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2016.09.26 選挙

18歳選挙権における議会・議員の役割 〜キャリア教育の一環としての主権者教育〜

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新潟県立大学准教授 田口一博

選挙 → 政治家 → 政治=政策選択 → 政策 → 幸福の実現・増進

 非常に単純化していえば、人にとって大事なのは幸福を追求することであって、選挙はその入り口にある手続にすぎない。選挙という仕組みがあって、そこに参加できることはデモクラシーにとって極めて大事であるが、選挙そのものは目的ではない。したがって選挙への参加を呼びかけるとすれば、選挙の先にある政治家を選び、政治という話合い・合意形成によって政策を決めることが大事なのだ、がきちんと理解されなければならないのである。
 若者が要求して、ではなく、諸外国との比較によって始められることになった18歳選挙権。第1回となる2016年参議院選挙では、18歳に選挙についての学習をさせると、投票に行く率が高くなる、は高校やメディアの働きかけで成果が出たようである。問題はこれから。新有権者のみならず、その前の小中学生にも、そして「主権者教育」を受けずに大人になってしまった世代にも、議会・議員は働きかけを行っていかなければならないのである。
 今こそ議員は「先生」をしよう!

18歳選挙権導入はどうだったか

 これまで選挙のたびに若者の投票率が低いことが問題とされてきた。
 選挙を執行する行政委員会である選挙管理委員会は、各種選挙が終わるごとに代表的な投票区を選び、年代別・性別の投票率を集計して選挙の準備から結果までをまとめた「結果調」などに掲載してきた。また、それとは別に選挙啓発を行っている公益財団法人明るい選挙推進協会(全国)、明るい選挙推進協議会(都道府県・市区町村域)や報道機関などは、アンケートやインタビューなどによって「どうして投票したか」、「なぜ、その候補者(政党)に投票したのか」などを調査してきた。
 今回の参議院選挙では、総務省は特に18歳・19歳有権者の参議院選挙における投票の全数調査を選挙管理委員会に依頼した。その集計結果が9月13日の総務大臣記者会見で概略次のように述べられている。

 18歳の投票率 ・・・・・・・・・・・・51.28%
 19歳の投票率 ・・・・・・・・・・・・42.30%
 18・19歳の平均投票率 ・・・・46.78%
 20歳代全体の投票率 ・・・・・・35.60%(抽出調査)
 全年齢の投票率 ・・・・・・・・・・・54.70%

 また、これより先、明るい選挙推進協会では、2016年7月の参議院選挙投票日の前後、インターネットによる意識調査を行っている(http://www.akaruisenkyo.or.jp/wp/wp-content/uploads/2016/08/HP用(参院選後).pdf)。
 いくつかの調査の結果や報道機関の調査などから推測すると、18歳人口の大部分を占める高校生に対して、高校が「主権者教育」を行ったから、というのが、19歳や20歳代全体と比べて、18歳の投票率が高い理由のようである。
 過密な時間割を調整して既存の科目とは別の取組を行った高校の努力には敬意を表したい。だが、これで安心してはいけない。これまでの調査では、一度投票に参加しているからといっても、引き続き参加するかは保証の限りではないからである。最初だから、いわれたから、教えられたから投票に行ったけれども、もう行きたくない、という若年齢者層が少なからずいるのである。18歳選挙権とは別だが、投票環境の再検討や合理化も、非常に重要な要素である。
 投票立会人の面前で投票することが長く日本の投票所の大原則である。だが、人口の1%のみが有権者で、顔パスが一番確実な本人確認だった時代ではない。投票所の雰囲気が暗い、具体的には衆人環視のもとで投票するのがいやだ。そもそも、なぜわざわざ投票所まで出かけて紙に書かなければならないのか、という若年齢者層の声は大きい。
 本人確認が厳格になっている時代なのに、そこは非常に緩く、一方で過度といえるほどプライバシー保護が大事にされているにもかかわらず、静まりかえった投票所で多数の関係者にじろじろと見つめられ続けていることがたまらない、というのは考えるべきことであろう。
 なお、投票の方法や投票所のあり方等、投票の環境についての検討は、総務省の「投票環境の向上方策等に関する研究会」が9月9日に報告を公表している(http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01gyosei15_02000144.html)。
 大まかにいって、選挙の投票に行く率は年代が上がるごとに上昇する。もちろん選挙によって、またそのときの状況によっても違うが、70歳までは年齢+10%が投票率に近いといってもよい。では、なぜ年代が上がると投票率も高くなるのだろうか。「選挙は国民・住民の義務だから行かなくてはいけないのだ」と投票義務感を感じる有権者も年代とともにわずかに増えるが、それよりもよく上がるのが、「職場や知人から投票を依頼された」なのである。社会との接点がほとんどない高校生や若年齢者層ならば投票を頼まれる、ということもないだろう(その分、家庭の役割は非常に大きい)。
 一方、なぜ投票に行かないのかを聞いてみると、「誰に入れていいのか分からない」という回答もある。実際、大学生に質問すると、真面目で一生懸命な学生ほど、「よく分からないのに投票できない」、「候補者や政党のことを知らないのに投票しては無責任」と考えるようである。そのような若者に「投票に行かないのはけしからぬ」と脅して無理矢理投票所に引っ立ててもだめだろう。普段から考えていなければならないが、それには政治や政策をどのように考えればよいのかから丁寧に教えていかなければならないはずだ。
 このようなときは、いくらでも報道されているのに関心を持たないのがだめなのだ、自分から情報をとりにいくべきなのだ、といっても仕方がない。「関心を持たないのはなぜか」が次の問題となるだけなのである。どうして若者は選挙に行かないのかのみ考えるのではなく、選挙の結果である政治家、政治家の活動の結果である政治、そして政治が決定する政策になぜ関心が持たれないのかの根本のところまで、いったん立ち止まって原因からきちんと考えることが必要なのである。
 私たちには政治からのアクセスがない、政治家を見たことがない、という学生たちの声もある。大学でもこれまでは官僚や自治体職員による講義などはあっても、現職の政治家が講義等を行うことは極めて限られていたと思う。しかし選挙で多数の人に名前を書いてもらって初めてなれるのが政治家。その生の声を聞けば、たいていの学生は政治家の仕事を改めて理解し、政策を選ぶこととはどういうことかを考えるとてもよいきっかけになる。

大学で学生と語る石崎とおる代議士大学で学生と語る石﨑とおる代議士

 政治家の講義が行われてこなかった理由のひとつに、学校に特定の主義主張を持ち込まれては困る、1人を呼ぶだけではバランスがとれないから、複数の政治家を呼ばなければならないが、それでは大変である、等々の理由もあるのであろう。それらをクリアするために、政党は教育界と共同して、大学等に行く際にどのような話をすべきか、どんな資料を用いるべきかという標準的なテキストをつくってほしい。また、地方議会は議員を学校に派遣する際の基準や方法、どんなふうに児童・生徒・学生に接するべきかの研究をしてほしい。

18歳選挙権における主権者教育の重要性

 「主権者教育」とは選挙啓発が事業仕分けされた際、その代替・後継として考えられた概念である。ちょうど同時期に18歳選挙権への対応が考えられることとなり、18歳選挙権=主権者教育とスッポリ収まってしまったが、主権者教育は18歳だけを対象としているわけではない。日本で主権者教育という言葉を使用したのは、総務省に置かれた常時啓発事業のあり方等研究会最終報告書「社会に参加し、自ら考え、自ら判断する主権者を目指して〜新たなステージ『主権者教育』へ〜」(2011年12月)である。そこでは大まかに、従来から選挙啓発が行ってきた、
 ① 有権者に対する政治・選挙に関する知識と社会的・道義的責任に根ざした投票義務感の醸成
に加え、子どもから大人まで全ての人にとって必要な、
 ② 社会参加
 ③ 政治的リテラシーの獲得
のための教育が主権者教育としている。
 「最終報告書」(http://www.soumu.go.jp/main_content/000141752.pdf)を参考に、順番に考えてみよう。

 ①の選挙啓発は、大正末に(男子)普通選挙制が成立した頃に始められ、戦後改革で女性の参政権と選挙権年齢が25歳から20歳へ引き下げられた際に現在までの骨格がつくられた。
 男女平等・男女共同参画が当たり前になっている現在でも、選挙の投票者数が男女別々に集計されている=そのために選挙人名簿に男女の表示がある=のは、もとをただせばここにある。社会で活躍してきたベテランの女性が、どのような姿勢で選挙に臨むべきかを教えるのが、戦後最初期には重要な問題だったわけである。
 戦後改革でそれまで政治参加の道が閉ざされていた女性が選挙権・被選挙権を同時に得たため、買収や感情で投票することがないように、という観点から運動が始められたのが、「明るい選挙推進協議会」である。女性の選挙参加促進が目的であるから、現在でも活動の主体は女性であるのはこれによる。明るい選挙推進協議会はボランティア組織であるが、実際には地域の選挙管理委員会で組織しているともいえる。中立性・公平性が政治的だけではなく、経済的にも求められるからである。事業仕分けではそこが非難されたが、既存の何らかの勢力とあらゆる点で無関係に活動せよ、というのは無理な相談であろう。
 女性(当時は「婦人」)参政権が実現して70年がたつ。選挙啓発の対象は女性だけではあり得ないし、男女別の投票率を見ても、選挙によっては女性の方が男性を上回っているのであるから、その意味では最初の目的は達したといえるであろう。だが、今もって政治家として活躍する者の男女同数は実現にほど遠い。さらに、小規模自治体を中心に議員のなり手がいない、無投票当選や欠員が増えているという大問題が起きている。議会の構成は必ずしも住民の構成と一致するものではないが、それにしても女性の議員や首長の数は少なく、年齢や職業構成も大きくずれていることは事実である。
 そうであれば、これからの選挙啓発とは「選挙に行きなさい」という指導が行われるべきことよりも、政治に対する考えを持ち、政策に対する意見が形成できる住民を増やすことであるし、そこから政治家の候補者を育てていく、ということにほかならないだろう。その担い手は必ずしもベテランの女性層に限る必要はないし、これまで選挙啓発では避けてきた生の政治問題・政策課題を扱う必要、つまり第2、第3の問題である社会参加と政治的リテラシーに取り組まなければならないのである。
 なお、選挙啓発の対象や担い手は拡大する必要があるが、戦後の民主化期に導入されたそれらの手法はきちんと継承され、さらに進化させていくべきであろう。これは③の中で触れることにする。

 ②の社会参加は現代のスマホ世代にとって、一番苦手なことなのかもしれない。地域によって実に大きな差があるが、学校に在学している間は社会から隔絶されている、ということがある。最近の学校運営では評議会を取り入れるなど、地域と学校とを結びつけようという努力がなされている。だが、肝心な社会の側に子どもの居場所があるか、世代を超えた交流が行われているかではないか。これは大きな問題であることは了解いただけよう。
 特別に「社会参加」などといわなくても自然に子どもには子どもの居場所と役割があり、それが地域社会に当然のこととなっていることもある。お祭りや伝統芸能が伝承されていれば、改めて社会参加とは、と問われてもピンとこないだろう。他方、家庭内での孤食が問題となり、さらにこども食堂など、何か特別な取組をしなければならない、というところもある。どのように社会参加を進めるのかは、地域の実情に合わせる必要も大きいし、家庭の政治的な役割、ということも考えなければならないであろう。
 社会参加は子どもだけの問題ではない。学校に行く青年期までの不登校や、壮年期、高齢期までの引きこもりという問題もある。居場所と役割なしに社会参加せよと督励しても、社会に関わりは持てないし、関わりたくないという者にすら答えなければならないのが現代なのである。物心つく前から、社会と関わっていることしか、解決できない問題もあるのかもしれない。

 ③の政治的リテラシーにもいくつかの要素があるが、読者たる議員諸氏にとっては難しく考えるべきことは何もない。普段の議会活動、議員活動そのものだからである。
 リテラシーとは日本語になりにくい言葉のようである。パソコンなどでソフトを操作して様々な機能を使いこなす能力をメディア・リテラシーということがあるが、政治的リテラシーとは政治に主体的に参加し、貢献できるための能力、政治的な判断力や批判力ということである。議会での質疑や質問、その前段の調査や広聴活動、政務活動は政治的リテラシーの具体的な姿である。
 地域でやらなければならないこと、やりたいことはたくさんあるだろう。しかし、ある人にとっての最重要課題が、別の人にはそうではないこともある。そこで話し合って合意形成することが必要となるが、その場はどこよりも議会である。話し合うには、問題に対する「正しい」理解のみならず、様々な意見に対する判断、批判ができる力が必要である。最近は学校でも討議(ディベート)が用いられることもあるが、体験的な知識の習得にとどまるようであるし、高校・大学の受験勉強が行われる学年になると、討議を取り入れた学習なども中断されてしまうのは残念である。そうであればなおさら、学校の教科活動以外や学校外活動での討議の体験や見学による学習に意義がある。
 学校教育は学習指導要領に基づく教科書によって行われるが、一般的には教科書にあるひとつの考え方が事実として受け止められるように教えられる。様々な考え方があって、決まった答えはない、というのは教科書にはあまり見られないのである。だが、現実の社会の問題には複数の答えがあり、そのどれがよいかは一人ひとりの実情や考えによって異なるのが普通である。答えは必ずひとつあるのを前提としている学校では、「今日の問題には答えはありません」とか、「一人ひとり違うでしょう」ということはあまり教えやすいこととは思えないのである。こここそ、教員ではなく、議員の出番なのである。

学校でのキャリア教育における議員の役割

 キャリア教育にも様々な要素があるが、ここでは簡単に、社会に出たときに活躍できる力をつける教育としておく。
 学校でどんなキャリア教育が行われているのかを簡単に知るには、教科書を参照してみるのが効果的であろう。高校なら商業科の総合科目「ビジネス実務」の教科書を読むと、オフィスの事務として組織内の人間関係から、挨拶や電話の応対、席次といったビジネスマナーや交渉、苦情対応、ディベートなどが紹介されている。社会に出たときの即戦力がキャリア教育と考えられているようである。
 大学は法学部や医学部など、キャリアのための専門教育を目的とする学部から始まったこともあり、その業界・世界で通用するための教育が行われてきた。だが、最近では専門職業人としての教育とは別に(教科であったり、就職活動の一環の研修であったりだが)より一般的なキャリア教育がなされたり、一般的な教科の学習方法として、フィールドワークやディベートが行われたりするようになっている。教科書も様々なものが出版されている。もし、近くに大学があるなら、春・秋の学期始めの教科書の販売時期の書籍売場をのぞいてみるとよいだろう。また、社会への研究成果の還元は大学の本来の任務となっている。そのため、職業人と教員とが相互乗り入れする形で実務家が教壇に立ったり、学生が実務の場で学ぶインターン・シップも当たり前のものとなっている。
 さて、議員が学校のキャリア教育に協力するとなれば、どのようなことが可能だろうか。議員が最も得意なこと、誰よりも知っていることを行うのが一番よいだろう。ディベートや討議の前提となる、議事運営や選挙についてである。

○小値賀町議会(立石隆教議長、長崎県北松浦郡、議員定数8人)では、実際の議会の議場に小学6年生を招き、改選後最初の本会議である初議会の体験を毎年行っている。

小値賀町議会小学生議会・投票箱が空であることを点検小値賀町議会小学生議会・投票箱が空であることを点検

 議員は会議の専門家である。会議規則に基づく議事運営は、なぜか日本の学校では扱われない。初議会には議席の指定、議長の選挙といった、普段の議会にはない要素がある。議長の選挙の方法なら、議員の選挙の投票所で行うことと同じ方法で投票箱を改めることから、立会人の前で投票し、開票を行うところまで、規模は小さくとも同じなのである。その一連の流れを議会の議場という学校にはない、改まった場所で行うことで、選挙とはどういうことなのかが小学生にとっても理解できるところとなるだろう。

○箱根町議会(沖津弘幸議長、神奈川県足柄下郡、議員定数14人)では、児童の傍聴禁止規定を廃止しただけでなく、予算議会の質疑を小学生が傍聴している。
 小学生の多くは社会見学として庁舎を訪れ、議場の見学を行っている。国会でもそうであるが、見学はたいてい、会議が行われていないとき、議場が空っぽのところを見せている。これはもったいない。やはり議論をしているところを見せなければと変えたのである。しかし、本物の議論を見せるとすると、議場の発言も小学生がよく知っているテーマにしたり、用語が分かるように再構成する必要がある。この点は2017年3月の実施に向けて検討中という。

 小学生を対象とした2つの町議会の取組は、いずれも6年生の1月に社会科で政治についての学習が行われることを考えて日程を組んでいる。

○新潟市議会(高橋三義議長、新潟県、議員定数51人)では、議会としても18歳選挙権の主権者教育に取り組むべきではないか、という意見が会派の代表者会議で出され、議長から1期目議員で取り組んだらどうかという発案がなされ、現在検討が進められている。新潟市には市立高校もあるため、中学校から高校までの主権者教育のプログラムを教育委員会がつくり、その中で市議会議員・県議会議員との話合いの場をつくることが検討されている。

地域と連携した議会、議員による、住民の主権者教育

○津別町議会(鹿中順一議長、北海道網走郡、議員定数10人)では、若年齢者層との意見交換に積極的に取り組んでいる。
 津別町は林業地帯であるが、高度な技術力を持った木材加工業等が盛んであり、労働力が足らず、周辺の市町に住む若者が通勤してくる恵まれた環境にある。そこで若者団体との意見交換会や、議会主催のフォーラムを開催している。町内に立地する北海道立津別高等学校とは町が緊密な連携をとっており、様々な協力関係にある。議会としても、フォーラムのパネリストとして生徒会役員の参加を求めるなど、高校生住民とも連携している。

○多可町議会(河﨑一議長、兵庫県多可郡、議員定数14人)では、2016年5月に議場で高校生議会を開催した。

多可町高校生・議会質問中多可町高校生議会・質問中

 高校生をはじめ、こども議会と銘打ったイベントは少なくないが、その多くは執行部が主催し、あるいは学校行事に議会は議場を貸すだけとなっているのは少々残念なことである。
 多可町ではもともと町の執行機関や町内の諸団体と、立地する兵庫県立多可高等学校が連携して活動している。議会が18歳選挙権のためにと高校生議会を提案した際には、事前の準備や質問の仕方の指導を学校側との打合せのもと、議員が行った。高校生議会では高校生議員の質問に対して、議員も答弁を行い、高校生からは大人として扱われてうれしかったという感想を得たという。

 以上の事例で大事なのは、議員個人が動くのではなく、議会としての組織対応である。
 18歳選挙権の対応を機に、都道府県立の高校と市町村議会との協力が始まっている。18歳選挙権は最初の1回だけの問題ではなく、今後もずっと取り組まなければならないことであるし、18歳のとき一度だけ何かすればよい、ということではなく、何も主権者教育を受けずに成人してしまった大人の側にも、また、これから地域を支えていく小学生、中学生からも学んでいかなければならないことである。各議会では次のような方針で、今後の対応を検討してほしい。

(1)地域の政治・政策を考える資料・教科書を整備する
 小中学校の郷土に関する学習の副教材は整備されているはずだが、その内容には地理や歴史は書かれていても、現代の政策課題や過去の大きな政治問題などは書かれていないのが普通である。価値観や判断が分かれる問題は、学校は意図的に避けてきたし、避けなければならなかったからだ。
 そこでそれらを扱うのは、教員が副教材を使って、ということから議員が議会だよりや議会の会議録を使って、とした方がずっと分かりやすいことだろう。
 また、判断が分かれるような問題についての基礎資料や議論の仕方は、議会の会議録や資料を見れば、どのようにするかは一目瞭然であろう。印刷された議会の会議録は学校図書室で閲覧できるようにすることから始め、議会もまた、地域の一員として学校と関係を持つことが大切である。

(2)お互いに組織で対応し、人が変わっても同じように続けられるシステムとする
 学校は議会以上に年間計画で動いている。また、教員には人事異動があり、議員には任期がある。学校と議会との関係がある程度固まってきたら、覚書や協定のように文書化しておくのがよいだろう。
 もっとも、ただ何かを締結した、というだけでは意味はない。毎年度確認のための協議を行って事業を続け、覚書等の内容を実行し、随時質を高めて更新していくことが必要である。

(3)主権者教育に関する目標・計画を策定する
 議会が行う主権者教育の「事業主体」は議会である。その意味で、通常、執行部が定めているような事業の目標や実施のための計画は議会自身がつくらなければならない。
 主権者教育は広く社会によって担われるべきことだが、そこでの議会の役割とはどういうことだろうか。例えば傍聴者を増やす、参考人として招致するべき住民の幅を広げる、それらの中から議員に立候補し、将来町のために汗をかいてくれる若者を育てていくということであろう。
 そのためにどんな手法をとれば効果的か。本稿では議会体験や傍聴、教育への参加などを提案したが、様々なものがあり得るだろう。ぜひ地域の実情に合った効果的な方法を考え、実行して成果を出してほしい。

田口一博

この記事の著者

田口一博

新潟県立大学准教授。1962年神奈川県生まれ。
東京農業大学農学部・放送大学教養学部卒、放送大学大学院修了。
横須賀市職員在職中、東京大学大学院特任講師として地方分権改革を研究。
現在は原資料に基づく地方議会運営の実態や地方自治制度を研究。
著書に、『議会の?(なぜ)がわかる本』(中央文化社、2015年)、共編著『逐条研究地方自治法別巻』(敬文堂、2010年)等。
jkaz@nifty.com

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