山梨学院大学大学院社会科学研究科長・法学部教授 江藤俊昭
今回の論点:女性議員の増加を多様性の充実に
ジェンダー(生物の性差(sex)ではなく社会的な性差(gender))と政治について考えたい。政治家の女性比率が圧倒的に低いことが指摘されている。男性と同じ選挙制度、つまり性差では中立的な選挙制度によって選挙戦が行われているにもかかわらずである。本連載で問題にするのは、単に女性議員が少ないといったレベルにとどまらず、女性議員の少なさが地域政策の偏りを呼び起こしている可能性があるからである。政治分野における男女共同参画の推進に関する法律の制定(2018年)を踏まえた女性議員増加の方途を考えたい。
なお、女性議員の少なさに着目するのは、LGBTや外国籍を有する住民等には閉じられている現在の政治システムを、多様性を尊重するシステムへと転換する契機とすることも念頭にある。多様性に基づいて政策議論をする地方議会において、女性議員の少なさは、多様性を侵食する。
今後数回は、地方選挙制度の補論として、女性議員の少なさ、選挙運動制度、統一地方選挙の「統一」の意味、地方選挙制度研究の到達点といったテーマを論じる。今回は、女性議員の増加に関する次のテーマを確認する。
① 圧倒的に少ない女性議員の現状とその問題について確認する。
② 女性議員が少ない要因を探る。〔以上、前回〕
③ 選挙制度の問題を検討する。〔以下、今回〕
④ 社会規範・組織規範が変容していることを確認する。
⑤ 女性議員の少なさからの脱却の方途を考える。
3 選挙制度は女性議員の少なさの要因か
選挙制度は、性差においては中立的であると指摘した。とはいえ、すでに指摘した第1層(社会規範)と第2層(組織規範)を考慮すれば、そうとは断言できない。市町村議会議員の大選挙区単記非移譲式という選挙制度と選挙運動の問題がある。なお、都道府県議会議員選挙の1人区・2人区問題については、後掲の【キーワード】で検討している。
(1)選挙制度の偏差
小選挙区制よりも比例代表制の方が、そして比例代表制の場合では、非拘束名簿式よりも拘束名簿式の方が女性議員を選出しやすい。
小選挙区制は女性にとって立候補も当選もしにくい。拘束名簿式比例代表制は、その逆である。日本の地方議会議員選挙の大選挙区単記非移譲式は、少数派が立候補し当選しやすい制度である。
地方議会議員選挙(市町村)は、大選挙区単記非移譲式であり、これは少数代表制に分類される。したがって、第1層、第2層を打ち破った少数である女性は、広く薄く得票することで当選は可能である。しかし、二つの層を打ち破った女性があまりにも少ないことを考慮すれば、性差に中立的な大選挙区単記非移譲式とはいえ、現行制度の存続だけでいいとは思われない。
本連載(第27回(2019年6月25日号)、第28回(2019年9月10日号))で指摘したように、大都市や都道府県は別として、政党が市民社会に根付いていないことから、比例代表制の採用は現状ではなじまない。そこで、大選挙区を維持したまま、一方では第1層及び第2層を打ち破った女性人材を増加させ、他方で選挙制度を改革する必要がある。人格を持った議会として議会を作動させるために提案した制限連記制は、女性議員の増加にも一役買うことになる。男性優位な選挙でも、有権者は男性候補者に一票、もう一票を女性候補者に投票する可能性を期待するからである。
政党が独自に女性議員増加に貢献できる拘束名簿式比例代表制は、女性議員の増加に有効であるとしても、すぐには現実的ではない。また、政治分野における男女共同参画の推進に関する法律(以下「候補者男女均等法」という)によって、政党の努力も期待されるが、無所属が多い場合、効果はあっても大きくはない。自治体の努力が求められるとともに、選挙制度としては制限連記制への改正が現実的であろう。ただし、連記にしたところで、女性に一票入れるかどうかは不確定である。
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