地域と連携した議会、議員による、住民の主権者教育
○津別町議会(鹿中順一議長、北海道網走郡、議員定数10人)では、若年齢者層との意見交換に積極的に取り組んでいる。
津別町は林業地帯であるが、高度な技術力を持った木材加工業等が盛んであり、労働力が足らず、周辺の市町に住む若者が通勤してくる恵まれた環境にある。そこで若者団体との意見交換会や、議会主催のフォーラムを開催している。町内に立地する北海道立津別高等学校とは町が緊密な連携をとっており、様々な協力関係にある。議会としても、フォーラムのパネリストとして生徒会役員の参加を求めるなど、高校生住民とも連携している。
○多可町議会(河﨑一議長、兵庫県多可郡、議員定数14人)では、2016年5月に議場で高校生議会を開催した。
高校生をはじめ、こども議会と銘打ったイベントは少なくないが、その多くは執行部が主催し、あるいは学校行事に議会は議場を貸すだけとなっているのは少々残念なことである。
多可町ではもともと町の執行機関や町内の諸団体と、立地する兵庫県立多可高等学校が連携して活動している。議会が18歳選挙権のためにと高校生議会を提案した際には、事前の準備や質問の仕方の指導を学校側との打合せのもと、議員が行った。高校生議会では高校生議員の質問に対して、議員も答弁を行い、高校生からは大人として扱われてうれしかったという感想を得たという。
以上の事例で大事なのは、議員個人が動くのではなく、議会としての組織対応である。
18歳選挙権の対応を機に、都道府県立の高校と市町村議会との協力が始まっている。18歳選挙権は最初の1回だけの問題ではなく、今後もずっと取り組まなければならないことであるし、18歳のとき一度だけ何かすればよい、ということではなく、何も主権者教育を受けずに成人してしまった大人の側にも、また、これから地域を支えていく小学生、中学生からも学んでいかなければならないことである。各議会では次のような方針で、今後の対応を検討してほしい。
(1)地域の政治・政策を考える資料・教科書を整備する
小中学校の郷土に関する学習の副教材は整備されているはずだが、その内容には地理や歴史は書かれていても、現代の政策課題や過去の大きな政治問題などは書かれていないのが普通である。価値観や判断が分かれる問題は、学校は意図的に避けてきたし、避けなければならなかったからだ。
そこでそれらを扱うのは、教員が副教材を使って、ということから議員が議会だよりや議会の会議録を使って、とした方がずっと分かりやすいことだろう。
また、判断が分かれるような問題についての基礎資料や議論の仕方は、議会の会議録や資料を見れば、どのようにするかは一目瞭然であろう。印刷された議会の会議録は学校図書室で閲覧できるようにすることから始め、議会もまた、地域の一員として学校と関係を持つことが大切である。
(2)お互いに組織で対応し、人が変わっても同じように続けられるシステムとする
学校は議会以上に年間計画で動いている。また、教員には人事異動があり、議員には任期がある。学校と議会との関係がある程度固まってきたら、覚書や協定のように文書化しておくのがよいだろう。
もっとも、ただ何かを締結した、というだけでは意味はない。毎年度確認のための協議を行って事業を続け、覚書等の内容を実行し、随時質を高めて更新していくことが必要である。
(3)主権者教育に関する目標・計画を策定する
議会が行う主権者教育の「事業主体」は議会である。その意味で、通常、執行部が定めているような事業の目標や実施のための計画は議会自身がつくらなければならない。
主権者教育は広く社会によって担われるべきことだが、そこでの議会の役割とはどういうことだろうか。例えば傍聴者を増やす、参考人として招致するべき住民の幅を広げる、それらの中から議員に立候補し、将来町のために汗をかいてくれる若者を育てていくということであろう。
そのためにどんな手法をとれば効果的か。本稿では議会体験や傍聴、教育への参加などを提案したが、様々なものがあり得るだろう。ぜひ地域の実情に合った効果的な方法を考え、実行して成果を出してほしい。