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2020.07.10

コロナ禍と公務の非正規化があぶり出す公共サービス崩壊の危機 〜議会は責任を自覚しているだろうか〜

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3 女性を正規で雇わない国家

 なぜ非正規公務員は増えたのか。この問いへの回答はシンプルで、仕事が増えたのに人は減り、正規公務員の代替として、定数カウントされず、人件費の安い労働力としての女性非正規公務員が求められたからだ。
地方公務員数が最も多かった年は1994年で328万2,492人。それから2019年までの25年間で2度の一時的な微増を除き一貫して減り続け、2019年にはピーク時より約54万人、率にして約17%減少した。
一方、現代日本において公共サービスに対する需要は高まっている。例えば待機児童対策のための保育需要の増大や貧困化に伴う生活保護世帯の増加などである。
この行政需要は非正規公務員で賄われた。公立保育所の保育士の51%は非正規であり(2)、生活保護の専任面接相談員の57%も非正規である(3)
そして非正規化は女性職種化を伴って進展した。2016年の総務省調査で明らかになった64万人の非正規公務員のうち48万人は女性で、例えば非正規化が急速に進展している図書館では、非正規図書館員1万6,484人のうち1万5,295人が女性(女性割合92.8%)である。
さらに女性が多数を占める職種こそが、狙い撃ちのように非正規においても女性割合を高める。正規公務員で女性割合が高い職種、例えば女性割合93.7%の看護師等の非正規公務員における女性割合は97.8%、同様に90.6%の保育士は96.5%、77.8%の給食調理員等は97.1%である。
 看護師、保育士、給食調理員の仕事は家事労働的、ケアワークといわれるが、このようなケアワークの女性職種ほど非正規化する。
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表3 非正規公務員と正規公務員の女性割合比較(単位:人)
注:正規公務員の人数からは、警察職員の人数を除き、正規公務員の上記の数値は一般職・教育職の地方公務員のものである。
出典: 非正規公務員は、総務省「地方公務員の臨時・非常勤職員に関する実態調査結果」(2016年4月1日現在)、正規公務員は、総務省「平成30年地方公務員給与実態調査」(2018年4月1日現在)


 国も地方も公務員を削減し続けてきた。そして少ない人員で公務を回すために、公務員はケアワークから切り離された男性が多数を占めるようになった。
 日本はいまやOECD加盟32か国で、被雇用者数に占める公務員数の割合が最も低い国になった。2017年の統計では、OECD諸国で最低の5.89%にすぎない。OECD諸国平均が17.71%、最も割合が高いノルウェーが30.34%、2位のスウェーデンが28.83%、「小さな政府」といわれるアメリカでも15.15%で、日本の公務員の規模は、ノルウェーやスウェーデンの6分の1、アメリカの3分の1にすぎない。
 公務員における女性割合に至っては、OECD諸国平均が6割、最も女性割合の高いフィンランドと2位のスウェーデンが7割を占める中にあって、日本は女性を公務員から退出させてきた結果、女性割合は4割台にとどまる。
 多くのOECD諸国では、公的雇用に占める女性の割合は男性のそれを上回り、主に公務部門における雇用によって女性の就業率の上昇が促されてきたのだが、日本は、女性の就業率を高めてきた公務部門の雇用を縮小し、その少なすぎる公務員の中でもとりわけ女性公務員を公務労働市場から退出させてきた結果、女性が活躍できる場を奪ってきた。これに加え、女性割合が高い看護師、保育士、給食調理員等のいわゆるケアワークで非正規化を止めどなく進めた結果、公的ケアサービスの供給が不足し、これが女性を家庭に縛りつける原因となって女性の労働参加を妨げるという悪循環に陥ってきた。そして「私活躍できねーじゃねーか」、「保育園落ちた、日本死ね!」というリアルが生まれた。
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出典: OECD, ‘Government at a Glance 2019’, Figure 3.1. Employment in general government as a percentage of total employment, 2007, 2009 and 2017
図3 被雇用者数に占める公務員数の割合(2007年、2009年、2017年)
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出典:OECD, ‘Government at a Glance 2019’, Figure 3.5. Gender equality in public sector employment, 2011 and 2017
図4 公務員における女性割合(2011年、2017年)
 

上林陽治(公益財団法人地方自治総合研究所研究員)

この記事の著者

上林陽治(公益財団法人地方自治総合研究所研究員)

1960年、東京都生まれ。1985年、國學院大學大学院経済学研究科博士課程前期修了、2007年より現職。主要著書に『非正規公務員』(日本評論社、2012年8月)、『非正規公務員という問題』(岩波ブックレット、2013年5月)、『非正規公務員の現在』(日本評論社、2015年11月)など。共著に『自立と依存』(公人社、2015年5月)。

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