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2016.04.25 政策研究

移住希望者が「田舎暮らし」に抱きやすいイメージとは?地方移住を考える前に知っておきたい「3つのギャップ」

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ライター(前富士見町議会議員) 宮下伸悟

 全国に大きな衝撃を与えた「地方消滅」というフレーズとともに「地方移住」、「UJIターン」といった言葉は「地方創生」あるいは「地域活性化」といった文脈の中で、地方議会の一般質問などにおいても頻繁に取り上げられるメジャーなテーマとなりました。一方で、自治体行政が現在の「地方創生」の枠組みの下、人口減少抑制へ向けた手法として流入人口増加策を政策的に考えるにあたっては、「地方版総合戦略」策定の経過を見ても明らかなとおり、国が示す政策フレームや予算獲得の都合上、用意されているメニューの方向性に合致したものであるかどうかが優先されやすい構造となっている点は、すでに識者からも指摘のあるところです。だからこそ、移住希望者のニーズや地域住民のリアルな生活感、地域性などを出発点にした議論をもって、そういった政策そのものの視野をいかに広げ、柔軟性を持たせられるかが、議会あるいは議員一人ひとりにとって大きな腕の見せどころになり得るのではないでしょうか。
 もとより地元出身者が大多数を占めやすい地方議会、もともと生まれ育った住民の方のリアルな生活感は私などがあえて論及するまでもないかと思います。そこで本稿では、移住希望者の視点について少し調べてみることにしました。私は、現在住んでいる富士見町と同じ長野県伊那市の出身、いわば「田舎から田舎への移住者」です。地元の出ではない移住者だけれども同じ地方出身、都会から地方に移住してみたい方々との中間の立場で、多くの人が「田舎暮らし」に抱きやすいイメージと現実とのギャップについて大きく3つのポイントにまとめてみましたので、議会での議論において視点のひとつに加えていただければ何よりですし、これから地方への移住を考えている方にとっても多少の参考に資することができれば、一層幸いに存じます。

その1 「ここに住みたい!」と感動したときにマイナスの要素は見えにくい

 旅行でお越しくださって景色に感動し、「ここに移住したい!」とその足で行政の移住促進担当を訪ねてこられる方が、我が町でも年に数人はいらっしゃるそうです。そのときはまさに夢いっぱい、すてきなイメージだけが頭の中を駆け巡っているものと思いますが、もちろん「田舎暮らし」はメリットばかりではありません。ちなみに私が暮らしている長野県富士見町は、標高1,000メートル前後に位置する高原の町。隣接する原村や茅野市、山梨県北杜市へと連なる八ヶ岳の山麓にはペンションや別荘地が数多く存在し、遠く東に富士山、南東にも南アルプス甲斐駒ケ岳と、三方に高山の峰々をパノラマで望むことができます。ご想像のとおり気候は冷涼、夏はとても過ごしやすい土地です。余談ですが、『月よりの使者』、『風立ちぬ』の舞台となった富士見高原療養所(現在は厚生連富士見高原病院)のある町、といえばピンとくる年配の方は多いのではないでしょうか。あまり知られていませんが、竹久夢二が最期を迎えた終えんの地でもあります。
 のどかな田園風景に映える美しい山々と冷涼な気候……主に夏場のグリーンシーズンに旅行で来られた方が「こんなところで暮らしたい!」と感動してくださるのは大変ありがたいことなのですが、「冷涼な高原の夏」の裏返しは「厳しい寒さに耐える冬」です。地区によって標高差があるので一概にはいえませんが、最も寒さが厳しくなる1月~2月には最低気温がマイナス15度を下回る日もあります。後の項目でも書きますが、たとえ寒冷地仕様をうたっていてもエアコンだけで冬を過ごすのは正直かなり厳しく、灯油でも薪(まき)でもペレットでもいいのでストーブはとにかく必須アイテムです。豪雪地というより寒冷地なので日本海側のようなドカ雪はありませんが、異常気象だけはいかんともしがたく、富士見町でも大きな被害を被った平成26年豪雪のようなことが二度と起こり得ないかというと、もちろん保証の限りではありませんし、例年でも数十センチ程度の降雪は年に何回かあります。
 なお、この稿を執筆するにあたって取材した際に聞いた話では、先に述べたように行政の移住促進担当を直接訪れてくる方が春夏シーズンしかお越しになったことがないと分かると、「気に入ってくださって、ありがとうございます。ぜひ冬にも何回かお越しになってみてください」とお伝えしているそうです。もっともだと思います。「住めば都」という言葉もありますが、自分が気に入った土地の気候が春夏秋冬それぞれにどんな顔を見せるのか、魅力だけでなくデメリットも十分に把握していただくことは、物心両面において移住後の生活水準を冷静に検討する上で非常に重要な要素となるからです。
 また、ざっと景色を眺めたときに建物そのものが少ないので土地などいくらでもありそうに見えるかもしれませんが、どこにでも家を建てられるわけでは決してありません。もちろん、その用途にきちんと開発されている別荘地や一般の住宅分譲地であれば問題ありませんが、不耕作地であっても農地であれば転用の手続を当然とらなければなりませんし、農振法(農業振興地域の整備に関する法律)に基づく農用地区域ともなれば制限はさらに厳しいものとなります。ここに家を建てたいと思った土地が農用地区域だった場合、仮に購入できたとしても原則として農業以外には転用できません。どうしても宅地にしたいのであれば「農振除外」してもらうために自治体の農地担当部署と協議するほかありませんが、途方もない時間と労力を費やしたあげく徒労に終わってしまう可能性の方が高いので、正直おすすめできません。いくらでもスペースがありそうに見える田舎であっても、不動産屋さんが扱っている土地物件に限りがあるのはこのためです。また、住みたいと希望する土地については地目だけでなく、どんな場所にあるかという点も移住後の生活上の実質的コストやリスクに大きな影響を及ぼします。その点については、その3でもう少し詳しく書きたいと思います。

宮下伸悟

この記事の著者

宮下伸悟

1978年東京都田無市(現・西東京市)生まれ、長野県伊那市で育つ。伊那小学校では当時まだ先進的な取り組みであった「総合学習」をいち早く経験。伊那中学校、伊那北高等学校を卒業後、國學院大學文学部日本文学科中退。飲食や営業・販売職等の経験を経て、長野県富士見町の飲食店に調理師として就職。定数割れが危ぶまれた2011年の富士見町議選で、「町政に思うことがあるなら出なさい」と周囲に背中を押され、お金も地縁も政治経験もまったくない状態で立候補し、無投票で初当選。1期4年を務めるも、昨年の統一選では2票差の次点で涙を飲む。現在も町内の飲食店に勤めながら、ライターとして活動する地方政治ウォッチャー。
ホームページ http://shingo-fujimi.jimdo.com
ツイッター https://twitter.com/shingo_fujimi

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