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2016.06.27 政策研究

議員になるということは法人の機関になるということ

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自治体の機関と男女の区別

 しばしば、自治体議会の議員の構成が男性に偏っていることが問題にされるが、それは、「一定の職務を適切に遂行する限り、その遂行者が誰であってもよい」という法人の機関になるということの意味を、有権者の住民も立候補者もよく分かっていないことに基因しているのではないか。住民からすれば、一体、議会はどういう職務を遂行する責任を持っていて、議員たちは、どう振る舞えばその責任を果たすことになるか、なかなか判断しにくい。
 それにもかかわらず、自治体議会の議員はやはり男でなければ、というのは、「議会人とは職能人である」という観点からは、全く成り立たない主張(へ理屈)である。男という人格の属性が機関としての議会の任務遂行にとって、より適合的であるなどとはいえない。議会に与えられた職務を適切に果たす知識も能力も十分でなければ、男であることは無意味である。「女のくせに出しゃばるな」といった言いぐさも、「頼りになるのは男だ」という強弁も、議会が自治体の機関であることへの無知に基因している。議会の任務を遂行する機関としては男女の区別は無意味である。長い間、女性は、肉体的・知的に男性より劣っているとか、育児や家事に専念し家庭を守るのが社会的本分であるとか、根拠のない理由から男の既得権益が守られてきたにすぎないといえよう。
 一方、自治体議会の議員には女性の方が向いているともいえないことになる。女性議員が少なすぎるから、候補者の一定比率を女性に割り振る「クォータ制」の法制化を検討し、自治体議会についても女性が活躍できる環境整備を進めるべきだという見方と動きがある。女性議員が増えれば、男性議員にはない知見、知識が生かされ、議会はよくなるという主張のように思えるが、一概にそうとはいえない。個別のケースでは、女性議員の方が、会派にとらわれず是々非々で物事を判断するのが得意だ、物事に分かったふりをしないので追及心も旺盛だ、といった見方はある。しかし、それは人による。議員に当選し慣れた後は、不透明な根回しの技を身につけ住民指向を忘れてしまったのではないかと思われる女性議員も、政務活動費を不正に使用する女性議員もいるのである。
 確かに、依然として、自治体議員の中には、女性議員を蔑視しているとしか思えない言動をする男性議員が絶えない。こうした事態を改革するためには、女性議員を増やすに越したことはない。ただし、女性だから議会の任務を適切に遂行するとは限らない。男女の区別なく、自治体の議事機関としての議会の任務を果たすならば、誰でもよいのである。
 有権者としての住民については、議会はどういう職務を遂行する責任を持っていて、どう振る舞えばその責任を果たしたことになるかという点について基本的な知識を持った上で投票しているかどうかが問題になる。地元の人だからとか、縁がある人だからとか、困りごとの相談では頼りになりそうだからとかといった理由で、ある立候補者に1票を投ずる有権者は、およそ議員になるということが自治体の機関になることであり、そのことはどういう責務を負うことになるのか、当の候補者がその任を十分に果たしてくれそうかどうかは、考えたことはないということになる。
 そのようにして当選した議員も、自分が自治体の機関になったこと、人格ではなく職務遂行の能力と責任が問われるのだということには気がつかない。自分の振る舞いの効果は、自分ではなく自治体に帰属することには無頓着になる。拙劣で無責任な振る舞いは、議員個人の問題というだけではなく、自治体自体の評判を毀損することになるのである。

大森彌(東京大学名誉教授)

この記事の著者

大森彌(東京大学名誉教授)

東京大学名誉教授 1940年生まれ。東京大学大学院修了、法学博士。1984年東京大学教養学部教授、1996年東京大学大学院総合文化研究科教授、同年同研究科長・教養学部長、2000年東京大学定年退官、千葉大学法学部教授、東京大学名誉教授、2005年千葉大学定年退官。地方分権推進委員会専門委員(くらしづくり部会長)、日本行政学会理事長、自治体学会代表運営委員、川崎市行財政改革委員会会長、富山県行政改革推進会議会長代理、都道府県議長会都道府県議会制度研究会座長、内閣府独立行政法人評価委員会委員長等を歴任。社会保障審議会会長(介護給付費分科会会長)、地域活性化センター全国地域リーダー養成塾塾長、NPO地域ケア政策ネットワーク代表理事などを務める。著書に、『人口厳守時代を生き抜く自治体』(第一法規、2017年)、『自治体の長とそれを支える人びと』(第一法規、2016年)、『自治体職員再論』(ぎょうせい、2015年)、『政権交代と自治の潮流』(第一法規、2011年)、『変化に挑戦する自治体』(第一法規、2008年)、『官のシステム』(東京大学出版会、2006年)ほか。

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