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2015.03.10 議員活動

子育て世代の議会参加~ありのままの働く母として~

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新宿区議会議員 鈴木ひろみ

初当選、初めての妊娠、そして子育て

 2011年4月。当時27歳だった私は新宿区議会議員選挙に立候補をし、初当選。新宿区政の現場で働かせていただくことに対する責任の重さに、身が引き締まる思いで登庁したことが昨日のことのように思い出される。環境の変化に戸惑いながらも、全力で活動をしてきた。3年後に結婚、妊娠。そして2014年1月、任期中に娘を出産し、現在は子どもを育てながら、議会公務や地域活動をこなし、2期目の選挙に向けての準備を進めている最中である。
 新宿区議会議員の中では最年少。1期目の任期中であり、初めての妊娠。正直なところ、妊娠が発覚した最初の瞬間、「なんで今なのか」とひどく動揺した。出産と今後の子育てのこと、議員としての活動との両立などを考え、ひどく不安であったからだ。子どもができて純粋にうれしいと思う気持ちは、もちろんあった。しかし、手放しで喜ぶことができなかった。そのことが、生まれようとしている新たな命に対する後ろめたさになり、お腹に向かって「こんなお母さんでごめん」と何度話しかけたか分からない。
 しかし、これは私に限った話ではなかった。妊娠を契機に、多くの妊婦さんや働くお母さんたちのお話を聞かせてもらう機会を得た。これは、働いている女性が、自身の妊娠発覚と同時に必ず通る道だと知った。ある人は就職直後だった。ある人は、やりがいのある大きなプロジェクトの大詰めだった。どちらにしても「なんで今、このタイミングに!」なのである。
 では、いつならよいのか? 女性が子どもを産める期間は限られており、定年退職後に子どもを産む、なんてことは不可能だ。どのような職業であれ、仕事を持っていて妊娠すれば、その仕事に着手した期間が長くても、短くても、必ず仕事の途中に妊娠をするということになる。働く女性たちにとって「妊娠するのによいタイミング」などというものは、存在しない。単なる幻想にすぎないのだ。存在しない「理想的なタイミング」の幻想に振り回されるのをやめ、開き直ることができたときは、安定期を過ぎた頃だったと思う。

妊婦当事者、子育て当事者として区政に向かう

 人間、開き直れば強いものである。幸いにも、地方議員は、生活の全てが仕事に直結している。妊婦当事者であり、子育てをする当事者の視点を区政に生かすチャンスにしようと活動を続けた。例えば、両親学級への参加や大きいお腹を抱えながら行った「保活」も、見方を変えれば「区の事業の視察」という側面もあり、議員として学ぶことが大変多かった。また、実際の区民の方の反応や職員の方の事業に対する取組を肌で感じることができ、さらには受益者として実際に事業に触れる中で生まれた疑問点や課題などは、定例会での一般質問そして政策実現へと結実した。
 私が2013年第3回定例議会で行った一般質問後、新宿区では2014年度から両親学級の拡充が決定、2013年に320組だった両親学級参加組数が、2014年には420組、2015年には510組と、190組、人数にして380名弱の定員数の拡大につなげることができた。任期中に出産を経験した数少ない地方議員として、新宿区に住む、小さい子どもを抱えたお母さんたちをはじめ、多くの一般の女性の生活の向上につなげるお手伝いができたことは、大きな成果であったと自負している。

桜の下で、生まれたばかりの我が子と桜の下で、生まれたばかりの我が子と

命、人権の問題として考える

 2014年6月に東京都議会で女性議員に対する、いわゆるセクハラやじ問題が発生して以来、新聞・テレビなど多くのメディアが女性政治家に対する公務・政務でのセクハラの実情を取り上げ、そのあり方が顧みられたことは記憶に新しい。
 現在、地方議会の女性議員数は増加傾向の一途にあり、女性議員の比率が最も高い特別区では、すでに4分の1が女性議員となっている。同様に、25~30歳未満の若年議員の割合も増加傾向にある。今までは、女性議員が在任期間中に妊娠出産するという実例が少なかったが、今後は制度整備の必要性も論じられるようになるだろう。
 新宿区では、2005年に、議員任期中の出産に伴う議会等公務の欠席に対し、特別職公務員(区議会議員)も、新宿区職員の勤務時間、休日、休暇等に関する条例、同施行規則を援用し、同様の扱いとすることを議会が認めることで女性議員が産休を取得した実績があった。私は2014年11月にそれを履行し、産休を新宿区職員と同等の、産前8週、産後8週取得した。
 他の地方議会に目を向けてみると、各議会所属議員の妊娠出産のたびに、「議会単体では先例がない」などとして、妊産婦議員に対して、法的にも一般観念的に見ても不平等な処遇がなされていることも多い。例えば、望まぬ臨月公務従事・早期復職の助長等がその一例である。マタニティ・ハラスメント(マタハラ)は母子の生命に危害を及ぼす場合もある。議員であろうとなかろうと、母体・母子保護の観点に立って、全ての妊産婦は平等に扱われるべきである。これはフェミニズムの問題ではなく、命の問題・人権の問題なのだ。

政策をもっと広めたい!マニフェスト大賞への応募

 産休取得後、自身の任期中における出産に伴う議会の欠席と産休の取得事例が、他の議会に比べ全国的にもまれ、かつ先進的であったことが分かり、取得事実を公表し、マニフェスト大賞への応募を決めた。導入実例を共有化し、制度化を促すことで、全国の女性議員はもちろん、企業の女性社員にも、「新宿区議会でできたならうちでも」と主張する根拠にしてもらえたらと願いを込めた応募であった。そして、ありがたいことに、最優秀政策提言賞をいただいた。
 このたびのマニフェスト大賞の受賞は、新宿区議会の全ての議員、区長をはじめとする職員の皆さん、そして何より新宿区民の皆さんの深いご理解に対しいただいた賞であると思っている。ここに改めて感謝の意を表したい。
 今回の産休取得は前述のとおり、「区議の産休も区職員と同じ規定にする」だけと、いたってシンプルである。しかし、これには、2つの利点がある。
 ひとつは、区職と基準を同一にしたことにより、有権者への説明責任が明確になったという点。もうひとつは、導入障壁の低さだ。新宿区議会において、産休取得のために議会規則の改正は行ってはいない。議運理事会で、「出産」を欠席理由の「事故」のひとつとして認めただけである。つまり、「制度ありき」ではなく、多様性を認め、相手の立場を尊重できる議会であったからこそ、制度運用が後からついてきた結果である。どこの自治体でも明日から導入可能であるといえよう。最も重要なのは、考え方や立場の違う一緒に働く者同士の「共感」とコミュニケーションではないだろうか。法整備や規則の成文化以上に、人が人と関わって働く上で、最も欠かすことのできない要素であると感じている。
 このように、今回私が産休取得に当たって使った産休制度は、議会のメンバーの気持ちひとつで、他の自治体の議会でも取り入れていただくことが可能である。新宿区以外の自治体において、これを参考に、又はこれが採用されることにより、ゆくゆくは、真の意味で「政策」になることを心から願っている。

これからの女性施策について

 任期中に産休を取得したという事例が数少ないことから、NHKのニュースに取り上げられたことがあった。その反響の中には、批判的なもの、例えば「仕事を辞めてから子どもを産みなさい」、「仕事に対する責任感がない」などという言葉があったのも、残念ながら事実である。覚悟の上だったとはいえ、女性の仕事と出産を取り巻く状況における課題をまざまざと見せつけられる思いであった。
 しかし、その相手を特定し批判をしたり、頭を下げさせようなどとは思わない。それを行うことが、余計なあつれきを生むだけにすぎず、問題の本質を見失うのではないかと危惧するためである。我々女性たちが戦うべきは、社会全体にまん延する「子どもを産むこと=人に迷惑をかける」という価値観であり、特定の個人を相手にしているのではないのだ。価値観が変化しない限り、女性が子どもを産み、育てやすい社会はいくら制度を改革したとしても実現はしない。待機児童の問題を抱えながら、保育園や幼稚園で遊ぶ園児の声がうるさいと、保育園の建設ができない自治体がある。日本社会においては、産休の取得は「労働基準法」で、育休の取得は「育児・介護休業法」でしっかり定められている。それにもかかわらず、今まだ、マタハラがなくなってはいないのがその証拠である。
 女性議員、政治家の1人として、その問題を解決したいと思う。妊娠、出産を契機に虐げられ、涙を流しておられる女性たちの気持ちに寄り添うこと、そして、その立場を向上させるよう、社会を動かすことこそが「政治家」の仕事である。
 小さな子どもを議場に連れて議決を行っている、欧州議会の女性議員Licia Ronzulliさんの写真が、インターネット上で「かっこいい」と大変話題になった。もし、これが数年前だったらどのような反応が返ってきていたのであろうか? おそらく、今よりも批判的な意見が多くあったのではないかと思うとき、希望を感じる。今、女性の出産や子育てに対する社会の価値観が変化をしている過渡期であると思えるからだ。「未来」は「今」の積み重ねである。現在、1歳になった娘が、母となり子どもを産み育てるときには、「子どもを産む=人に利益を与える」という価値観の日本になるよう、今こそ声を上げるときである。

出典:欧州議会議員  Licia Ronzulliさん  オフィシャルサイト(http://www.liciaronzulli.com/)出典:欧州議会議員 Licia Ronzulliさん オフィシャルサイト(http://www.liciaronzulli.com/


⑴ 保育園に入園するための活動。待機児童の多い地域では、保育園についての情報集めから見学・入園申請等に、いろいろとやるべきことが多いため、「就活」になぞらえて「保活」と呼ぶ。
⑵ マタニティ・ハラスメントとは、働く女性に対して、妊娠・出産を理由として解雇・雇止めをされることや、職場で受ける精神的・肉体的な行為を指す。

鈴木ひろみ

この記事の著者

鈴木ひろみ

新宿区議会議員 1983年生まれ。現職最年少の新宿区議会議員(民主党)。2011年初当選後、任期中に妊娠、出産を経験し、自らも子育てと仕事の両立を目指しながら政治活動を行う。第9回マニフェスト大賞、政策提言賞優秀賞を受賞。人権問題、自殺対策、防災、子育て支援に特に力を注ぐ。

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