5 もう一歩の先に:地方政治が台頭する時代の「地方政治の負の連鎖」
今回は、地方政治の重要性を強調してきたが、実際の政治では地方政治への衰退や批判がまん延している。投票率の低下や、地方議員・首長選挙(町村)の無投票当選の多さに見られる現状を想起していただきたい。例えば、議会に対する不満が多いこと(不満派約6割)、議員定数削減の住民投票の実施(山陽小野田市、2013年4月7日、50%条項があるために開票されず)、議会不信への対応としての議員定数削減の広がり……など。
この不信は地方議会に対してだけではない。日本でも、国会議員不信、官僚不信、地方自治体の首長や公務員への不信のまん延がある。この傾向は日本だけではなく、少なくとも先進諸国に共通している(ストーカー 2013)。これを強調するのは、何も現状の地方議会や政治に免罪符を与えたいからではない。むしろその逆である。
つまり、着実な改革こそが重要である。住民すべてがすぐに議会を信頼する、あるいは地方政治の重要性をすぐに認識する万能薬はあり得ない。「青い鳥」などいない。地道な改革こそが、泉を掘り当てることになる。
地方政治の重要性とその作動自体が目的ではなく、住民福祉の向上に結びつけることの認識が広がることが重要である。
これを自覚する議会・議員や住民の輪は広がってきたとはいえ、いまだ多数派ではない。自動的に議会改革、住民自治の充実が進むわけではない。住民も議会・議員もその努力が必要である。時代が変わっても、一方で住民の不信、他方で従来の議会運営の継続から、相互不信はまん延し、負の連鎖が生じている。本連載で構想する住民自治の推進は、地方政治の負の連鎖を断ち切ること、そして正の連鎖に転換させることでもある。本連載の目的は、地方政治を民主主義の基本・学校として位置づけることである。
~理解をさらに深めるために~
① 今回は「地方政治」と一括しているが、今後本連載では地域政治(多様な舞台の政治)と地方政治(自治体を軸とした政治)を区分して論じる。
② 地方分権の動向と地方政治は密接に関係している。その動向を確認する必要がある。同時に、それによって地方行政手法も大きく変わらなければならない。
③ 多くの文献では、首長、議会の順で論じることが多い。しかし、本連載では、住民を第一に、次いで議会、最後に首長等としている。これは地方自治法に規定される順であるだけではなく、住民自治を想定すれば、住民、次いで「住民自治の根幹」としての議会が、首長等の前に出るのは当然である。
④ 自治体を、法律用語の「地方公共団体」としてではなく、「地方自治体(自治体)」あるいは「地方政府」として理解する。
⑤ 住民参加や議会改革は、主権者教育・市民教育の重要な要素である。
(1) 「聞蔵Ⅱビジュアル」(朝日新聞)。「ヨミダス歴史館」(読売新聞)でも同様な傾向が読み取れる。
(2) Pierreは、こうした地方政治の衰退論を踏まえながら、古い地方政治は終わり、新たな地方政治が生じているという(Pierre 2011)。つまり、新たな争点とアクターの台頭により地方政治は活性化する。政党政治は衰退しているとしても、住民運動・市民運動が生じていること、インターネットの活用も新たなアクターを見いだす。また、環境問題が重要になってきており、その中にはその解決に直接地方自治体が関係することもある。また、移民の増大は地方政策を変更せざるを得ない。新たなアクターや争点は、日本でも見受けられる。
〔引用文献〕
◇神原勝(2009)『増補 自治・議会基本条例論――自治体運営の先端を拓く』公人の友社
◇神原勝(2012)「この10年考えてきたこと――自律自治体の形成をめざして」『議会・立法能力・住民投票』(「都市問題」公開講座ブックレット25)後藤・安田記念東京都市研究所
◇篠原一(1977)『市民参加』岩波書店
◇ジェリー・ストーカー(山口二郎訳)(2013)『政治をあきらめない理由』岩波書店
◇西尾勝(2007)『地方分権改革』東京大学出版会
◇Pierre, J.(2011), The Politics of Urban Governance, Palgrave Macmillan.