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2016.11.10 政策研究

豪雨災害と三条市の防災対策~災害に強いまちづくりを目指して~

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三条市行政課防災対策室

二度にわたる豪雨水害の経験

 三条市は、新潟県のほぼ中央部に位置し、全国有数の高い技術力を有する「ものづくりのまち」として知られています。
 日本一の大河「信濃川」とその支流である清流「五十嵐川」の合流点に開けたまちであり、これらの河川は肥沃な土壌を育て、豊かに作物を実らせ、河川交易により文化や産業に繁栄をもたらしてきました。
 しかし、平成16年7月と平成23年7月の二度にわたり、集中豪雨によって五十嵐川の穏やかな流れは濁流へと変貌しました。平成16年の水害では、避難情報の伝達、災害時要援護者を含む住民の避難、災害対策本部の運営等において様々な課題が浮き彫りとなりました。これらの課題を踏まえ、河川改修等のハード整備と併せ、様々なソフト対策を講じた結果、平成23年の水害では平成16年と比べて被害を小さくすることができました。
 この二度の大水害では、国・県をはじめとする関係機関や市内団体等だけではなく、全国各地の多くのボランティアの方々と自治体等から、人的、物的支援をいただくとともに、復興、再建への勇気も与えていただきました。当時頂戴した皆様からの温かいご支援に対し、この場をお借りして改めて感謝申し上げます。

豪雨による大水害三条市は平成16年と平成23年の二度にわたり豪雨による大水害を被った。

平成16年7月新潟・福島豪雨災害

 平成16年7月13日、新潟県中越地区を中心に集中豪雨が襲いました。三条市では累計雨量491ミリメートルを記録し、五十嵐川のほか6河川11か所の破堤によって市街地が浸水したほか、がけ崩れも多発し、死者9人、被害世帯7,511世帯と甚大な被害が生じました。この際、市の災害対策本部は大きく混乱し、情報伝達体制の不備によって市民に避難情報を迅速に伝えることができなかったほか、様々な課題が浮き彫りとなりました。
 この災害を教訓に三条市が実施してきたソフト対策をご紹介します。

(1)情報伝達活動の多様化、迅速化
 平成16年の水害時の市民への避難情報等の伝達は、戸別訪問や広報車での巡回、自治会長への電話連絡により行いましたが、急速な浸水によって広報車が水没し、避難勧告の対象44地区のうち34地区しか巡回できなかったり、体制の不備によって自治会長への電話連絡も7地区にしかできなかったりと、水害後に行ったアンケート調査の結果によれば、わずか21.9%の方にしか情報を伝えることができていませんでした。
 この反省を踏まえ、その後、あらゆる媒体を利用した情報伝達体制の多様化、迅速化を図ってきました。市内180か所に屋外スピーカーを整備するとともに、自治会長、民生委員児童委員宅に戸別受信機を設置し、地元のコミュニティFM局への緊急割込み放送も行える「同報系防災行政無線システム」を構築しました。また、65歳以上の高齢者のみの世帯や障がい者のみの世帯等、特に配慮が必要な世帯に確実に避難情報を伝達するため、緊急割込み放送があった場合には普段使っていなくても自動で起動し最大音量で放送を行う「緊急告知FMラジオ」を希望者に無償で貸与することとしました。
 このほかにも避難情報のメール配信や緊急速報メール、テレビ局のデータ放送等により情報伝達手段の複線化を図りました。

緊急告知FMラジオ緊急割込み放送があった場合には自動で起動し最大音量で放送を行う「緊急告知FMラジオ」を希望者に無償で貸与している。

(2)災害対応マニュアルの作成
 また、平成16年の水害では、災害の様態が刻一刻と変化し、市民からの問合せや救助要請、国や県等の関係機関からの情報等、様々な情報が錯綜(さくそう)する中で、個々の職員が自らの役割やとるべき行動を把握していなかったため、対応に大きな混乱が発生してしまいました。
 そこで、いざという場合に細かな指示がなくても一人ひとりの職員が主体的に行動し、迅速に公助の災害対応体制に移行するため、市が取り組むべき「3時間以内の目標任務」、「24時間以内の目標任務」、「5日又は3日以内の目標任務」を明らかにするとともに、「誰が」、「何を」行うという視点での「災害対応マニュアル」を作成しました。マニュアルは往々にして策定した後は誰も見なくなり、ごく短期間で現実とかい離したものとなってしまいがちですが、「誰が」、「何を」ということを具体的に定めることによって人事異動のたびに必然的に改訂が生じ、そのつど内容を確認することでマニュアルの劣化を防いでいます。
 また、こうした公助の対応マニュアルのほかに、災害時における自助、共助の基本的役割を示した市民や自治会等に向けたマニュアルも作成し、その実効性を担保するため、毎年出水期前に全ての自治会長、民生委員児童委員、自主防災組織代表者が参加する研修会を開催し、それぞれの役割やとるべき行動等について説明を行っています。
 その上で整備したマニュアルが机上のものとなっていないか、現実とかい離していないかを定期的に確認するため、主に情報伝達体制を検証する水害対応総合防災訓練を毎年実施しています。訓練はあらかじめ訓練参加者に状況を伝えないブラインド型で行い、災害対策本部や避難所の運営、各種媒体による避難情報等の伝達、災害時要援護者の避難支援、消防の救助活動、消防団の水防活動といった発災時に起こり得る一連の対応を本番さながらの緊張感の下で検証しています。

図 災害対応マニュアルの全体構成イメージ図 災害対応マニュアルの全体構成イメージ

(3)災害時要援護者対策の強化
 平成16年の水害における死者9人のうち7人は高齢者であり、そうした高齢者をはじめとする災害時要援護者を支援する体制の強化は急務でした。
 まず、心身の状態を踏まえた基準に基づき避難等に支援を要する方を掲載した災害時要援護者名簿を暫定的に作成しましたが、約5,000人の方が支援の対象者となり、様々な業務が輻輳(ふくそう)する災害時に市の職員だけで対応することは明らかに不可能な状況でした。
 そこでまず要援護者の絞り込みを行いました。本当に支援が必要な方を優先的に支援するため、心身の状態のみならず、単身世帯や高齢者のみの世帯、障がい者のみの世帯といった生活実態、居住実態も考慮した基準に見直しを行いました。その結果、現在では約2,200人まで対象者が絞り込まれています。
 このように対象者を絞り込んでもなお市の職員だけで全ての方々を支援することはできません。
 つまり地域全体での要援護者の支援体制構築が不可欠です。そしてそのためには、要援護者の個人情報が掲載された名簿を自治会、民生委員児童委員、消防団、介護サービス事業所といった地域の支援主体に提供することが欠かせません。
 しかし、名簿への掲載に本人の同意を求めるいわゆる同意方式では、個人情報を提供されることに対する漠然とした不安や回答の失念などにより、同意の意思表示をしない、いわば消極的な不同意者が少なからず生じると懸念されました。そこで三条市個人情報保護条例に基づく個人情報保護審議会に諮問し、必要な手続を経た上で、名簿への掲載に不同意の意思表示があった方以外は全て名簿に掲載し、地域の支援主体に提供する「逆手挙げ方式」に作成方法を変更しました。
 この変更によって、当初20%近かった不同意者の割合は、現在約5%にまで減少し、地域全体で要援護者を支援するための大切な基盤となっています。

(4)豪雨災害対応ガイドブックの作成
 災害時においては「自分の命は自分で守る」という「自助」をいかに適切に実施するのかが重要であり、とりわけ避難行動の選択は生死を左右する極めて重い判断にもなり得るものです。避難といえば一般的に避難所への避難、立ち退き避難を想像しがちですが、浸水が始まった段階で無理に避難所に避難しようとしてかえって危険な状況に陥る場合も少なくありません。自宅等の構造や立地、浸水の状況によっては、無理に立ち退き避難を行わずにその建物の2階以上に避難する「垂直避難」が有効な場合があります。
 そこで三条市では、この「垂直避難」の考え方を取り入れた「豪雨災害対応ガイドブック」を作成し、市内全戸に配布しました。このガイドブックに掲載された「逃げどきマップ」は、建物の構造や立地等をフローチャートでたどっていくと浸水の状況に応じて立ち退き避難を行うべきなのか、垂直避難を行うべきなのか、どのような備えが平時から必要なのかを示してくれる行動指南型のハザードマップとなっており、適切な自助を促す重要なツールのひとつとなっています。

豪雨災害対応ガイドブック「豪雨災害対応ガイドブック」は行動指南型のハザードマップとなっており、適切な自助を促す重要なツールのひとつとなっている。

平成23年7月新潟・福島豪雨災害

 平成16年の水害から7年後の平成23年に、三条市は再び豪雨災害に見舞われました。
 その際の累計雨量は959ミリメートルと平成16年の約2倍であったにもかかわらず、三条市全体での被害は大きく軽減することができました。

表 平成16年と平成23年の豪雨災害による被害の比較表 平成16年と平成23年の豪雨災害による被害の比較

 この被害の軽減には、平成16年の水害以降に国と県が実施した五十嵐川の大規模な改修が直接的に貢献しましたが、我々が実施してきたソフト対策も円滑な情報伝達や適切な避難行動等の促進に一定の成果を上げたものと考えています。
 例えば、平成16年には21.9%の市民にしか伝わらなかった避難情報は、平成23年には93.3%と多くの方に伝えることができ、そのうち7割近い方がその間に整備された防災行政無線で情報を得ていました。また豪雨災害対応ガイドブックに目を通したことがあるという方の割合は8割を超え、平成23年の水害では実際に7割の方が自宅の方が安全と判断し垂直避難等を実施しました。
 このように平成16年の水害の教訓を生かし、ハード、ソフト両面の対策に取り組んだことが被害の軽減につながったものと考えています。

水害サミット

 平成16年7月の豪雨災害を経験した新潟県の見附市、三条市、福井県の福井市、同年10月の台風により被災した兵庫県の豊岡市の4市長が発起人となり、平成17年に「水害サミット」を立ち上げました。
 この水害サミットは、水害被災地の首長が一堂に会し、自らの体験を語り合い、より効果的な防災、減災を考えるとともに、それらに関する積極的な情報発信を通して広範な防災、減災意識を高めることを目的に開催し、今年度で12回目を迎えました。
 これまでには、サミットで積み重ねてきた議論をまとめた「水害対策に関する提言」が河川法、水防法の改正につながり、全国的な水防体制の強化等が図られました。また被災体験を通じて得た様々な知見をとりまとめ、『防災・減災・復旧 被災地からおくるノウハウ集』として編集・刊行し、全国の市区町村へ情報発信してきました。このノウハウ集には「災害時にトップがなすべきこと」を収録しており、例えば「『命を守る』ということを最優先し、避難勧告を躊躇してはならない」、「人は逃げないものであることを知っておくこと。逃げない傾向を持つ人を逃げる気にさせる技を身につけることはもっと重要である」ということ等を提唱しています。

水害サミット今年度で12回目を迎えた水害サミット。

更なる防災対策の推進に向けて

 我々基礎自治体の最も重要な責務は、地域住民の生命・財産を守ることであり、そのための防災・減災対策を十二分に行っていかなければならないことはいうまでもありません。
 近年の多発する激甚な自然災害に対応していくためには、個々の自治体や関係機関の対応能力を上げていくことと併せ、「困ったときはお互いさま」という精神に基づく自治体間連携による支援体制もますます重要になっていきます。そのため、平時からの横のつながりを大切にすることはもちろん、あらゆる機会を捉え、様々な分野・観点から自治体間の交流とネットワークの充実・強化に向けた取組を推進していきたいと考えています。

三条市行政課防災対策室

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三条市行政課防災対策室

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