田舎の人間関係やご近所のコミュニティに対する巷間(こうかん)のイメージは、「閉鎖的」あるいは「排他的」というものと、「濃密で温かい絆」といった印象が混在しています。よくよく考えれば、程度も含めて地域性はそれぞれなので当たり前なのですが、後者のイメージが現実として世間に流布している中で、「田舎暮らしはしてみたいけれど、人間関係が面倒くさそう」といった思いを持っている方がいることも事実です。しかし私自身、仕事の都合で地元以外のいくつかの地方都市で暮らしてみた結果、得た結論は「ご近所にソリが合わない人が……」という人間関係の問題は結局どこで暮らそうがついて回ってくるということでした。結果として私はこの町が、この町の人たちがいちばん好きになって、今も富士見町に暮らしています。仮に転勤や単身赴任によるものであっても、知らない土地への移住は人生に大きな転機をもたらすもの。それを自らの意志で決断するのですから、どうか都会から地方への移住を考えている方には、気に入った田舎を見つけたら四季それぞれに何度でも訪れてみて、可能な限りたくさんの人たちとふれあってみていただきたいと思うのです。
その点において施策的に可能な移住希望者向けの取組といえば、田舎暮らし体験がすっかりメジャーなものとなっています。地域の魅力を知ってもらう意味で日帰りなど短期滞在型の取組も悪くはないのですが、「観光地紹介」や「農業体験」といった観光コンテンツ的な内容があまり多分に含まれてしまうのは、やや疑問に感じます。もちろん、交流人口や観光産業の規模によって対応が変わってくる部分もあるとは思いますが、移住希望者に参加していただく目的はあくまで「移住してもらうため」であって、事後検証を曖昧にしないためにも「観光コンテンツ」的な取組との混同はできるだけ避けておく方が望ましいのではないでしょうか。このように、自治体が主体となって実施している事業において、その手法が目的に照らして適切かどうかは議会でのチェックと提言の機会に十分なり得るものと思います。
むしろ地区の小さなお祭りや盆踊りなど、より住民生活に近い行事への参加を組み込むといった工夫を加えることができれば、主催する自治体や協力団体等の関係者だけでなく地域住民とも広く交流してもらうことが可能になり、「田舎暮らし」での人付き合いというものをより実体的にイメージしやすくしてくれるのではないでしょうか。また、その地域での生活実感をより長く体験できる「お試し移住」の動きも広がっています。実際に滞在してもらう住宅の利用負担を少しでも軽く設定し、中には免除するというところも見受けられますが、主に自動車が生活上必要ない都会の移住希望者を想定して「無料または格安で車を貸し出す」といった手法もアリだと思います。
「うちの良さをこれから知ってください」という新規開拓のPRとともに、すでに観光などで来訪されていて「おらほの郷土の魅力」に気づいてくださった方に対しては、地元に暮らしていなければなかなか見えにくいものをできる限り可視化し、その土地での生活実態を少しでも主体的かつ具体的に実感、イメージしてもらうために何ができるかを考えて実行していくことも、移住希望者の決断のハードルを下げる重要な要素ではないか、という点を提起して筆をおきます。