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2023.02.27 政策研究

水道インフラの諸問題

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小規模分散型の水点を併用する

 さらに、人口が極端に少ない地域での持続策を考える必要もある。大きな施設で浄水処理し、そこから水を道(水道管)に通して運ぶのが「水道」だとすれば、給水ポイントを小規模分散化し、水の道を極力短くして「水点」をつくり、浄水やポンプ導水にかかるエネルギーを減らし、安価で管理のしやすい方法に切り替える。つまり、水道と水点のベストミックスを模索する必要がある。
 小規模分散型の水点の技術は多種多様だ。例えば、宮崎市の持田地区では水道水の集落デリバリーを行っている。給水車が週数回、スレンレス製の受水タンクに水を運ぶ。そのタンクから各家庭に安全な水が供給される。地下水を水源として活用し、紫外線発光ダイオードUV-LEDで殺菌して安全な飲み水をつくる技術もあるし、民間企業が企画し住宅ごとに設備された膜ユニットによって水をろ過する技術も実装可能になっている。
 岡山県津山市には水道の未普及地域が約200戸あった。市街地からは地理的に遠く、これまでは清浄で豊富な沢水を住民が簡易処理して使用していた。しかし、雨の降り方が変わって水が濁りやすくなった、野生動物のふん尿などが原因で水質が悪くなったなどの理由で沢水を飲むことが難しくなった。そこで住民による小規模水道が動き出した。維持管理を地元組合が行うため、できるだけ構造が単純で管理の手間が少ないものとする、ポンプ等の動力を使用しないで自然流下とする、できる限り薬品類を必要としない施設とすることなどが考慮され、「上向流式粗ろ過」と「緩速ろ過」という生物処理の装置が採用された。
 様々な技術や方法がある中で、自治体としてどういう技術を採用し、維持管理をどうするか、災害や事故が起こった場合はどう対応するかなどのルール整備を行う必要があるだろう。

未来へ水道を残すための議論

 現在に生きる人からすれば料金は安い方がよいし、お金がかかる施設の更新はできるだけ先送りしたい。しかし、料金値下げは水道事業にかけられる予算の縮小につながり、それにより水道更新も停滞し、そのツケを払うのは将来世代である。そこで将来世代になりきって、これからの水道のあり方を議論しようというのが、岩手県矢巾町の「矢巾町水道サポーター」という取組みだ。
 矢巾町水道課が2008年にショッピングセンターなどで聞き取り調査を実施したところ、町民の関心事は「水道水の料金とおいしさ」に集中し、「施設の老朽化」や「事業継続の難しさ」など水道事業者の伝えたい内容とは隔たりがあった。水道サポーターは「公共水道を守るため、主権者である住民と事業者が一緒に考え意思決定する」ことを目的としている。2008年に始まり、現在も継続されている。矢巾町の水道利用者なら誰でも参加可能で、1、2か月に1回(年7回程度)開催されるワークショップに参加すると、1回2,000円の謝礼が支払われる。初年度に集まった11人のうち、「水道に関心があった」のは1人で、「時間に余裕があるから手を挙げた」という人がほとんどだった。参加者は、水道水とミネラルウォーターの飲み比べをしたり、浄水場などの施設見学をしたり、水道経営の現状や将来をデータで学んだりした。その結果、老朽化する水道施設の更新に必要な財源を確保するため、水道料金の値上げを提案した。これを受け、町は水道料金値上げを実施した。
 広げた傘を折り畳む方法は多種多様だ。だが、それを実行するには未来世代のことを考える必要がある。現代に生きる私たちは、子や孫よりも自分たちの暮らしを優先しがちであり、未来世代へ負の遺産を残してしまう可能性がある。

橋本淳司 東京財団政策研究所研究主幹/「未来の水ビジョンプログラム」

この記事の著者

橋本淳司 東京財団政策研究所研究主幹/「未来の水ビジョンプログラム」

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表。武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹。NPO法人地域水道支援センター理事。水問題についてメディアで発信。「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」、「東洋経済オンライン2021 ニューウェーブ賞」など受賞。また、学校での探究的・協働的な学び、自治体、企業の水に関する普及啓発活動をサポート。主な著書に『水辺のワンダー 世界を旅して未来を考えた』『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)、『水道民営化で水はどう変わるか』(岩波書店)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎)など。

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