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2016.04.25 政策研究

移住希望者が「田舎暮らし」に抱きやすいイメージとは?地方移住を考える前に知っておきたい「3つのギャップ」

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その2 「とにかく生活コストが安い」の半分は誤解

 「田舎暮らし」といえば、「とにかく生活コストが都会より少なくてすむ」というイメージがあると思いますが、半分誤解です。「半分」と書いたのは、いくつか特定の項目だけを見れば都会より安いというものは確かにあるものの、一方で気候や地理的条件などによって「田舎暮らしだからこそかかるコスト」が存在することも厳然たる事実なので、トータルでどちらが安いかは、冷静に見てみないと必ずしも一概には断定できないからです。
 都会に比べれば、土地や建物は確かに安いかもしれません。住宅を新築したり、中古物件を買ってリノベーションしたりするコストを考えても、東名阪のような大都市あるいはその近郊で家やマンションを買うより、はるかに安くすむでしょう(ゴルフ場のような広大な土地に目もくらむ大豪邸を建てるというなら話は別ですが……)。住宅の新築や改築に対して補助金を出してくれる自治体も、今では少なくありません。さぁ、想像してみてください。あなたは都会に住む移住希望者です。以前から気に入っていた田舎でここぞと思う場所に宅地として問題ない土地を購入できて、上モノを含めても都会より安くマイホームを手に入れることができました。「やった! 憧れの田舎暮らしの始まりだ!」……そう思うことでしょう。しかし、あなたは後に「田舎だからこそかかる生活コスト」の実態を思い知ることになるのです。
 まず、よく知られているとおり地方では公共交通インフラが衰退しているため、車なくして生活は成り立ちません。ふだんの通勤だけでなく買い物や通院など、生活インフラが歩いてたどり着けるような場所にあるとは限らないのが「田舎暮らし」です。しかも、結婚して子どもがいる世帯ともなれば、とても1台では間に合わないのが実情。特に中山間地では、どんなに駅から離れた場所であろうが路線バスそのものが存在しないところも多く、あったとしても1日せいぜい3~4便といったところでしょうから、通勤通学にはとても使えません。家族に電車通学の高校生がいる家では「雨で自転車が使えない」、「部活で帰りが遅くなった」といった理由で駅までの送迎が必要になることもしばしば起こります。さらに、人口減少による学校統廃合で小・中学生の通学までもが長距離化。スクールバスの運行で対応している自治体も少なくありませんが、それでも子どもを急に迎えにいかなければならないような事態には、車がないとどうにもなりません。自動車の維持費用には税金に車検費用に燃料代……さらには、東京などではなじみのないスタッドレスタイヤやスノータイヤも、寒冷地や豪雪地の田舎には欠かせないものとなります。
 燃料代は車だけにとどまりません。土地の気候風土については先ほどから言及しているとおり、「涼しい夏の裏返しは厳寒の冬」という本質からは決して逃れることができないのです。高原に代表される冷涼な気候の土地では、夏のエアコン代が安くすむ代わりにバカにならないのが暖房費。繰り返しになりますが、真冬には最低気温がマイナス15度を下回る日もある我が町では、エアコン暖房だけで冬を乗り切るのはかなり厳しく、石油ストーブが室内暖房の主役です。灯油の購入には配達サービスもありますがやはり割高なので、18〜20リットルのポリタンクを2つも3つも車に乗せてホームセンターやガソリンスタンドに買いにいくことになります。これもなかなかの重労働なので、この手間まで含めてコストと認識すべきではないかと思います。
 また、同じ田舎でも中山間地になれば上下水道インフラは高コストにならざるを得ません。これは、地形の高低がたくさんある土地ほどポンプアップしなければならない箇所が多くなるためで、設備の維持コストは高くつきます。人口減少によって使用量の減少傾向が続く中、どんどん老朽化が進んでいくインフラ改修にも今後対応していかなければならず、中山間地に所在する自治体のほとんどで料金がさらに値上げになる可能性は高いのではないかと思います。これも余談になりますが、地形の高低差によって高コストにならざるを得ないことに気づいて、将来の財政への影響も踏まえて公共下水道をあえて導入しなかった自治体が、実は長野県に存在します。全国平均を大きく上回る出生率で「奇跡の村」と呼ばれる下條村です。若者定住と子育て支援に十分な財源を回してきた財政力の陰には、公共下水道の導入に踏み切らなかった過去の英断もあったのだというお話を下條村役場職員の方から伺ったときには、本当に感心したものです。
 そして、水道といえば忘れてはならないのが凍結防止帯の電気代。読んで字のごとく凍結防止に水道管を温めるための機器であり、よく寒い田舎では冬場に蛇口を開けると最初にお湯が出てくることがあるのは、このためです。今でこそ温度を感知して電源のオン・オフを切り替えてくれる節電器というものがありますが、昔は冷え込みが厳しい夜に「うっかり凍結防止帯のコンセントを入れ忘れたせいで、今朝は水が出なくて困った」なんてことがよくあったものです。ちなみに、現在は両親2人暮らしとなっている実家(一般住宅)の母親にも生活実感として聞いてみたところ、やはり冬場は他にもこたつを使ったりエアコンをつけたりといったものを含めて、電気代が万単位でアップするようです。

宮下伸悟

この記事の著者

宮下伸悟

1978年東京都田無市(現・西東京市)生まれ、長野県伊那市で育つ。伊那小学校では当時まだ先進的な取り組みであった「総合学習」をいち早く経験。伊那中学校、伊那北高等学校を卒業後、國學院大學文学部日本文学科中退。飲食や営業・販売職等の経験を経て、長野県富士見町の飲食店に調理師として就職。定数割れが危ぶまれた2011年の富士見町議選で、「町政に思うことがあるなら出なさい」と周囲に背中を押され、お金も地縁も政治経験もまったくない状態で立候補し、無投票で初当選。1期4年を務めるも、昨年の統一選では2票差の次点で涙を飲む。現在も町内の飲食店に勤めながら、ライターとして活動する地方政治ウォッチャー。
ホームページ http://shingo-fujimi.jimdo.com
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