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2016.04.25 議員活動

「生活する視点」で質問、発信を

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北海道斜里町議会議員 櫻井あけみ

「よそ者」の女性が町の議員になった

 「始まりはどこから? と思うとなんだか不思議です。
 いつでも、どこでもここに居る私は、今までの自分の『続き』です。同時に発見や発信はいつも『新品』です。日常は続きの連続です。つながって、つながって『今』です。
 さて、これから書き連ねたいことたくさんです。
 読んでくれる人がどれだけ居るのか分かりませんが、『発信』します。
 受け止めて下さい。時には返して下さい。」

 これは、2007年4月の統一地方選挙に立候補をし、当選、それから間もなく始めたブログの1回目に書いた言葉です。

筆者近影。落ち葉の降り積もる知床の森の中で。筆者近影。落ち葉の降り積もる知床の森の中で。

 私は、北海道オホーツク海側に位置する、斜里町の議会議員です。斜里町というよりも「知床」といった方が分かりやすいかもしれません。人口は1万2,000人、農業・漁業そして観光が主産業の地域です。私は、おそらく、この町の議会議員では初めての「よそ者」の議員なのだと思います。ここでいう「よそ者」の定義は、親類がいない、同級生がいないことでしょうか。そして、先に辞められたお二人に続いて3人目の女性議員となりました。

斜里町は、知床とも呼ばれる、北海道のオホーツク海側に位置する小さな美しい町。斜里町は、知床とも呼ばれる、北海道のオホーツク海側に位置する小さな美しい町。

 長らくまちづくりグループの事務局をやっていたこともあり、そのメンバーの誰が立候補をしてもよいだろうという中で、専業主婦であり子育ても一段落してきた私が「立候補するわ」と決めた1期目は、その立候補表明をしたとたんに、無名の電話が毎日かかってくる状況になりました。
 「櫻井? どこの櫻井だ?」、「旧姓は?」、「親類も同級生もいないヤツがこの町の議員になるなんて、あり得ないからな」、「女のくせに」、「よそ者が」……。
 こんな電話で始まったのが、私の初めての選挙活動でした。
 「どっち派?」……これは、町長選挙の両候補のどちらの支持かを聞く言葉。
 「どこのムラ?」……これは、漁業系か農業系か商業系かを聞く言葉。
 「自民か連合? 共産か?」……これは、国政政党を確認する言葉。
 しかし、私を応援してくれる後援会のメンバーは、支持政党も職業も、応援する町長候補もみんなバラバラでした。そんな中で、後援会長は常に「是は是、非は非」、そして、誰もが「しがらみのない活動・立ち位置」を口にしました。そんなメンバーに応援され、議論し、動き出せた私の議員活動は、昨年(2015年)の選挙で3期目を迎えました。この2015年の選挙は無投票という結果に終わったこともあり、平均年齢はそのまま引き上がり、議会はもっと変わらなくてはならないと期待していた私には、少し残念な結果でしたが、私は初当選のときから変わらず、しがらみなどはつくらない、是は是、非は非の議員活動を私らしく、まじめに一生懸命にやっていくことに変わりはありません。

情報発信と情報の共有は、コミュニケーションのためにとても大切なこと

 “議会が何をやっているのか分からない。議会って何をするところ?”
 これは、私自身が議会に対してかつて思っていたことですし、町の人たちからも、こうした声が寄せられていました。斜里町議会では初めての女性議員となり3期を務めた方が、一般質問や課題などを手書きのお便りとして郵送されていました。私自身、東京から知床へ移住し暮らし始めたときから、知人に生活日誌を送ったり、知床の情報発信などの編集を手がけたりしていたこと、また、前述のまちづくりグループの事務局として地域へ議事録などの配布を続けていたことから、情報発信と情報の共有は、コミュニケーションのためにとても大切なことであると思っていました。ですから、議員になったら、私自身の活動そして議会のことを、私の目線で皆さんにお伝えする。それは当たり前にやらなければならないと思っていました。
 そして始めた『議会レポート』は、「町民はどんなことを知りたいのだろう?」、「どうやって町の課題を伝えることができるのだろう?」、そんな試行錯誤を繰り返しながら、ときには私自身が議事内容を検証しながら、振り返りながら『議会レポート』を制作してきました。このレポートは現在数百世帯へお届けしています。『議会レポート』を始めてから、思った以上に皆さんの声が、感想が返ってくるようになりましたし、中には「あなたには投票しなかったけれども、『議会レポート』を送ってはもらえないか?」というお電話をいただくようになりました。

自分の活動、あるいは議会の様子を町の方々と共有できる『議会レポート』は、決して一方通行ではなく、常に返ってくる声があり、ご意見をいただく、双方向の大切なつながり。自分の活動、あるいは議会の様子を町の方々と共有できる『議会レポート』は、決して一方通行ではなく、常に返ってくる声があり、ご意見をいただく、双方向の大切なつながり。

 「議会内部のことを書いてけしからん」という議員もいらっしゃいましたが、最近の『議会レポート』には、議会人事についてドタバタがあったことを書きました。そのドタバタは、もしかしたら男性社会では、あるいはこれまでの議会内部では、当たり前に起こってきたことなのかもしれません。しかし女性目線で見ると、それは非常に驚くようなことでしたし、恥ずべきことでした。どなたかもおっしゃっていましたが、群れて数の力を使うために、会派も利用する。あるべき議会の姿を声高に語られていた方々が、群れて力をかざし、その力に従わざるを得ないという姿を書いた記事には、多くの方の問い合わせや感想が寄せられました。
 私にとって、自分の活動、あるいは議会の様子を町の方々と共有できる『議会レポート』は、決して一方通行ではなく、常に返ってくる声があり、ご意見をいただく、双方向の大切なつながりです。そして、SNSやブログを介したコミュニケーションもまた、「よそ者」だった私には大切なつながりです。
 今は、全国にすばらしい議員活動をされている方々とのつながりがあり、これも大きな勇気になっています。そして、もちろん斜里町議会にも、ともに学び、ともに課題に向かう仲間がいます。
 発信することでつながることができる――発信から得る力は大きいと思っています。

『議会レポート』は筆者自らが描いたイラストを交えて分かりやすく制作している。『議会レポート』は筆者自らが描いたイラストを交えて分かりやすく制作している。

自分たちの議員活動を、議会での活動を、議員それぞれが有権者とつながりをつくって情報を共有することが、議会活動そのものの活性化につながる

 “女性議員を増やさなければ”と、近年誰もがそう思っているのではないでしょうか。でも、こうして3期を迎えた私自身が、一生懸命にまちづくりに関わりながら活動している若い知人に「やってみましょうよ」と声をかけることには、正直少し抵抗を感じています。都市部の環境ではそうではないかもしれませんが、斜里町議会には、役場を定年退職されて議員となる方、政党推薦で何期も続けられる方、既得権益を守ろうとするような方が多く、小さな地方町村では「しがらみ」を抱える社会がまだ存続していると感じています。私自身が、まちづくりという市民活動の立場でフットワークよく動いていたときに比べ、議会の中では、動きにくさを感じることもありました。何てことのない議会のしがらみなのでしょうが、実際に中に身を置くとその締め付けを感じることがあるのも事実です。
 それでも、生きやすく、暮らしやすい、生活しやすい、誰もが当たり前に求めることを、町という自治体の中で、その実現のために動くのが議員の役割です。そのシンプルな立ち位置を基軸に動けるのは、やはり女性なのかもしれません。組織の決定には意に沿わなくても従う、そんな群れずにはいられない男性社会の代表のような議員を議会でも見てきました。そして、女性議員が増えていかなくてはならない最も大きな理由は、地方議会には多様な意見や視点が必要ということだと思います。現在のように男女比率の偏りすぎた社会は、未熟です。
 これまで、現状の町村議会の、なかなか風通しがよくならず、見えにくい、知りにくい、そして改革がされているようで変わっていない、よくいわれる「何をやっているのか分からない議会」の愚痴を書いてきました。でも、確実に変わってきてはいるのです。それぞれ見ている方向は一致せずとも、地方議員は、地方議会は、「変わろう」としています。どんなことを議会としてやっているのか、ずいぶんと情報公開はされ、広報活動もしっかりとされるようになってきました。それでもマスメディアや住民からは、いつまでも変わらない、こんなはずではないと思われがちなのは、なぜでしょう?
 今後、斜里町のような地方の小さな自治体の議会が、本来あるべき役割を担う活動ができるようにするためには、全国で流行のように実施されている議会改革を声高に語り、他所の事例を照会しても、あまり意味がないように思えます。分かりやすく、自分たちの議員活動を、議会での活動を、議員それぞれが有権者とつながりをつくって情報を共有することが、議会活動そのものの活性化につながるのだと思います。変わらなくてはならないのは、議会以上に議員個人だと思います。

議員活動って、議員って特別なことでしょうか?

 私の議員活動の軸は家庭です。常に主婦の私が見る、知る、求める感覚が主眼であるべきだと思っています。そう考えると、議員に特別な資格や特別な立場が必要でしょうか? 確かに、こうした経験は滅多にできるものではないし、やろうと思わなければできないことには違いないけれど、でも、やるべきことは、私自身が常に思い、感じ、考え、行動するべきものであって、本来それ以上でも、それ以下でもないはずです。
 私は、家族と「自然の季節を感じながら生活がしたい」という思いで、30年ほど前にここ斜里町に移り住んできました。自分たちの身の丈に合った生活を楽しみながら、毎日つつましく暮らしてきました。自然豊かなこの環境に不可欠なものは、「多様であること」なのです。目に見えない微生物から大型哺乳類までつながり、連鎖する多様性なくしては、ここ知床の生態系は維持されません。

自然豊かなこの斜里町の環境に不可欠なものは、「多様であること」。これは地方議会も同じ。自然豊かなこの斜里町の環境に不可欠なものは、「多様であること」。これは地方議会も同じ。

 いつから、議員はちょっと特別なもので、偉そうで、先生なんて呼ばれて、なのに自分の手にする報酬や研修にかかる費用に後ろめたさを感じながら活動するようになったのでしょう? 本来の議会として課せられた仕事以上に、役割以上に、ある人は権力を欲し、ある人は名誉を求め、有権者もそれを利用し、享受してきたからでしょうか。
 様々な年代、職業、そして男女の違い。議会もそうした多様な立ち位置の人が増えていかなくては、なかなか変わってはいきません。そして、世代交代を意識していかなくてはなりません。
 情報を出せば、声を出せば、出した分だけ入ってくる、応じてくれる、それが力にもなって一緒に何かを変えていける動きになる。そうしたつながりとベースは、今しっかりとできつつあるはずです。若い世代を見ていて、私はそう思っています。自分もこんな苦労をしたのだから、あなたも苦労するのは当然という、言葉を換えれば「しがらみ」をつくっていくことなく、次の世代が、次の世代の社会をつくっていくために動きやすい、活動しやすい環境をつくりながらバトンタッチできるようにしていきたいと考えています。

 この場に、こうして書かせていただいたのも、私なりの議会改革のひとつかもしれない、そう思っています。
 毎日の食事のメニューを気にしながら、電気代を節約し、ストーブに薪(まき)を入れながら、3月議会を前にして、町の人たちの声をどうやって伝えていこうか? 一人ひとりが暮らし、生活することででき上がっている町のために、できることは何だろう?
 議場に行く前の、私の立ち位置は台所。こんな仲間が増えることを期待しています。

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