議会事務局研究会/大津市議会局議会総務課長 清水克士
日本初、3大事務局研究会が結集
全国でも主要な3つの議会事務局研究会による初の合同シンポジウムが、2016年1月16日に大阪市のエル・おおさかで開催された。
主催した議会事務局研究会(2009年発足)、議会事務局実務研究会(2011年発足)、いわて議会事務局研究会(2013年発足)には、これまで組織的な交流はなかったが、それぞれに特徴的な活動をしており、「議員と事務局の協働の在り方」、「第二段階に入った議会改革の進展と議会の信頼をどう確保するか?」をテーマに、活発な議論が交わされた。
これからが議会改革の第2段階
開会にあたり、今回のシンポジウムを主導した議会事務局研究会代表の立命館大学教授・駒林良則氏から、「今年は北海道栗山町で全国初の議会基本条例が施行されて10年。これからが議会改革の第2段階であり、議会事務局がどのように関与していくのか? 議会と事務局が連携して、住民とともにどのように発展させるかがキーになる」との基調挨拶があった。
「当局のスパイ」から「議員を本気にさせる」事務局へ
第2部として3つの研究会からそれぞれの活動を総括した基調報告がなされた。
最初に、いわて議会事務局研究会の久慈市議会事務局主任・長内紳悟氏は、「岩手県市議会議長会を母体にしているが、今ではオフサイトミーティングとしても活動している。最初は『当局のスパイ、御用聞き、過ぎた調整役』であったが疑問を感じ、今は『事務局の本気を見せて、議員も本気にさせる』ために活動している」と報告。
議会事務局実務研究会の町田市議会事務局担当課長・香川純一氏からは、「実務家に限定した約20名のメンバーで、フランスのカフェのような議論の場、共同設置した議会事務局をイメージして設立した。実務問題にこだわり、『全てを備えて、静かに時を待つ』ことをコンセプトに活動している」と報告があった。
議会の意思決定の質を高める
議会事務局研究会共同代表の三重県地方自治研究センター上席研究員・高沖秀宣氏からは、「議会事務局職員だけでなく、首長、議員、研究者などもメンバーに含まれるのが特徴。過去には、3回のシンポジウムを開催するとともに、マニフェスト大賞も受賞し、これまでの成果を総括した本の出版も予定している」との報告があった。
最後に議会事務局研究会首長会員の湖南市長・谷畑英吾氏は、「首長の役割をできる限り小さくし、議会の役割を大きくする。議会の意思決定の質を高めることが、地方自治体のガバナンス強化の近道」と力強く語った。
協働の概念はひとつではない
第3部としては、パネルディスカッションが、月刊「ガバナンス」編集長・千葉茂明氏をコーディネーターとして行われた。冒頭、千葉氏からは、「議会事務局職員が実名で論文を書くようになり、一個人としても責任を持って発言することが住民自治を高める」との持論が展開された。
ディスカッションでは、各研究会のパネリストが「議員と事務局の協働の在り方、事務局は議員とどう関わるのか?」、「議会の信頼をどう確保するか(特に、議会の見える化、政務活動費に係る事務局の役割に関して)」という2つの論点に関して、各自の意見を述べた。
いわて議会事務局研究会の長内氏は、「最初は執行部のスパイであったが、執行部と議会が情報を共有しなければ協働は成立せず、事務局職員も立ち位置を変える覚悟が必要」とした。
議会事務局実務研究会の市川市議会事務局議事課主査・野村憲一氏は、「協働の概念はひとつではないが、政と官の役割分担はある程度絶対的なもので、それを踏まえたものであるべきである。事務局はメニューをいつでも提示できるよう備えることが仕事。しっかりと議案審議をする意識を議員に持ってもらい、目覚めてもらえるようプランニングしておくことが必要」と述べた。
「脱・指示待ち」、「脱・ひとごと意識」、「脱・思い込み」
議会事務局研究会の筆者からは、「協働関係の成立は対等性を基本とするため、議長以外の議員とは法的に上下関係にはない議会でこそ、公選職と任命職の協働関係は成立する。その必要条件としては、最終決定できる議員には、局職員の意見に耳を貸す懐の深さ、職員には『脱・指示待ち職員』、『脱・ひとごと意識』、『脱・思い込み』という意識改革が重要。また、大津市議会では、『先例』、『申し合わせ』などの内部ルールが市民にも知り得るよう、議会の例規構成を抜本的に変えることや、議員個人の賛否態度や一般質問の内容をICTの活用によって、議会の見える化を図っていること、公金の支出ルールに性善説に立った運用などあり得ないことから、議会局が政務活動費については監視機関の役割を果たしていることによって、市民からの議会に対する信頼の確保に資している」ことなどについて語った。
次に、コメンテーターとして伊万里市議会議長・盛泰子氏、山梨学院大学法学部教授・江藤俊昭氏が意見を述べた。
盛氏からは、「議会を守る意識と強くする意識を事務局には持ってもらいたい。もちろん、執行部からの反発も議員からの反発もあり、覚悟が必要ではある。私が議長になってからは、何かあれば議長の立場で支援するので見直しを進めてほしいと言っている」と主張。
江藤氏からは、「議会改革の成果を、住民福祉の向上のために、どう位置づけるか? 受動的な議会事務局から脱却し、チーム議会のために議会事務局をどう位置づけるか? 理論的に議員と議会事務局職員との協働は成り立たないとの意見もあるが、実態的な協働論として議論すべきで、チーム議会として議員に提言するところから始めればよい」とされた。
パネルディスカッションの後半は、会場の参加者からの意見に基づいて論じられた。
「少数会派との接し方」、「事務局職員人事に関して、議長、議員、職員それぞれの立場からの考え」、「人が代わったときの議会改革の継続に必要なこと」、「議員を本気にさせる方法論」などについて議論され、「改革を逆戻りさせないシステムづくり」や「外部組織である研究会を発展させることが有効な対応策」との共通理解が得られた。
議論の最後に、今後の展望として江藤氏が、「それぞれの研究会の活動の広がりに期待するとともに、執行機関に戻るときの人事のアフターケアの重要性、議会図書室の連携、強化の必要性」にも触れて議論を総括した。
次回は岩手で開催
そして閉会挨拶は、近畿大学法学部准教授・辻陽氏から、「様々な規模の議会がある中で異なる状況から多様な意見をもらった。やはりひとりで考えても気づかないことがあるからこそ研究会の場で意見交換をする意義がある」と強調されて、シンポジウムを終了した。
また、引き続き開催された交流会の冒頭では、次回は岩手で合同シンポジウムを開催することを、長内氏が表明した。
初の合同シンポジウム開催であったにもかかわらず、当初設定の定員枠を拡大しても全ての参加希望を受けきれないという、うれしい誤算があった中での開催となった。議会事務局研究会のシンポジウムに議員参加者が3分の1もあったところに、事務局が主体的に議会の変革に関わっていくことへの議員の期待を感じるとともに、残り3分の2の事務局職員などの参加者が、自費にもかかわらず全国から参加してくれたことに、多くの議会事務局職員の本気を感じた。
そして、いつかこの合同シンポジウムの開催が、「眠れる議会事務局」を変える大きな契機になったといわれる時代が来ることを信じたい。