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2020.06.25 議員活動

第1回 「債権の放棄」と専決処分

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専決処分への委任は無制限なのか

滝口 専決処分への委任の範囲は無制限に許されるわけではないでしょう。東京都のケースでは、東京都が応訴した訴訟事件に係る和解のすべてを都知事の専決処分とした都議会の議決は、地方自治法180条1項に違反して無効と判断した裁判例があります(東京高判平成13年8月27日判タ1088号140頁)。
沢田 大きな事案から小さな事案まで全部を議会がチェックするというのは無理です。メリハリはあってもよいでしょうね。
本目さよ〔議〕 自治体によっては、債権の金額が100万円以内のとき、といったように、首長への委任の範囲を制限しているところもあります。

専決処分が濫用されるおそれはないのか

滝口 首長が専決処分を使って何でもかんでも強引に進めてしまうおそれはありませんか。
加藤(拓) 「行政と議会は車の両輪の関係」といわれています。もし、専決処分の内容が議会全体の考えと異なることがあれば、首長に対して不信任を突きつけることもできます。最終的には住民に選挙で民意を問うことになります。有権者が首長の考えに同意できるのに議会側が有権者の思いをくみとれていないという事態にでもならなければ、首長が専決処分で押し切っていくことはできません。
滝口 平成22年に阿久根市の市長が議会を招集しないで、専決処分で副市長を選任するという出来事がありました。
沢田 首長と議会がここまで対立してしまうのはとても珍しいと思います。
滝口 阿久根市の一件が契機となって、平成24年9月に地方自治法が改正されています。専決処分の対象や手続などに変更があり、専決処分に一定の歯止めを設ける形になりました。
千葉貴仁〔弁〕 首長の権限の方が、議会よりもずっと強いのではないですか。
加藤(拓) 首長の権限は強いなと思うところもありますが、意見が分かれたときには何も決まらないと困るので、首長の専決処分は致し方ないところはあると思います。意外と地方自治法はよくできています。ただ、議会に権限はもっと欲しいとも思います。
沢田 首長と渡り合っていくためには、議員自身ももっとしっかりしないといけません。

議会は首長に対する債権の放棄を議決できるのか

加藤(慶) 首長による専決処分ではありませんが、債権の放棄に関しては司法試験で出題されたことがあります。住民訴訟の結果、首長が地方自治体に対して損害賠償責任を負ったときに、議会が首長に対する債権を放棄するとの議決をしてよいのかという論点です。
中川洋子〔弁〕 会社法でも同様の議論がありますね。株主代表訴訟の結果、代表取締役が会社に対して損害賠償責任を負ったときに、取締役会が債権の放棄を決議してよいのかという論点です。
加藤(慶) 国立市への高層マンション建設をめぐり、開発会社に敗訴して損害賠償金を支払った市が、元市長に対し同額を負担するよう求めたという訴訟がありました。この訴訟では、元市長に金利を含めて、4,000万円を超える損害賠償責任を認める判決が確定しています。元市長は最終的にはカンパを集めて、市民の力で支払ったと聞いています。
沢田 首長の政治判断に政治責任が問われるのは当然のことです。しかし、首長の政治判断に首長個人が損害賠償責任を負うということになってしまうと、首長としては何もしない方が安全だということになってしまいます。それでよいはずがありません。
千葉 首長に損害賠償責任を負わせるにしても、誰も彼もがそんな高額な損害賠償を支払うことができるのかなという気もします。
滝口 首長の損害賠償責任について地方自治法が一部改正されて、令和2年4月1日に施行されました。首長への損害賠償責任を免責することができる範囲について定められました。議会が免責を議決するときには、監査委員の意見を聴取することも定められました。
本目 このような場合に備えて、首長が入ることができる損害賠償責任保険もあるようですね。

おわりに

 議員と弁護士とで議論を重ねていくと、それぞれの異なる視点が浮かび上がってきます。議員と弁護士の交流と相互理解が一層進むよう祈念して本稿を終わりとさせていただきます。
この勉強会での議論の様子につきましては、今後別のテーマでもご覧いただければと思います。

滝口大志(弁護士)

この記事の著者

滝口大志(弁護士)

1982年千葉県生まれ 千葉大学法経学部法学科卒業、九州大学法科大学院修了 弁護士登録(第一東京弁護士会)(新第65期) 主な著書に、『建物明渡請求の事件処理50』(税務経理協会、2016年)など

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