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2016.05.25 議会改革

第1回 地方政治の台頭――行政重視から住民が主体の政治へ――

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山梨学院大学大学院社会科学研究科長・法学部教授 江藤俊昭

今回の論点:新たな住民自治の息吹を感じよう

 地方自治は、今日大きく変化している。従来の中央集権制の下では、決めたことを実施する地方行政が重視されてきた。しかし、様々な利害を調整して統合し方向づける、つまり、合意形成を図りながら地域政策を決定する政治が今まで以上に重要となっている。その際、首長等だけではなく、議会の役割の重要性が高まる。同時に、住民が政治にかかわることが不可欠である。それを推進する制度化も進んでいる。今回は、この時代背景、今後の方向について確認する。
① 地方政治の変容の背景
② 地方行政重視から地方政治重視へのシフトの様相
③ 地方政治衰退論を踏まえた地方政治の重要性

1 地方政治の変容

 歴史を語る場合、その転換点として画期となる出来事がある。それを起点として新たな時代の時期区分とすることはよくある。戦争の終結や革命といった大きな出来事とともに、日常生活している者にはなかなか実感できないが長期的に見れば大きな変動を呼び起こす出来事もある。国会による「地方分権の推進に関する決議」(1993年)、そして「地方分権推進法」の制定(1995年)は、新たな時代の画期をなす出来事とはすぐにいえないまでも、新たな状況・局面・構造を創り出す出来事といえる。
 これらは、地方政治の分野でも大きな影響を与えている――これが本連載の立場である。同時に、その変容の理解にとどまらず、どこに向かおうとしているかを探る必要もある。
 なぜ、地方政治にこだわるか。それは、地域の政策過程の開放性にかかわることだからである。つまり、地方政治は閉鎖的な地域経営ではなく、住民が積極的にかかわる住民自治を目指す。その意味で、地方政治は、いわば地域民主主義と同義である。
 今日流布している住民参加(参画)や協働は、政策過程をより住民の側に近づけること、開放度を増大させることにつながる。その特徴を表す「協働」をキーワードに、新聞検索をすれば、1993年2件、1994年から急増して1999年には100件を超え、2003年281件、2004年506件となり、その後今日まで500件、あるいは600件で推移している(1)。少し難しい言葉を使えば、権力を住民の側にシフトさせる傾向が読み取れる。そして、そのように考えれば、地方政治には常に2つの要素が絡み合っていることが分かる。
 要素のひとつは、政治的アクター(行為者:個人、団体)とそれらの関係である。住民・住民団体、NPO、企業、議会・議員、首長等(行政委員会・委員、職員)といった地方政治のアクターが政策過程においてどのようにかかわっているか。住民代表機関である議会や首長だけではなく、住民が様々な利害を追求するために、その住民自身が連携しあるいは対抗する。議会や首長は、それに応えたり抵抗するとともに、自らも利害を追求するために住民と連合しあるいは対立する。
 もうひとつは、政治的アクターという要素の結晶であるとともに、それらのアクターを方向づける制度である。自治・議会基本条例や住民投票条例を想定するとよい。例えば、住民投票を目指す運動によって住民投票条例が制定され、住民投票が行われる場合がある。そして、それを起点としてバージョンアップされた住民参加制度を構想することになる。
 これら2つの要素からいえることは、「住民」を鍵概念とした方向に政策過程が変化しているということである。しかし日本の場合、事態はそれほど単純ではない。そもそも、従来住民だけではなく住民代表機関としての議会や首長が、地域経営において重要な主体としては登場していなかったからである。中央集権制の存在である。
 地方分権決議によって幕を開けた(とはいっても序幕であるが)地方分権の動向は、まずもって地方分権一括法の施行(2000年)によって第一幕が開かれることになる。従来、首長は、住民代表機関であるとともに、機関委任事務等による国の機関というヤヌス的な性格(2つの顔)を有していた。しかし、地方分権一括法の施行によって「住民自治の根幹」としての議会を作動させるとともに、首長をしっかりと住民代表機関に位置づける方向に舵(かじ)は切られた。
 非常に単純化すれば、中央集権時代には地域経営に当たって、執行を担う地方行政手法が重視されていた。これが地方分権によって、地域経営の自由度は高まり、地方行政を超えて様々な利害を調整し統合する地域経営手法、まさに合意形成と決定を担う地方政治の重要性が意識された。また、今日財政危機が進行しているが、そこでの「あれかこれか」という集中と選択の必要性は、この傾向をさらに推し進めた。まさに、地方政治の台頭である。議会と首長のパワーアップとともに、住民のパワーアップが求められている。
 従来地方政治といえば、選挙(国政及び地方選挙)や住民運動(及び地方自治制度改革)が主なテーマであった。また、国政を活用する政治(地域振興策等)、国政に対抗する政治(革新自治体の動向)もあった。しかし、今日まさに権限・財源を有した地方自治体=「地方政府」の新たな政策や制度をめぐる議論や運動が行われている。

江藤俊昭(山梨学院大学大学院研究科長・法学部教授博士)

この記事の著者

江藤俊昭(山梨学院大学大学院研究科長・法学部教授博士)

山梨学院大学大学院研究科長・法学部教授博士(政治学、中央大学)。 1956年東京都生まれ。1986(昭和61)年中央大学大学院法学研究科博士後期課程満期退学。専攻は地域政治論。 三重県議会議会改革諮問会議会長、鳥取県智頭町行財政改革審議会会長、第29次・第30次地方制度調査会委員等を歴任。現在、マニフェスト大賞審査委員、議会サポーター・アドバイザー(栗山町、芽室町、滝沢市、山陽小野田市)、地方自治研究機構評議委員など。 主な著書に、『続 自治体議会学』(仮タイトル)(ぎょうせい(近刊))『自治体議会の政策サイクル』(編著、公人の友社)『Q&A 地方議会改革の最前線』(編著、学陽書房、2015年)『自治体議会学』(ぎょうせい、2012年)等多数。現在『ガバナンス』(ぎょうせい刊)連載中。

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