自治体の惨状は容易に推測できる。
 収入が増える、報われるとの希望が打ち砕かれたときに、第2の悲劇が襲った。
 コロナウイルス禍である。
 NPO法人官製ワーキングプア研究会が実施し、筆者が結果をとりまとめた「新型コロナウイルスによる公共サービスを担う労働者への影響調査アンケート」(ウェブ調査、調査期間:5月1日〜31日、回答者:235人)では、回答者の53%に当たる125人が何らかの不利益な扱いを受けたと回答し、学童保育、相談支援員、介護福祉職を中心に、「仕事の量や勤務時間が増えた」21%(49人)、「正規職員と異なる取扱い」9%(21人)、「勤務時間の減少と収入減」が9%(20人)、「雇止め、無給の自宅待機」、「無給の特別休暇」が合わせて8%(19人)、「仕事のキャンセル等」が2%(4人)だった。そして、感染予防のために休校・休館等による在宅勤務や休暇が要請される中にあっても「いつもと変わらない勤務」に従事したものが、医療職・保健職を中心に18%(42人)だった。
 コロナは正規・非正規を選ばない。感染リスクの高い現場に非正規公務員を選んで配置しているのは人なのだ。ここに正規・非正規間の処遇格差が加わると、非正規公務員のモチベーションは下がり、離職へのドライブがかかる。「やりがい」だけでは、仕事を続けていけない事態が目の前に迫っている。
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出典: NHK非正規公務員問題取材班「“待遇改善”のはずが月給減? 非正規公務員の新制度とは」(2020年3月24日)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200324/k10012346631000.html?utm_int=nsearch_contents_search-items_001(2020年4月10日最終閲覧)
図1 新制度下での非正規公務員の給与 政令市・県庁所在市・東京都・東京23区の状況

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図2 新型コロナウイルスによる仕事上の不利益を受けた人

3 女性を正規で雇わない国家

 なぜ非正規公務員は増えたのか。この問いへの回答はシンプルで、仕事が増えたのに人は減り、正規公務員の代替として、定数カウントされず、人件費の安い労働力としての女性非正規公務員が求められたからだ。
地方公務員数が最も多かった年は1994年で328万2,492人。それから2019年までの25年間で2度の一時的な微増を除き一貫して減り続け、2019年にはピーク時より約54万人、率にして約17%減少した。
一方、現代日本において公共サービスに対する需要は高まっている。例えば待機児童対策のための保育需要の増大や貧困化に伴う生活保護世帯の増加などである。
この行政需要は非正規公務員で賄われた。公立保育所の保育士の51%は非正規であり(2)、生活保護の専任面接相談員の57%も非正規である(3)
そして非正規化は女性職種化を伴って進展した。2016年の総務省調査で明らかになった64万人の非正規公務員のうち48万人は女性で、例えば非正規化が急速に進展している図書館では、非正規図書館員1万6,484人のうち1万5,295人が女性(女性割合92.8%)である。
さらに女性が多数を占める職種こそが、狙い撃ちのように非正規においても女性割合を高める。正規公務員で女性割合が高い職種、例えば女性割合93.7%の看護師等の非正規公務員における女性割合は97.8%、同様に90.6%の保育士は96.5%、77.8%の給食調理員等は97.1%である。
 看護師、保育士、給食調理員の仕事は家事労働的、ケアワークといわれるが、このようなケアワークの女性職種ほど非正規化する。
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表3 非正規公務員と正規公務員の女性割合比較(単位:人)
注:正規公務員の人数からは、警察職員の人数を除き、正規公務員の上記の数値は一般職・教育職の地方公務員のものである。
出典: 非正規公務員は、総務省「地方公務員の臨時・非常勤職員に関する実態調査結果」(2016年4月1日現在)、正規公務員は、総務省「平成30年地方公務員給与実態調査」(2018年4月1日現在)


 国も地方も公務員を削減し続けてきた。そして少ない人員で公務を回すために、公務員はケアワークから切り離された男性が多数を占めるようになった。
 日本はいまやOECD加盟32か国で、被雇用者数に占める公務員数の割合が最も低い国になった。2017年の統計では、OECD諸国で最低の5.89%にすぎない。OECD諸国平均が17.71%、最も割合が高いノルウェーが30.34%、2位のスウェーデンが28.83%、「小さな政府」といわれるアメリカでも15.15%で、日本の公務員の規模は、ノルウェーやスウェーデンの6分の1、アメリカの3分の1にすぎない。
 公務員における女性割合に至っては、OECD諸国平均が6割、最も女性割合の高いフィンランドと2位のスウェーデンが7割を占める中にあって、日本は女性を公務員から退出させてきた結果、女性割合は4割台にとどまる。
 多くのOECD諸国では、公的雇用に占める女性の割合は男性のそれを上回り、主に公務部門における雇用によって女性の就業率の上昇が促されてきたのだが、日本は、女性の就業率を高めてきた公務部門の雇用を縮小し、その少なすぎる公務員の中でもとりわけ女性公務員を公務労働市場から退出させてきた結果、女性が活躍できる場を奪ってきた。これに加え、女性割合が高い看護師、保育士、給食調理員等のいわゆるケアワークで非正規化を止めどなく進めた結果、公的ケアサービスの供給が不足し、これが女性を家庭に縛りつける原因となって女性の労働参加を妨げるという悪循環に陥ってきた。そして「私活躍できねーじゃねーか」、「保育園落ちた、日本死ね!」というリアルが生まれた。
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出典: OECD, ‘Government at a Glance 2019’, Figure 3.1. Employment in general government as a percentage of total employment, 2007, 2009 and 2017
図3 被雇用者数に占める公務員数の割合(2007年、2009年、2017年)
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出典:OECD, ‘Government at a Glance 2019’, Figure 3.5. Gender equality in public sector employment, 2011 and 2017
図4 公務員における女性割合(2011年、2017年)
 

 図5は、世界経済フォーラムの国別男女平等指数(①)を横軸に、OECDの公務員における女性割合(②)を縦軸にして、各国をグラフ中にプロットした散布図「国別男女平等指数と公務員における女性割合の相関性(2017年)」である。
 ①②の相関係数は+0.7750で、統計学の教科書によれば「強い相関」に分類される(4)。したがってプロットは、斜め右方向に順に並び、公務員における女性割合が高い国ほど、男女平等指数も高くなる傾向となって現れる。
 例えば、①男女平等指数(0.830)で世界2位のノルウェーの②公務員における女性割合は69.28%でOECD諸国中3位、①が0.823で世界3位のフィンランドは、②が71.36%で同1位、①が0.816で5位のスウェーデンは、②が70.96%で同2位、①が0.778で11位のフランスは②が63.55%で同9位と、いずれも公務員における女性割合はOECD平均を上回り上位に位置する。一方で、男女平等指数が2017年段階で世界114位の日本は、②が44.00%でOECD諸国中26位、男女平等ランキングが118位の韓国は、②が44.96%・同25位で、いずれも世界最低水準である。
 このように、男女間の格差が少なく、女性が活躍しうる社会に転換していくためには、雇用が安定し、それなりの賃金水準が得られる公務員における女性割合を高めていくことが決定的な要素となる。
 ところが日本は、公務において女性の活躍の場を極端に狭めた「女性を正規で雇わない国家」なのである。
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出典: World Economic Forum ‘The Global Gender Gap Report 2017’Table 3: Global rankings, 2017 and OECD, ‘Government at a Glance 2017’, Figure 3.5. Gender equality in public sector employment, 2011 and 2017を筆者加工
図5 国別男女平等指数と公務員における女性割合の相関性(2017年)

4 非正規公務員問題と議会の役割、責任

 公共サービスは官製ワーキングプアを構造化して提供されている。そして希望を絶たれ、コロナ禍の中でやりがい搾取に遭う非正規公務員の離職ドライブは臨界点に達し、公共サービス崩壊の危機が目前に迫っている。
 これが本稿の結論なのだが、このような差し迫った事態を招き入れた責任は、議会にもあることを最後に記しておきたい。
 非正規公務員を含む地方公務員の勤務条件は条例に基づかなくてはならない。勤務条件条例主義である。そして、条例はすべて議会の議決を経なければならない。パートタイムの会計年度任用職員の「報酬、費用弁償及び期末手当の額並びにその支給方法は、条例でこれを定めなければならない」(地方自治法203条の2第5項)し、フルタイムの会計年度任用職員も「給料、手当及び旅費の額並びにその支給方法は、条例でこれを定めなければならない」(地方自治法204条3項)、定数は、「条例でこれを定める。ただし、臨時又は非常勤の職については、この限りでない」(地方自治法172条3項)、およそ「職員の給与、勤務時間その他の勤務条件は、条例で定め」(地方公務員法24条5項)なければならないのである。つまり制度上の担保は議会の議決に委ねられている。ところが多くの議会はこの機能を自覚せず、いたずらに公務員定数を削減し、ケアワークを低賃金労働とみなして女性非正規化する行政に加担し、女性を公務労働市場から退出させることを推進してきてしまった。
 さらに労働基本権制約下においては、公営企業職や現業職を除き、議会で制定する条例は、労使協約はもちろんのこと書面協定に代替する機能が求められている。
 法制的にも、他の法律の適用除外関係を列挙する地方公務員法58条は、労働基準法上の変形労働時間制(1年単位やフレックスタイム制等)の導入要件である書面協定について、「条例に特別の定めがある場合」に読み替えると規定する。
 すなわち議会が制定する条例は、労使合意により法的効果を持つ労働協約や書面協定の擬制という役割も持たされている。
 そうだとすると議会は、労使合意の擬制との役割を自覚し、その権能をより発揮すべきなのではないだろうか。
 例えば、公務員には労働契約法の適用がなく、非正規公務員の無期転換権は生じないものとなっているが、条例によって「繰り返し任用で5年を経過した者については、本人の合意なく雇止めすることはできない」と、任命権者の裁量権を制約することはできる。
 公共サービス崩壊の危機を回避するには、女性の非正規公務員の雇用安定と処遇改善は欠かせない。そのために議会にできることは山ほどある。


(1) 非正規公務員の人数は、総務省「地方公務員の臨時・非常勤職員に関する実態調査結果」(2016年4月1日)、正規公務員の人数は、総務省「地方公共団体定員管理調査結果」(2016年4月1日)から筆者計算。
(2) 前掲注(1)に同じ。2016年4月1日現在、公立保育所の保育士は非正規9万9,958人、正規9万6,025人だった。
(3) 厚生労働省「福祉事務所人員体制調査」(2018年)から筆者計算。専任の生活保護担当面接相談員は、2016年段階で、非正規743人、正規560人だった。
(4) ピアソンの積率相関係数では、量的データ同士の相関関係の目安について、0.7〜1.0:かなり強い正の相関、0.4〜0.7:正の相関、0.2〜0.4:弱い正の相関、−2〜0〜0.2:ほとんど相関がない、−4〜−2:弱い負の相関、−7〜−4:負の相関、−10〜−7:かなり強い負の相関としている。岩㟢学=中西寛子=時岡規夫『実用統計用語事典』(オーム社、2004年)。

上林陽治(公益財団法人地方自治総合研究所研究員)

この記事の著者

上林陽治(公益財団法人地方自治総合研究所研究員)

1960年、東京都生まれ。1985年、國學院大學大学院経済学研究科博士課程前期修了、2007年より現職。主要著書に『非正規公務員』(日本評論社、2012年8月)、『非正規公務員という問題』(岩波ブックレット、2013年5月)、『非正規公務員の現在』(日本評論社、2015年11月)など。共著に『自立と依存』(公人社、2015年5月)。

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