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2016.09.26 選挙

18歳選挙権における議会・議員の役割 〜キャリア教育の一環としての主権者教育〜

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18歳選挙権における主権者教育の重要性

 「主権者教育」とは選挙啓発が事業仕分けされた際、その代替・後継として考えられた概念である。ちょうど同時期に18歳選挙権への対応が考えられることとなり、18歳選挙権=主権者教育とスッポリ収まってしまったが、主権者教育は18歳だけを対象としているわけではない。日本で主権者教育という言葉を使用したのは、総務省に置かれた常時啓発事業のあり方等研究会最終報告書「社会に参加し、自ら考え、自ら判断する主権者を目指して〜新たなステージ『主権者教育』へ〜」(2011年12月)である。そこでは大まかに、従来から選挙啓発が行ってきた、
 ① 有権者に対する政治・選挙に関する知識と社会的・道義的責任に根ざした投票義務感の醸成
に加え、子どもから大人まで全ての人にとって必要な、
 ② 社会参加
 ③ 政治的リテラシーの獲得
のための教育が主権者教育としている。
 「最終報告書」(http://www.soumu.go.jp/main_content/000141752.pdf)を参考に、順番に考えてみよう。

 ①の選挙啓発は、大正末に(男子)普通選挙制が成立した頃に始められ、戦後改革で女性の参政権と選挙権年齢が25歳から20歳へ引き下げられた際に現在までの骨格がつくられた。
 男女平等・男女共同参画が当たり前になっている現在でも、選挙の投票者数が男女別々に集計されている=そのために選挙人名簿に男女の表示がある=のは、もとをただせばここにある。社会で活躍してきたベテランの女性が、どのような姿勢で選挙に臨むべきかを教えるのが、戦後最初期には重要な問題だったわけである。
 戦後改革でそれまで政治参加の道が閉ざされていた女性が選挙権・被選挙権を同時に得たため、買収や感情で投票することがないように、という観点から運動が始められたのが、「明るい選挙推進協議会」である。女性の選挙参加促進が目的であるから、現在でも活動の主体は女性であるのはこれによる。明るい選挙推進協議会はボランティア組織であるが、実際には地域の選挙管理委員会で組織しているともいえる。中立性・公平性が政治的だけではなく、経済的にも求められるからである。事業仕分けではそこが非難されたが、既存の何らかの勢力とあらゆる点で無関係に活動せよ、というのは無理な相談であろう。
 女性(当時は「婦人」)参政権が実現して70年がたつ。選挙啓発の対象は女性だけではあり得ないし、男女別の投票率を見ても、選挙によっては女性の方が男性を上回っているのであるから、その意味では最初の目的は達したといえるであろう。だが、今もって政治家として活躍する者の男女同数は実現にほど遠い。さらに、小規模自治体を中心に議員のなり手がいない、無投票当選や欠員が増えているという大問題が起きている。議会の構成は必ずしも住民の構成と一致するものではないが、それにしても女性の議員や首長の数は少なく、年齢や職業構成も大きくずれていることは事実である。
 そうであれば、これからの選挙啓発とは「選挙に行きなさい」という指導が行われるべきことよりも、政治に対する考えを持ち、政策に対する意見が形成できる住民を増やすことであるし、そこから政治家の候補者を育てていく、ということにほかならないだろう。その担い手は必ずしもベテランの女性層に限る必要はないし、これまで選挙啓発では避けてきた生の政治問題・政策課題を扱う必要、つまり第2、第3の問題である社会参加と政治的リテラシーに取り組まなければならないのである。
 なお、選挙啓発の対象や担い手は拡大する必要があるが、戦後の民主化期に導入されたそれらの手法はきちんと継承され、さらに進化させていくべきであろう。これは③の中で触れることにする。

 ②の社会参加は現代のスマホ世代にとって、一番苦手なことなのかもしれない。地域によって実に大きな差があるが、学校に在学している間は社会から隔絶されている、ということがある。最近の学校運営では評議会を取り入れるなど、地域と学校とを結びつけようという努力がなされている。だが、肝心な社会の側に子どもの居場所があるか、世代を超えた交流が行われているかではないか。これは大きな問題であることは了解いただけよう。
 特別に「社会参加」などといわなくても自然に子どもには子どもの居場所と役割があり、それが地域社会に当然のこととなっていることもある。お祭りや伝統芸能が伝承されていれば、改めて社会参加とは、と問われてもピンとこないだろう。他方、家庭内での孤食が問題となり、さらにこども食堂など、何か特別な取組をしなければならない、というところもある。どのように社会参加を進めるのかは、地域の実情に合わせる必要も大きいし、家庭の政治的な役割、ということも考えなければならないであろう。
 社会参加は子どもだけの問題ではない。学校に行く青年期までの不登校や、壮年期、高齢期までの引きこもりという問題もある。居場所と役割なしに社会参加せよと督励しても、社会に関わりは持てないし、関わりたくないという者にすら答えなければならないのが現代なのである。物心つく前から、社会と関わっていることしか、解決できない問題もあるのかもしれない。

 ③の政治的リテラシーにもいくつかの要素があるが、読者たる議員諸氏にとっては難しく考えるべきことは何もない。普段の議会活動、議員活動そのものだからである。
 リテラシーとは日本語になりにくい言葉のようである。パソコンなどでソフトを操作して様々な機能を使いこなす能力をメディア・リテラシーということがあるが、政治的リテラシーとは政治に主体的に参加し、貢献できるための能力、政治的な判断力や批判力ということである。議会での質疑や質問、その前段の調査や広聴活動、政務活動は政治的リテラシーの具体的な姿である。
 地域でやらなければならないこと、やりたいことはたくさんあるだろう。しかし、ある人にとっての最重要課題が、別の人にはそうではないこともある。そこで話し合って合意形成することが必要となるが、その場はどこよりも議会である。話し合うには、問題に対する「正しい」理解のみならず、様々な意見に対する判断、批判ができる力が必要である。最近は学校でも討議(ディベート)が用いられることもあるが、体験的な知識の習得にとどまるようであるし、高校・大学の受験勉強が行われる学年になると、討議を取り入れた学習なども中断されてしまうのは残念である。そうであればなおさら、学校の教科活動以外や学校外活動での討議の体験や見学による学習に意義がある。
 学校教育は学習指導要領に基づく教科書によって行われるが、一般的には教科書にあるひとつの考え方が事実として受け止められるように教えられる。様々な考え方があって、決まった答えはない、というのは教科書にはあまり見られないのである。だが、現実の社会の問題には複数の答えがあり、そのどれがよいかは一人ひとりの実情や考えによって異なるのが普通である。答えは必ずひとつあるのを前提としている学校では、「今日の問題には答えはありません」とか、「一人ひとり違うでしょう」ということはあまり教えやすいこととは思えないのである。こここそ、教員ではなく、議員の出番なのである。

田口一博

この記事の著者

田口一博

新潟県立大学准教授。1962年神奈川県生まれ。
東京農業大学農学部・放送大学教養学部卒、放送大学大学院修了。
横須賀市職員在職中、東京大学大学院特任講師として地方分権改革を研究。
現在は原資料に基づく地方議会運営の実態や地方自治制度を研究。
著書に、『議会の?(なぜ)がわかる本』(中央文化社、2015年)、共編著『逐条研究地方自治法別巻』(敬文堂、2010年)等。
jkaz@nifty.com

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