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2016.06.27 政策研究

議員になるということは法人の機関になるということ

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議事機関としての行為準則

 ところで、議事(議決)機関としての議会は、いわば器ないし装置であって、一定数の議員が4年任期で選ばれ、選ばれた議員たちが機関に与えられた任務を果たすべく活動すると、装置としての議会が起動するという仕掛けになっている。どういう時期の、どういう時代潮流の中にある4年間であるかによって、任務遂行の具体的な内容や優先順位に変化が起きうる。
 議会の任務は議員全員で遂行する。議員全員が何をどうすべきかを知っていなければ、機関としての責任は果たせない。その意味で議員には一定の知識と能力が求められている。しかし、選挙で選ばれることは、必ずしもその保証にならない。相当に不ぞろいな議員が議会を構成することになる。当選回数が多い議員が多くなると、ある意味で不ぞろいさは少なくなるかもしれないが、知識と能力の点で低位均衡になる場合もある。沈滞し、代わり映えしない議会になってしまうこともあるのである。
 そこで、4年任期で選ばれて議会を構成した議員にとっては、全員で共有しなければならない基本認識があるのではないか。まず、自治体の議事機関になり、職能人として行動するのであるから、自由気ままな行動は許されなくなり、機関に与えられた責務を誠実に遂行しなければならない。機関として行動するためには、生身の人間としての自己抑制・自己規律が不可欠になる。もし徹頭徹尾、機関としての行動に専念させようとするならば、職務の範囲、内容、手続を細かく標準化し、適合か逸脱かの判定を行いやすくしておかなければならない。それは、ほとんど不可能に近い。実際には、誰であるかによって職務遂行の質(段取り・速度・達成度・費用など)が違ってくる。職務を媒介にして人格は機関に転換するといっても、人格の影響を排除できないのである。だからこそ、少なくとも機関としての行為準則の周知徹底が必要になるはずである。
 議事機関として議会がその任務を遂行する上で問題になるのは、議員の個別人格ではなく、議員が所属する政党・会派の存在だという見方がある。議会が小規模で会派がないと議会改革がしやすいが、規模の大きな議会では無理だといわれる。確かに、議事機関としての議会が、議員間の討論と合意形成を図り、一人の議会人のように振る舞うことには特段の工夫がいる。それでも、政党・会派を超えて「チーム議会」を形成し、議決機関としての任務を遂行しようとしている規模の大きな議会はある。自治体の議事機関として議会に託されている一定の職務を適切に遂行しようとする限り、政党・会派の分立は乗り越えられるはずである。そういう努力をしないで改革を回避しているのは、自治体の機関としての自覚に欠けているからではないか。

大森彌(東京大学名誉教授)

この記事の著者

大森彌(東京大学名誉教授)

東京大学名誉教授 1940年生まれ。東京大学大学院修了、法学博士。1984年東京大学教養学部教授、1996年東京大学大学院総合文化研究科教授、同年同研究科長・教養学部長、2000年東京大学定年退官、千葉大学法学部教授、東京大学名誉教授、2005年千葉大学定年退官。地方分権推進委員会専門委員(くらしづくり部会長)、日本行政学会理事長、自治体学会代表運営委員、川崎市行財政改革委員会会長、富山県行政改革推進会議会長代理、都道府県議長会都道府県議会制度研究会座長、内閣府独立行政法人評価委員会委員長等を歴任。社会保障審議会会長(介護給付費分科会会長)、地域活性化センター全国地域リーダー養成塾塾長、NPO地域ケア政策ネットワーク代表理事などを務める。著書に、『人口厳守時代を生き抜く自治体』(第一法規、2017年)、『自治体の長とそれを支える人びと』(第一法規、2016年)、『自治体職員再論』(ぎょうせい、2015年)、『政権交代と自治の潮流』(第一法規、2011年)、『変化に挑戦する自治体』(第一法規、2008年)、『官のシステム』(東京大学出版会、2006年)ほか。

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