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2023.08.22 議員活動

第9回 妹から剣兄へ。母から剣君へ

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3 母子の会話

 事件があると、残された家族たちは、「遺族」や「原告」という言葉でくくられてしまう。決して消えることのない大きな、深い傷を背負わされてしまったことは同じでも、親子の立場や、「きょうだい」の関係など、一人ひとり傷ついている心の場所は違うし、真に救ってほしいこと、助けてほしいこと、支えてほしい事柄はみんな、そして、日々違っているのが当然である。しかし、その点では、いまだ国や自治体の公的支援制度は、遺族一人ひとりの多様かつ継続的な支援策に乏しいのが現実である。
 同じ遺族の立場であっても、親にフォーカスする場合と、残された子(きょうだい)にフォーカスする場合とで、事件のその後の見え方は異なってくる場合も少なくない。
 奈美さんは、どう感じていたのであろうか。
 奈美さん自身、剣太が亡くなったことで、自分が壊れてしまって、剣太以外の二人の子どもに悲しい思いをさせてしまったと、自分を責めることが多いという(2)
 奈美さんは、14回目の剣太の命日を前に、娘のみか(仮名)さん(3)に次のようなメールを送ったそうである。
 お母さん自身が 壊れていたから みかに悲しく寂しい思いを たくさんさせたと思う。
 抱きしめて 思いを聞いてあげんといけん立場なのに 我が子の死は 頭の中が その子でいっぱいになって 周りを振り回してしまったんよな……
 でも みかちゃんの存在は お母さんを生かしてくれた!
 毎日 死を考えていたお母さんを この世に留めてくれたのは みかちゃんだった。
 お弁当を作って 遅刻ギリギリで車を走らせバスのお尻を追いかけたり お迎えに行ったり みかを見て微笑んで……
 それが お母さんを人間として生かしてくれたんで。
 活動で飛行機に乗り 飛び立つとき 家に置いてきたみかを思い いつも涙があふれた……
 まだ寝てるときに家を出てくるから ベッドの寝顔を思い出し 赤ちゃんを置いて出てきてしまったような……
 一人で必死に耐えてる あなたを置いて出かける罪悪感を いつも感じてたよ。
 寂しい中 たくさん頑張ってくれたね!
 みかちゃんの剣兄への思いは 自分を守るためのものだった。
 許すどころか 自分を守る術を見つけてくれて ありがとう!
 そして そんな気持ちに気づいてあげられなくて ごめんね。
 今 心穏やかに過ごしてくれてること本当に ありがとう!
 剣兄も 肩をかみつかれ血が出ても「みかちゃんがしたことは 痛くねーんで」と笑っているほどとても可愛がったみかちゃんが 幸せになることだけ 望んでると思うよ。
 (中略)
 お母さんの かわいいかわいいみかちゃん。
 あなたがこの世界にいるだけで お母さんは最強になり 優しい気持ちになれます。
 ありがとね。
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(1) もう一つの手紙
剣太に毎年ありがとうございます。
……もう14年です。
14年も会ってないわ……
でも声はしっかり覚えてる。
思い出す声と言葉は
「おかーん」です。
一番聞いた言葉だからね。
おかーんの言い方は
「お」は小さく 
「かーん」は優しく……
自然に私を呼ぶ声です。
本棚の向こうから……とか
台所の私を呼ぶ声

(2) 自らの子の死に直面して、果たして平常心で子育て(残された子らがいる場合)を継続できる人がいるのだろうか。
 ひとくくりにして遺族支援という用語が使われるが、親支援も子支援も個別ニーズが異なる以上、ひとくくりに論じられてよいはずがない。
 到底受け入れられない現実に直面し、戦場のような日々を過ごす中、親への制度的支援の充実は一層進められる必要がある。一方、同じように傷を負った子(「きょうだい」)へのグリーフケアの必要性については、いまだ認知度が低いといわざるを得ない。筆者がパネリストとして参加した令和2年10月16日「全国犯罪被害者支援フォーラム2020」においては、やっとというべきであろうが、「きょうだいが犯罪被害に遭うということ」が重要なテーマとして設定された。
 奈美さんとみかさんの語りが教えてくれるのは、何ら帰責性のない二人が家族間でお互いが自責の念を持っていたことである。本来こうした自責の念を感じさせないような社会でなければならない。そして、ヘルプの声を上げずとも、保育所・幼稚園・小・中・高・大学、地域や企業・行政等が、アウトリーチ的に、多機関で、継続的で手厚い精神的側面及び物理的側面の両面からの公的サービス・共助的サービスが展開されること、支えの充実が望まれる。

(3) 今回のみかさんが紡いでくださった言葉には、第三者がコメントすることができない、してはならないような、想像を絶する苦しみ、つらさ、悲しみが、筆者の心にも押し寄せ、のしかかってきます。みかさんには、気持ちの一端でも教えてくださり、感謝します。そして、奈美さんから聞く、剣兄のエピソードからも、剣兄は、誰よりも、みかさんが生きやすいように生きていくことをきっと誰よりも望んでいるでしょうね。
 


 

鈴木秀洋(日本大学危機管理学部教授)

この記事の著者

鈴木秀洋(日本大学危機管理学部教授)

日本大学大学院危機管理学研究科教授兼日本大学危機管理学部教授。元文京区子ども家庭支援センター所長、男女協働課長、危機管理課長、総務課課長補佐、特別区法務部等歴任。都道府県、市区町村での審議会委員多数。法務博士(専門職)。保育士。著書に『自治体職員のための行政救済実務ハンドブック 改訂版』(第一法規、2021年)、『行政法の羅針盤』(成文堂、2020年)、『子を、親を、児童虐待から救う』(公職研、2019年)、『虐待・ⅮⅤ・性差別・災害等から市民を守る社会的弱者にしない自治体法務』(第一法規、2021年)等。

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